齋藤孝が「40代での激太り」から立ち直れたワケ
プレジデントオンライン / 2019年11月6日 11時15分
※本稿は、齋藤孝『人生は「2周目」からがおもしろい』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。
■40代でワーカホリックになった
心の荷台を軽くするという意味で、仕事のしすぎ、無理はよくありません。働き方改革が叫ばれていますが、上からの押し付け的な改革ではなく、働く当の本人の意識自体が変わっていかなければいけません。
「余裕時間」が必要です。
残業してがむしゃらに働いたからといって、必ずしも良いパフォーマンス、アウトプットができるとは限りません。たとえば文筆家の場合、1日1時間空いたスキマ時間で書けるか、というとそうではない。
5時間空いたとしたら、そのうち何もしていないような時間が4時間あって、初めて1時間分執筆できる。その4時間は無駄なように見えて無駄ではありません。1時間の執筆のために必要な「余裕時間」なのです。
じつは私自身、ワーカホリックで、ものすごく忙しい時期がありました。30代にまったく本を出せない時期があったものですから、40代になって『声に出して読みたい日本語』をきっかけに仕事の依頼が一度に来た時、ほとんどすべて引き受けてしまった。
年間60冊の本を出し、その他に大学の講義、講演会があってテレビ番組に出演していました。おそらく日本で一番忙しかった一人だったと思います。
■「ギリギリのスケジュールが一番よくない」
そういう生活をしていると、まず運動ができない。学生時代にテニスをしていて体力に自信はあったのですが、50kg台だった細い身体が、一気に太って70kgを超えました。若い頃から太っている人はまだいいのですが、こういう激太りというのは危険です。
自分ではバリバリやっているつもりでしたが、おそらくかなりのストレスがかかっていたのでしょう。そして運動不足が輪をかけた。みるみる太って、おそらく当時の生活をそのまま続けたら死んでいたと思います。
さすがにこれはいけない。私は余裕のあるスケジューリングに転換しました。自分なりに仕事の制限をつける。むやみに仕事を受けず、手帳に時間割をきちんと書いて、自分に過剰な負荷がかかる仕事は勇気をもって断る。
空き時間を少しずつつくるようにしました。余裕ができると精神も落ち着いた。仕事をびっしり入れていると、興奮して交感神経が優位な状態になる。それを朝から晩まで一年じゅう続けていると必ず心身のバランスが崩れ、自律神経失調症になる。
それがひどくなるとうつ病になったり、最悪の場合には過労死してしまいます。順天堂大学医学部の教授で自律神経の働きに詳しい小林弘幸先生は、「ギリギリのスケジュールで動くのが一番よくない」とおっしゃっています。
■明日できることは、明日に回す
どこかで仕事の線引きをすることが必要でしょう。ここまではやるけれど、ここからは抱えない。幸い働き方改革で残業自体がしにくい世の中になっています。
ただし、怖いのは業務時間内でこなせない仕事を家に持ち帰ってやる「サービス残業」が密かに増えることです。
会社に勤めている人は、基本的に家に仕事を持ち込まないことが大事です。上司から仕事を頼まれ、つい断れずに家に帰ってこなす。
上司はそれを知らず、頼んだ仕事を業務時間内でやる能力と余裕があると判断し、同じようにまた仕事を頼んでくる。
残業時間が制限されるこれからは、断らずこなしてくれる人にどんどん仕事が集まってくる可能性があります。すると期待に応えようとして無理してしまう。
家には絶対に仕事を持ち帰らない。そういう線引きをしっかりすることも必要です。to doリストに、やるべき仕事を掲げる時に、今日やるべきことだけを書き出すようにしましょう。明日できることは明日に回すのです。
■手帳や付箋は「時間管理」に大活躍する
私が実践しているやり方は、手帳にその日やるべきことを書き出し、それが終わったらチェックボックスにチェックを入れるというものです。書き出しておくメリットは、覚えておかなくてよいこと。その分脳の容量を使わなくてすむので、他のことを考える余裕ができます。
以前は自分の頭を過信してリストに書き出さなかったのですが、書類にハンコを押すのを忘れて出先から大学に戻らなくてはいけなくなったり、ちょっとしたところで時間と労力のロスがばかにならなかった。それがなくなったことが大きいです。
一日の仕事が終わり、チェックがズラッと並んでいるのを見ると「今日の仕事は終わった」という感覚がある。それが大事です。「何かやり残したことは? 忘れていることはないか?」と心を悩ませる時間がなくなり、スッキリとプライベートの時間に切り替えることができます。
