教師が「小学1年生のイライラ」を鎮める奥の手
プレジデントオンライン / 2019年11月26日 11時15分
※本稿は、沼田晶弘著『one and only 自分史上最高になる』(東洋館出版社)の第3章「ストレス」を再編集したものです。
■いろんな「イライラ」が注がれるあなたのコップ
コップを想像してください。
マグカップ? ワイングラス? いや、ごくふつうのガラスのコップでいいかな。そのコップを「イライラコップ」と名付けることにしましょう。
あなたのイライラコップには、日々、いろんな「イライラ」が注がれます。「毎日忙しすぎる」とか「あいつのあの言い方はなんだ」とか、まぁ、いろいろ。
コップのサイズは人それぞれ。イライラの水が即座にいっぱいになってしまう小さいコップの人もいれば、割と待っていられる大きいコップの人もいます。
で、コップの隅の方を見てみると、あれっ? ……このコップにはどうも、穴がついているみたい。
注がれるイライラが、その穴からちょろちょろと、出ていっています。ムカつくことがあっても、おいしいごはんを食べて、ぐっすり寝て次の日朝起きたら、忘れていたり、まぁまぁそこまで怒ることでもないか、と冷静になっていたりすることがあるでしょう? それは穴からイライラが排出されているから。
穴もまた、人それぞれ。大きい穴の人もいれば小さい穴の人もいる。たとえばそうですねぇ、ボクの場合、イライラでコップがいっぱいになってきたとしても、ゴルフに行ったらかなり排出できると思う。
だからボクのコップの穴はゴルフ、でしょう。しかも大きい穴です。
■穴は、あればあるほど役に立つ
でも、問題はゴルフってそんな毎日のように行けるものでもない。そのあいだに「イライラ」が注がれて注がれて、追っつかない、なんてことも起こるでしょう。
「イライラコップ」が実質パンパンの状態。心当たりありません? デフォルトの穴じゃ到底間に合わないときがきます。
そういうとき、ボクたちにはどれだけ「取り付け式の穴」をたくさん用意できているかが問われます。
ゴルフや旅行ができないときは、なんでもいい、友達とお酒を飲むとか、バラエティ番組を見るとか、たまに競馬とか。穴は、あればあるほど、役に立つのです。あなたのコップはどのくらいの大きさのコップですか? 穴は、どれくらいついている?
……と、いうような授業をよく子どもたちにやります。
彼らの「イライラ」は、お家での「早くしなさい!」であり「勉強しなさい!」であり。もちろんクラスでもさまざまなことが巻き起こりますから、学校でのイライラもあるでしょう。子どもたちも、やっぱりいろいろと思うところがあるみたいです。
人間、イライラはするんです。「イライラするな」は無理。すでにあるもんをなくそうとすることは、対処法として賢いとはいえません。そのかわり、「穴を増やしとけよ」と言います。
とりわけ、成長とともにどんどん増やしていけたらいいですよね。それと、成長とともに、コップ自体を大きくする努力もしておきたい。
ベストは、「コップ大きめ、穴大きめ」or「コップ大きめ、穴たくさん」。
■必殺技は「イライラガード」
写真のとおり、1年生の子どもたちも、いろんな「取り付け式の穴」のアイディアをくれました。さっきのボクでいうゴルフのように「えをかく」「本をよむ」という趣味の穴。
この穴が機能するようになってからの話ではあるのですが、子どもたちは「イライラガード」についても考えてくれます。
要は、「イライラ根絶」は無理なんですが、イライラコップにイライラが入る前に、察知してガードする「イライラガード」。必殺技みたいですね。「すぐあやまる」とか「わすれる」とか、「うなずくけどちがうことをかんがえる」のような(笑)、即実行できるスキルという感じです。「穴」も「ガード」もどちらも、もっておければ安心です。
そんなアンガーマネジメントの授業を子どもたちにした後、ボクはその日、出張に行くことになっていました。
予定の時間がせまっていました。学校の前でタクシーをつかまえて、即行で空港へ行きたかったのに、こういうときに限ってタクシーがつかまらない。
イライラ。下校していく子どもたちがそんなボクを見て、「ぬまっち、イライラコップ!」と言いました。
人間の心をコップに見立てて考えるのは、アンガーマネジメントの世界ではそう珍しいことではありません。どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。
でもそこをなぜ「イライラコップ」なんて新たにネーミングしているかというと、ちょっとマイナスな感情も、そういうポップなあだ名をつけちゃえば、クールダウンできるからです。
