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英首相「合意なきEU離脱」完遂のシナリオとは

プレジデントオンライン / 2019年11月5日 11時15分

英首相 ボリス・ジョンソン氏 - Getty Images=写真

イギリスのEU離脱期限が10月31日に迫っている。議論が燃え上がる中、ブレグジット騒動の渦中にいる人物がボリス・ジョンソン英首相だ。これからイギリスはどうなってしまうのか。今回はボリスの素顔を知る人物に話を聞くことができた。

■ジョンソンは合意なき離脱で勝ち逃げする

ボリス・ジョンソンは「合意なき離脱」に踏み切る可能性が高いだろう。EU離脱に関しては複数の可能性が存在しているが、彼にとってそれ以外の選択肢はないからだ。

ブレグジットに関して、純粋な民主主義による決断は、3年前の国民投票時に「EUからの離脱」という形ですでに示されている。現在起きていることは、もう1つの民主主義である「議会」による民主主義からの反発だ。

ジョンソンはメイ前首相から政権を引き継いだ際の出だしはよかった。それでも彼が引き継いだイギリス政治の状況は非常に難しいものであることに変わりはない。

特に議会を構成する議員たちは、合意なき離脱に向けたディールに関して、過半数が同意しないことを示唆している。そのため、ジョンソンはある程度の妥協を強いられながらも、最後までギリギリの交渉を続けざるをえないことになるだろう。

ブレグジットを推し進めたり、時に荒々しい暴言を吐き、失言を繰り返すなど、型破りな政治家のイメージがあるボリス・ジョンソン。彼は、一体どういう男なのか。

ジョンソンはウィンストン・チャーチルを尊敬しているかと問われることがある。日本でも、彼がチャーチルのことを記した書籍が出版されていると聞いた(『チャーチル・ファクター』)。

ジョンソンもチャーチルも、非常にきめ細やかな思考をするタイプの人間だ。

ジョンソンは演説能力が非常に高く、様々なスピーチ原稿をすべて自分で書き、誰かの書いた原稿を好まない。チャーチルもそのような人物だったのではないかと思う。

これは私の推測であるが、ジョンソンがブレグジットに臨む姿勢を見ると、チャーチルの置かれていた立場と自らを重ね合わせているはずだ。1930年代を振り返ると、チャーチルは「ドイツからの軍事攻撃に備えてイギリスの軍事力を強化するべきだ」と主張した数少ない政治家の1人だった。

それは現在のブレグジットを巡る状況と似ている。当時もエスタブリッシュメントの人々の中でチャーチルの主張は不人気であり、政治的にすっかり孤立している状況だった。過去の決断においては、チャーチルが正しかった。

現在のジョンソンの決断が正しいかどうかは、これからわかることになるだろう。

■ジョンソンとトランプ、2人の共通点とは

ジョンソンはとにかくピュアな人間だ。相手のことを考えながらも、人間同士の繋がりを生み出していく才能がある。イベントなどに参加する場合は積極的に楽しむ。

2015年の来日時、ラグビーレセプションで子どもたちとプレーした際にも、子どもたちに思いっきりタックルしてしまう一幕があった。子どもは直ぐに起き上がってケガはしてなかったと思うが……(笑)。

また、17年に早稲田大学でロボットを視察した際にも、通常の外相がやらないような、身振り手振りの派手なパフォーマンスをしてみせた。その場にいた人々にも強烈な印象を残した。

思えば、彼が市長時代にロンドン・オリンピックが開催されたのだが、本人がパラシュートで降りてくるという、驚きのパフォーマンスを披露していた。

彼はコミュニケーターとしても非常に優れた能力を持っている。

ロンドン市長を2期8年務めたが、驚くことに保守党の党員だった。普通、ロンドンは労働党の地盤が強い地域なのだが、ジョンソンはそれでも選挙で勝利した。他者の関心を引いたり、うまく伝えたりすることに、彼は天性の才覚を持っている。

特に、一般の人々との間に心の繋がりをつくることが非常に得意だ。

「自分が何を考えているのか」「何をしているのか」を直接伝えるために、SNSへの動画投稿を積極的に活用している。

ロンドン市長時代、外相時代、そして現在も、変わることなく動画を常にアップする。

動画では単純に原稿を読むのではなく、自分の言葉で直接訴えかける。私はジョンソンの報道官として数多くの動画を確認してきたが、実に多くの人々がそれらの動画を視聴していた。

