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「年収1000万円超」大企業ミドルは本当に幸せか

プレジデントオンライン / 2019年11月26日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ooyoo

「年収1000万円」の会社員は幸せなのだろうか。数多くの大企業ミドルと日々接している前川孝雄氏は、「人生の後半戦では収入のプライオリティを下げ、『やりたいこと』や『家族との幸せ』を優先したほうがいい」という。なぜなのか――。

※本稿は、前川孝雄『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■高収入に伴うシビアな要求

今の時代に年収1000万円以上稼いでいるサラリーマンというのは、その多くが激務です。厳しいプレッシャーと長時間労働の中で、肉体的にも精神的にも疲弊し切っている人が非常に多いのです。

働き方改革で日本人の労働時間は減ってきていると言われますが、その実態は非正規雇用の人たちや部下の立場の一般社員の労働時間の減少が大きく、ミドル世代、特に管理職層の労働時間はそれほど減っていません。裁量労働制の人もおり、高収入に見合う結果をシビアに求められるわけですから、それも必然でしょう。

激務の末、体を壊す人や精神的に病んでしまう人も少なくありません。彼らの労働環境を目の当たりにすれば、単純に年収1000万円超をうらやましいとは思えなくなるはずです。

また、今、大企業でそれだけの年収を得ている層には、部長職など幹部管理職以上のポジションを得るまでに、辞令一つによる転勤を繰り返し、長時間労働に耐え、幸いにも心身を壊すことなく、我慢に我慢を重ねてきた人が多いはずです。

仕事人間、会社人間と揶揄(やゆ)されることも多い、こうした日本的サラリーマンの働き方は、多くの場合、家庭生活を犠牲にして成り立ってきました。子育てはすべて妻に任せっきりで、子どもが育ち盛りの時期に数年にわたって単身赴任を経験した人もいるでしょう。

その結果、会社での成功は手にできても、家庭は仮面夫婦、子どもとの意思疎通は皆無で引きこもり状態など、家庭での幸せはうまく育むことができなかったという人も決して少なくありません。

■家族との生活を犠牲にする価値があるのか

ある地方の山あいに、小さなメーカーがあります。以前、現地で取材し感銘を受け、同社の社長さんには私が営む会社が開講する経営者セミナーでもたびたび講演してもらっています。あるとき、その社長さんからこんなエピソードを伺いました。

地方にある町工場なので、当然、都会の大企業のような高待遇は望めません。しかし、転勤のない地域密着型の会社ですから、職住近接で家族ともしっかりコミュニケーションを取って暮らすことができます。男性であっても、子どもが熱を出したと連絡があれば、すぐに学校に駆けつけられる環境です。

この会社ではまた、社長と社員が夢を語り合う「夢会議」を定期的に開催しています。この会議で社長から「何か人生の目標を持ちなさい」と言われたある社員は、「家族で家を持ちたい」という目標を語ったそうです。

そしてその社員は社長の勧めで目標実現のために「夢年表」を書き、そのときから給料をやりくりし、貯金をしてついに家を建てました。その人は学生時代には勉強は得意ではなかったとのことですが、町工場でコツコツ働きながら夢を実現し、家族との幸福な生活を手にすることができたのです。

一方、その社員には高学歴で都会の大企業に勤めるお兄さんがいました。当然、収入はお兄さんのほうが高かったのですが、日々の仕事で疲れ切り、転勤の連続で家族と一緒に暮らすこともできず、その時点では家族で団らんできる家を持つこともできなかったそうです。

読者の皆さんはこの兄弟のどちらを幸せだと思うでしょうか。一昔前の価値観なら、都会の大企業で高収入を稼ぐお兄さんは典型的なエリートサラリーマンの成功例と見なされたはずですが、今は世の中の価値観も変わってきました。地元に密着して働きながら、自分の家を持って家族と仲良く暮らせることのほうに、本当の幸福を感じる人も多くなっているのではないでしょうか。

■「我慢して勤めて出世を期待する」時代は終わった

私も含めたバブル世代は、今ならパワハラ・セクハラで一発アウトになりそうな上司に仕え、不条理な指示・命令を引き受け、長時間労働や出張もいとわず、辞令1枚での転勤・異動にも耐え抜いてきたはずです。

それもこれも、今は我慢して働けば、成功し、将来は豊かになると信じて疑わなかったからです。滅私奉公すれば出世でき、20年、30年後には課長や部長という肩書を手に入れられ、給与も上がって郊外に家を構えて家族を養えると考えていたからです。

実際に、年功序列・終身雇用をうたう日本型雇用は、暗黙のうちにその勝ち組の人生設計を保証してくれていました。一回り二回り上の世代が、高度成長期にその勝ち組人生を実現していることも目の当たりにしてきましたから、自分たちもいつかは……とずっと考えてきたはずです。我慢して努力をすれば、経済的に成功して、家族も養えて幸せになれるという「給与・肩書」物差しの人生モデルですね。

■心が満たされることが「豊かさ」の条件に

一方、今の若い人たちの価値観は大きく変わっています。彼らが求める豊かさの定義は、経済的にリッチになる成功ではなく、心が満たされ精神的に豊かになる「成幸」に変わってきています。努力することですぐに働きがいという幸せを実感でき、その積み重ねで「成幸」するという、「働きがい」物差しの人生モデルですね。

若手の部下を持つ皆さんなら日々感じていると思いますが、現代の優秀な若者に「今は我慢して働けば将来は豊かになる。だから四の五の言わずに言われたことをやりなさい」などと言おうものなら、途端にモチベーションを失い、早々に辞表を出されるだけでしょう。

「我慢して上司に仕えれば、出世して管理職になれるぞ」と励ましても、「できれば管理職になりたくないんですけど……」と切り返されるのがオチでしょう(面と向かってそうは言わないかもしれませんが、内心はきっとそう思っているはずです)。

「石の上にも3年」という諺(ことわざ)がありますが、それは全員が成功することを求めており、3年我慢すれば成功するという暗黙の共通認識があったから通じた話なのです。我慢を美徳化する日本型雇用の枠に若者を押し込めようとしても、「将来の成功なんて会社は保証してくれないし、そもそも経済的な成功なんて求めていないのだから、意味の感じられない3年なんて我慢できない」と思われるだけです。

この「給与・肩書」から「働きがい」に、プライドの物差しが変わっているのは、若者だけの話ではありません。若者は時代を映す鏡であり、現代の働く人たちすべてにとっても重要な考え方なのです。環境や時代が変わったのです。ミドル世代も、これからのキャリアを考える際は「給与・肩書」物差しを捨てて、「働きがい」物差しで考えるべきだと私は思います。

■何のための「年収1000万円」なのか

私自身の話もしておきましょう。

41歳で会社を辞めて起業した当時、当然ながら収入はガクッと下がりました。しかし、自分の裁量で働くことができるようになって、家族と接する時間は増えました。会社員時代は子どもの学校行事に参加したことはほとんどありませんでしたが、今は子どもの保育園や学童保育への送り迎えもしていますし、三者面談や学校公開日などにも積極的に参加するようにもなりました。子どもの成長を近くで見守ることができるという、モーレツサラリーマン時代にはなかった幸福を日々味わっています。

前川孝雄『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHPビジネス新書)

確かに会社員時代のほうが額面給与は高く、肩書に社会的なステータスもあったかもしれませんし、大企業だからこそのスケールの大きい仕事もできていました。それでもなお、プライベートも含めたトータルで考えれば、今のほうが幸せだと感じています。ちなみに、睡眠時間もしっかりとれるようになり、ランチも早食いしなくてよくなりました。健康的でもありますね。

高収入に対するこだわりが捨てられない人は、そもそも年収1000万円が何のために必要なのかを改めて考えてみてください。人より贅沢をしたいから? 収入が自分の価値を表すから? それらは家族との幸せや心身の健康を犠牲にしてまで得る意味があるものでしょうか。

収入のプライオリティを下げ、「やりたいこと」や「家族との幸せ」のプライオリティを上げることで、仕事もプライベートも含めて、人生の後半戦はより豊かなものになっていくはずです。

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前川 孝雄(まえかわ・たかお)
FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師。400社以上で人が育つ現場づくりを支援。著書に『「働きがいあふれる」チームのつくり方』など。

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(FeelWorks代表取締役 前川 孝雄)

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