なぜタピオカは3回もブームを巻き起こしたか
プレジデントオンライン / 2019年11月28日 6時15分
■スタバで「タピオカ好き」を公言
「スタバにも来ますが、いまハマっているのはタピオカですね」
今年(2019年)6月、福岡市内にあるスターバックスの店で話を聞いた女子大生は、こう話しました。スタバのメニューの中で、好きな商品を聞いた時のコメントです。
その4日前、東京・神保町を歩いていて、若い女性の行列を発見。近づいてみると、やはりタピオカ店(「茶咖匠」)に並ぶ人たちでした。
「みなさん、なぜ並ばれるのですか?」(筆者)
「インフルエンサーのオススメをSNSで見て、興味を持って」(若い女性の1人)
こんな会話をしました。以前からタピオカ人気は知っていましたが、この2つの現象が気になり、一度検証したいと思っていたのです。
それ以来、さまざまな立場の人に話を聞きました。あえて、タピオカ専門店の当事者ではなく、カフェ関係者やメーカーや小売関係者。そして学生や若手社会人といった人たちです。今回は生活文化の視点で「タピオカブーム」を考えてみましょう。
■流行語大賞、ヒット商品番付にノミネート
12月が近づき、メディアでは、恒例のユーキャン「新語・流行語大賞」のノミネート語や「2019ヒット商品ベスト30」(日経トレンディ2019年12月号)などが発表されています。
タピオカに関しては、前者が「タピる」(タピオカドリンクを飲む、の意味)でノミネートされ、後者は2位にランクインしました。今回のブームは2017年からのようですが、今年、より注目を浴びたといえます。それがいつまで続くか、少し引いた視点で考えてみます。
例えば、日経グループで発表される「日経ヒット商品番付」は長い歴史があり、以前は横綱・大関・関脇……といった大相撲の番付のように張り出されていました。
筆者の知る限り、1987年の両横綱が最もロングセラーに成長した例です。この年、東の横綱はビールの「アサヒスーパードライ」(アサヒビール)、西の横綱は衣料用洗剤「アタック」(花王)が選ばれました。32年たった現在、スーパードライはビール市場(第三のビールは別統計)の約半数を占め、アタックはグローバル市場を含めた売上高1000億円超です。
2つとも、大手メーカーの量販型商品なので、タピオカとは一概に比較できませんが、スーパードライはそれまで主流だったビールとは違う味が評価され、アタックは従来型洗剤の約4分の1という箱のコンパクト洗剤(粉末洗剤)でした。消費者の「生活習慣を変える」という意味で画期的だったのです。
一方、タピオカは生活習慣を変えたのでしょうか。
■「タピオカブーム」が起きた8つの理由
なぜ、タピオカがブームとなったのかは、これまでも各メディアで検証されていますが、筆者なりの考えを示します。あまり絞らず、あえて8つの点を記してみました。
(2)商品の見た目のかわいさ
(3)ドリンクとスイーツの両面
(4)インフルエンサーの影響
(5)持ち歩きでも注目度アップ
(6)メディアの報道
(7)アジアンスイーツ人気の歴史
(8)実は茶系飲料
ざっと考えて、これだけの要素を含んでいるのを興味深く思いました。
紙幅の関係で、上記を抜粋して説明します。例えば(3)については、つい最近、ある国立大学の学生から「あれはドリンクなのか、スイーツなのか」という質問を受けましたが、両面あるでしょう。1杯で両方楽しめるのは「フラペチーノ」にも似ています。
また(5)は、生活文化の視点では温故知新な話です。今から40年以上前の1976年に東京・銀座にマクドナルドが上陸。当時「ハンバーガー」の食べ歩きも象徴的な出来事でした。70年代、避暑地の軽井沢では、当時「アンノン族」(雑誌『アンアン』『ノンノ』に影響を受けた女性)と呼ばれた若い女性が、ミカドコーヒーの「モカソフト」を片手に旧軽銀座などを歩きました。「あれは何?」で注目度が上がるのは昔からあったのです。
(8)は今回、大手飲料会社の男性社員も注目していました。茶系飲料の側面がクローズアップされれば、消費者が「緑茶や紅茶などにも注目するのでは」という思いです。
■3回のブームを経て、これからタピオカはどこへ
さて、タピオカブームは今後も続くのでしょうか。
