なぜフォーエバー21は若者の人気を失ったのか
プレジデントオンライン / 2019年11月14日 11時15分
■アメリカの有名店が続々と閉店、縮小へ
バーニーズ・ニューヨーク、フォーエバー21、ディーン&デルーカ……日本でもおなじみのグローバルブランドがいま、アメリカで次々に倒産、撤退、縮小に追い込まれている。
その背景には急激に変化するリテール(小売り)環境がある。路面店よりネットで買う若者たち、都市の地価の値上がりなどがまず語られる。
しかしそれだけではない。新たにアメリカの消費の主役となったミレニアル世代、それに続くZ世代の物の選び方や価値観が決定的に変わってしまったのだ。
そこには、サスティナビリティ、ダイバーシティ&インクルージョンをはじめ、SDGsに代表される社会的責任を含む、日本の企業にとってもこれからの課題であるキーワードがはっきりと見え始めている。
急激に変貌するマーケットの動きに敏感に反応するだけでなく、これらのキーワードをクリアできなければ、どの分野のビジネスもこの先やっていけなくなることを示したと言ってもいいだろう。
■フォーエバー21が「終わった」と言われる2つの要因
フォーエバー21は短期間に世界10カ国、約800店舗を持つまでに成長し、一時は文字通りファストファッションのライジングスターだった。それがこの9月、米連邦破産法(会社更生法)に申請した後、アメリカ国外の200店舗以上を閉店すると発表し、日本ではオープンから10年を迎えた今年10月末に、オンラインショップを含めた全店舗をクローズした。
フォーエバー21の失敗は基本的に、その大きな特色である大型店舗を短期間に増やしすぎたためと言われ、それらを減らし、家賃の負担が劇的に減れば経営が立て直せるという見方も強い。
しかし、そうではないかもしれない、フォーエバー21の時代はもう終わったという声も少なくないのである。
フォーエバー21が実店舗を増やしてきたこの数年間は、オンラインで買い物する人が急激に増加した数年間でもある。ファストファッションの世界にもその波は押し寄せ、特にZ世代(1990年代後半~2000年の間に生まれた世代)をターゲットにしたフレッシュなオンラインショップが急激に増えた。最小限の在庫で身軽な経営とSNSを駆使したマーケティングで強力な競合となった。
もう一つ、フォーエバー21の縮小を加速したのが、数十年にわたりアメリカの象徴だったモール文化の凋落である。ここ数年、全米の庶民的なモールは、アマゾンなどのオンライン・リテールに押されて閑古鳥が鳴き、「ゾンビモール」とまで呼ばれるようになっていたのだ。こうしたモールに入っているフォーエバー21にも客足が急激に減り、売り上げだけでなくイメージダウンにも繋(つな)がったとされる。
しかし、それ以上にもっと決定的な時代の変化が起きていた。
■路面店では「特別な買い物」をしたい
路面店のあり方そのものも大きなターニングポイントを迎えている。
オンラインショッピング全盛時代、Z世代の8割は路面店で買い物したいとは思っているが、便利さを考えると75%がオンラインで買うと答えている。そんな彼らが路面店での買い物で求めているのは、オンラインショッピングでは味わえない特別な買い物体験だ。
そんな彼らのツボにはまっているのが、先にオンラインでブレークし、ユニコーン企業となったショップが展開する路面店だ。
ニューヨークでD to C路面店の代表は、シリコンバレーでブレークしたオールバーズ(Allbirds)だ。「世界で最も履き心地がいい靴」の実際のはき心地を試しに来た多くの客で賑(にぎ)わうが、それだけでなく、環境に優しいサスティナブルな靴づくりのフィロソフィーをいながらにして体感することができる。
オンラインで何でも買える若い世代にとって、わざわざ店に行くということはネットでは体験できない付加価値を味わうということ。ブランド・イメージや哲学が反映され、そこでしかできない楽しさを味わいながら買い物する、小売店もエクスペリエンス・エコノミー(体験型経済)の時代に対応したものが生き残るのだ。
■ただ安く、ぱっとしない服が並んでいるだけ
いわゆるファストファッションは、ファッションショーのランウェイに登場したスタイルをいち早く大量生産して流通させるものだが、そのコンセプト自体がもう古くなっている。
その原因は顧客の世代交代だ。かつての中心だったミニレニアル世代と次のZ世代は繋がっていながら、そのテイストや価値観は大きく違う。その違いこそがフォーエバー21を危機に追い込んだとも言える。
かつてフォーエバー21のショップには、最新のスタイルがいち早く並び新鮮な衝撃を与えた。その価格の安さも、ミレニアル世代にとってはまさにマジックワンダーランドだった。
