「自分は普通」とSNSで勘違いしている人の痛さ
プレジデントオンライン / 2019年11月7日 11時15分
※本稿は、フミコフミオ『ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■それが本当に信頼できるものなのか考えもしない
「普通はそう考えるよ」「それが常識だよね」そういったフレーズで締められる反論は誰のものであれクソ。その反論が正しかろうが、間違っていようが、的外れだろうが、関係ない。クソだ。だいたい「普通」や「常識」という言葉を持ち出して、「よう! 大勢は決しているのだぜ」と宣言しているのが気に入らない。
人間は、意識的であれ、無意識であれ、味方を求めてしまいがちである。お化け屋敷に入って恐怖に襲われたとき、つい知らない人の袖につかまりたくなってしまう。その袖が本当に信頼できるものなのか考えもしないで。僕はその浅はかさをクソと言っている。
「普通って口にするけどさ、どう普通なの?」「常識であると確認したのかい?」と僕が尋ねると、根拠を示して説明できる人はほとんどおらず、「普通だから普通。常識だから常識なんだよ!」などと「ウンコだからウンコ」というような子供じみた戯言をぶちまけるので、バカバカしさに呆れて、話す気力がなくなっている僕を指して、彼らは「ほら見ろ。普通や常識の前に何も言えなくなっているじゃないか」と勝利宣言をする。
そんなアホらしい寸劇を繰り返してきた僕の半生であった。
■「普通」は少数を押し潰そうとする数の暴力だ
黙っているのを「了解」のポーズにとられることが多く、そのせいで何度も胃に穴が開くようなつらい思いをしてきた。「普通(とか常識)」は怖い。根拠なく多数決で勝っていると信じている状態であり、数の暴力で少数を押し潰そうとしているからだ。ご自分の平凡さと、大多数に属する普通や常識とを混同していることに早く気付いてもらいたい。
ランキング番組が好きだった。今でも当時ランキングをにぎわしたヒットソングを聴くと、「うわっ! 懐かしい!」と嬉しい気持ちになる。
僕が好んで聴いていたのは、ポリスをはじめとしたイギリスやアメリカのロックバンドで、自分だけの音楽、ベッドルーム・ミュージックだった。だから誰かとその価値を分かち合いたいとは思わなかった。今みたいにインターネットで他の町に住む同じ趣味嗜好の人間を容易に見つけられなかったので、「自分だけがわかればいい」と諦めていたのだ。
■高校時代、好きなバンドの音楽を友達に聞かれ……
高校生のとき、カセットウォークマンで聴いていたテープが見つかってしまった。放課後、トイレに行っているとき、電源をオフにするのを忘れて机のなかからシャカシャカ音がするのを見つけられたのだ。
僕が教室に戻ってくると、友達が僕のイヤフォンを耳に差し込んでいた。「あのイヤフォンを二度と自分の耳に入れるのはごめんだ。生理的に無理だ」と思った。友達はイヤフォンを抜いて「これ、何ていう音楽? 知らないんだけど」と尋ねてきた。「ザ・ストーン・ローゼズ」僕は答えた。「へー。そういう音楽、聴いているんだ。意外だな」彼は言った。
当時は『三宅裕司のいかすバンド天国』が大人気で、バンドブームが起こっていた。だが人気の中心は、あくまで日本のロックバンド。ごく一部のバンドを除けば、洋楽のバンドで日本のバンドほどメジャーな人気のあるものはなかった(はず)。
「好きで聴いているのだからいいじゃないか」僕は答えた。友人はウォークマンを机の上に戻すと、「でも、普通はそういう音楽、聴かないよな!」と笑ったのである。
僕は初めて「普通」という言葉に違和感を覚えたのだ。普通って何だよ。それはお前の普通であって、僕の普通が同じでなければならない筋合いはない。彼は、周りで麻雀をしていた奴らに、ザ・ストーン・ローゼズを聴いたことあるか? と声をかけた。誰も知らなかった。
「そういう音楽、どこで知るんだよ?」と彼は尋ねてきた。答えなかった。その質問に答えてしまったら、自分の好きなものが汚れてしまう気がしたからだ。今でも、その対応は間違ってなかったと信じている。
そいつとは険悪な関係になることも、それ以上親しくなることもなかった。今、何をしているのかも知らない。今でも大事МANブラザーズバンドの『それが大事』を聴いているのだろうか。そこまで徹底していたら、両手を挙げて降参するしかない。
■ツイッターを見ていると自分が「普通」だと勘違いしてくる
