「産後クライシス」に陥る夫婦に共通する3要因
プレジデントオンライン / 2019年11月12日 9時15分
■離婚危機を迎える夫婦には特徴がある
「出産後、身体はなかなか本調子に戻らないのに、夫が家事や育児を手伝ってくれない」
「妊娠中から不安でいっぱいなのに、夫は仕事を言い訳に私の話を聞こうとしない」
これらは、妊娠や出産を経験した多くの女性が抱える悩みの代表例だろう。妊娠や出産は、女性の身体と心に大きな変化をもたらすもの。心身に大きな負担がかかるだけでなく、出産前後の夫の協力的ではない態度や思いやりに欠ける言動が原因で、離婚にまで発展するようなケースもある。
出産後、急速に夫婦仲が悪くなる「産後クライシス」。もしも今、あなたの家庭が出産前後の時期を迎えていて、「家事や育児の分担をめぐってけんかすることが増えた」「夫婦ふたりで過ごす時間が減り、会話も少なくなった」ということに心当たりがあれば要注意。産後クライシス予備軍と言ってもいいだろう。
産後クライシスにおちいる夫婦にはいくつかの特徴がある。そこで今回は、実際に産後クライシスがきっかけで、別居あるいは離婚にいたった実例を紹介したい。
■「人生100年時代、ずっとセックスレスだとしたら……」
「夫とのセックスレスはいつまで続くのでしょうか」と悩みを打ち明けるのは、A子さん(35歳)。A子さんは、仕事で知り合った今の夫と3年前に結婚。2年前に第一子となる女児を出産したばかりだ。子供が誕生するとすぐに育児に忙殺される日々がはじまり、1カ月たった頃、出産後初めての夫婦ゲンカが起きた。「夫が『そろそろいいでしょ?』とセックスを求めてきたのですが、すぐ隣で寝ている子供のことが気になって、反射的に『やめて!』と強い口調で拒否してしまったんです」。
出産後、「母」として奮闘して疲労困憊(こんぱい)しているA子さんにとって、「女」に戻るのに1カ月という時間は短すぎたのだった。出産してからまだ1カ月。夫の性欲の都合でセックスを求められても、身体も心も応じることができなかったという。
思いがけず妻からセックスを拒絶された夫は、「怒りと屈辱からか、その日を境に二度と誘ってこなくなった」という。セックスレスになって3年目、A子さんはそろそろ2人目の子供が欲しいと思い、折を見て自分から誘ってみているものの、夫は「もうそういうの、いいから」とかたくなに応じようとしない。「人生100年時代。このままずっとセックスレスだとしたら、別れるしかないと思っています」とため息をつくA子さんだった。
■「子供好き」を宣言していたのに育児をしない夫
結婚4年目、半年前に初めての出産をしたB美さん(33歳)は、結婚前に「早く子供の顔が見たい」と子供好きを宣言していた夫が、家事はおろか好きなはずの育児すら手伝おうしないことに怒り心頭だ。
B美さんの夫は、帰宅時間が遅くなることはほぼ皆無。普段は18時過ぎには帰宅しているため、子供の沐浴(もくよく)を手伝ったり、離乳食をつくって食べさせたりする時間はたっぷりあるはず。にもかかわらず、「家にいる時くらいのんびりしたい」「風邪気味だから感染させたら困るだろう」などと、言い訳にしか聞こえない理由で育児に協力しようとしないのだった。
■「なぜ、私だけが育児をしなければならないの?」
近所に住むB美さんのママ友グループの話では、彼女たちの夫のほとんどが、率先して育児を手伝おうとする、いわゆる「イクメン」だ。彼らは育児のみならず家事にも協力的で、「子供を風呂に入れるのは、平日も休日も夫の仕事」「保育園への送り迎えは夫がやってくれる」「週の半分は夕食の買い物から料理、後片付けまで夫がする」などと聞いている。なかには、「毎日、僕のいない間はずっと頑張ってくれているんだから、週末のどちらかは自由に過ごしたら?」と、家事と育児から解放する時間を設ける提案をしてくれる夫もいるという。
B美さんが近所の家庭話を夫に伝え、少しは手伝うようにうながしても「家庭によってルールが違うのは当然だ」「そんなにイライラするなら、外で食事を済ませてくるから」と、とりあってくれる気配はなし。「なぜ、育児を手伝おうとしないの? 子供がかわいくないの?」「なぜ、私だけが育児をしなければならないの?」とストレスがたまる一方のB美さんは、先月とうとう子供を連れて実家に戻ったのだった。
■収入の多くをゲームに費やし、家計は火の車
C菜さん(28歳)は、1年前に2歳年下の今の夫と「さずかり婚」をした。2人はそれまで同棲していたものの、婚姻届は提出していなかった。「私は結婚したかったのですが、夫が『まだ結婚してやっていく自信がない』と。子供ができたのをきっかけに結婚することで、父親として責任感を持ってくれたらいいな、と思っていた」とC菜さん。
その期待は、ことごとく裏切られた。結婚して、子供が生まれても、夫は自分の生活のペースを変えようとしなかったという。「家事や育児に協力してもらえるとは最初から思っていなかったが、せめて金銭的なことだけでも負担してほしかった」とC菜さんが言うように、夫は独身時代と同じように毎月収入とほぼ同じ金額をゲームに費やしていたのだった。当然、家庭に入れる生活費は全額C菜さんが負担することになり、家計は火の車。そのことについて何度も話し合いを持とうとしたが、「俺みたいな人間に期待されても無理だから」と家庭に向き合おうとしなかった。
「そろそろ子供も言葉を覚え、まわりのことに関心を持ちはじめる時期。家にいる時はずっとゲームをしていて、子供にかかわろうとしない夫の悪影響を受けるくらいなら、いっそいないほうがいいと思った」と離婚を決意。今は子供と2人、新しい生活をスタートさせている。
■セックスレス、家事育児の分担、経済的困窮が三大テーマ
「セックスレス」「家事や育児への非協力」「経済的困窮」は、特に出産前後のタイミングで紛糾しやすい問題のトップ3だ。角度を変えて考えれば、いずれも夫の行動次第で深刻な問題にいたらない可能性も高いと言える。
セックスレスについては、女性の心身に出産がもたらす影響について理解しておく必要がある。
家事や育児については、できれば出産の前に「できること」「できそうなこと」「できないこと」を話し合っておくのが理想。出産後でも夫婦がお互いに無理なく納得できる範囲でルールを決めておきたい。
経済的困窮も、現実的な計画を立てることで回避できる問題だ。毎月の収入と支出を数字で出し、お互いに可視化することで、「どのくらい不足しているか」を把握できるようになる。その後、不足分を補う方法について検討すると、おのずと生活をあらためる必要があることに気づくはずだ。
産後クライシスは向き合い方次第で、夫婦の危機にもなれば絆を深めるチャンスにもなるもの。力を合わせて乗り越えた先に、さらなる幸せが待っていることはたしかなのだから。
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夫婦問題研究家
NPO日本家族問題相談連盟理事長。株式会社カラットクラブ代表取締役立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験を生かし、離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立。これまでに25年間、3万件以上の相談を受ける。『最新 離婚の準備・手続きと進め方のすべて』(日本文芸社)『再婚で幸せになった人たちから学ぶ37のこと』(ごきげんビジネス出版)など著書多数。
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(夫婦問題研究家 岡野 あつこ)
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