ところが、デジタル・ネーティブのZ世代にとってはまったく違う。彼らは新しく安い服をとにかくリサーチする。また、ランウェイに出たデザインは即ネットで世界に拡散され、店に並ぶ頃にはもう新しくなってしまっている。Z世代にとってファストファッションの店はファストでも何でもなく、ただ安くぱっとしない服が並んでいるだけの店なのだ。
■「環境に悪い」イメージを変えられなかった
加えて、Z世代はこれまでの世代の中で最も環境にコンシャスな世代だ。ネットに氾濫する情報をすぐキャッチするので、もちろん繊維産業による環境汚染にも敏感。そういう中でファストファッションは「安いけれどすぐに破れる使い捨ての服、さらに環境に悪い」というイメージが付きつつある。あるZ世代の女子は「ファストファッションはもっと売るためにわざと破れやすく作っているのでは」と言うほどだ。
そして彼らは消耗品に対し、エシカルでフェアトレードであることを強く求める世代でもある。2013年、世界のファストファッションの服を生産していたバングラディシュの工場が違法建築により崩壊し、同じ年頃である10~20代の工場労働者ら1000人以上が死亡した悲劇的な事件は、人権問題としても大きな衝撃を与えた。この事件が、ファストファッションに対する世界の見方を大きく変えるきっかけになったのは間違いない。
ちなみにフォーエバー21の2大競合であるファストファッションのH&M、ザラ(ZARA)の親会社はこの事件の後、バングラディシュ労働者の安全確保の協定に署名。またH&Mはリサイクルプログラムの充実、ZARAも2025年までに全ての素材をサスティナブルなものに変えると宣言している。オンラインの人気ファストファッション・サイトも「サスティナブル・エシカル」を前面に打ち出している。
こうした部分でフォーエバー21は後れを取ったと言っていいだろう。
■「ナイキ」が10代の人気トップになっている
ファストファッションが懐疑的に見られるもう一つの理由は、アメリカのファッションの主流がスポーツとカジュアルを融合した「アスレジャー」に移行していることも大きい。キム・カーダシアンなどのセレブや有名インフルエンサーも、アスレジャーを颯爽(さっそう)と着こなしている。
そんな中で今、10代に人気トップのファッション・ブランドはナイキだ。カニエ・ウェストやドレイクなどヒップホップスターや、コム・デ・ギャルソンなどハイファッションとのコラボでファッション・ブランドとしての地位を得ている。
その他アディダス、ルルレモンなど、本格的スポーツウエアとしてのクオリティと機能性、さらに最先端のファッションエッジを持つブランドが強く支持されている。
Z世代に話を聞いてみると、着心地よく、シンプルで何にでも合わせやすいスタイルで自分だけのオリジナルの着こなしのアイテムになるところがいいと言う。
さらに体型を選ぶランウェイファッションに比べ、どんな体型でも肌の色でも、性別にも関係なく平等におしゃれに着こなせて、同時に価格帯も手ごろなアスレジャー・スタイルは、多様性や個々の違いを肯定的に捉える「ダイバーシティ&インクルージョン」の時代の象徴でもある。
■中古品、フリマ人気でハイブランドが再び注目
一方、ファストファッションより高くても長く着られる服という理由からハイエンドのブランドも再び注目されている。しかし、ただハイエンドというだけではない、グッチ、ルイ・ヴィトンといったブランドは、ヒップホップスターといち早くコラボしてダイバーシティをアピール。特にルイ・ヴィトンは、トップ・ストリート・ブランドのオフホワイトのデザイナーを起用し、革命的と話題を呼んだ。バレンシアガも特徴的なスニーカーでブランドイメージを一新し、ストリートのテイストでZ世代を掴(つか)んでいる。
とはいえ、ミレニアル世代やZ世代の多くは高級なブランド物を定価で買うことはない。代わりにヴィンテージやリセールショップがネット上で大人気となっている。ユーザー同士で売り買いできるサイトや、会員制でデザイナーズブランドをレンタルできるサービスにも入会希望者が殺到している。これらはいわゆるシェアリング・エコノミーと呼ばれるものだ。こうした店やサービスも、ファストファッションに取って代わっている。
こうした中、日本のユニクロもアメリカで存在感を放っている。特にダウンジャケットが軽く、折りたたんで持ち歩けるという他にないクリエーティブさ、アニメやスーパーヒーローなどとのコラボTシャツで、他にはないポップなエッジも兼ね備えているのが若者に人気だ。ジーンズ、Tシャツといったシンプルでベーシックなアイテムが、アスレジャーにもデザインアイテムにも合わせやすいというのも大きな魅力だろう。
