月5800円借り放題「服のサブスク」が儲かるワケ
プレジデントオンライン / 2019年12月9日 9時15分
※本稿は、永井孝尚『売ってはいけない 売らなくても儲かる仕組みを科学する』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■トヨタも始めた「サブスク」
いま、サブスクリプションモデル(サブスク)が大流行(おおはや)りだ。サブスクとは、毎月定額制で料金を取るビジネスモデルのことだ。身近なところでは、雑誌や新聞の定期購読もサブスクの仲間だ。定期購読のことを英語で「サブスクリプション(subscription)」という。電気・水道・ガス・電話もサブスクだ。私たちの身近にあるサービスなのだ。
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このサブスクがいま、様々な分野に拡がっている。2019年にトヨタはサブスク「KINTO」を始めた。高級車レクサスであれば、月額約20万円で3年間に6種類のレクサスブランド車を乗り換えることができる。プリウスの場合は月額約5万円。車両代・登録時諸費用、税金・任意保険・自動車税が含まれる。
消費者がモノを所有することにこだわらなくなった。いまや、買取りが常識だったモノにまで、サブスクが拡がっているのだ。
このサブスクが大きな注目を浴びているのは、ビジネスとして魅力的だからだ。まず売上が安定する。解約しない限り顧客はお金を払い続ける。売上が安定すればビジネスのリスクも減る。売り切りよりも価格が下がるので、新規顧客にアプローチしやすくなる。だから、「ウチもサブスクをやれば売れる」とサブスクを始める会社が増えている。しかし、サブスクをすれば成功するほど、世の中は甘くない。
■米国では大成功、日本では大失敗のサービス
2013年、「Tokyo Shave Club」は男性用カミソリの定期購入サービスを始めた。月額600円で4枚刃が3枚届く。しかし、新規顧客が増えずユーザー数は低迷。2018年5月、サービスを終了した。
これは、米国で大きく成功したビジネスモデルを日本に輸入したものだった。ちなみに米国では、4年間で会員数300万人・売上200億円というビジネスに育っている。米国ではカミソリは店頭で鍵付きケースに入っており、店員に頼まないと買えない店が多いという。だから定額サービスは魅力的だった。しかし、日本ではカミソリはコンビニでも買える。アマゾンで買えば安いし、すぐ届く。サブスクよりもお手軽だし、お得感もある。日本の顧客にはカミソリの定期購入サービスに入るメリットは少なかったのである。
普通に買える商品をサブスクにしても、顧客の手間が増えるだけなので、誰も買わないのだ。
■高級バッグが使い放題の「ラクサス」
サブスクで成功するには、まず、新しい顧客体験を創り出すことが必要だ。たとえば、今まで高くて手が出なかったものを安くする。あるいは面倒なものを簡単にする。
そして、サービスを継続するためには収益化も必要だ。これらが両方とも実現できないサブスクは、早めに見切りをつけて撤退すべきだ。成功するサブスクは、これらをクリアしている。
月6800円で30万円以上もする57ブランドの高級バッグが使い放題、というサービスで急成長を遂げているのが「ラクサス」だ。ラクサスは女性にとって悪魔のように魅力的なシステムである。ラクサスのサイトを妻と一緒に見ていたら、普段は冷静な妻が「え? これも使えるの?」「え? これも月6800円」と次々とバッグをクリックして魅入っていた。
女性にとって高級バッグ選びは一大イベント。なにしろ30万円以上の投資である。買った後に「なんか違う」と思ったら、ショックは計り知れない。男性にはなかなか理解できないが、女性にとってバッグ選びはある意味「苦痛」なのだ。
ラクサスは、返済期限なし・いつでも交換可能にして「高級バッグを選ぶ苦しみ」から女性を解放した。価格比較サイトなどを見てから申し込んでいる人が多いという。
ラクサスに入れば、女子会にはシャネルのショルダーバッグ、仕事にはエルメスのトートバッグ、デートにはセリーヌのハンドバッグ、というようにTPOで使い分けられる。いつも同じカバンを使う男性は「どこが違うの?」と思ってしまうが、女性にとってはまったく違う。
■9カ月以上使い続ける顧客は95%を超える
ラクサスの児玉昇司社長によると、「返済期限をなくし、選ぶ苦しみから解放するには、サブスクしかなかった」。サブスクは、顧客の悩みを解決する手段だったのだ。
ラクサスは、有料サービスを使い続ける顧客の継続率を最重要指標として見ている。顧客継続率は平均90%。9カ月以上使い続ける顧客は95%以上。顧客に使い続けてもらうには、高い顧客満足度の徹底追求が必要だ。そこでバッグの品揃(しなぞろ)えを強化し、たくさんあるバッグから欲しいバッグが見つかるように、AIでマッチングをしたりしている。(以上、「月額6,800円、継続率91.6%!「ラクサス」はブランドバッグのレンタルで、新しいシェアリングエコノミーを創る」を参照)