付箋を活用するのもいいでしょう。やるべきことを一つずつ付箋に書いて、それを朝机の隅の方に並べて貼っておく。それをクリアしたらその付箋を捨てる。全部机の上からなくなったら仕事は終わり。
仕事をこなしたことを、このように可視化することがポイントなのです。
区切りをつけて次に向かう。手帳や付箋は時間管理において大きな力になります。
■仕事のできる人は“天引き”で休みをとる
よく、今日できることは今日やれと言われます。それはどんどん仕事を抱えて余裕をなくしてしまうことにつながる。私は「今日やらないといけないことだけ今日やる。明日でいいことは明日に回す」というように変えてから、仕事と時間に余裕ができるようになりました。
私が仕事で付き合っている編集者にも、金曜の夜から土日にかけて、会社のPCに送られたメールは一切見ない人がいます。土日は一切仕事を離れて、月曜の朝に一気にメールを処理する。まずほとんどの件はそれで間に合うと言います。
彼曰いわく、「本当に緊急の案件なら携帯に電話がかかってくるので、会社のメールに来ているだけの案件は月曜日の朝で十分間に合います」と。
私もそれが正解だと思います。
そういう人だと相手も理解すれば、そのうち土日にメールも送られてこなくなります。
彼のような人は、自分の時間を確保するという意識が高いわけです。同じように、必ず夏休みは1週間取るとか、冬は長く休むとか、自分でパターンを決めてしまう人もいます。時間の使い方の上手な人、仕事のできる人ほど休みを取ります。
コツは、年初など、最初に休む日、仕事をしない日を確保してしまう。残りの時間で仕事をこなすようにするのです。
給与から天引きをして積み立てるとお金がたまるように、時間も天引きするのです。
最初に休む時間を確保しないとついダラダラと仕事をして、休む時間がなくなる、そういう人に限って「忙しくて休む暇もない」とボヤきます。何のことはありません、時間の使い方が下手なだけなのです。
■ルーティーンから無駄な仕事を取り除く
先ほど記憶の再編集が必要だという話をしましたが、仕事の再編集も必要です。仕事も放っておくとどんどん増えていく。なかには不要な仕事、部下など他の人に回してもいい仕事、後回しにしてもいい仕事もあります。それらを同じようにこなそうとするから無理がきてしまう。
会議の時など「無駄な仕事、省ける仕事は何ですか?」と問いかけることも有効です。
ルーティーンになっている仕事でもよく考えるとやらなくてもいい仕事、作業がある。
それを皆で考え、意見を言ってもらう。
「朝礼を毎日ではなく、週に3日にしましょう」
「報告会議は週1回ではなく、2週に1回にしてもいいのでは?」
とりあえず半年間やってみる。それで支障があれば元に戻せばいい。
私は今もこれを大学でしょっちゅう提案していますが、元に戻すことになった案件はほとんどありません。意外に省いても業務に差し支えなかったということがたくさんあるはずです。
■仕事ができない人ほど「時間がない」と言う
「愚か者は簡単な仕事を複雑にする。普通の人は普通の仕事を普通にこなす。一流の人物は難しい仕事をシンプルにこなす」という言葉があります。仕事は常にいかにシンプルにこなすかを考える。
![](https://president.jp/mwimgs/c/c/200/img_cc702e2e06124cd120bed9148fb8df7d220122.jpg)
仕事のできない人に限って、悩んでも仕方ないところで悩み、迷う必要のないところで迷い、そのたびに仕事を複雑に捉えます。そしていつも時間が足りない、仕事がきついと不平をこぼす。
仕事ができる人は仕事の目的をしっかりと捉えます。それを実現するために不要で些末なことに時間を取られず、本当に必要十分なことに対してだけ注力します。つまりシンプルなのです。
仕事も「心の庭」と同じです。放っておくと雑草が生え、一杯になってしまう。意識して不要な仕事、無駄な仕事を整理して、スッキリさせることが必要です。
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明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書多数。著書に『ネット断ち』(青春新書インテリジェンス)、『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。
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(明治大学文学部教授 齋藤 孝)
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