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「税金あるところに脱税あり」の歴史を学ぶ

プレジデントオンライン / 2019年10月28日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ronstik)

本誌秋号(2019年9月28日発売)では、「税金」のお話をしましたが、ここでは税金に関連して「脱税」について取り上げます。税が古くからある以上、脱税の歴史も古くからあります。いつの時代もペナルティは厳しかったようです。

■税金の始まりは中国の秦王朝

中国の秦王朝(紀元前2世紀)には、すでに貨幣と戸籍がありましたが、これは当時の中国には、すでに本格的な税体系があったことを意味します。貨幣は税の徴収をしやすくするため、戸籍は男女の人数と年齢を把握することで、人頭税(人口に対して無条件に徴収する税)を正確に徴収しつつ、若い男性に労役や兵役という「別種の税」を課すためです。そして、この当時の脱税といえば、「贋金づくり・戸籍に載せない・年齢詐称(老人のフリ)」。もちろん見つかれば、厳しい罰が待ち受けていました。

■教会の力が強かった中世ヨーロッパ

ヨーロッパにも歴史上脱税はいろいろありましたが、特にキリスト教がからむ脱税は、非常にスケールの大きいものでした。

かつてローマ・カトリック教会は、信徒たちに「10分の1税」を課していました。これは信徒が収入の10分の1を教会に納税することで、教会の運営費用や改修費、貧者への慈善事業の財源を捻出するという税で、従わない者には破門や教会への立ち入り禁止などのペナルティが課されました。

しかし、この税のせいで領民の税負担能力が下がると、今度は王が領民からそれ以上の税を取れなくなります。そこでフランスの王フィリップス4世は、思い切った手に出ました。何とローマ教皇ボニファティウス8世を誘拐し、退位を迫ったのです。つまり、フランス寄りのローマ教皇に変えてしまって10分の1税を逃れようというのです。これなど、この上なく大胆な脱税方法といえるでしょう(この事件を機に教皇は憤死し、王は教会の徴税権を弱めることに成功しました)。

■タックス・ヘイブンの資産は2200兆円!?

ところで皆さんは、「パナマ文書」という言葉を聞いたことがありますか?

パナマ文書とは、パナマの法律事務所で作成された機密文書で、そこには「タックス・ヘイブン」を利用する21万4000社もの株主や役員の情報が記載されていました。

タックス・ヘイブン=カリブ海のバージン諸島やケイマン諸島などに設けられた「租税回避地」。そこに法人を設立すれば、法人税や所得税がゼロまたは低税率になります。そのため、そこには実体のないペーパー会社が無数に法人登記されており、「世界の富裕層の所得隠しの場」として利用されています。各国の税務当局が情報を得ようとしても、企業・個人情報の保護を理由に断られるため、脱税だけでなく、犯罪組織のマネーロンダリングの場にもなってしまっています。

そのパナマ文書が2015年、「ジョン・ドー(“名無しの権兵衛”的な典型的偽名)」を名乗る人物によりマスコミにリークされ、大騒ぎになりました。

そこから出てきた名前は、国家元首に大富豪、ヘッジファンドに世界的映画スターなど目を疑うようなビッグネームばかりで、ある人は本名で、ある人は身内の名で、またある人は第三者から勝手に名前をかたられて登場します。漫画家のいがらしゆみこさんなどは名前をかたられた被害者で、自分の名前がパナマ文書にあると聞かされて「なんじゃらほい!」と困惑されていたそうです。

ちなみに、すべてのタックス・ヘイブンにある未申告の資産合計は2200兆円以上! これは日本のGDP(国内総生産)の4年分以上にもなる額で、放置できない問題になっています。

■ガレージに眠っていたウン億円

それでは話を、普通の脱税(?)に戻しましょう。脱税は男女ともにおもしろいものがいろいろあるのですが、ここでは女性のものを見ていきましょう。

2008年、日本で過去最大の相続税脱税事件がありました。大阪に住む64歳と55歳の姉妹が、75億円以上の父親の遺産のうち約60億円を隠し、相続税28億6千万円を脱税したのです。

父の生前から預金を現金化しては自宅ガレージに隠していましたが、2人が逮捕された時、ガレージは1万円札が詰まった段ボールや紙袋でいっぱいで、下のほうの紙幣は湿気でどろどろになっていたそうです。ちなみに姉曰く「うっかり申告し忘れた」んだそうです(ウソつけ!)。

■記憶に新しい中国人女優の巨額脱税事件

2018年には、中国で有名女優の巨額脱税事件が起こりました。中国芸能界長者番付1位(2017年。約40億円)の超人気女優で、日本でもCMに出演し、ブルース・ウィリスとの映画共演の話もあった范冰冰(ファン・ビンビン)が、なんと1億4千万元(約23億円)もの脱税があったと、国税当局から指摘されたのです。彼女は、その後支払いに応じましたが、追徴課税はこれまた信じられない金額で、何と8億8千万元(145億6千万円)でした。彼女はそれを払いきり芸能界に復帰してきましたが、スケールが大きすぎてついていけません。

■4億円脱税で有名になったFX主婦

また最近はFXがらみの脱税が非常に多いようです。兵庫県の33歳市役所職員女性が起こした7億円超の申告漏れ、東京の主婦が起こした4憶円の申告漏れは、どちらもFXの所得隠しです。ちなみに後者の申告漏れを起こした池辺雪子さんは、事件後『あの4億円脱税主婦が教えるFXの奥義』という指南書を扶桑社から出版しています。タフですね~。

しかし、皆さんも気をつけてくださいね。FXの脱税は、基本バレます。FX会社のほうが、支払調書で税務署に顧客データを渡しているためです。そこから探れば、顧客が確定申告しているかどうかも当然バレてしまいます。そしてバレたら告発され、本来の税額に加え、延滞税・無申告加算税・悪質な所得隠しへの重加算税などで、相当きついペナルティが待っています。会社員の皆さんはFXでの年収が20万円以上、専業主婦の人は年38万円以上になったら、必ず確定申告して所得税を払いましょう。ちなみに専業主婦がFX収入で確定申告した場合、配偶者控除はなくなります。

■脱税を詳しく知るなら『マルサの女』

そして、女性と脱税といえば忘れられないのが、映画『マルサの女』(配給:東宝)です。

港町税務署の調査官だった板倉亮子(宮本信子)が国税局査察部の査察官(マルサ)に任命され、津川雅彦演じる統括官の下、実業家の権藤(山崎努)や宗教法人の鬼沢(三國連太郎)らいかにもな巨悪と立ち向かう伊丹十三監督の痛快娯楽査察映画(?)です。バブル期の日本人の醜さが、コミカルかつテンポよく、ドライブ感あふれるストーリー展開の中で示され、本当におもしろいです。個人的には、愛人のことを「特殊関係人」と言っていたのが、とても印象的でした。

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蔭山 克秀(かげやま・かつひで)
代々木ゼミナール公民科講師
「現代社会」「政治・経済」「倫理」を指導。3科目のすべての授業が「代ゼミサテライン(衛星放送授業)として全国に配信。日常生活にまで落とし込んだ会社のおもしろさで人気。『経済学の名著50冊が1冊でざっと学べる』(KADOKAWA)、『マンガみたいにすらすら読める経済史入門』(大和書房)など経済史や経済学説に関する著書多数。

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(代々木ゼミナール公民科講師 蔭山 克秀 写真=iStock.com)

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