丁寧に説明するほど疑惑増す「安倍首相の逆説」
プレジデントオンライン / 2019年11月18日 18時15分
■安部首相が自ら説明するようになったが…
安倍晋三首相が「桜を見る会」で追い込まれている。
税金が使われる公的行事に後援会メンバーを大量に招き「私物化」を図っているとの批判が吹き荒れているのだ。事態を重く見た安倍氏は、自らマスコミの前で丁寧に説明する手段に打って出た。しかし、その手法は安倍氏にとっては「鬼門」でもある。
2006年からの第1次安倍政権では、まさに記者団との質疑に丁寧に応じた結果、支持が右肩下がりになり、短期政権で終わってしまった苦い過去があるからだ。
■「まず『桜を見る会』について答えます」と語り出した
15日午後6時21分。安倍氏は首相官邸の執務室を出て記者団の前に現れた。「桜を見る会」への対応、そして中国で拘束された大学教授が解放されたのを受けて記者団がコメントを求めたのに応じた形だ。
冒頭、「教授の解放」と「桜を見る会」の2問質問すると、安倍氏は「まず『桜を見る会』について答えます」と前置きした上で、とうとうと語り始めた。記者から問われた2問のうち、大学教授の解放については、答えやすい質問。それよりも先に「桜を見る会」について語り始めたのは「まず面倒なものを先にかたづけよう」という思いがのぞいた。
「桜を見る会」を巡っては、前日に後援会メンバーを集めて都内のホテルで行われた「前夜祭」の参加費が「5000円」と安い設定になっていたことから安倍氏側が穴埋めしたのではないか、という疑念が持たれている。
■「全ての費用は参加者の自己負担で支払われた」
安倍氏は「きょう(15日)、事務所から詳細に報告を受けた」と前置きしたうえで「旅費、宿泊費等の全ての費用は参加者の自己負担で支払われた」と言い切った。
旅費、宿泊費は個々が旅行業者に支払い、「前夜祭」の5000円は会場入り口でいったん安倍事務所のスタッフが集金したがその場でホテル側に渡したという。要するに安倍晋三後援会の収支はなく、公職選挙法上も政治資金規正法上も問題はないという主張である。
また「桜を見る会」の参加者を推薦していたかどうかについては「総理、副総理、官房長官、副長官が推薦をする長年の慣行があり、基準があいまいでプロセスが不透明だという指摘があった。そこは反省して、見直しを行いたい」と語った。安倍氏としては、現段階で自分に向けられた疑問をできるだけ丁寧に答えたつもりなのだろう。
それにしても、この日の光景は異例だった。内閣記者会が安倍氏にインタビューを求めることはままあるが、安倍氏が応じることは少ない。北朝鮮のミサイル発射や閣僚の辞任といった事態になった時は応じるが、安倍氏は、あらかじめ準備していたコメントを読み上げて、記者からの質問は受けずに引き返すというパターンが続く。
■計21分間、約30問の質問に応じる「異例の対応」
ところが、この日は約30問にわたって記者団の質問に応じた。計21分に及ぶ。記者団から「改めて記者会見を開く考えはあるのか」と聞かれると「もし質問するなら、今されたほうがいいと思います。今、してください」と促した。
報道各社の首相担当は年少の記者が務めることが多い。昼夜首相をウオッチする激務だが、実際に首相と会話をする機会はほとんどなない。この日のインタビューで初めて安倍氏とやりとりをした若い記者もいたのかもしれない。
驚くことに、この日は昼にも一度目の記者インタビューに応じている。この時は1分足らずで打ち切っているが、それでも2問の追加質問を受けている。
「質問するなら今」という発言を含めて考えると、とにかく疑惑追及を打ち止めにしようという執念が感じ取れる。
■「1日2回の記者対応」が逆効果になった第1次安倍政権
「1日に2回の記者インタビュー」といえば、2001年から2006年まで首相を務めた小泉純一郎氏も、在任中は1日2回の記者インタビューに応じた。小泉氏は、硬軟とりまぜた質問に、時には舌鋒鋭く、時にはユーモアを交えて短いコメントを発し続けた。「失言」と批判されることもあったが、総じてテレビの報道番組などが優先的に報道して政権アピールには有効だった。
その後、2006年に首相に就任した安倍氏も小泉氏と同じ手法を取った。しかし当時52歳の安倍氏は小泉氏のような経験は乏しかった。コメントは面白くなく、カメラ目線で語ると「気持ち悪い」、カメラから目をそらすと「目が泳いでいる」と批判を受けた。
極め付きは同年末のやりとりだ。記者から「首相にとって今年の1文字は」と聞かれて「それは……『責任』ですね」と「字余り」で回答。「アドリブが利かず、質問の意図も理解できない。総理の資質を欠く」というイメージが定着してしまった。1年足らずで首相官邸を去る遠因のひとつとなったと言ってもいい。
2012年、首相に復帰した安倍氏は、過去の反省から、定例の記者インタビューに応じないようになった。それが7年に及ぶ長期政権につながったとみることもできるのだ。
■説明すべきことが増え、結果として墓穴を掘る
自ら禁を破って記者インタビューを「解禁」した安倍氏。マスコミを通じて直接国民に語りかけることは悪いことではない。しかし、語れば語るほど後から説明がつかなくなる危険があるのは言うまでもない。
15日、20分以上に及ぶインタビューでも野党側から寄せられている「『桜を見る会』の参加条件に『功績・功労』があるかどうか」「安倍事務所が紹介して内閣府が却下した例はあるか」など、安倍氏が答えなかった質問には答えていない。安倍氏の思惑通り、この問題を打ち切ることはできない。
説明責任を果たす姿勢を見せれば見せるほど、説明すべきことが増えてしまい、結果として墓穴を掘ることもある。そのことは12年前、安倍氏自身が証明しているのだ。
■内閣支持率は9カ月ぶりに5割を下回った
「案の定」といおうか安倍氏は週をまたいで18日にも記者団の前に立ち、改めて公職選挙法や政治資金規正法に違反するようなことはないと釈明。その一方で「前夜祭」の経費の総額を示す明細書や、自身の後援会や事務所が発行した領収書は残っていないと説明した。
野党側はこれに一斉に反発しており、安倍氏はさらに説明に追われることになるだろう。
読売新聞が15日から17日に行った世論調査で、内閣支持率は前回調査と比べて6ポイント下落、49%で9カ月ぶりに5割を下回った。桂太郎を抜いて首相在任日数が憲政史上最長になろうとしている安倍氏は世論の動向をにらみながら「説明責任」に悩まされ続けることになる。
(永田町コンフィデンシャル)
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