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外国人労働者がいなくなれば国産野菜は消える

プレジデントオンライン / 2019年11月18日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tdub303

飲食店やコンビニなどで働く外国人の姿は、今や珍しくない。むしろ日本には、外国人なしには成り立たない産業が次々と現れている。NHK取材班は、そうした外国人“依存”の実態を総力取材した。第1回は、人手不足を外国人で補う農業の現場について――。(第1回/全3回)

※本稿は、NHK取材班『データでよみとく 外国人“依存”ニッポン』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■外国人に“依存”する日本の農業

コンビニや飲食店、建設現場などで働く外国人の姿は、東京などの大都市部だけではなく全国各地で珍しくなくなっている。人手不足に悩む現場からは、「外国人はもはや欠かせない存在」という声も聞こえてくる。

ではその実態は今、どうなっているのだろうか。私たちはまず、産業別に、働く人に占める外国人労働者の数を調べてみた。分析は産業別、年代別の労働者数がわかる国勢調査を基に行った。

最も外国人労働者が多いのは製造業で26万人余り。それでも割合で見てみると約2パーセント、50人に1人程度とはそれなりの割合だが、すごく多いという印象は受けないだろう。

しかし、担い手不足が深刻な20代から30代に絞ると、その割合はぐっと高まる。最も割合が高いのは農業で、約7パーセントと14人に1人が外国人。次いで漁業は16人に1人、製造業では21人に1人。“依存”とも言える状況が見えてきた。

“依存率”の最も高い農業の現状を調べるため取材に向かったのは、北海道に次いで全国2位の農業産出額を誇る茨城県だ。「首都圏の台所」とも呼ばれる農業大国だが、取材した農家の男性は「外国人がいなければ、東京から野菜が消える」とまで言うほどである。

■小松菜を選別するのは中国やベトナムの若者たち

取材で訪れたある農家では5、6人の若者たちが収穫したばかりの小松菜を選別していた。黙々と作業に励む若者たちの1人に声をかけてみると、返ってきたのは「ニホンゴ、ワカラナイ」の言葉。みな、中国やベトナムなどから来た技能実習生だった。実習生たちが栽培した小松菜はその日のうちに出荷され、東京のスーパーに並ぶ。

実習生の様子を見守っていた農家の男性はこう話した。

「このあたりの農家の平均年齢は70歳ぐらいで、跡継ぎがいない家も多い。作業は実習生頼みなのが実情だ。実習生がいなければ農業は続けられない」

農林水産省のデータを見てみると、農業を主な仕事としている「基幹的農業従事者」の数は2010年の約205万人から2019年には約140万人と、この10年近くで60万人以上、率にして30パーセント以上も減少している。しかも、基幹的農業従事者のうち68パーセントが65歳以上の高齢者。平均年齢も2017年のデータで66.6歳となっている。

高齢化と担い手の減少が止まらない農業。そこで欠かせない存在になっているのが、海を渡ってきた若者たちというわけだ。

■「東京から野菜が消える」日は来るかもしれない

農業に従事している外国人の人数は、1995年には全国で約2800人だったのが2015年には約2万1000人と、20年で7.5倍にまで増えている。

現場を支える若手である20代から30代で外国人は14人に1人だと述べたが、これをさらに都道府県別に見てみると、「首都圏の台所」茨城県ではその割合が3人に1人にまで高くなる(29.64パーセント)。この他香川県では5人に1人、長野県では6人に1人など、7つの県で割合が10パーセントを超えている。

東京大学大学院農学生命科学研究科の安藤光義教授はこう指摘する。

「農業の担い手不足が深刻な中でも野菜を今と変わらずに作ろうとすれば、『人件費の安い海外で安く作って輸入する』か『作り手として外国人に来てもらう』かだ。しかし新鮮さや安心、安全が求められる生鮮野菜は輸入には向かない。外国から技能実習生が来てくれなければ、野菜の収穫量は大きく減り、価格も大幅に上がるだろう」

茨城県の農家の男性が言った「外国人がいなければ東京から野菜が消える」という言葉は、決して大げさなものではないのかもしれない。

■「メロンを取るか、実習生を取るか」

外国人への“依存”が進む農業。そんな中、異変が起きている地域があった。

メロンの産出額日本一を誇る茨城県鉾田市では、近年、畑の風景が変化している。特産であるメロンの栽培をやめて、小松菜などの葉物野菜に切り替える農家が続出しているのだ。約600戸あったメロン農家はこの10年間で半減。一方、小松菜を栽培する農家は5年でほぼ3倍に増えた。

産地に異変をもたらしたのが「技能実習生」だというのだ。

「こんなに大勢の外国人を使うようになるとは思わなかった……」。こう話すのは、鉾田市で農業を営む50代の男性だ。

男性が初めて実習生を受け入れたのは14年前。長年「家族経営」でメロンを育ててきたが、両親が高齢となり体力的に農作業が難しくなったのがきっかけだった。若い実習生が入ったことで作業は楽になり、これなら両親がいなくてもメロン作りが続けていけると、当初は安心したそうだ。

しかしメロンは収穫が年に1、2回で、つまり収入があるのはその時期だけ。農作業が暇な期間も長く、その間は実習生の手が余ってしまう。収入がない時期、仕事がない時期にも毎月実習生に賃金を支払うのは、新たな負担となった。

