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国のキャッシュレス還元がこんなにも酷いワケ

プレジデントオンライン / 2019年11月1日 6時15分

コンビニに掲げられた「キャッシュレス2%還元」の表示(東京都) - 写真=時事通信フォト

■「消費税10%」から1カ月がたったが……

10月1日から消費税率が10%になった。それに伴って店頭では、キャッシュレス決済を使った場合にはポイントバックを行うようになっている。これは税負担の軽減とともに、キャッシュレス決済の普及を狙ったものだ。

にわかに店頭ではキャッシュレス決済を使う人が増えているのだが、この施策に問題はないのか。重要なのは「いま、この形でやるのが適切なのか」という点だ。

今回の「キャッシュレス・消費者還元事業」は、経済産業省によって行われているものだ。表面的な狙いは2つ。消費者負担の平準化と、キャッシュレス決済の推進だ。言葉を選ばずに言えば、前者は消費税率アップに対するガス抜きであり、後者は利便性向上以上に、取引のキャッシュレス化に伴う「可視化」=脱税やマネーロンダリングなどの「現金取引に絡む不透明さ」の解消にある。

今回は国が最大5%分のキャッシュバック費用を負担し、現金でなくキャッシュレス決済をすることでお得になる状況を生み出す。増税後9カ月限定ではあるが、キャッシュレス決済を使った方が全面的に得である、という状況を作り出すことが狙いだ。大手流通と中規模以下の企業でポイント還元比率を変えることで、「キャッシュレス決済は大手がやるもの」という状況を変えたい、という思惑もある。

■レジを新調するより安いのに「QRコード決済」をためらう理由

というのは、そもそもキャッシュレス決済の普及を阻んでいたのは、中小規模事業者、特に個人商店がキャッシュレス決済を導入するモチベーションが低いことだ。キャッシュレス決済になると、収入はキャッシュレス決済事業者からの入金がないと成り立たない。現金で商売を回していると、「来週にしか入金がない」「来月にならないと入金しない」サイクルは不利なだけだ。しかも、決済の導入には機器も必要になる。

コンビニやスーパーなどの大手チェーンだけで使えても、キャッシュレス決済は普及しない。だからこそ、中小以下の事業者にキャッシュレス決済を導入するモチベーションを用意する必要がある。

今回は「中小以下の規模の事業者で買うとポイントバック率が上がる」ようにし、消費者側が大手だけでなく中小の店を利用する比率が上がるようにして、キャッシュレス決済の導入を促す施策を導入した。キャッシュレス決済事業者側でもこの時期に合わせた営業活動が行われており、キャッシュレス決済そのものの導入ハードルは下がっている。

そもそも、現在広がっている「QRコード決済」は、店舗に導入するためのハードウエアコストが低く、中小規模の事業者に向いている。極論、店主が使っている普通のスマホやタブレットで対応できるからだ。

■分かりにくい、見つけにくい、検索アプリはひどい

だが、本当にこの施策が有効に働いているかは微妙なところがある。

まず、キャッシュレス決済でのポイントバック、という仕組みの分かりにくさだ。例えば大手コンビニなどは、キャッシュレス決済が行われると同時に割引が発生している。これは、決済時に即時ポイントバックを適用した扱いにするという施策を採っているからだが、ほとんどのところは「後日集計され、ポイントの形で割戻分が適用される」形。

いつ、どこで、どのように割引きになるのかが消費者に分かりづらい。10月1日からポイントバックは始まっているが、実際にはまだ受け取っていない分も多いはずだ。

次に、どこで使えるかが分かりにくい。導入が周知されており、「このチェーンなら使える」ということが明確な大手はともかく、導入している店舗とそうでない店舗が入り交じる個人商店では、まず「使えるか」を確認するのが手間だ。使えるキャッシュレス決済が限られる場合もあるが、そこまで把握しないといけない。経済産業省はポイントバック対象店を登録制にし、登録店舗へとステッカーやポスターを配布して周知に努めているが、その掲示が徹底されているわけでもない。

店舗検索のために用意されたアプリやウェブサイトの出来は悪く、当初は店舗をただ並べたPDFが掲示されているだけだった。店舗によっては、決済事業者ごとに登録された住所に間違いがあり、「同じ店舗なのに別々の場所にあるように表示される」こともあった。

要は「街中で偶然出会う」しか、大幅ポイント還元をしている個人商店でキャッシュレス決済をする方法がないのである。これで本当に、狙い通り「中小以下の事業者のキャッシュレス決済利用比率を上げる」ことができているかは疑問だ。

■わざわざ「増税と同時」にやって負担を増やす愚策

そもそも今回は、「軽減税率」という複雑な税制と同時に導入が行われた。両者は特に関係ないのだが、ITシステムの支援がなければ運用ができない、という点は共通している。

税率変更はただでさえ現場に負担をかけるのに、そのタイミングに合わせてさらに複雑なキャッシュレス推進策を導入する意味はあったのだろうか。政府としては増税のガス抜きを期待しているのだろうが……。

キャッシュレス決済が不要なわけではない。本来、キャッシュレス決済は消費者側の利便性が大きく、店舗側でも経理処理の軽減にも通じる。税制的にも透明化につながり、コスト削減にもなる。

だが、現金が中心で一部だけをキャッシュレス化する、という形だと、経理処理は多重化してしまう。消費者の側も、慣れないキャッシュレス決済の利用で戸惑いが生まれる。本来は、導入事業者への本格的な税制優遇や、税務処理の手間を軽減する策とセットになって初めて効果を発揮する。

現状では、特に店舗での顧客対応の手間が大きく、個人商店にとってはプラスとはいえないのではないか。誰もがスマホアプリの設定や利用に詳しいわけではない。コンビニの店先などでも、店員にキャッシュレス決済の利用法をたずねる姿が見かけられたが、そういう人的負担を店舗に強いるのは間違っている。

なんでも同時にやるのではなく、負担軽減や利用促進のためのアプリ開発といった準備を「ちゃんとしてから」やるべきだったのだ。今回の施策は拙速に過ぎる印象が拭えない。

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西田 宗千佳(にしだ・むねちか)
ジャーナリスト
1971年、福井県生まれ。パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」を専門とする。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。

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(ジャーナリスト 西田 宗千佳)

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