なぜ、誰かに意見を述べるとき、批判をするとき、普通や常識的という言葉を使うのだろうか。ただ、自分の考えや言いたいことを相手に伝えればいいではないか。「自分の意見に自信がないのだろう。可哀想な人だな」と分析していたけれど、そうではなかった。
僕がザ・ストーン・ローゼズを聴いていた時代と今とで大きく変わったのはインターネットの有無だ。今は、会ったこともない人たちの考えや意見に触れられるようになった。同時に自分の考えや意見をインターネットにさらせば、世界中の知らない人に見られる。
かつては教室で麻雀をやっていた奴ら数名だけだった声。今はそれが何千、何万という数になりうるのだ。それほど多くの声が自分の味方だったら、誰でも心強いにちがいない。
ツイッターを眺めているといろいろな「普通」や「常識的」が流れてくる。もしそれらと自分の考えが近かったら、自分自身が「普通」で「常識的」だと勘違いしてしまうだろう。だから異なる意見や考えと対峙すると、大軍を召喚するように、普通、常識的という言葉を出して、相手を圧倒しようとする。
■異なる考えを尊重するために余計なファクターを外す
普通で常識的だから何だというのだろう。多数派なだけだ。それが異なる意見や考えを否定する根拠にはならない。もし、普通で常識的であることが偉いとでも思っているのなら、父親のキンタマに戻って人生をやり直したほうがよろしい。
僕は自分を平凡な人間だと分析している。優れた資質も誇れるような実績もない。だからどちらかと言うと、普通や常識的とされる考え方に親近感を覚える。
油断すると、突飛な意見を述べる経営者や芸能人に対して「そうじゃないだろう。常識的に考えて普通はさ……」と普通、常識的を味方につけ、虎の威を借りる狐のように自分の意見を述べてしまいそうになるところをぐっと抑えるようにしている。
自分の意見や考え方が絶対に正しいとは思わない。自分とは異なる意見や考えを「そんな考え方もあるのか」と尊重できたらいい。そのためには普通、常識的という余計なファクターを外して、意見や考えそのものを見なければならない。
■時には「普通」にひれ伏すことも必要
「ちょっといいかな」奥様に呼ばれた。このフレーズは僕に何か注文するときの常套句である。「何かな」「洗面台を使い終わったら、水で流してもらえませんか?」「どういうことかな」見当がつかないので僕は尋ねた。
![](https://president.jp/mwimgs/a/d/200/img_ad28c8c1c02ac3ca7038042dbd0f72a6146053.jpg)
「こんなことはあまり言いたくないけど」と前置きをしてから彼女は続けた。「毎朝、そり落としたヒゲや吐いた痰がへばりついていて、イヤな気持ちになります」寝ぼけていて流し忘れることはあるが、毎朝は大袈裟だろう、という気持ちを抑えつつ、「ごめん。気を付けるよ」と謝った。
「気を付けてね。普通はあとに使う人のために流すからね。それが常識だよ」と彼女は言った。
出たよ。普通に常識的。反抗の狼のろし煙を上げよう。キミの言う普通は本当に普通なのか、常識は常識であることを確認したのか、詰問しなければならない。それが僕のやり方だからだ。
「ちょっといいかな」「何ですか」「ホントにごめん。この通り謝る。明日からは普通の人がやるようにきちんとするから。常識的な人間になれるように努力するから、許してチョンマゲ」僕は言った。
「普通は」「常識的に考えて」を忌み嫌う気持ちは1ミリも揺らいではいないけれど、それを押し通すことで甚大な被害が予想されるときは、あえて普通や常識的に白旗を上げることが必要なこともあるのだ。自分の考えを曲げなくても、曲げるふりをしなければならない……人生の難しさとやりきれなさはそういうところにある。
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1974年、神奈川県生まれ。飲食業の会社の営業部長。「はてなブログ」の前身である「はてなダイアリー」で2003年からブログを始める。独特な文章でサラリーマンの気持ちを代弁。著書に『刺身が生なんだが』(すばる舎)、『恥のススメ~「社会の窓」を広げよう~』(インプレス)。ツイッター:@Delete_All
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(ブロガー フミコ フミオ)
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