もう一つ紹介しよう。月5800円で新品の服をレンタルし放題のサービス「メチャカリ」を提供しているのが、女性向けのアパレルショップ「アースミュージック&エコロジー」などを展開しているストライプインターナショナル(以下ストライプ)だ。
一度に借りられる服は3着まで。返却すれば何着でも借り換えられるので、レンタル数の上限はない。返却には1回380円の手数料がかかる。対象は50ブランド、1万着だ。これは「お洒落な服が借り放題だったら、助かります」という女性の声に応えるために始めたサービスだ。
■店舗販売よりも利益率が高い「メチャカリ」
「これで儲かるのか?」と思ってしまうが、すでに黒字化の目処(めど)はついている。ストライプは、メチャカリで返却された服を自社サイトで中古販売している。返却されるのは数回しか着ていない服がほとんどで、古着よりも高く売れる。中古販売の消化率は95%。商品定価に対してメチャカリで2割、中古販売で5割、合計で定価の7割を回収できる。通常の服は平均だと定価の4割引販売なので、定価の6割しか回収できない。
さらに、メチャカリはストライプのECサイトと物流倉庫を共有しているので、サブスク専用の在庫を抱える必要もない。売れ残りリスクを抱える心配もない。メチャカリのほうが、通常の店舗販売よりも利益率が高いのである。
損益分岐点は有料会員数1万1000人だが、すでに、2019年7月時点で1万3000人を超えた。2019年8月現在、知名度向上に向けた広告宣伝費などの先行投資がかさんでまだ営業赤字だが、将来的には有料会員20万人、売上100億円を目指すという(以上、「週刊東洋経済」2019/1/26号特集「アマゾンに勝つ経営」の掲載されたメチャカリ事例、ほかを参照)。
■「売る」のはゴールではなくスタート
サブスクでは、考え方を根本的に変える必要があるのだ。
これまでの「売り切り」を前提とした商品販売では、販売する時に大きな売上が立つ。「売るのがゴール」だった。だから、販売を目指し一生懸命に頑張ることになる。
一方でサブスクの場合は、販売後に継続的に小さな売上が積み重なっていく。「売ってからがスタート」だ。だから、顧客に使い続けてもらって満足してもらうことで利益が生まれる。
サブスクは「魔法の杖」ではない。難易度は、通常のビジネスよりもむしろ高い。
まず、顧客が「どうしても使いたい」と思ってくれるか?
顧客から見て、お得か? 顧客の課題は解決できるか? 商品やサービスの魅力を、継続的に高め続けて、顧客体験をアップデートし、顧客を飽きさせないことができるか? そして、顧客の成功のために本当に役立つか? さらに、サブスクへの投資を、長期的に回収できるか?
離れる顧客を無理に追わずに長期間継続させる仕組みとして、最近注目されているのが「カスタマーサクセス」という仕事だ。クラウドサービス大手の米セールスフォース・ドットコムにより拡がった考え方だ。
カスタマーサクセスの役割は、主に企業の法人顧客を成功に導くことだ。契約顧客を常にフォローし、顧客自身が気づかない課題を先回りして発見し、解決策を提案する。解約率ゼロを目指して、顧客生涯価値の最大化を図っていく。
このようにサブスクは、売ろうとしてはいけない。
サブスクを使い続けてもらうためには、売った後も継続した努力が必要なのだ。
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マーケティング戦略コンサルタント
1984年に慶應義塾大学工学部(現・理工学部)を卒業後、日本IBMに入社。マーケティングマネージャー、人材育成責任者として同社ソフトウェア事業の成長を支える。2013年に日本IBMを退社後、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表に就任。執筆の傍ら、幅広い企業や団体に新規事業開発支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供しマーケティング戦略の面白さを伝え続けている。さらに仕事で役立つ経営戦略を学ぶための「永井塾」を毎月主宰。主な著書にシリーズ60万部『100円のコーラを1000円で売る方法』、7万部『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(以上、KADOKAWA)、10万部『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)。最新著書は『売ってはいけない』(PHP新書)。永井孝尚オフィシャルサイト
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(マーケティング戦略コンサルタント 永井 孝尚)
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