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賢く買い物する人が"値切り交渉"をしない理由

プレジデントオンライン / 2019年11月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/andresr

欲しいものを買うときに、値段交渉に持ち込む人がいる。ミュンヘン・ビジネススクールのジャック・ナシャー教授は「お金だけにこだわっていては相手と合意できない。プラン内容やサービスを充実させれば、予算以上の価値が得られる」と指摘する――。

※本稿は、ジャック・ナシャー『望み通りの返事を引き出すドイツ式交渉術』(早川書房)の一部を再編集したものです。

■多くの人が「価格にこだわる」間違いを犯している

交渉のときは、ほとんど誰もがお金にこだわる。買い手はできるだけ安く買おうとするし、売り手はできるだけ高く売ろうとする。

だが、価格にこだわることこそが、交渉において多くの人が犯しがちな間違いだ。価格だけにこだわると、交渉の対象になりえる選択肢を、自ら狭めてしまうことになる。

「大筋では合意できましたから、後は価格面だけですね」といった交渉の進め方をすると、合意はまず見えてこない。なぜなら価格以外のものごとが、すべて交渉の選択肢から排除されてしまうからだ。交渉のポイントがひとつに絞り込まれてしまうと、状況は綱引きと同じになる。どちらか一方が得をすれば、もう一方はそれと同じ分だけ損をする。

だが交渉の対象になりえるポイントをできるだけ多く見つけて、交渉の選択肢として残しておけば、こうした事態は避けられる。

家を買うときも、価格だけに固執する必要はない。家具つきかどうかという点から入居日や支払い方法まで、交渉のポイントはほかにいくらでも見つけられる。交渉相手から売却手数料として1000ユーロ請求されたら、こんなふうに言えばいい。「2000ユーロでも5000ユーロでも喜んでお支払いしますよ」「なんですって?」「あなたの権限でどのくらい便宜を図ってもらえるのか、あらいざらい教えてもらえるならね」

■待遇面の交渉はなにもベースアップだけではない

ホテルのミーティングルームを借りる場合も、価格交渉に時間を割きすぎないほうがいい。あなたにとっては価値があり、ホテル側にはそれほど大きなコストが発生しないほかの選択肢を探したほうが効率的だ。

食事のときにワインを無料で提供してもらったり、休憩時にコーヒーとお菓子を出してもらったり、朝食ビュッフェを用意してもらったり、考えられることはいろいろある。あなたにとっては大きな価値のあることばかりだが、どれもホテル内の設備でまかなえるため、ホテル側にはさほど費用はかからない。

あなたが収入をアップさせたいと考えているなら、あなたの興味に即した収入源を探すといい。追加収入を得る機会を雇用主がどのような形で与えてくれるかを考えてみよう。もちろん、給与を上げてもらえれば一番手っ取り早いが、それが唯一の選択肢というわけではない。たとえば、仕事の時間をもっと自由に裁量できるようにしてもらえれば、あなたは空いた時間を使ってフリーのアドバイザーとして働いたり、セミナーを開催したりして追加収入を得ることができる。

採用面接の際にも同じことが当てはまる。給与の額だけに固執せずに、たとえば、カンパニーカーを支給してもらったり〔訳注:会社が購入もしくは一括でリースし、社員に支給する車。ドイツではカンパニーカー制度のある企業が多く、車は仕事以外でも使用可〕、引っ越し費用を会社でもってもらったりしてはどうだろう?

■相手が出し渋るときは内容の価値を上げよう

しかし、相手側の予算が足りず、あなたの提示した価格を相手が支払えないときはどうすればいいだろう? 一度価格を下げれば、相手はきっと、もっと価格を下げられるのではないかと欲を出してくるだろう。そのうえ値引きに応じるごとに、あなたの利益は大きく減少してしまう。5パーセント値引きをしたことで、あなたの最終的な利益が半減してしまうこともある。

そうした場合も、価値を下げられる要素は価格だけではないという点が、問題を解決する鍵になる。そんなときのために、手ごろな価格で提供できる安価なモデルを用意しておけばいいのだ。MP3プレーヤーに、買い手の予算に合わせてさまざまな価格帯のものがあるように、相手の予算に合致する、製品の簡易バージョンを提供すればいい。

あなたが写真家で、あなたの作品の価格がコレクターにとって高すぎるようなら、プリント数を限定しない低価格の作品もつくればいい。私も、私の講演料は高すぎるという主催者が多かったため、少し前からもう少し手ごろな価格の短縮版の講演プランを用意している。

だができれば、あなたの希望どおりの価格を顧客に支払ってもらうに越したことはない。予算などのやむをえない理由以外で顧客から値下げを求められたときは、あなたの提示価格が妥当だと思ってもらえるように、顧客の状況に合わせてパッケージの価値を引き上げるという方法もある。「私どものプロジェクターをご購入いただくと、寿命4500時間の電球を3つおつけします。他社の製品をお買いになった場合は、ついてくる電球はひとつだけです」

