"うつ病"で男は自殺しやすく女は早く治るワケ
プレジデントオンライン / 2019年11月14日 11時15分
※本稿は、奥村歩『「朝ドラ」を観なくなった人は、なぜ認知症になりやすいのか?』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■うつ病発症率には「セロトニン」が大きく関係している
男性と女性では、うつ病のなりやすさやこじらせ方においても大きな違いがあります。
その特徴・傾向の違いを簡単にまとめると、女性はうつになりやすいものの、軽度の段階で症状を訴えるため、大ごとにはなりにくい傾向があります。
一方、男性はうつになりにくいけれど、いざ、なってしまうと周囲に隠して辛抱してしまうため、症状を訴えたときにはかなり悪化していることが多い。そのため自殺などの大ごとにつながりやすい傾向があるのです。
こうした男女差の傾向は、私が診てきたうつ病の患者さん方の大量のカルテからも明らかです。いったいなぜ性差で違いが現われるのか、ちょっと説明しておきましょう。
まず女性です。うつ病と診断される女性の患者さんはとても多く、発症率は男性の約2倍もあります。
その原因は脳内物質のセロトニンの影響が大きいとされています。
よく知られるように、セロトニンは精神の安定に深く関係している物質で、不足すると不安やイライラ、落ち込みなどを訴えやすくなります。ところが、女性はこのセロトニンが慢性的に不足しがちなのです。
■うつ病による自殺者のほとんどは男性の理由
そもそも、女性のセロトニンの分泌量のレベルは男性よりも低く、体内でのセロトニンの合成速度も遅いことが分かっています。しかも、女性の場合、セロトニンの分泌が生理周期に影響されるためにたいへん不安定なのです。
PMS(月経前症候群)もそうですが、生理の前後にイライラしたり落ち込んだりすることが多いのもセロトニン分泌が不安定になるから。
すなわち、女性はセロトニンの欠乏から情緒不安定に陥りやすく、そういうときに感情を大きく揺り動かされるようなショックな出来事でもあると、どっと深く落ち込んでしまうことになる。こうした流れで、うつの症状を発症してしまうことが多いのです。
もっとも、女性の心身はとても危機対処能力に優れていて、こういったピンチに陥ると我慢したりためらったりすることなく、早めにSOSを発信して助けを求める傾向があります。
このため、比較的軽症段階で医療機関を受診することとなり、病状をこじらせることもなく、治療によってうつ病から早く脱却できるケースが多いのです。
一方、男性はセロトニン分泌が安定しているため、女性に比べればうつ病になりにくいと言えます。
しかし、なってしまうと厄介なのです。
すなわち、男性は周囲や他人に弱みを見せるのを嫌って、誰にも助けを求めようとせずにひとりで心身の不調を抱え込んでしまう。
そのため、うつが発覚して医療機関に連れてこられたときには、かなり重い状態にまで進んでしまっている場合が少なくないのです。
だから、治療にも長い時間がかかるし、そのうちに自殺のリスクも無視できなくなってくる。実際、うつ病による自殺者のほとんどは男性です。
■一見タフな男性ほどうつ病になると弱い
男性がうつをひとりで抱え込んでしまうのには、「男は弱音を吐くな」「男は人前で涙を見せるな」といった教えが小さい頃から刷り込まれている点が影響しているのでしょう。
ただ、それだけではありません。じつは、男性ホルモンのテストステロンが少なからず影響を及ぼしているのです。
テストステロンは、攻撃性や性欲、競争意識を高めるホルモンとして知られていますが、このホルモンの分泌量が多い男性は、他人と馴れ合ったり他人に助けを求めたりするのが苦手で、たいへん孤立性を高めやすいのです。
それに、テストステロンの多い男性は、うつ病という診断を受けることを、「弱いヤツ」「負け犬」「落伍者」というレッテルを貼られたかのように否定的に受け取ってしまいがち。このため、つらさをひとりで抱え込んで“もうダメだ”というギリギリのところまで病気であることを隠し通そうとするわけです。
このため、一見テストステロンが大量に分泌されてそうなタフな感じの男性ほど、うつ病になると、長く辛抱したあげくにもろく崩れ去ってしまうことが少なくありません。それだけに、家族や職場の同僚など、周囲の人が早く異常や変化に気づいてあげることが肝要なのです。
■うつ病には男女で異なる対処が必要
ちなみに、男女ではうつになる原因の傾向にも違いがありますし、何とか脱出をはかろうとするときに選択するストレス解消法にも違いがあります。
原因となるストレスや悩みは、男性はたいてい仕事がらみですし、女性は圧倒的に人間関係がらみが多い。
