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長引く腰痛は「脳の働き低下」という科学的研究

プレジデントオンライン / 2020年1月18日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Filip_Krstic

腰が痛い。でも医者に行っても治らない。どうしたらいいのだろうか。「プレジデント」(2019年11月15日号)では、全国から悩める患者が集まる福島県立医科大学の医師たちに対処法を聞いた。第1回は「腰痛の種類」について――。(第1回/全6回)

■腰痛難民に朗報、新たに痛みの原因が明らかに

20歳以上を対象にした2010年の大規模調査によれば、推定2315万人が3カ月以上続く痛み(慢性疼痛)を訴え、そのうち、約6割の人が腰痛に苦しんでいることがわかっている。

つまり、1000万人を超える日本人が、慢性腰痛に悩んでいる計算になる。腰痛が日本の「国民病」ともいわれる所以だ。

しかも、「腰痛のほとんどが原因不明」という話を、皆さんも聞いたことがあるのではないだろうか。原因がわからないから、有効な治療ができずに腰痛が長期化し、医療機関や接骨院などをはしごする、いわゆる「腰痛難民」が巷に溢れているというわけだ。

ところが、そんな腰痛の常識が、覆されようとしている。実は、原因不明とされてきた腰痛の中には、「脳の働き」の低下が関わっている痛みがあることが、最近の研究でわかってきたのだ。

脳の働きに着目した腰痛治療で目覚ましい成果を上げ、北海道から沖縄まで全国から患者が殺到しているのが、福島県福島市にある福島県立医科大学附属病院だ。

そもそも腰痛の原因は、なぜ特定しにくいのだろうか。同大学整形外科学講座准教授の二階堂琢也さんは、次のように説明する。

「原因不明の腰痛のことを、医学的には非特異的腰痛と呼びます。腰痛のうち、非特異的腰痛が85%という古い海外の研究データが一人歩きをしていますが、最近の日本の研究では、非特異的腰痛は22%にすぎないというデータも出ています。とはいえ、非特異的腰痛がとても多いという事実に変わりはありません。というのも、客観的な検査データだけでは、腰痛の原因を特定できないケースが多いからです」

■知っておきたい、よくある腰痛の種類

腰痛の原因は、実際には様々で、複数の原因が重なっていることも少なくない。

大きく分けると、①腰の骨や筋肉などに異常がある場合、②ほかの病気などによって生じている場合、③心因性など非器質性の場合の3種類がある。

腰痛の原因のうち、最もわかりやすいのが、①のパターンだろう。その中でも患者数が多く、皆さんにも聞きなじみがあるのが「腰部椎間板ヘルニア」と「腰部脊柱管狭窄」だろう。

腰椎(腰の部分の背骨)には、「椎骨」という骨が連なっていて、前方は椎体と椎体の間に椎間板という組織が、後方には椎骨と椎骨を連結してスムーズに動かすための「椎間関節」という組織がある。

その椎骨と椎骨を連結する「椎間板」という軟骨が変形して飛び出し、まわりの神経を圧迫したり、炎症を起こしたりするのが腰部椎間板ヘルニア。

それに対して、腰椎の脊柱管(背骨の真ん中の空間)が狭くなり、そこを通っている神経が圧迫されるのが腰部脊柱管狭窄だ。

①としては、椎骨の背中側の関節である「椎間関節」に障害がある場合も、腰痛を引き起こすケースがある。

また、子どものときにスポーツで腰を酷使したのが主な原因で、腰椎の椎骨がずれたり、分離したりしてしまう「腰椎分離すべり症・腰椎分離症」もある。

そのほか、骨粗鬆症などによる腰椎の圧迫骨折、終板(椎骨と椎間板の間にある軟骨)の障害、背中の筋肉の衰えなどが、腰痛の原因になることもある。

前述①では、問診や簡単なテストで腰痛の原因に当たりをつけられるケースもあると二階堂さんは話す。

「例えば、間(かん)欠(けつ)跛(は)行(こう)という症状があれば、腰部脊柱管狭窄を疑います。CT検査では、骨の異常の有無を詳しく調べます。足のしびれや痛みなどの症状も伴えば、MRI検査で神経の異常の有無も調べます。そうした画像検査などで器質的異常(骨や筋肉、神経、内臓などの異常)が見つかり、症状と符合すれば、原因が絞り込めるというわけです」

