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台風の進路を的中させるには、あと何が必要か

プレジデントオンライン / 2019年10月27日 11時15分

台風19号の大雨の影響で阿武隈川(右)が氾濫し、浸水した福島県郡山市付近=2019年10月13日 - 写真=時事通信フォト

■初めて「特定非常災害」に認定された台風19号

今年(2019年)10月12日に日本に上陸した台風19号は、各地で激しい雨を降らせ、甚大な被害をもたらした。消防庁(10月23日現在、第22報)によると、死者は74人、行方不明者は9人。政府はこの被害を台風としては初めて「特定非常災害」に認定した。

台風の被害を減らすためには、河川整備など「ハード」の対策だけでなく、天気予報など「ソフト」の対策が欠かせない。

かつて「天気予報」はよく外れていた。例えば気象庁の発表データでは、時期による増減はあるが、降雨や最高気温に関する予測確率は、1988年と2018年では各段に的中率が高まっている。「降水」は平均で約80%→約88%の的中率に、「最高気温」は同2.0℃→1.5℃の誤差となった。これらは年平均なので、体感ではかなり当たるようになったと感じる人も多いだろう。

■「観測データを増やす」から「AIで分析精度を高める」へ

筆者は台風19号の上陸前、こうした気象予測の最前線について取材していた。そのときのテーマは9月9日に上陸した台風15号だった。大規模な停電を引き起こし、多くの人が長期間にわたり不自由な生活を強いられた。

気象情報を発信するのは気象庁だが、公的機関だけでなく独自に情報を発信している民間企業もある。そのひとつである「ウェザーニューズ」(以下、文脈によってWN社。コンテンツ名は「ウェザーニュース」)は、従来型の「観測データを増やす予報」だけでなく、新しくAI(人工知能)によって観測データの分析精度を高める予報を導入しつつある。

台風15号での気象予測を例にとりながら、従来型とAI型、それぞれの気象予測の最前線を紹介したい。

■1日18万件の「人力データ」を気象予測に生かす

現在の主流である従来型の気象予報では、観測データが多ければ多いほど、予報精度が上がると考えられている。

WN社のグローバルセンター(千葉県千葉市美浜区)では高層ビル上階フロアから太平洋が一望でき、フロア内に並ぶ大画面には国内外各地域の気象状況が映し出される。海外駐在員も多く、年中無休24時間態勢で世界中の気象を観測し、予報する。

ウェザーニューズのグローバルセンター
撮影=プレジデントオンライン編集部
ウェザーニューズのグローバルセンター(千葉県千葉市美浜区) - 撮影=プレジデントオンライン編集部

同社はこれまでデータ収集を増やすため、ハードとソフト両面を整備してきた。ハード面は、例えば超小型の気象レーダーを開発し、各地にネットワーク的に配置した。ソフト面では、国内各地域に住むサポーター(1900万ダウンロードの同社のアプリ「ウェザーニュース」のうち希望者)が、雲の動きなど天候の変化を撮影。“ウェザーリポーター”として画像やリポートとして送信。その数は1日平均18万件、最高で25万件になる。そうして収集した実況データを分析し、気象予測に反映するのも得意だ。

昔は無料だった「天気予報」情報を、さまざまな「気象情報」コンテンツにし、法人や個人の顧客に販売するのが同社のビジネスモデルで、最新の業績は170億5200万円(2019年5月期)だ。異常気象の観測から広域気象の観測まで、活動範囲は幅広い。

■「過去の台風」の画像解析から進路を予測する

そのやり方を変えるのが「AIによる気象分析」だ。例えば、従来の観測データによる気象予測計算に加えて、AIを駆使して、今後の雨雲の分布を画像解析から予測する。これにより、さらに正確な情報を迅速に発信することが可能となった。

「AIだから、新しくわかることもあります」

こう話すのは、石橋知博氏(ウェザーニューズ・執行役員。モバイル・インターネット気象事業主責任者)だ。どういうことか。

石橋知博氏
撮影=プレジデントオンライン編集部
石橋知博氏(ウェザーニューズ・執行役員。モバイル・インターネット気象事業主責任者) - 撮影=プレジデントオンライン編集部

「例えば、類似する過去の台風を参考に予測を行う方法があります。台風本体だけでなく周囲の気圧なども必要ですが、衛星画像等の画像解析により、似たパターンの台風を精度よく抽出できるのではないかと考えられます。現在は数値予報モデルによる論理的な計算での予測が主ですが、AI予測が進めば、ピンポイントの台風予測が可能になるかもしれません」

■気象庁は台風進路の精度向上のためスパコンを導入

同社は、AIで分析したソフトを地方自治体に提供することも行ってきた。

昨年(2018年)のNHKスペシャル「人工知能 天使か悪魔か 2018 未来がわかる その時あなたは…」では、鹿児島県姶良(あいら)市の取り組みが紹介されていた。姶良市ではWN社の提供データを使い、2018年の台風7号の際、地域住民に対して公民館などへ早めに避難するよう呼びかけた。高齢者の多い地域なので、夜に台風が接近してからの避難は、転倒などの危険が伴う。行政の避難勧告放送や住民の素早い対応もあり、被害を最小限に食い止められた。

