天才ダ・ヴィンチが生涯探求し続けた「2つの謎」
プレジデントオンライン / 2019年11月8日 9時15分
数々の発見や発明をもたらしたのは、常識をうのみにせず、あらゆる物事に圧倒的な好奇心をもって臨むその態度だった——イタリア・フィレンツェのウフィツィ美術館の壁沿いから、通りを見下ろしているダ・ヴィンチ像。 - 写真=iStock.com/Zummolo
※本稿は、桜川 Daヴィんち『超訳ダ・ヴィンチ・ノート』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■言説を信じるな、現地を当たれ
なぜ山頂で海の生物の化石が見つかるのか。「ノアの大洪水のときに海の生物が山頂まで押し上げられて残ったから」という聖書説が18世紀まで支配的な学説でした。
しかしダ・ヴィンチは、16世紀初頭、聖書説は誤りであると地質学的調査によって論破しています。
その過程が秀逸。山で地層を調査したダ・ヴィンチは、貝の化石層が2段に分かれていることを発見します。でも聖書には、「ノアの洪水以前にも山は海の底にあった」などとは書かれていません。化石層が2段あるなら、大洪水は2回あったはず。
疑問を持ったダ・ヴィンチは、次に化石の配列に着目します。すると貝殻の化石は規則的に並んでいたことから、洪水の渦に飲まれて流されたとは思えないと分析。さらに化石の重さから考えても、洪水によって海から山頂に運び上げられるはずがないと主張します。おまけに発見した二枚貝は、殻が対になった完全な状態で地層から発見されました。もし洪水で激しく流されたならば、破損しているはず……。
こうして貝殻だけで聖書を論破してしまったダ・ヴィンチ。時代背景を考えれば、驚きに値します。
科学が発達した今日でも、信じられていた言説が間違いだったと証明されることがあります。情報をうのみにするのではなく、常識を疑い自分で確かめてみれば、面白いことが見えてくるかもしれません。
■ふつうのことに疑問を持つ
あなたの目の前に、ハエがブーンと飛んでいるとします。誰しも「近寄ってくるな、あっち行け」と思うでしょう。ところが、ダ・ヴィンチがハエを見て思ったのは、「このブーンという音は、どこから発生しているのか?」でした。
ハエという存在自体に関心を持たなければ、この疑問は出てきません。そしてダ・ヴィンチは、観察と実験によってそれが羽から生じていることを突き止めたのです。発見は観察から、観察は疑問から生まれます。
海を越えた異国の地、ギリシャのパルテノン神殿を思い浮かべてみてください。真っ白な柱に支えられた白亜の殿堂をイメージするでしょう。ところが、そのパルテノン神殿に疑問を感じた人がいました。「パルテノン神殿は、本当に最初から真っ白だったのか」と——。
そこで、波長の異なる光を当てて科学的な調査をしたところ、実は極彩色のカラフルな神殿であったことが判明しました。この発見によって、「神殿=白」というイメージが覆されます。しかも、神殿だけではなく、白い銅像にまでカラフルな彩色が施されていたのです。
皆が当たり前、常識と思っていることを疑い、関心を持つことで、新たな視界が開けてくるのです。
■「なぜ」を5回以上重ねろ
ダ・ヴィンチ研究の権威であるケネス・クラークは、ダ・ヴィンチを「歴史上、最も強烈な好奇心を持った男」と評しました。ダ・ヴィンチの関心は、次の2つに大別できます。
①世界はどのようにできているのか
②人間はどのようにできているのか
世界の成り立ちを明らかにするために、植物学、地質学、天文学を学んだダ・ヴィンチ。次にその世界に生きている人間に関心を持ちました。外側に広がった好奇心が、内側に向き始めたのです。
動物と比較しながら解剖した人体は30体と記録しており、解剖手稿という専用のノートまで残しています。そこに記されているのは、ふつうの人なら疑念すら抱かない人体の「なぜ」を探求しつくした軌跡。少し抜き出してみましょう。
好奇心のおもむくまま、疑問の解消に没頭する。ダ・ヴィンチの洞察力の根源をなす部分と言っていいでしょう。
■「自然」はアイディアの宝庫
自然崇拝主義——これもまた怪人二十面相のようなダ・ヴィンチの一面です。自然への興味は終生変わらず、生涯の研究テーマでもありました。自然を賛美するこんな言葉も残しています。
ダ・ヴィンチにとって、自然は絵画の偉大なる師匠であり、発明をする際のアイディアの源泉でした。例えば、船を設計する際は魚の形状からヒントを得ています。
①前方が丸い形状、②後方が丸い形状、③前方も後方も同じ形状の3種類を検証し、魚と同じ形状である①が最も速く前進できることを確かめました。
■「消えるボールペン」も自然がヒント
現代社会でも、自然にインスピレーションを得て、さまざまな発明が生み出されています。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/2/200/img_120fe6bf4bdb39068f7c99905959e225436057.jpg)
色が消える驚異のボールペン、「フリクションボール」。この大ヒット商品の元々の着想も自然観察にあります。ある研究者が、一夜で緑から赤に変わる紅葉を見て、「温度差」のもたらす作用に着目し、思いついたのだそうです。このペンのインクには、「発色剤」「顕色剤」「変色温度調整剤」という3つの成分が含まれていて、65度までは発色剤と顕色剤が結合しインクが発色、65度以上になると顕色剤が発色剤から分離し変色温度調整剤と結合、その結果色が透明になるという仕組みだそうです。
自然の神秘はまだまだ未解明。当たり前に起きている現象に疑問を感じ、何かに応用できないか、という視点で自然を観察すると、まだまだ新たな発見があるはずです。
ダ・ヴィンチの次の言葉は、現代の発明家のために、生き続けているのです。
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ダ・ヴィンチ研究家
手稿、図録、学術書など、100冊を超える資料を分析してダ・ヴィンチの思考を解明し、自ら実践するのみならず、仕事に生かすコンサルティングも行っている生粋のダ・ヴィンチマニアにしてダ・ヴィンチ研究家。イタリアにある6つのダ・ヴィンチ博物館を訪れたり、定価数十万円する手稿のファクシミリ版を所有するなど、ダ・ヴィンチにまつわる体験やコレクションも豊富。初の著書『超訳 ダ・ヴィンチ・ノート』では、ダ・ヴィンチの書き残した8000ページを超える膨大な手記を読み解き、現代のビジネスパーソンへの教えを超訳、話題を呼んでいる。
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(ダ・ヴィンチ研究家 桜川 Daヴィんち)
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