現にそのとき、ボクはけっこうムカついていたのですが、「イライラコップだよ!」と言われたことで、「あぁ、そうかそうか。オレいまイライラしてたよなぁ」と、脱力して笑ってしまいました。
■人間関係のストレスは、押し込めた言葉の苦しさにある
社会人にとって一番のストレスってなんでしょうね。ボク的には「言いたいけれど言えない」人間関係なのではないかと思っています。
どんな企業に勤めていたとしても、社内に一人か二人は、性格が合わない人もいるでしょう。合わない人とはできれば離れていたいけれど、仕事上どうしても、顔をつきあわせなければならないときがあります。そのたび、精神的に疲れてしまうもの。
相手がなにか間違っていると思うことを言ったとき、ちがうんじゃない? と返せる関係なら、なにもストレスはありません。仲のいい友達や兄妹は、そうです。
しかし、言い返される恐怖やわずらわしさで、言いたいことを無理に引っこめてしまう場合があります。嫌な気持ちが、モヤモヤと胸の奥にたまります。人間関係のストレスの大部分は、この押し込めた言葉の苦しさに、起因しているのではないでしょうか。
子どもたち同士にも当然そういったことがあって、適時丁寧に対応しますが、「言いたいことありそうだな、我慢してそうだな」というのも、ボクは子どもたち全員と毎日日記を交換しているから、つかめることです。
大人の日常で、これはあんまり現実的ではありません。
だから、大人の場合には「言いたいけれど言えない」相手には、どのように穏当に付き合うべきか? を考えていくのが、有効なストレスマネジメントでしょう。
■合わない人とはなるべく付き合わない
結論から言って、合わない人とは、なるべく付き合わない。ドライかもしれませんが、ボクは、もうそれしかないと思います。世の中には、職場でのストレスのかかる相手との、さまざまな付き合い方の方法論が存在します。
相手の懐に入ってみるとか、自分の意識を変えるとか、異動願を出すとか……だけどそれらは全て対処療法にすぎず、「言いたいけれど言えない」関係性そのものを、丸ごと変えているわけではありません。なぜなら、やっぱりそれはどうしたって至難のワザだからなんだと思います。
だから、「言いたいけれど言えない」関係は、「だったら言わなくていい!」というスタンスで、問題ないと考えています。自分が変わっても、相手を変えることはとても難しいから。
変わらない相手に期待をもち続けるのは、また別のストレスになります。そして「言いたいけれど言えない」関係は、より強化されていってしまう。
自分を守れるのは、自分だけ。
一定の距離を保ち、事務的な会話で済ませて(もちろん、感じはよく!)、嫌な気持ち自体が生じるのを、できるだけ抑える。地味ではありますが、なるべく付き合わないというのが、ベストです。
■「みんな仲よく」を押し付けない
よくする話ですが、ボクは子どもたちに「みんな仲よくしなさい」とは言いません。子どもたちも大人と同じように、それぞれ繊細な人間関係があります。大人にもできないようなことを、子どもに押しつけて彼らを苦しめてはいけないと思うんです。
そのかわり言うのは、「攻撃するな」ということ。
仲よくなくてもいいから、仲わるくなるな。これにはみんな納得してくれます。
大人にも当てはまるのではないでしょうか。人間関係は、「仲よく」が難しいときは、必要以上踏み込まず、なにより「攻撃せず」、仲わるくならない。これが正解です。
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国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭
1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学ぶ。スポーツ経営学の修士を修了後、同大学職員などを経て、2006年から現職。児童の自主性を引き出す斬新な授業が話題になり、日本テレビ『news zero』等で特集される。著書に、『「変」なクラスが世界を変える!』(中央公論新社) 『家でできる「自信が持てる子」の育て方』(あさ出版)等。
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(国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭 沼田 晶弘)
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