メロンを取るか、実習生を取るか──。

「メロン作りを始めた親は、実習生を雇うのをやめて家族で栽培を続けようと、泣いて反対しました。でも、親がもっと年を取って働けなくなったら、私と妻だけでは農業が続けられなくなるのは目に見えていました」

■外国人を増やせば収穫量も耕地面積も増える

悩みに悩んだ末に、男性は長年続けてきたメロン栽培をやめた。代わりに育て始めたのは、小松菜や水菜といった葉物野菜だ。年間を通じて栽培でき、実習生に毎月賃金を払うにはうってつけだった。

今では実習生を6人にまで増やし、耕地面積も2.5倍。気づけば「家族経営の農家」から「農業経営者」になっていた。売り上げも2倍になったそうだ。

「稼ぐ大規模農家ほど、外国人への“依存”も進む傾向にある」。JA茨城県中央会の幹部はそう話す。それを裏付けるように、農業に従事する外国人の人数と1農家あたりの耕地面積は比例関係にある。規模を拡大し、農作物の販売金額が1億円を超える“稼ぐ農家”も続出。減少傾向だった産出額も2002年以降増加に転じ、2008年以降は全国2位の座を守っている。その躍進を支えるのが、実習生だというのだ。

「実習生を受け入れることで収穫量が増え、人手があるので耕地面積を増やし、さらに実習生を増やすという循環でどんどん売り上げを伸ばす農家が増えています。もはや実習生がいなければ茨城の農業は成り立たないのです」(JA茨城県中央会の幹部)

■「いい実習生」の奪い合いが起きている

実習生がいるからこそ維持できた側面のある「首都圏の台所」の看板。しかしその先行きには不安もある。

先ほどのメロン栽培をやめた農家の男性も「今は悔いはない」と話す一方で、不安も漏らした。

「最近は他の産地も実習生を増やしていて、いい実習生に来てもらうのが難しくなってきています。もし実習生がいなくなれば、今の規模の耕地はとても維持できない。そうなったら、農業をやめるしかないでしょう」

日本側の窓口として鉾田市の農家に実習生を送っている監理団体の幹部で、自らも農業を営む男性もこう話す。

「他の地域や産業との実習生の奪い合いは激しくなってきています。中国もベトナムも国内の賃金が上がる中で、いつまでも技能実習生として日本に来てくれる人材がいるだろうか。実習生が確保できなくなったら、茨城の農家の多くは立ち行かなくなる。そうなると東京から野菜が消える……」

■賃金や待遇の不満がSNSですぐに広がる

中国やベトナムなどからやってきた技能実習生たちの中には、配偶者や子どもを故郷に残してきた人もいる。そんな実習生たちにとって、スマートフォンは手放せないもの。休憩時間や一日の仕事が終わった後にはSNSやテレビ電話ができるアプリなどで家族と連絡を取り合う姿が見られた。

来日している実習生同士もSNSで情報を交換し合っているので、「あの地域は賃金が低い」、「待遇が悪い」といった不満はすぐに広がり、次からの実習希望者の減少に直結する。

鉾田市で実習生を受け入れている農家を取材すると、宿舎にネット環境を完備するのは当たり前。宿舎を新築したり、家電製品を買いそろえたりと、実習生の待遇に気を配るようになったと言う。休みの日には食事や遊びに連れていったり、期間を終えて帰国した実習生を訪ねて中国などに遊びに行ったことがある農家もいた。実習生との付き合い方も変化しているようだ。

担い手が減り続ける日本の農業。国の政策研究機関である農林水産研究所は、全国各地を「都市的地域」「平地農業地域」「中間農業地域」「山間農業地域」に分けてその将来を予測している。

それによれば2010年から2050年の40年間で、山間農業地域の人口が385万人から130万人と3分の1に減少し、その約半数が65歳以上になると予測されている。比較的人口の多い平地農業地域でも、1200万人から738万人と約4割減少し、高齢化率が40パーセントを超える。

■「日本人が来てくれない」という農場の嘆き

農林水産研究所の予測では、日本全体の人口減少によって集落の小規模化はいっそう進行し、山間農業地域では2050年、集落の3割が人口9人以下の「無人化危惧集落」になるという。

NHK取材班『データでよみとく 外国人“依存”ニッポン』(光文社新書)

「人口が9人以下」かつ「半数以上が65歳以上」になると予想される集落に所在する農地は、2050年には27万ヘクタールと、日本の農地全体の約6パーセントにもなると推計されており、農林水産研究所は「担い手がまだ存在しているうちに農村の維持再生を図るための取り組みを早急に開始する必要がある」と危機感を募らせている。

農業経営者の育成に取り組む日本農業経営大学校の堀口健治校長は、調査のために全国の農場を回っているが、至る所で「日本人が来てくれない、雇用してもすぐに辞めてしまう」という嘆きを聞くそうだ。

そして同時に目にするのが、止まらない外国人への“依存”である。例えば茨城県八千代町では農家の平均的構成が家族3人と外国人実習生3人になっている他、北海道や九州でも農業に従事する外国人の存在感が増しており、彼ら彼女らがいなければ農業を続けられないのが現状なのだ。

※データや人物の肩書き、年齢、取材現場の状況などはすべて取材時のものです。

(NHK取材班)

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