■価格だけに焦点を合わせた交渉の末路

あなたが弁護士で、設定している報酬の料金について交渉可能かどうか訊かれたときには、こんなふうに答えよう。「私の設定料金にご納得いただけるような、建設的な提案があればいつでも検討させていただきます」。そしてあなたの設定した額の報酬の支払いを承諾してもらえるよう、相手があなたに求めていることを詳細に尋ねるようにするといい。価格を下げなくても、オファーの価値を充実させれば、交渉を成立させることはできるのである。

高速道路をミュンヘンからシュトゥットガルトあたりまで運転すると、価格だけに焦点を合わせた交渉の弊害が見てとれる。高速道路の工事現場だ。終わるまでに何年もかかるうえに、なかにはプラスチックの三角コーンと簡易トイレが置かれているだけで、ほとんど手がつけられていない場所もある。競争入札の際、役所が、価格本位で業者を選ぶよう義務づけられていることが原因だ。

違法にならない程度にもっとも安い入札価格を提示した業者と契約を結ばなければならないため、作業員の労働時間が極端に短いのだ。基準になるのは価格だけで、工事をしているあいだの道路の使い勝手はまったく考慮されていない。その結果として引き起こされている状況は、悲惨としか言いようがない。

■価格競争は「ルーズルーズ」しか生み出さない

価格だけに意識を集中させることで得をする人は誰もいない。経済学者は誰も利益を得られない状況を「逆選択」と呼んでいる。

売り手と買い手がもつ情報量に格差がある場合に生じる状況で、情報をもつ売り手側はもたない側の無知につけこんで劣悪なサービスを提供しようとし、情報をもたない買い手側は情報をもつ側が提供するサービスに対して悲観的な予想をたてるため、実際は高品質であるために価格が高いものも、価格に見合った価値があると思わなくなる。

そうして買い手は低価格のものしか求めなくなり、結果的に市場には、低価格で低品質のものしか残らなくなるという現象である。こうした状況に陥ると、買い手が手にするものの品質も、売り手の利益も低下するという、ウィンウィンとは真逆のルーズルーズの結果しか生まれない。

しかし、売り手が買い手の要望に合わせた付加価値をもつ商品を提供できている限り、たとえば、市場で販売されている自転車が、低価格の一種類のみなどという事態は起こらない。200ユーロで買える自転車があっても、2500ユーロの自転車を選ぶ人はいる。フレームやギアなど、200ユーロの自転車にはない要素に価値を認めているからだ。買い手が本当に求めているものを提供していれば、価格競争に加わる必要はないのである。

■予算オーバーならサービスを充実させればいい

お客として、携帯電話の販売業者やインターネットプロバイダーや銀行のアドバイザーから何かを得ようとするときは、料金の話にはあまり時間をかけずに、どのようなサービスを提供してもらえるかを尋ねたほうがいい。

ジャック・ナシャー『望み通りの返事を引き出すドイツ式交渉術』(早川書房)

そうすると、たいていはあなたが払う金額よりも何倍も価値のあるものを提供してもらえるし、それに応じて、あなたがオファーしてもらえるパッケージ全体の価値も当然高くなる。

たとえば車を買おうとしていて、予算は2万5000ユーロだとしよう。だがディーラーは、あなたが買いたいと思っている車の価格を2万7500ユーロと提示してきた。そういう場合も、価格には固執せずに、3回分の無料車検とスノータイヤと向こう5年間のカーナビの更新をサービスとしてつけてもらえるか尋ねてみよう。

あなたが客の立場でそれらを利用したり購入したりしようとすれば料金表どおりのお金がかかるが、それらすべてを無償で提供したとしても、ディーラーが負担しなければならないコストは、あなたが客として支払わなければならない額よりもはるかに少なくてすむはずだ。あなたにとっては5000ユーロの価値があっても、ディーラーにとってはおそらく2500ユーロといったところだろう。

■価格はいくつかある関心事のひとつにすぎない

そうすれば、あなたは予算を上回る2万7500ユーロを支払わなくてはならないものの、結果的にはあなたにとって合計3万ユーロ(車の予算額2万5000ユーロ+そのほかのサービス料5000ユーロ)の価値のあるものを手に入れられることになる。希望どおりの価格で車を売ったディーラーも、価値のあるサービスを受けられたあなたも、双方ともに結果に満足できる。

つまり、まず相手が何を求めているかを把握すること、そして相手とあなたの見解が異なる点を見つけ出すことが大切なのだ。価格はいくつかある関心事のひとつにすぎない。価格にこだわるよりも、あなたにはあまりコストがかからないが、相手にとって高い価値のあるものは何か、あるいは、相手にはあまりコストがかからないが、あなたにとって高い価値のあるものは何かを考えるようにしよう。

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ジャック・ナシャー ミュンヘン・ビジネススクール教授
1979年生まれ。ミュンヘン・ビジネススクール教授(リーダーシップ・組織論)、ナシャー・ネゴシエーション・インスティチュート創業者。フランクフルト・ロースクールを首席で修了。オックスフォード大学サイード・ビジネススクールMBA修了。ウィーン大学Ph.D.修了。欧州議会、欧州司法裁判所、国連ニューヨーク本部などに勤務した。ドイツ語圏における交渉のトップエキスパートであり、世界各国の企業にアドバイスし、コミュニケーションと交渉術に関する講演やセミナー活動も行っている。

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(ミュンヘン・ビジネススクール教授 ジャック・ナシャー)

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