■命に関わる重要なサインとは

腰痛で、とりわけ注意すべきなのが前述②のパターン。生命に関わる重篤なケースもあるので、「レッドフラッグ(危険信号)」と呼んで、早急にスクリーニングする。

可及的速やかに鑑別すべき代表例が「大動脈解離」。大動脈の血管壁が剥がれてしまう病気で、急な激しい腰痛や背部痛を伴うことが多く、放置すれば、死に至る。

体の動きに関係なく強い痛みが出現した場合は注意が必要だ。日中の活動時だけでなく、安静時や夜間にも腰が痛んだり、だんだん痛みが増したりするのも、危険な腰痛といえる。例えば、膵臓がんや卵巣がんなどの腹部のがん、腰椎へのがん転移などでも、そうした痛みが起こることがある。

このほか、一般の人でもわかるサインとしては、発熱があるか、体重が減っていないか、足など広範囲にしびれがあるかという点だ。これらの症状が伴う腰痛だと思った場合は、すぐに医療機関で診断をしてもらったほうがいいという。

■なぜ原因がわからない腰痛があるか

そして、やっかいなのは、腰痛と器質的異常が、必ずしも結びつかないことだ。

「腰部の脊柱管狭窄や椎間板ヘルニアがあっても、全く痛みを感じない人もいます。反対に、画像診断で何ら異常がなくても、腰痛を訴える患者さんもいます。そうしたケースでは、原因を突き止められず、非特異的腰痛という診断になってしまうわけです」(二階堂さん)

そこで、福島県立医科大学附属病院は、「痛み」が起こるメカニズムの中で、大きな役割を担う脳に注目した。

例えば、体を刃物で切られると、感覚器からの電気信号が神経を通じて脳に送られ、「皮膚や筋肉が傷ついた」という事態を脳が把握し、初めて痛みを感じる(侵害受容性疼痛)。しかし、体が傷つかなくても、途中の神経の異常によって痛みを感じたり(神経障害性疼痛)、脳の異常によって痛みを感じたり(非器質性疼痛)することもある。

■強い精神的なストレスでも、痛みが生まれる

前述③の非器質性腰痛とは、まさに脳の異常に起因するもので、非特異的腰痛の約3分の1を占める。その大半が、精神的なストレスやうつ、不安といった心理社会的要因によるものだと二階堂さんは説明する。

「例えば、強い精神的なストレスを長期間受けていると、腰に異常がなくても、腰痛を訴えるケースが多いことが知られています。痛みをブロックする下行性疼痛抑制系という体の防御システムがうまく働かなくなることによって、痛みが増強したり、長引いたりするからだと考えられています」

福島県立医科大学附属病院では、腰痛の心理社会的要因の有無を確かめるため、診断には画像検査だけでなく、心理テストも併用。心理社会的要因が関わっている腰痛と考えられるケースでは、整形外科と精神科が連携した「認知行動療法」も取り入れている。

認知行動療法とは、例えば、気持ちを前向きにさせたり、趣味などの好きなことに関心を向けさせたりして、痛みとの向き合い方を変える心理療法だ。さらに理学療法士による運動療法を積極的に行う。つまり、多職種の医療スタッフが関わる集学的治療を行っている。その結果、「非器質的」とされた腰痛でも、ほとんどの症例で何らかの改善が見られるという。

■整形外科と精神科が連携し、3週間治療

ただし、腰痛に対する集学的治療は、残念ながら、実施している医療機関が全国でも限られている。今のところ、保険適用になっていないのが大きな原因だ。

「当院で集学的治療を行う場合は、3週間ほどの入院が必要です。ほかの腰痛の入院治療と同じくらいの医療費(自己負担が3割の場合、21万円が目安)で行っています。

実際には、多くの検査や治療に係る費用、そして、多職種のスタッフが関わることから、医療機関のコストの負担が大きいので、普及していません。早期の保険適用が望まれますね」と、二階堂さんは力説した。

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二階堂琢也(にかいどう・たくや)
福島県立医科大学医学部 整形外科学講座准教授
 

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■▼あなたの腰痛は何タイプ?

(ジャーナリスト 野澤 正毅 撮影=宇佐美雅浩)

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