かつて全盛時代だった頃のGapやJ.クルーに打ち出し方がちょっと似ているが、それに代わる中間的なポジションで、アメリカの時代のニーズにちょうどフィットしている。
■総人口に占める白人率は6割まで下がっている
ところでこうしたサイトもショップも、若い世代に支持されるブランドやリテイラーはどこもさまざまな肌の色や体型のセレブリティやモデルを起用し、ビジュアル的にもダイバーシティを強く打ち出している点は見逃せない。
本稿に何度も登場している「ダイバーシティ」だが、日本でもダイバーシティ&インクルージョンという言葉がよく聞かれるようになった。
アメリカでダイバーシティという場合、多くの場合は人種の多様性を指す。1980年代ベビーブーマーが20~30代だった頃のアメリカは、人口の8割が白人だった。
ところが、80年代以降移民が急激に流入し、子どもに当たるミレニアル世代とZ世代はこれまでで最も多様な人種がいる世代となった。現在、ミレニアル世代の白人率は61%、Z世代は52%にまで下がっている。2019年現在、アメリカ全体の人口に占める白人率も6割台となっており、このままいくと、2045年までに過半数を割るとみられているのだ。
そんな中で、ダイバーシティに鈍感なブランドが支持されなくなるのは当然の流れと言えるだろう。これは何もファッションに限ったことではない。ミレニアル世代とそれに続くZ世代の登場がアメリカを大きく変えようとしていることがよく分かる。
■フォーエバー21の“鈍感すぎる”過ち
ファッションビジネスにおけるダイバーシティとは何か。まず最初に、どんな体型の人でも着られるよう、サイズを豊富にそろえていることが条件だ。さらに、ブランドがあらゆる肌の色の人を対象としていることを表明するような企業ブランディングが、ウェブサイトから広告まで一貫していることである。
H&Mの場合は、2018年にダイバーシティにまつわる大きなミスを犯している。まず「Coolest Monkey in the Jungle(ジャングルで最もクールなサル)」の文字が書かれたフード付きスウェットシャツに黒人少年のモデルを起用し大炎上した。さらに同じ年、今度はフォーエバー21が、大ヒットしたマーベルの映画『ブラックパンサー』のキャラクターTシャツの発売に際しミスをしている。
『ブラックパンサー』はキャストにほぼ全員黒人を起用するなど、ピープル・オブ・カラーを強く打ち出した初めてのマーベル・ユニバース映画として大変大きな話題となり、まさにダイバーシティの時代を象徴するものとしてアメリカで絶賛された。
ところが、フォーエバー21はこの製品のモデルに金髪の白人を起用したため、再び大批判を浴びたのだ。ダイバーシティに鈍感であることは、ブランドにとって時に致命的なイメージダウンを与えてしまうのである。
※初出時、「フォーエバー21の場合は、2018年にダイバーシティにまつわる2つの大きなミスを犯している」としていましたが、社名はH&Mの間違いでした。訂正します。(11月14日13時30分追記)
■憧れをかき立てるイメージだけでは生き残れない
これはニューヨークのデパートの代名詞から転落、閉店に追い込まれたバーニーズも同様だ。同社の失敗の要因として言われているのは、アメリカ女性の7割がLLサイズ以上にもかかわらず、従来のハイファッションにこだわり大きいサイズを置いていなかったこと。
また、黒人の顧客に対し過剰に警戒する態度で接したため、訴えられたことなども反感を買った。富裕層だけを相手にし、かつては憧れをかき立てたハイエンドでエクスクルーシブなイメージはもう通用しなくなっていたのだ。
常に新鮮な魅力を持ち、誰もが手に入れやすく、どんな人にも似合い、質が良くオリジナルな着こなしができるのはもちろん、ダイバーシティ&インクルージョン、サスティナビリティ、エシカルといったキーワードをクリアしていくのは言うほど簡単なことではない。しかしこの課題に挑戦し、クリアしたブランドやビジネスだけが生き残れる時代になっているのは間違いないようだ。
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ジャーナリスト・ミレニアル世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。オフィシャルブログ
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(ジャーナリスト・ミレニアル世代評論家 シェリー めぐみ)
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