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「独裁者」が企画したイベントが盛り上がる理由

プレジデントオンライン / 2019年11月8日 15時15分

プリヤ・パーカー著・関美和訳『最高の集い方 記憶に残る体験をデザインする』(プレジデント社)

日本版ダボス会議を目指して10年前に始まった「G1サミット」と、鎌倉で働く人たちの交流の場として昨年オープンした「まちの社員食堂」。規模はまったく違うが、どちらも発信力のあるイベントだ。立ち上げに関わった面白法人カヤックの渡辺裕子さんは、「私のイベントづくりには共通のコンセプトがある」という——。

■「日本をもっとよくしたい!」から始まったG1サミット

「G1サミット」というのは、日本版ダボス会議をつくりたいというグロービス代表である堀義人氏の想いから始まったものです。私は当時、社内で在籍していた部署がクローズになって社内失業し、ITベンチャーの経営者が集うカンファレンスの仕事をすることになりました。

そのとき、経営者同士がふだんはあまり話をする機会がないことを知り、「各分野のリーダーたちが集まって意見交換する場」をつくることができれば、きっと何か大きな価値を生むと考えたんです。

堀さんの頭の中には、すでにダボス会議のイメージがありましたから、「じゃあ、やってみよう」と始まったのが2009年です。すべて手探りのスタートでした。私たちがG1サミットによって実現したいと考えたのは、「日本をもっとよくしたい」ということです。

そのためにはどんな集合体であるべきか、どんな場所を提供すべきかを考え、検討する日々が続きました。最終的には、未来を考える場、分野を越えた交流、相互からの学び、コミュニティー強化、といったコンセプトが固まりました。第1回は107人の参加者でしたが、いまは300人を超えています。

■人が集まる場所はメディアである

G1サミットの事務局を10年近く務めて、2017年に面白法人カヤックに転職しました。そこで立ち上げに関わった「まちの社員食堂」は、30数席の飲食店。カヤックの本社がある鎌倉という地域全体で社員食堂をシェアしようというコンセプトでつくったものです。

渡辺 裕子(わたなべ・ゆうこ)/面白法人カヤック 広報。2009年からグロービスでリーダーズ・カンファレンス「G1サミット」立ち上げに参画。事務局長としてプログラム企画・運営・社団法人運営を担当。2017年夏より面白法人カヤックにて現職。趣味は独酌。

ふつう、社員食堂といえば自社の社員のために食事を提供するものですが、ここは会社の壁を越えて「鎌倉で働く人たち」に開放されています。鎌倉の45のお店が週替わりでランチとディナーにお料理を提供いただいています。

300人超えの規模のG1サミットと30数席のまちの社員食堂。世界や日本のリーダーとなるパワーピープルと鎌倉という地域で働く会社員。規模も集まる人の属性も大きく違いますが、本質的な構造の部分は同じです。それはつまり、集まる場所がメディアになるという感覚です。

ある場所に集まってくる人たちがいる。そこでさまざまな意見や情報が発信されて、議論が起こる。そこから行動変容が生まれる。一連のプロセスが強力なコンテンツになります。つまり、集いそのものが情報を発信する「メディア」なんです。

メディアであるための要件として大切なのは、まずはリアルな場所であるということ。実際に人が集まって、そこでなんらかの行動があることがとても重要です。

また、集まる人々の属性が多様であることも必要です。自分とはバックグラウンドが違う人たちが集まることで、創発的な出会いが生まれます。互いに自分が専門とする知恵を教え合ったりインスパイアされ合ったりということが可能になるわけです。

縦割りではなく、混じり合う場である。混じることで新たなものが生まれる。これは、G1サミットとまちの食堂の両方に共通しています。

■ビフォアとアフターで世界をどう変えたいのか?

G1サミットの事務局を担当することになって試行錯誤のなかで大いに参考にしたのは、商業ビルのプロデューサーが書いた一冊の書籍でした。都心に新しくできた商業ビルの空間をどうつくりこんでいったのか。そのベースには、明確な「コンセプト」がありました。

次々と新しい商業ビルがオープンするなかでは、目新しいまっさらなテナントだけでビルを埋めることはできません。日本初進出といった目玉テナントがいくつかあっても、それ以外は見慣れた店で構成することになります。

そのときに重要なのが「こういう世界観をつくる」という独自のコンセプトです。一つひとつのパーツはどこにでもあるものですが、キャスティングのやり方次第で結果として唯一無二のものが出来上がるのです。

編集者が書いた本などもたくさん読みました。そこから「どんな世界観をつくりたいのか」が明確であることの大切さを学びました。世界観というのは別の言葉で言えば、「ビフォアとアフターで世界をどう変えたいのか?」ということです。

この「集い」の前と後で、どんな変化が起こるのか。どんな変化を起こしたくて集いを企画しているのか。それが、コンセプトになります。このコンセプトが明確ではない集いは、「やりました、終わりました」というだけになってしまいます。

コンセプトは集いの運営の最初から最後までを貫き通す魂ですから、明確に言語化して伝えられるようにしておくことが必要です。コンセプトがしっかりしていれば、会は自然に良い方向に向かって動き出します。あいまいなコンセプトから素晴らしい体験が生まれることはないんです。

■「やらないこと」を決める

コンセプトが決まったら、そのコンセプトに合わないことは一切やらないという断固たる態度が大切です。

たとえばG1サミットの場合は完全招待制のカンファレンスなので、誰を招くかと同じくらい、誰を招かないかが重要だという認識でアドバイザリーボードという理事会をつくって招待者を厳選していました。

