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日本人ならヤフー×LINE連合を歓迎すべきワケ

プレジデントオンライン / 2019年11月26日 9時15分

経営統合に関する共同記者会見で、質問に答えるヤフー親会社Zホールディングス(HD)の川辺健太郎社長(左)とLINEの出沢剛社長=2019年11月18日、東京都港区のグランドプリンスホテル高輪 - 写真=時事通信フォト

■統合を仕組んだ孫正義の思惑

11月18日、「ヤフー」を展開するZホールディングス(ZHD)と、無料通信アプリ大手のLINEが経営統合に関して基本合意したことが発表された。

今回の統合の背景には、米国のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)や、中国のバイドゥ、アリババ、テンセントと肩を並べる世界有数のテックカンパニーを目指す意図がある。今後の展開によっては、両社が世界の市場でそれなりのシェアを獲得するチャンスはあるだろう。

しかし、統合会社の株式の時価総額や研究開発費などの規模を見ると、米中のIT先端企業との差は歴然としている。両社が米中の大手企業に真正面から競争を挑み、シェアを得ることはかんたんなことではない。

今後、両社は相対的に有利なポジションを持つ韓国や東アジア諸国を基礎にして、新しいビジネスモデルを整備し成長期待の高い分野に積極的に進出することが重要だ。今回の統合を仕組んだ孫氏がどのように両社が組織をまとめ、いかなる新しい発想をもとに成長を目指すか注目していきたい。

■先行する有力プラットフォーマーを追いかける統合会社

ZHDとLINEは、現在の経営体制で世界的テクノロジー開発競争などに対応することに危機感を強めてきた。今回、経営統合によって両社は経営基盤を一段と強固にし、より効率的に経営資源を活用することなどを通して、世界的なテックカンパニーを目指そうとしている。

その背景には、米中のIT先端企業が急成長を遂げ、世界各国でシェアを高めてきたことが大きく影響している。かんたんにいえば、グーグルなど世界の有力IT企業による寡占化が進んでいるからだ。

米GAFAや中国のアリババなどは、新しいサービスやデバイスを積極的に投入してユーザーを増やしている。それは収益の拡大に加え、データの収集・分析のためにも重要だ。事業規模の大小が、企業の存続に無視できない影響を与えている。

最近、当該分野での競争は一段と激しさを増しており、すでにフィンテック(金融と先端テクノロジーを融合させたビジネス)の一部では、米国よりも中国の企業に優位性があると指摘する専門家もいる。

■秒進分歩の勢いで進む先端テクノロジーの研究開発

一方、米国のグーグルは量子コンピューターを用いて、最先端スーパーコンピューターをはるかに上回る速さで複雑な計算問題を解くことに成功したと発表した。量子コンピューターの研究開発の進捗は、医療、金融、さらに高度な人工知能開発など、実に多くの分野に影響を与えることになるだろう。

まさに、秒進分歩の勢いで人工知能をはじめとする先端テクノロジーの研究開発が進んでいる。ダイナミックな変化に対応し、成果を目指すには、強固な経営基盤が欠かせない。

そうした先進企業の時価総額を見ると、米アップルは約128兆円、アルファベット(グーグルの親会社)は約100兆円、アマゾンは約94兆円、フェイスブック、中国のアリババやテンセントなどの時価総額も40兆円を超える。

また、2018年の研究開発費は、アマゾンが約3兆2000億円、アップルは約1兆6000億円に達した。2020年までの3年間で中国のアリババは1兆7000億円程度を研究開発に投じ、量子コンピューターや半導体開発に取り組んでいる。

■容易ではない米・中有力企業との競争

今回の経営統合で新会社が、GAFAや中国企業など世界のIT先端企業との競争に真正面から臨めるだろうか。それは口で言うほど容易なことではない。ZHDとLINEの時価総額を合算すると3兆2000億円と、米中のIT先端企業との差は歴然だ。研究開発に関しても、2社合わせて200億円程度だ。

新会社がGAFAなどに先駆けて新しい発想を実用化できれば、世界の市場でシェアを獲得できるチャンスはある。ただ、現時点でそうした展開を想定することは難しいだろう。時価総額や研究開発以外にも、収益力や人員数をはじめ、経営体制とその規模にはかなりの差がある。

見方を変えれば、ZHDとLINEは、米中のIT大手とは異なる発想をもとに戦略を立案し、新しい分野、あるいはニッチな分野に目を向けていく方が良いだろう。その一つとして、先端テクノロジーの活用を用いてわが国が抱える具体的な問題の解決を考えることも選択肢になるかもしれない。

■世界に先駆けて省人化技術を実用化できるか

わが国では、少子化と高齢化に加え、人口減少が急速に進んでいる。IoT(モノのインターネット化)に関する技術やデバイスの導入を目指し、人々の移動や暮らし、企業の生産性向上を目指すことは経済の実力を維持・向上させるために重要だ。

人口問題は、わが国だけの問題ではない。来年から韓国では人口減少社会を迎えるとみられる。すでに、中国経済は生産年齢人口の減少に直面し、労働コストが上昇している。それは、中国経済の潜在成長率の低下要因だ。わが国において両社が最先端の省人化技術などを開発し、実用化することは、アジア各国における需要創出にもつながると考えられる。

また物流、飲食、製造の現場、建設などさまざまな分野で、“人手不足”は世界的な課題でもあるため、わが国が他国に先駆けて省人化技術を実用化することには大きな意義がある。

■新しいビジネスモデル構築の重要性

今後の展開を考えると、当面、統合会社は既存の経営資源を生かし、新しいビジネスモデルを立案・構築していくことが求められる。

LINEがタイで人気を得ていることは参考になるかもしれない。東南アジアのSNS市場などを見渡すと、特定企業のアプリが大きなシェアを獲得している状況にはないとみられる。その分、わが国のIT企業にもチャンスがあるだろう。

ソフトバンクグループ傘下のZHDは、国内事業に強みを持っている。LINEはコンテンツ開発などが得意だ。互いの強みを生かし、新しいサービスをスピーディーに提供すると同時に、国内外での提携・アライアンスを増やすことは可能だろう。

その際、IT関連の企業に加え、アニメやゲームをはじめとするわが国のコンテンツ業界などとの協働も目指せばよい。わが国のアニメなどは国際的に評価が高い。そうした要素を取り込みつつ、国内と東南アジアを中心にメッセンジャーアプリやモバイル決済などのサービスを提供できれば、成長期待は一段と高まる可能性がある。そうした発想は、両社が国内での過当競争を避けつつ規格の統一などを進めることにもつながるはずだ。

■東南アジア市場の開拓に商機

足許、世界経済は急速かつ大きく変化している。米中の貿易摩擦の影響などにより、中国から他のアジア新興国に企業は生産拠点などを移している。それに伴い、アジア経済のダイナミズムは、中国から東南アジアにシフトしつつあるように見える。

ベトナムには韓国などの企業が積極的に進出し、相対的に景気が堅調だ。タイ、インドネシア、マレーシアなども負けじと優遇策を導入し、外資誘致に注力している。こうした変化は、ZHDとLINEの新しいビジネスモデル構築に追い風となる可能性がある。

両社は、国内での基盤を固めつつ経営資源を東南アジア市場などの開拓に再配分することで、新しいビジネスモデルの確立を目指すことができるだろう。そのために、経営トップが統合後の組織を一つにまとめ、組織全体が進むべき方向を明確に定めることが重要だ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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