こうした手法を、もっと大々的に台風情報に応用できないのだろうか。

気象庁は昨年、台風進路の精度向上を目的にスーパーコンピューターを導入しており、今年6月には「台風の進路予報の改善について」という報道発表を行っている。「台風の進路予報において、予報円及び暴風警戒域をより絞り込むとともに、予報の信頼度をより的確に表現する形で発表します」というもので、予報円の半径を平均で約20%小さくするという。気象予測に関わる関係者は「5年前に比べると格段の進歩」と話す。

改善前後の予報円の比較
資料=気象庁

■台風の進路がどこを通り、どこが東側に入るのか

ただし、9月に発生した台風15号では、上陸前に予想進路が微妙にずれていき、上陸場所もなかなか定まらなかった。前述した大規模停電も起き、千葉県を中心に多くの人が不自由な生活を長期にわたり強いられることとなった。

「今も復旧していない地域もあり、誇る気はありませんが、弊社の予報センターでは独自の観測データの気圧の変化から、千葉市付近への上陸を予想していました。一般的に台風の進行方向の右側は、風が特に強まりやすい(危険半円)とされており、台風15号でも、停電被害は台風の進路の東側だった千葉県で特に大きくなっています。

台風15号がもう少し西寄りの進路をとり、東京都が台風の東側に入っていたら、被害はもっと大きかったかもしれません。台風の進路がどこを通り、どこが東側に入るのかを詳細に知ることは、今後、被害を想定するために欠かせない情報です」(石橋氏)

■「ウチの地元はどうなる」に答えられるか

多くの人が気になる「台風情報」は、刻一刻と変わる。特に知りたいのは、自宅や勤務先・通学先の状況だろう。ただし、ピンポイントの予測は道半ばだ。

「現在のスーパーコンピューターが行う台風予報では、台風により、私の街に、家屋やライフラインにどの程度の被害があるのかは、直接的にはまだわかりにくいところです」

こう説明しつつ、石橋氏は今後の情報技術の進化に期待を寄せる。

「ただし、過去の台風の進路や勢力とともに、実際に観測された風速や雨量、台風による各地の被害をビッグデータとしてAIに学習させることができれば、台風の進路や勢力に合わせた、一人ひとりのための被害予測の実現が期待できます。例えば、昨年の台風21号・台風24号、今回の台風15号で弊社が行った停電の調査からは、最大瞬間風速と停電被害との関係が徐々に見えてきています」(同)

■人力入力の情報とAIの画像分析を相互補完させる

台風15号の停電報告と暴風エリアの関係については、同社のウェブサイトでビッグデータ分析の結果が公開されている。

停電報告と暴風エリア
提供=ウェザーニューズ

10月12日に日本に上陸した台風19号でも、10万人を超えるユーザーから浸水/冠水・暴風被害・停電に関する約35万件もの回答が寄せられ、冠水の状況などを速報した(リンク先は15日時点での一次集計の結果)。

冠水の状況
提供=ウェザーニューズ

同社は「台風が地上に近づいてからは、さまざまな機器に搭載されたIoTセンサー(スマホの気圧計などもその一つ)のビッグデータ分析から、予測を行う」ことも進める。前述した、ウェザーリポーターからの情報も有力コンテンツになりそうだ。

「AI」が進化すれば、これまでの気象予報士に代表される「ヒト」は不要なのだろうか。そうとも言い切れないそうだ。

「天気予報の精度は、予報を計算する上でのデータの多さが決め手となります。予報の計算の基となる情報がリアルで多いほど、計算結果はリアルに適したものとなり、より気象情報の精度が増す。当社が1日約18万通の天気報告を寄せる“ウェザーリポーター”の協力を仰ぐのはそのためです。一方、AIは学習能力がケタ違いですから、学習する元データがきちんとしていれば、より効果を発揮します」(石橋氏)

つまり相互補完する存在なのだという。前述したように、AI分析により、これまで気づかなかった部分も解明されてきた。問題はこの先だろう。

■ただしスマートフォンがなければ、情報が届かない

「日本は世界一の気象情報先進国」とも言われる。地震や台風などの天災が頻繁に発生し、狭い土地に1億2000万人もの人が暮らす国土の成り立ちもある。先進国の中でも国家予算は多い。WN社をはじめ民間企業も、さまざまな情報コンテンツを提供している。

通常の気象予報の場合は、利用者にも便利だ。筆者も「ウェザーニュースアプリ」で、訪問先の天気動向を時間帯でチェックする。朝方に雨が降っていても10時以降は晴れるといった予報が、かなりの確率で当たる。

問題は、このようなサービスの恩恵を受けるにはスマートフォンが必須であることだ。特に災害時に弱者となる子供や高齢者には、スマートフォン以外の手段で情報を届ける必要があるだろう。AIやIoTの進化を減災にどう役立てるか。公的機関と民間企業のさらなる連携に期待したい。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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