「日本を変えるための知恵を共有する」というコンセプトが幹にあるわけですから、その人が参加することでその目的がかなえられるかという判断を招待候補者一人ひとりに対して行い、全員の賛成によって招待者が決まります。1人でも反対する場合には招かない。そこで妥協をしてしまうと会全体の質が落ちてしまうという危機感をいつも持っていました。

まちの社員食堂も同じです。こちらは「鎌倉で働いている」人限定なので、そうではない人はお断りしています。飲食店なので、売り上げのことを考えると観光客や住人の方にも開放したらいいのかもしれませんが、そもそものコンセプトが「鎌倉で働く人を応援する」ということなので、このラインは譲れません。

どちらの場合もあえて千客万来にはしない。誰を受け入れないかを決めるのは、とても大事だと考えています。

■どんな名人にも「丸投げ」にはしない

どんな人に来てほしいかを明確にすることによって、参加者の方にとっても「なぜ自分がここに参加するのか」という理由が明らかになります。

結果として、会のコンセプトに賛同して能動的に動ける人だけが参加することになり、参加者全員の満足度は高くなります。何かしてもらうという感覚ではなくて、参加者自身がその集いをつくっているという自覚が生まれるからです。

普通「招待」というとお客さま扱いですが、G1サミットでは決して安くはない参加費をいただいています。一方で、事務局としても参加者の方々がそれぞれの力を発揮し、知的好奇心を満たせるように全力でサポートします。ただ、最初の頃は求められている役割が自分でもよくわからず、失敗したこともあります。

あるとき、パネルディスカッションの登壇者の方から事前の打ち合わせで「どういうゴールを目指しているのか」と聞かれました。各界のリーダーをお呼びしているので、私ごときが細かく振り付けをするよりも自由にお話いただければ……と思って「おまかせします」と答えました。

するとその登壇者の方がちょっと困惑した様子で「会としてこういうことをやりたいと思って僕たちを呼んだんでしょう? オーディエンスが何を期待しているのか、どういうことを伝えてほしいのかを伝えてくれないと意味のあるセッションにはならないよ」とおっしゃいました。

言われてみればそのとおりです。いくら名人級の大工さんだとしても、「適当に家をつくってください」ではいい家はできませんよね。それ以来、会として期待していることなどをきちんと言語化して伝えるようにしています。

■集いを成功させるための2つのルール

これまでの経験から、集いを成功させるためにはずせない自分なりの2つのルールがあります。

1つ目は、「いい意味で独裁的であること」です。知人に頼まれて、イベントなどの立ち上げを手伝う機会も多いのですが、何でも合議制で進めていくというケースが結構多いことに驚きます。どんな小さなことも、みんなの意見がすり合うところまで話し合う。これは、結局は誰も責任を取らない、誰も主体的に動かないということになりかねません。

人が集まる場を企画するときに大事なのは、ある種の独裁的な決断です。コンセプトを決めるにしても、やらないことを決めるにしても、捨てるものは捨てる。全方面にいい顔はできません。クリエーティブな現場で行われているのと同様に、どこかで独裁的になることが必要です。

もう1つは、「時間に厳格」であることです。常にオンタイムの運営をするということ。実際にG1サミットでは、私の記憶にある限り、どのセッションも5分以上時間がずれたことは一度もありませんでした。これは、堀さんが徹底していたルールで、どんなに高名なスピーカーがどんなにいい話をしていても、所定の時間が来たらそこで終わり。

現場にとってはかなりタフなルールではありましたが、1人がたった5分を延長することで、ほかの数百人の行動時間に影響を与えてしまう。それを考えると絶対的に正しい判断だったと思います。

■土曜日の夜だけ営業するスタンディングバー

よい場づくりのためにはオープンにしすぎないことが大事という話をしましたが、一定のルールを設けて門戸を広げることも場の活性化のためには必要でしょう。

鎌倉のまちの社員食堂は、利用できるのは鎌倉で働く人のみというルールで営業していますが、土曜日の夜だけはどなたでも入店できるスタンディングバーになります。「タイムカード」という名前のとおり、入店の際にタイムカードを打刻して、1時間1000円、ハイボール飲み放題、他のドリンクや食べ物の持ち込みは自由です。

写真提供=株式会社カヤック
毎週いろんな人が集まるまちの社員食堂の「タイムカード」で男女のマッチングをお膳立てする特別企画として行われた「ハートのタイムカード」。 - 写真提供=株式会社カヤック

バーの店長は週替わりで、地元の経営者の方など、自薦他薦のマイクロインフルエンサーにお願いしています。これまでで一番盛り上がったのは、地元のベンチャー企業経営者が店長のときでした。この方は、とにかくサービス精神が旺盛で、「来た人を絶対に楽しませる」ということに徹していました。一時間ごとに楽器演奏などの盛り上げるための仕掛けをつくって、お客さんを帰らせないんです。売り上げも最高レベルとなり、まさに「神会」でした。

「まちの社員食堂」では、通常営業とタイムカードのほかに、トークセッションなども時折開催しています。今後もさまざまな企画を考えて発信していきたいと思っています。

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渡辺 裕子(わたなべ・ゆうこ)
面白法人カヤック 広報
2009年からグロービスでリーダーズ・カンファレンス「G1サミット」立ち上げに参画。事務局長としてプログラム企画・運営・社団法人運営を担当。2017年夏より面白法人カヤックにて広報・事業開発を担当。趣味は独酌。

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(面白法人カヤック 広報 渡辺 裕子 構成=白鳥美子)

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