ボリス・ジョンソンという政治家は、アメリカのトランプ大統領と比較されることが多い。

たしかに2人ともブロンドヘアーで、人々と直接的にコミュニケーションを取りたがる。そして、人の心を捉える才能も共通している。両者とも、まさに本物の政治家だと言えるだろう。

ただし「何を伝えているか」という点においては、両者には違いがある。私がジョンソンの下で働いていたときトランプ大統領は、戦争や、イスラム教徒の入国制限、イランの核問題など積極的に発言していた。

またトランプ大統領は、政府の中枢メンバーに伝える前にツイッターで発表してしまうようなこともあるが、ジョンソンは決してそういうことはしない。トランプ大統領と比べると、重要な意思決定に際しては様々な人物の助言に耳を傾けて相談し、すべて取り入れたうえで慎重に決定する。

トランプ大統領は株価動向を常に気にしているという話もあるが、少なくとも私が仕えた外相時代、ジョンソンが常に注意を払っている個別の指標はなかった。

もちろん現在は首相という立場もあるので、国民の世論調査の状況などは、1日10回くらいは見ているのではないかと思う。政治家というのはどこでも同じだろう。

■ブレグジット日本への影響はポジティブ要素も

最後にボリス・ジョンソンの日本と中国に対する考え方について触れよう。まず、17年に彼が来日した際に、明確に発言した内容を紹介したい。

イギリスにとって日本は、極東地域における安全保障上の関係が最も近しい国であるということだ。

中国に関しては、特に南シナ海の活動に関して懸念があるとも主張した。これは中国に対するイギリスの一般的な視点から見たスタンスとも一致する。

貿易通商問題に関しては、日本と中国は両方とも重要な存在だ。外交関係としては、さらに生産的でポジティブな関係を今後も継続していくことになる。ただし、イギリスが中国に対して安全保障上の懸念を持っていることは確かである。

これからの日本とイギリスの関係は、イギリスの決断が大きく関わってくる。ソフト・ブレグジットになるのか、ハード・ブレグジットになるのか、イギリスは岐路に立っている。

その中で日本との関係においては、日英FTAを結ぶことの優先順位は相対的に高いと思う。その先にTPP11への参加という可能性もあるだろうし、イギリスからはポジティブな要素が出てくることになるだろう。

コモンウェルスは経済規模のばらつきが大きく、1つの経済ゾーンをつくることは難しいが、TPP11も含めて欧州以外の地域との関係強化を図っていくことになるだろう。

■ラグビーワールドカップが開催

ところで現在、ラグビーワールドカップが開催されており、いくつかのゲームを実際に見た。

日本はホスト国として本当に素晴らしい「おもてなし」を実践されている。20年の東京オリンピックも成功間違いないと確信した。

ラグビーワールドカップには、イギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドの4つのチームに分かれて出場している。大英帝国は4つの地域によって構成されているからだ。

アイデンティティーが4つに分かれ、別々のチームが出ているように見えるが、実際には大英帝国という1つのアイデンティティーによって調和が保たれていることがポイントだ。

たとえば、これがスペインであった場合、スペインという国とは別にカタルーニャ州代表チームが出場できるかというと、極めて難しいのではないかと思う。

非常に面白いのはアイルランドのチームだ。北アイルランドと南アイルランドの混成チームとなっている。普段であれば実現しないようなことであるが、両者がお互いに受け入れ合って1つのチームを構成している。まさに、ラグビー・マジックと言えよう。

ただし、このアイルランドのチームも、ブレグジットが完遂されれば、EUに加盟している領域と加盟していない領域から構成されるチーム編成になる。非常に不思議な状況が生まれることになるだろう。

■▼ジョンソン首相のEU最終離脱案をめぐる世界各国の状況

Getty Images=写真

■▼ボリスの型破りでスキャンダラスな経歴

Getty Images、AFLO(2015)=写真

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サイモン・マギー(Simon McGee)
英ボリス・ジョンソン首相の外相時代に報道官として活躍。ジョンソン氏の右腕として日本を含む世界各国を訪れた。現在はAPCO Worldwideのエグゼクティブディレクター。

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(サイモン・マギー 構成=渡瀬裕哉 撮影=石井俊志)

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