「私は続かないと思いますね。ブームとなって以来、本当の専門店だけでなく、次々に店ができて粗製乱造気味です。本来の味や楽しみ方を伝えきれていない。仕事柄、飲んでみますが、中年男性の私にはさほど感動もありません。若い世代の楽しみにしておきたい気がします」(仕入れの責任者である、中堅スーパーの商品部長)
この人に象徴されるように、中年世代は「若い人向け」と見つめており、入り込まないのです。また前述の国立大学の学生数人からも「続かない」という声がありました。
ひとつ指摘しておきたいのは、タピオカは第三次ブームと言われていること。かつて大ブームとなった「ナタデココ」は一過性で終わったとも言われます。この違いは何か。
「台湾スイーツ」への親近感が一つ理由としてあげられるでしょう。例えば「愛玉子」(オーギョーチー)のような昔から親しまれてきた商品もあった。台湾は旅行先としても人気です。
ナタデココも健在で、再び脚光を浴びていますが、発祥はフィリピンです。ビジネス現場ではアジアを「アセアン圏」「中華圏」という分け方をしますが、同じ東アジアの中華圏の飲食のほうが、日本の消費者には敷居が低い。例えていえば、中華料理店とエスニック料理店の違いといったらいいでしょうか。
味も進化したタピオカは、飲料の世界では「豆乳」に似ています。豆乳も最初のブーム時は「健康にはいいけど味が」と敬遠された。それがおいしくなったのです。
■2011年から販売してきた大手カフェ
現在のブームよりもかなり前、2011年夏から「タピオカメニュー」を取り入れてきた大手カフェがあります。国内で735店(2019年4月末現在)を展開する「タリーズコーヒー」です。発想の原点は、同年に発生した東日本大震災後に国内に漂う、閉そく感でした。
「2011年の春、これから梅雨の時期に入るので、『気分が上向きになるドリンクを販売しよう』という気運が高まり開発したのです。タピオカは水玉がかわいく、ジメジメした気分も吹き飛ばせるという思いでした」(タリーズの女性広報担当)
それ以来、地道に販売してきましたが、ブームを受けて2017年からは「カスタマイズ」としてドリンク価格+100円で提供。すべてのアイスドリンクにトッピングできますが、特に定番の「ロイヤルミルクティー」以外に、「宇治抹茶ラテ」や「マンゴータンゴスワークル」にトッピングするのがおススメだそうです。
■タピオカは「定番」になれるのか
「消費者はどんどん変化する」という言葉があります。長年、取材を続けてきた立場では、「時代とともに消費者意識が変わる」と「同じ消費者が年齢を重ねて意識が変わる」の2つがあると感じます。ここでは後者の話をしましょう。
ファッションがその代表で、容姿や体形の変化で若い頃の衣服が似合わなくなったりする。そうなると多くの人は、加齢とともに、少しずつ好みの服をシフトチェンジします。
飲食の場合もこの傾向が見られます。20代の頃は、カフェの新商品が気になっていた人も、例えばカロリーの高い商品には手を出さなくなる。女性たちに話を聞くと「健康面が心配」と「これまで楽しんだから、もういいかなという気持ち」だと言います。
「タピオカ=若い女性に人気」ですが、同じ消費者が「若い女性」でいられる期間は限られます。今後、定番商品になるには、世代交代を果たすか、消費世代を増やすかになります。
現在の爆発的ブームはいつか終わりますが、ブームによって間口は確実に広がります。その後、どんな立ち位置になるか。芸能界のアイドルでいえば中堅俳優としての道。野球の剛速球投手でいえば技巧派への道——のような転身です。
マーケティングの現場では「不易流行」という言葉も使われます。「不易」は時代を経ても変わらないもの、「流行」は時代とともに変わるもの。「おいしいドリンクやスイーツを味わいたい」が不易、「どの商品が人気か」は流行です。
2019年を代表するヒット商品として位置づけられた「タピオカ」は、どこが不易となり定番化していくのか。今後は、その点も注目したいと思います。
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経済ジャーナリスト
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト 高井 尚之 写真=iStock.com)
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