ソフトバンクが倒産したら日本はどうなるか
プレジデントオンライン / 2019年11月1日 17時15分
■重要な局面を迎えるソフトバンク
ソフトバンクグループ(ソフトバンク)は、創業者である孫正義氏の指揮のもとIT先端分野を中心に有望企業への投資を積極的に進め、今後、成長期待の高い分野での収益拡大を目指している。とくに、10兆円規模の“ビジョン・ファンド”を設立し、多くのスタートアップ企業に投資を行う姿勢には、孫氏の成長への強い執念を感じる。
一方、市場参加者の中には、投資会社としてのソフトバンクの戦線拡大のペースがやや性急すぎると危惧する者もいる。最近、同社が100億ドル以上を投じてきた米国のウィーカンパニーがIPOを延期せざるを得なくなったことは、そうした懸念が高まる一つの要因となった。
ソフトバンクの投資先の中には、すでにビジネスモデルが確立し成長が期待される企業もある。投資には不確実性がつきものだ。米中貿易摩擦の先行きなど、世界経済の不確定要素は徐々に増えつつある。そうした状況下、ソフトバンクが長期にわたって付加価値を生み出すことができる企業をどのように見極め、それに投資して自社の成長を実現できるかが問われることになる。
■超積極的な投資戦略の“光と影”
ソフトバンクは、人工知能をはじめ今後の世界経済の成長をけん引すると考えられるテクノロジーなどをもつ企業に、かなり積極的に投資を行ってきた。創業まもない中国のアリババ・グループに投資したことで、アリババの株価上昇に伴い巨額の利益を得た。それは、ソフトバンクグループ全体の業績を支えるほどになっている。これは、積極的な投資戦略の成果=光の部分といってよい。
10兆円ファンドとも呼ばれるビジョン・ファンドを設立し、投資会社としての機能も強化してきた。足もと、ビジョン・ファンドは、“ユニコーン企業(企業価値が10億ドルを超えると評価され、成長期待も高い未上場の新興企業)”などスタートアップ企業への投資を重視している。他の企業に先駆けて創業後まもない企業に投資し、その成長を支え、IPOを実現することによって利得を手に入れようとしている。
ただ、ここにきてその投資スタンスにはやや懸念される部分が出はじめた。その一つが、米シェアオフィス大手“ウィーワーク”を運営するウィーカンパニーへの出資だ。
ソフトバンクとビジョン・ファンドが出資してきたウィーカンパニーは、利益を確保できていない。にもかかわらず、同社は事業拡大を優先し、不動産価格が高騰するニューヨークなどでオフィスのリース契約を結んだ。それが費用を増大させた。
■ウィーカンパニーへの巨額支援から信用不安が拡大
ウィーカンパニーはIPOを通して資金調達を行い、リース料を負担できる体制を目指していた。しかし、シェアオフィス事業から安定的に付加価値が生み出せていないことやコーポレート・ガバナンスなどへの不安から、IPOを延期せざるを得なくなった。この結果、ウィーカンパニーの資金繰り懸念が高まり、ソフトバンクは巨額の支援を行わざるを得なくなった。
また、ソフトバンクが投資し、IPOを果たした米ウーバー・テクノロジーズ(配車アプリ大手)などでも最終損益は赤字に陥っている。急速な戦線拡大の影の部分(投資先企業が想定通りに成長を実現できていないことへの懸念)は、徐々に出はじめているといえる。
ウィーカンパニーのIPO延期などを受けて、一時、ソフトバンクの株価は不安定な展開になった。同社のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のプレミアム=同社に対する一種の保証料率も高まり信用不安が拡大している。
ウィーカンパニーへの投資から損失が発生するなど、ソフトバンクの業績と財務内容の悪化を懸念する市場参加者は徐々に増えつつあるのも確かだ。言い換えれば、スタートアップ企業への投資などによって成長の実現を目指すソフトバンクのビジネスモデルをより慎重に評価しようとする見方も出はじめた。
■日本の金融市場に与えるマグニチュード
これまで、ソフトバンクは投資や買収のために、積極的に借り入れを行ってきた。万が一、ウィーカンパニーをはじめとする投資先企業の成長やビジネスモデルへの懸念が高まれば、ソフトバンクの業績や財務内容にも影響があるだろう。
その場合、ソフトバンクに融資を行ってきた国内の大手銀行などでも、業績懸念が高まる可能性がある。また、状況によっては国内の株式市場の不安定感も高まるかもしれない。ソフトバンクの投資戦略がわが国の金融市場に与えるマグニチュードは小さくはないだろう。
懸念を払しょくするためにソフトバンクは、迅速かつ強力にウィーカンパニーへの支援を取りまとめ、実行に移した。ソフトバンクは金融支援に加え、米スプリント再建を指揮したマルセロ・クラウレ氏を会長に送り込み、ウィーカンパニーの経営体制の整備と成長の実現に向けて強いコミットメントを示している。
それは、ソフトバンクの投資戦略が重要な局面を迎えつつあることを示唆している。これまで、ソフトバンクは、スタートアップ企業の創業者の個性を尊重してきた。しかし、今のところ、ウィーカンパニーに関しては同社の投資スタンスがワークしなかったようだ。
同様のケースが増えれば、ソフトバンクの成長エンジンであるビジョン・ファンドの意義そのものが問われかねない。ソフトバンクは方針を修正して自ら投資先企業にヒトとカネを送り込んで経営に積極的に関与し、どん欲に成長を実現しようとしている。
■先行き不透明感と求められる経営姿勢
徐々に、世界経済の先行き不透明感は高まっている。その中でソフトバンクは成果をあげ、市場参加者の信頼を得なければならない。
すでに、中国経済は成長の限界を迎えた。世界経済の安定感を支えてきた米国経済でも企業の設備投資が鈍化している。米中貿易摩擦に関しては、休戦協定締結への期待は高まっている。同時に、米中の交渉がどう進むか、不透明な部分もある。スマートフォンなどを含む第4弾対中制裁関税の残りの部分が発動される可能性はゼロとはいえない。もし、制裁関税が発動されれば、世界経済には無視できないマイナスの影響があるだろう。
先行き不透明感が高まる中、ソフトバンクに求められることは、成長を実現することだ。2020年1~3月にも、ソフトバンクが投資してきた中国の短尺動画のプラットフォーマーである“TikTok”を運営するバイトダンス(北京字節跳動科技)が香港でのIPOを検討していると報じられている。
成長が期待できるスタートアップ企業をより多く見出し、投資、IPOを通して株価上昇という利得を手に入れることができれば、市場参加者はソフトバンクの成長戦略を評価するだろう。
■不安が顕在化する前にリスクを排除できるか
そのために重要なことは、ソフトバンクの組織が創業者である孫氏の人を見抜く資質を手に入れ、高めることだ。その点において、優秀な人材の確保は急務だろう。また、企業家の価値観を含め、投資先のリスクを冷静に分析する体制も整えなければならない。口で言うほど容易なことではないが、そうした取り組みの蓄積がソフトバンクの持続的な成長を支えるだろう。
現状、ソフトバンクの経営に対する懸念が大きく顕在化しているわけではない。6月末時点で同社は2.9兆円程度の現金及び現金同等物を保有し、アリババなどの株式の評価額は20兆円を超える。今すぐ同社の財務内容などが大きく悪化する可能性は抑えられているだろう。
ただ、米国の景気が不安定になれば、投資先企業の成長への懸念も高まり、ソフトバンクの業績悪化につながる恐れがあることは冷静に考える必要がある。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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