月100万単位の風俗の稼ぎをホストに貢いだ訳
プレジデントオンライン / 2019年12月4日 15時15分
■お金さえ払えば男性を独占できる場所
風俗嬢として働いていたときは、月に100万円単位で稼いで、そのほとんどをホストクラブで使う生活を送っていた。がん闘病中のいま、緑豊かで静かな病院にいるときでさえ、あのギラギラした人工的なシャンデリアの灯りが懐かしくなる。
私は、ろくに仕事もせず外に女をつくっては家出を繰り返す父と、離婚を先延ばしにする母という機能不全家庭で育った。だから、家や学校といった普通の世界に居場所がなかったのだ。
夜の世界には、私と同じような背景を持つ人も少なくない。普通の世界になじめない私も、夜の世界では“ふつう”に過ごすことができたから、学校に通うように、毎日ホストクラブに“登校”した。
学校と同じように、ホストクラブも競争社会だ。学業成績や運動能力を競うのではなく、1本10万円はするシャンパンを頼んだ数で優劣が決まる。だから、私はほかの女の子たちと競うように注文し、浴びるようにアルコールを摂取した。酔っ払うということは、多かれ少なかれ理性を放棄することだ。
しかも、ホストクラブは「お金を払えば、男性を独占できる場所」だ。ただでさえおかしくなりがちな性欲と恋愛感情が、お酒によってさらに加速する。
ホストに対しての執着心や独占欲が湧いてくることにより、『嫉妬』の感情が発露し、傍から見れば滑稽な行動を取り始める。
例えば、指名しているホストが被っている女の子に嫉妬して、そのホストに八つ当たりをしたり、構ってもらいたくて、別のホストクラブに遊びに行ってみたり。
■「こうすれば担当ホストから叱ってもらえる」と考えた
私は「こうすれば担当ホストから叱ってもらえる」と思った。叱るという行為は、親が我が子に対して行うように、本来は愛情がないとできない行為。特別な存在だからこそしてもらえる行為。私は、特別な存在になりたかったのだ。
ある日、ホストから「女の子を叱ることは、仕事だ」と告げられたことがある。それだけでなく、女の子の家で一日30分も過ごせば、同棲だと思い込む女の子がいるなど、営業テクニックを教えてもらった。
私が渇望していたものの正体が仕事だと告げられてショックを受けたと思うかもしれないが、私はそのことを素直に告白してくれたことが、嬉しかった。倒錯しているかもしれないが、特別扱いされていると思った。
ホストに通うためには多額のお金が必要になるから、私は風俗で働いていた。ホストの「告白」のおかげで、風俗にやってくる客への対応もうまくなった。性的に満足させることも大切だが、私から特別扱いされていると思い込ませることが何より重要だと悟った。
■風俗の女の子は全員辞めたくて働いている
具体的には、まず客の目を見て接客を行った。夢のない話かもしれないが、風俗の女の子は全員辞めたくて働いている。だから、客を心に入れたいとは思っていない。だけどお客さんは可愛い女の子と目を見て話したいと思っている。だからその願望をかなえてあげたら……ということだ。
目を合わせながら私は「今日はホストでいくら使おうかな」などと考えていたのだけれど。
そして常連となった彼らに対して、私は自分を安売りしなかった。私が働いていた風俗は高級店に分類される店だった。経済的に余裕がある客との付き合いが長くなると、風俗の女の子たちは甘え始める。「今月の家賃が支払えない」だったり「携帯が止まる」と、何かと理由をつけてお金をせびる。私はそういうことをしなかった。
■自分の中で完結した最悪の状況を想像するお客たち
すると、彼らは「私から特別扱いされている」と思い込むようになった。彼らは私に執着心や独占欲を持ち始め、地方から毎週のように上京してきてまで、私を独占するために長時間指名した。
さらには妄想の中で理想の私をつくり上げ、「ほぼ毎日のように出勤して稼いでいるはずの私にお金が必要なのは、きっと私に1人ではどうしようもない金額の借金があるからだ」と最悪の想像をして「お金に困っているのなら、僕が工面するから、僕の前からいなくならないで」と、100万円単位のお金を渡されたこともあった。
そもそも、私はお金には困っていないし、彼らよりも数倍多い収入を得ているのにだ。彼らは、自分の中で完結した最悪の状況を想像して、窮地に陥っている私を救い出せば、私の気を引けると思ったのだろうか。
■誰かの特別な存在になりたかったのかもしれない
もしそうだとしたら、私の担当ホストへの行動と、私の客の行動は、本質的にはほぼ同じということになる。だとすると、私も彼らも独占したい存在が手に入らない絶望的な状況下で、相手から振り向いてもらえるという希望を持ちたくなったのだ。人は希望が持てないと心がもたない。心を守るための防衛反応が『嫉妬』となり判断能力を狂わせたのだ。
過去を振り返ってみると、私がホストクラブに通っていたのは、誰かの特別な存在になりたくて通っていたのかもしれない。死にかけのさなか、病院のベッドの上で、そんなことを思い出している。
ある種の人間にとって『嫉妬』という感情をコントロールすることは、無理なのではないかと思う。これを読んでいるあなたは「ある種の人間」ではないかもしれないし、これから偶発的な何かに導かれて、「ある種の人間」になってしまうかもしれない。もしくは、この世の人間すべてがそうなのかもしれない。いまわの際になっても、わからないことだらけだ。
ただひとつわかるのは、今日も誰かが誰かの特別な存在になりたくて、歌舞伎町を訪れている。
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10代から夜の世界に出入りし、援助交際、キャバクラを経てデリバリーヘルスやソープランド、SMクラブなど、ほぼ全ジャンルの風俗店で勤務経験を持つ。3年前、子宮頸がんが発覚。現在ステージ4闘病生活中。日刊ゲンダイやサイゾーウーマンでも執筆経験あり。
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(元風俗嬢・ライター せりな 構成=網田和志 撮影=フクダタカヤス)
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