逆境に直面したとき、活路が開く3つの言葉
プレジデントオンライン / 2019年11月22日 11時15分
(※本稿は、2019年9月18日、しなやかに情熱を持って働く女性たちのための交流会「PRESIDENT WOMAN Salon」の第6弾「日本航空株式会社 特別理事 大川順子さんを迎えて」の内容から構成しています)
■個々の成長を促す「ロールモデル」のつくり方
私は理系出身のいわゆる“リケジョ”ですが、当時はそうした女性が就職難でした。そんな時、成田空港の開港があり、CA(客室乗務員)を多数募集していた日本航空に入りました。人生、何が幸いするかわからないものです。お客様をおもてなしする仕事はとてもやりがいがあり、現場や教育担当、管理職を含めて合計30年以上をCA職として過ごしてきました。
この経験から、個々が仕事で成長する上で欠かせない2つの要素に気づきました。それは「ロールモデル」と「イベント」です。ロールモデルになりうる人は少なくないと思うのですが、その力を開花させるには、まず実力を発揮できる環境をつくる必要があります。リーダーがある程度の自由度を与えて、部下の情熱や能力が垣間見える場をつくらなければなりません。
私は客室本部長時代に、CAの機内アナウンスにある程度の自由度をもたせました。その時、あるCAが行ったアナウンスが完璧にロールモデルの域に達していて、深く感動したものです。
周囲が「こうなりたい」と思えるロールモデルは、どんな職場においても必要です。そうした人をつくる、つまりひとりひとりが持つ力を輝かせるには、リーダーによる環境づくりが不可欠なのだと痛感しました。
■壁にぶち当たった時に道を開く3カ条
そして「イベント」には、ライフイベントと会社に起こるイベントが含まれます。私の場合、前者は出産・子育てであり、後者は経営破綻でした。どちらも不安や重圧が大きく、ネガティブに捉えてしまいがちですが、振り返ってみると、次の3つを意識したことで道が開けたように思います。
道を開く3カ条は、①とにかくあきらめない、②常に明るく立ち向かう、③目の前のことに全力で取り組む。私は出産後にCAに復職したのですが、国際線の担当だったため1カ月のうち20日は家をあける生活でした。罪悪感もありましたが、保育園の先生の「一緒にいられる10日のうちに3倍ハグして。それがあなたの育児なんだから引け目に思うことなんてない」という言葉に励まされました。
それでも、やはりもう少し家にいる時間を増やそうと、拘束時間の短い国内路線で一定期間乗務する制度を利用しました。育児のために海外フライトをあきらめたと思うかもしれませんが、私にとってこの環境変化は多くのことを学ぶ貴重な経験となり、今の立場へもつながっていると思います。
一般的な会社の異動と同じで、国際線と国内線ではまったく職場環境が違いました。毎日が勉強でしたが、全力で取り組んだおかげで、自分なりにCAの仕事の本質に気づくことができたのです。「国際線が飛べなくなる」と否定的に捉えるのはなく、「同じ路線を何度も経験することになるので、この路線のプロになってやろう」と前向きに考えたのがよかったのでしょう。
皆さんも、異動などの環境変化をネガティブに捉えないでください。異動先にも必ず、自分のものにできる何かがあります。私は国際線と国内線の両方を経験したことで視野が広がり、管理職への道が開けました。元をたどれば、出産と育児がなければこの環境変化もなかったわけです。おそらく、役員になる機会も得られなかったでしょう。
次に、もう1つのイベントである経営破綻についてお話しします。私が役員になったのは、「解散ではなく再生を」という方針が決まった直後でした。同時に、当社最大の組織である客室本部も率いることになりました。
ミッションは明確です。8000人の部下と一緒に、何が何でも会社を再生させなければならない──。それまで経験したことのない重圧でした。私はこの経験を通して、絶対に後に引けないという覚悟と責任を持つこと、そしてリーダーとしての役割を学ぶことができました。
今、当社の再生がここまで進んできたのは、お客さまからの応援はもちろん、社員ひとりひとりの力と強い思いのおかげです。そしてリーダーに求められているのは、部下たちの意識をそこまで高められるかどうかです。1人の力で成し遂げられることは決して多くはありません。会社の成長も社会への貢献も、仲間と組織の力があってこそなのです。
■リーダーの役割や持つべき資質とは
先にお話しした3カ条は、道を開くものであると同時に、リーダーが持つべき資質でもあります。加えて、部下の成長という観点も忘れてはいけません。もしあなたの周りに思うように育たない部下がいたら、「彼や彼女が成長できないのは、自分がどんなリーダーだったからだろう」と考えてみてください。会社に役立つ、引いては社会に役立つ部下を育てるにはどうすればいいか。それを考えるのもリーダーの役割の一つだと思います。
現在、当社では再生を進めるとともに、社員ひとりひとりを輝かせるためにさまざまな取り組みを行っています。全員が持つべき意識・価値観・考え方として「JALフィロソフィ」を策定したほか、生産性を高める環境づくり、多様な人財の育成、挑戦する組織への成長などを重点目標に定めています。
その中には働き方改革やダイバーシティ推進も含まれています。近年、当社では総実務労働時間や時間外労働が減少傾向となり、テレワーク時間が飛躍的に増加しました。また、女性パイロット数や女性整備士数も徐々に伸びてきています。
さらに、挑戦する組織となるためには、プロフェッショナル集団の形成が欠かせません。今後は世界の変化がますます激しくなり、経済も事業も不確実さや曖昧さが増していくと考えられます。企業はそれに備えて、計画外の事態に遭遇した時にも、個々が自分で考え判断できる集団へと変わっていく必要があります。
具体的には、大量生産や大量販売の時代は終わり、個人を抱え込んでいく「個人継続サービス」が重視されるようになると言われています。また、消費者の間でも、モノを買って満足するのではなく、コトに感動する傾向が高まるでしょう。
これに対応するには、マネジメント側も計画力重視・マニュアル順守・規律型組織といった画一的な考え方から、対応力重視・試行錯誤・自律型組織といった多様性重視の考え方へと転換を図らなければなりません。(出典: 一般社団法人ジャパンダイバーシティネットワーク ダイバーシティ・マネジメント研究会資料)この転換を実現するには経営トップの意識改革が重要ですが、社員からのボトムアップも非常に大事です。
ですから、会社に対してぜひ積極的に意見を発信してください。現在リーダー職にある、またはリーダーを目指している皆さんなら、会社をよくするためのボトムアップという重要な役割を、きっと果たせるはずです。先の3カ条を参考に、ライフイベントも社内イベントも前向きに捉えて、道を切り開いていっていただきたいと思います。皆さんの活躍を期待しています。
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日本航空 特別理事
1954年生まれ。77年日本航空入社、78年東京理科大学卒業。国際客室乗員部パーサー、客室乗員訓練部教官などを経て、2010年に同社の経営破綻とともに執行役員に就任。代表取締役専務執行役員、副会長を経て19年より現職。
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(日本航空 特別理事 大川 順子 文=辻村洋子)
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