それに、たまったストレスを解消しようとするときには、男性はスポーツ、ギャンブル、ゲームなど、テストステロン系の行動で発散しようとする傾向が強く、女性は親しい人と長時間おしゃべりをしたり、甘いものや炭水化物などのヤケ食いに走ったりする傾向が強い。
おしゃべりをしたり甘いものや炭水化物を摂ったりすると一時的にセロトニンが高まるため、女性たちはこれらの行動をとることで心身の安定を取り戻そうとしているわけです。
とにかく、うつ病ひとつとっても、男女でこんなにも傾向の違いがあるのです。だから本当は、うつ病の人に対しては、男性には男性向けの対処の仕方をし、女性には女性向けの対処の仕方をしていかなくてはならない。脳を衰えさせないため、うつ病を乗り越えていくために、ぜひみなさんも頭に入れておいてください。
■女性は冬になるともの悲しさやイライラを感じることも
うつ病の性差傾向についてもう少し続けましょう。男性にはほとんど見られない傾向ですが、女性の場合、季節によってうつ病になりやすさが違ってきます。
女性がうつ病に見舞われやすくなるのは冬。みなさんは「冬季うつ病」という疾患をご存じでしょうか。
これは、毎年冬になると、理由もなくもの悲しい気分になって軽度のうつ症状が現われてくる現象。「ウィンターブルー」「季節性気分障害」などとも呼ばれる“冬限定のプチうつ”です。
症状は「もの悲しさ、寂しさ」「落ち込み」「イライラ」「意欲低下」など。また、甘いものが無性に欲しくなって過食気味になったり、どんなに寝ても眠気がとれず、過眠になったりする場合もあります。
なかには、食べてばかり、寝てばかりいるためにどっと太ってしまい、自己嫌悪感をつのらせて家に引きこもってしまう女性も少なくありません。
こうした不調が現われてくるのは、だんだん日が短くなり、木枯らしが吹いてぐっと寒くなる晩秋あたり。もちろん冬の間はずっとうつうつとした不調の日々が続きます。
ところが、春になり、気温が上がって日差しがやわらかくなってくると、自然に一連の症状が治ってしまうのです。そして、春、夏が過ぎ、秋になって冬が近づいてくると、また次第に気分が沈みだす……。これが毎年のように繰り返されるわけです。
■冬場は日照時間が短いためセロトニンが不足する
いったい、冬になると症状が現われるのはどうしてなのでしょう。
その理由としては「冬は日照時間が短くなるせい」という説が有力です。日光はセロトニンの分泌と深く関係していて、日が短くなって日光を浴びる時間が少なくなると、自動的に分泌レベルが下がってきてしまうのです。
しかも、前の項で述べたように、女性はセロトニンの分泌が不安定で欠乏しやすい傾向があります。すなわち、もともと少なめのセロトニンが冬の日照時間短縮によってさらに少なくなってしまい、セロトニン不足によって情緒が不安定になってくるというわけです。
では、どうすればこの問題を解消できるのか。
対策はとにかくセロトニン分泌を促すこと。セロトニンは、肉に多く含まれるトリプトファンというアミノ酸を原料につくられるので、肉を意識的に摂るようにするのもひとつの手です。ただ、冬季うつ病の人は過食傾向が強まっているので、肉を食べすぎたりすればさらに太ってしまうリスクもあります。
■うつうつとしたら「日向ぼっこ」がおすすめ
私がいちばんにおすすめするのは、光を浴びてセロトニン分泌を刺激する作戦です。この光は人工的なものでもよく、精神科や心療内科では「強い光を照射する治療法」を取り入れているところもあります。
それと、やはりもっとも手軽にできて効果も高いのは「日向ぼっこ」でしょう。お天気がいい日にベランダや縁側、公園のベンチなどでゆっくり日差しを浴びれば、気分がやわらいでうつうつとした心が癒されてくるはずです。秋冬の穏やかな日差しであれば、紫外線の害はそんなに心配しなくてもいいでしょう。
また、お金と時間に余裕がある方は、冬になったら思い切って南半球へ旅行に出かけるのもいいかもしれません。日本は冬でも、南半球は夏まっさかり。日照時間も長いでしょうし、たっぷりと陽光を浴びてセロトニン分泌をアップさせることができるのではないでしょうか。(続く)
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医学博士
1961年生まれ。おくむらメモリークリニック院長。岐阜大学医学部卒業、同大学大学院博士課程修了。2008年に「おくむらクリニック」を開院し、設置した「もの忘れ外来」ではこれまでに10万人以上の脳を診断した。著書に『脳の老化を99%遅らせる方法』(幻冬舎)、『あなたの脳は一生あきらめない!』(永岡書店)など。
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(医学博士 奥村 歩)
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