1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

一流ほど「サルも木から落ちる」を気にしない

プレジデントオンライン / 2019年11月23日 11時15分

どんな分野のエキスパートにも「弘法にも筆の誤り」は起こりうる。(PIXTA=写真)

■人の知性は多様で「メリハリ」がある

人間の能力は、出来の悪い人からいい人まで並べることができて、頭のいい人は間違えないけれども、ダメな人はしばしばミスをする。そんなイメージを抱いている人は多いのではないか。

しかし、実際には、人の知性はもっと多様で、「メリハリ」がある。突き抜けて賢い人の中には、拍子抜けするほどぼんやりとしている側面があるようだ。

アレクサンドル・グロタンディークは、ドイツ生まれの20世紀の数学者。数学の中でも最も高度で基礎的な分野の研究に生涯取り組んだ。

グロタンディークが数学に導入したのが「スキーム」ないしは「概型」と呼ばれる概念で、代数幾何学や数論において応用されている。グロタンディークはトポス、ホモロジー代数、数論幾何などの分野に取り組んだほか、ヴェイユ予想の研究に貢献した。

以上を読んでもさっぱりわからないと思うかもしれないけれども、抽象数学を論じること自体が目的ではないので安心してほしい。いずれにせよ、グロタンディークが、20世紀最大の天才数学者の1人であるということは、多くの人に認められているところである。数学界最高の栄誉である「フィールズ賞」も受けている。

以上のように、普通の数学者にとっても抽象的で高度な概念を駆使して、研究をしていたグロタンディークが、あるとき大ヘマをやらかした。

■天才は間違っても気にしない

あるレクチャーで、彼の話している内容が抽象的すぎてわからない、具体的な例を挙げてほしいと頼まれたグロタンディークが、「わかった。素数を例にしようか。たとえば、そう、57」と言ってしまったというのである。

「57!」

確かに、57は、一見、割り切れる数がないようにも見える。でも、ある程度計算が得意な人だったら、すぐに、「ああ、それは素数じゃないよ」と答えることだろう。

19×3=57。2つの自然数の積として書けるから、「57」は素数ではない。小学校のときに算数が得意だった人は、各桁の数を足したものが3で割り切れると、その数自身も3で割り切れるというルールを覚えているかもしれない。「57」は、明らかに「3」で割り切れる。

グロタンディークのような超絶的に頭のいい人が、間違えて「57」を「素数」だと言ってしまったというこのエピソードは、多くの人に異様な感銘を与えた。そして、「グロタンディークが57は素数だと言うんだから、やっぱりそうなんではないか」ということで、「57」を「グロタンディーク素数」と呼ぶ習慣が数学界でできた。

このエピソードは、知性の成り立ちを考えるうえで、とても興味深い。深く抽象的に数学を考える卓越した能力を持つ人が、「57」が「素数」だとうかつにも言ってしまう。それくらい、人間にはいい意味で「抜けた」ところがある。

完璧な人間などつまらない。修行僧のような外見のグロタンディークだが、「グロタンディーク素数」のエピソードで、その人がらに親しみを持てる。

天才はおおらかである。間違っても気にしない。自分の興味のあることを、徹底的に追究する。これからの時代に必要なのは、そんな自由闊達な精神ではないか。

「グロタンディーク素数」のことを思い出すだけで、なぜか口元にほほえみが浮かんでくるのである。

----------

茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。近著に『いつもパフォーマンスが高い人の 脳を自在に操る習慣』(日本実業出版社)。

----------

(脳科学者 茂木 健一郎)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください