それでも「安倍政権の支持者」が多いのはなぜか
プレジデントオンライン / 2019年11月22日 18時15分
■本当に「国民のための政治」を実行してきたのか
安倍首相の在職日数が11月20日に通算2887日に達し、憲政史上最長となった。歴代最長の政権だ。
これまでの内閣支持率は悪くはない。しかも野党が弱く、自民党内にも有力な「ポスト安倍」が存在しないため、安倍首相の政治的基盤は強固にみえる。
しかし首相の在籍日数が、長ければそれでいいというものではない。問題は首相自身が日本の将来をしっかりと見据え、国民のための政治を着実に実行してきたかどうかである。
その観点から判断すると、「安倍1強」の長期政権には、緩みや驕(おご)り、歪みがはっきりと見えてくる。
■わずか1年で総辞職した「第1次安倍内閣」
第1次安倍内閣は2006年9月26日に発足した。当時、安倍首相は51歳。戦後最少年であり、初の戦後生まれの首相だった。だが、2007年夏の参院選で自民党が敗れた後、安倍首相は持病が悪化し、わずか1年で内閣は総辞職した。永田町では「安倍さんの政治生命は消えた」とまでささやかれた。
それでも2012年9月の自民党総裁選で石破茂氏らとの戦いに勝ち、同年12月の民主党政権下で行われた衆院選で自民党は圧勝し、民主党から政権を奪回。12月26日、首相に返り咲いて第2次安倍内閣を発足させた。持病の治療も成功し、奇跡の復活を果たした。その後7年間に亘(わた)って政権を維持してきた。
■自民党総裁任期は2021年9月までだが…
女房役として安倍首相を支えてきた菅義偉官房長官は11月19日の記者会見で「やるべきことを明確に掲げ、政治主導で政策に取り組んできた」と述べ、経済再生や外交・安全保障の再構築などを主な成果に挙げた。
安倍首相も、通算在職日数が明治・大正時代の桂太郎首相を抜いて憲政史上最長となった11月20日、政治課題について「デフレからの脱却、少子高齢化への挑戦、戦後日本外交の総決算、その先には憲法改正もある」と首相官邸で記者団の質問に答えた。
さらにこれまでの政権を振り返り、「深い反省の上に政治を安定させるため、日々全力を尽くしてきた」とも話した。
安倍首相の自民党総裁任期は2021年9月までだ。自民党は総裁を首相とする慣例があるため、総裁の任期を終えた場合、首相の任期もそこで終わる。安倍首相は「(その時点まで)薄氷を踏む思いで初心を忘れず、全身全霊をもって政策課題に取り組んでいきたい」とも語った。
■経済的に豊かになったのは、大企業と一部の富裕層だけ
果たして経済再生や外交・安全保障の再構築が成功したと言えるのか。確かにアベノミクスの「3本の矢」や「1億総活躍社会」といった政策看板を掲げ、実際に株価や有効求人倍率の指標は上がった。しかし、私たち国民の生活は本当に豊かになっただろうか。
経済的に豊かになったのは、大企業と一部の富裕層だけだ。賃金は伸び悩み、大半の国民はアベノミクスの恩恵を受けてはいない。経済格差は広がるばかりである。
外交・安全保障にしても、たとえば日韓関係をギクシャクさせ、北朝鮮や中国、ロシアを喜ばせている。対ロシアの北方領土問題では「4島は日本固有の領土」という主張も消えた。
■すべて長期政権の緩みや驕り、歪みから起きている
「もり・かけ問題」と批判された森友学園や加計学園の不祥事は、安倍首相と周辺との政治的癒着に注目が集まった。今年9月の内閣改造では、初入閣した2人の主要閣僚が政治とカネの疑惑で辞任した。内閣改造から1カ月半で経産相と法相が相次いで辞任する異例の事態だった。この顚末(てんまつ)については、11月1日付の記事「なぜ安倍内閣の閣僚たちは次々と辞任するのか」に書いた。
大学入学共通テストで導入を予定していた英語の民間試験をめぐっては、文科相の「身の丈発言」の影響もあり、導入延期に追い込まれた。さらに「桜を見る会」の問題では、地元支援者を多数招待するなど安倍首相の公私混同ぶりが明らかになっている。11月16日付の記事「読売も『襟を正せ』となじる『桜を見る会』の節度」でも書いた。
一連の問題は長期政権の緩みや驕り、歪みが原因だろう。安倍首相はこれをどこまで自覚しているのか、疑問である。安倍首相は「深い反省の上に政治を安定させるため、日々全力を尽くしてきた」と語るが、深い反省があれば緩み、驕ることなどないはずだ。
■「年を追うごとに弊害の方が際だってきた」
新聞各紙は11月20日付の社説で、長期政権の問題点を指摘しながら安倍首相に反省を求めている。
朝日新聞の社説は「歴代最長政権 『安定』より際立つ弊害」という見出しを付け、冒頭からこう厳しく批判する。
「日本の政治史には、『歴代最長政権』として、その名が残ることは間違いない。しかし、これだけの長期政権に見合う歴史的な成果は心もとなく、年を追うごとに弊害の方が際だってきたと言わざるを得ない」
さらに朝日社説は安倍政権の「弊害」を具体的に挙げる。
「一方で、長期政権がもたらした弊害は明らかだ。平成の政治改革の結果、政党では党首に、政府では首相に、権限が集中したことが拍車をかけた。自民党内からは闊達な議論が失われ、政府内でも官僚による忖度(そんたく)がはびこるようになった。森友問題での財務省による公文書の改ざん・廃棄がその典型だ」
党首、首相への権限の集中は、官邸主導の政治が生んだ負の面である。「忖度」という言葉がそれを確かに裏付けている。
■強引な憲法改正があれば、政治の混乱を招くだけ
最後に朝日は訴える。
「首相の自民党総裁の任期は残り2年である。個人的な信条から、長期政権のレガシー(遺産)を、強引に憲法改正に求めるようなことがあれば、政治の混乱を招くだけだろう」
「限られた時間をどう生かすか。国民が今、政治に求めていること、将来を見据え、政治が今、手を打っておくべきことを見極め、優先順位を過たずに、課題に取り組む必要がある」
政治の混乱は、任期まで時間の少なくなった安倍首相にとっても、避けたいところだろう。ここは朝日社説の主張に素直に耳を傾け、政治課題に取り組んでもらいたい。
■「支持しない人は敵で、支持する人は味方」の発想
毎日新聞の社説は安倍首相の強引な手法と、おごりや緩みを指摘する。
「確かに長期政権は安定的に政策に取り組める利点がある。ただし首相は国論を二分した安全保障法制などを強引な手法で実現させたものの、人口減少問題といった中長期的課題を重視してきたとは言えない」
「逆におごりや緩みが一段と目立ってきているのが実情だ。公金の私物化が指摘される『桜を見る会』が象徴的である」
「首相は自分を支持しない人は敵と見なして批判に耳を傾けず、支持する人は味方扱いで優遇してきたのではないか。公正さを忘れた今回の問題はそれが如実に表れている。衆参予算委員会の場でごまかすことなく丁寧に説明しないと次に進めない」
「支持しない人は敵で、支持する人は味方」とはまさに安倍政治の手法をよく表している。これがまかり通るのも「安倍1強」があるからで、安倍首相には深い反省を求める。
■「安倍1強」はやがて政治を閉塞させていく
最後に毎日社説は指摘する。
「首相の自民党総裁としての任期は再来年秋までだ。4選は考えていないと語っており、残る任期で憲法改正を実現して政治的遺産を残したいと考えているのかもしれない」
「だが政治への信頼回復が先だ。そして自民党も『ポスト安倍』を考え始める時だ。『他にいない』という1強状況は、むしろ政治の閉塞を招いている」
北朝鮮のような一党独裁国家は、国際社会から批判され、経済的にも衰退し、最後は閉塞状態に陥る。一国の内政も同じだ。「安倍1強」はやがて政治を閉塞させていく。安倍首相や自民党に早く、そこに気付いてもらいたい。
■読売新聞の社説も、長期政権の問題点を指摘
「長期政権ゆえの惰性に陥ってはならない。足元を見つめ直し、政権運営にあたるべきだ」
安倍政権を擁護することの多い読売新聞の社説も、書き出しから長期政権の問題点を指摘する。
「読売新聞の世論調査では、65%が仕事ぶりを評価している。経済政策や外交の実績が国民の支持につながったのだろう」と評価しながらも、こう書く。
「憂慮されるのは、政権復帰から約7年が経過し、安倍内閣に綻びが目立つことだ」
「9月の内閣改造後、わずか1か月半の間に、2人の重要閣僚が不祥事で辞任した。功労者を慰労する『桜を見る会』の趣旨に反して、首相の事務所は、地元の後援会員らを多数招待していた」
「長期政権の緩みや驕りの表れと言えよう。首相は、緊張感を持って政策に取り組み、一つ一つ結果を出さなければならない」
安倍首相には、読売社説のこうした指摘を謙虚に受け止め、長期政権の緩みや驕りを払拭(ふっしょく)してほしい。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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