格安でも「絶対行ってはいけない施術所」の特徴
プレジデントオンライン / 2020年1月7日 15時15分
■「格安マッサージで、髄液が漏れた」
腰痛や肩こりで悩む者が通う整骨院や整体院。体をケアするべき場所で、近年、治療トラブルが増加している。
消費者庁によれば、整体、カイロプラクティックなどの施術による事故情報は、2009年9月から17年3月末までで約1500件が報告された。報告書には以下のような声が紹介されている。
「1年前から通っている『整体院』で、肩の施術を頼んだのに胸部を施術され、ろっ骨を骨折した。1カ月たっても痛みが残っている」(60代女性)
「首と肩の『格安マッサージ』を受けた翌日に、おう吐と首から肩にかけての激痛が出た。病院で髄液が漏れていることが判明し、11日間入院した」(30代女性)
なぜこのような事態が起きているのか。自らも施術所を経営する業界関係者は、匿名を条件に取材に応じ、「近年、現場の質が著しく下がっており、トラブルが起きるのはある種必然です」と声をひそめた。
現場の実情に迫る前に、施術と資格の種類についてまとめておこう。「整形外科」は国家資格の医師免許証を持つ整形外科医が、骨・関節・筋肉、神経などの疾患や外傷を、投薬、手術などを通して治療する医療行為だ。押す・揉むなどの手技を駆使して体の変調を改善するあん摩マッサージ指圧師は、医業類似行為に分類されるが、同様に国家資格が必要。あん摩、指圧、マッサージという各々異なった専門技術を有して「マッサージ店」を開業できる。柔道整復師と鍼灸師も国家資格が必要だ。前者は柔術を起源とする治療法を用いて、脱臼・骨折・打撲などを整復する「整骨院」を、後者は手技ではなく鍼や灸を用いて治療を行う「鍼灸院」を開業できる。
対して、街中でよく見かける「整体院」「カイロプラクティック」は、法的な資格制度がない、おもに民間の認定資格。整体は手技の療法全般を表すケースが多く、カイロプラクティックは脊椎の調整によって体調を整えるアメリカ発祥の技術だ。前出の業界関係者は、「健康被害の治療トラブルが目立つのは、整体院です」と指摘する。
「本来、国家資格がないのにマッサージをするのは違法行為。そこで、法律の網の目をくぐるため、マッサージではなく『整体』を掲げている施術所が多い。民間資格と国家資格の医療知識は全然違います。国家資格でも施術が下手な人はいますが、最低ラインの知識と技術を持っている。民間資格は上手な人も下手な人もいるけれど、下のレベルが果てしなく低い。そんな施術が一部で行われているため、治療トラブルが起きやすくなるのです」
マッサージ店や整骨院は厚生労働省の管轄で、開業する際には保健所の審査が入る。しかし整体院は業務内容や技術レベルをチェックする国の公的機関はない。保健所への届け出も不要だ。
「マッサージ店や整骨院は広告規制がきびしく、メニューも書くことができず、宣伝できることがほぼありません。一方、整体院は広告規制が少なく、少し前までは『必ず成功』『日本有数の実績』など、何を書いてもほとんど許されました。最近は消費者庁のチェックが入るようになりましたが、それでもやりたい放題です」(業界関係者)
結果、施術のレベルは低くても、大風呂敷を広げる整体院が繁盛する側面があるのだ。
■資格を持っているが「無免許」の場合も
では国家資格所有者なら安心かといえば、そうともかぎらない。実は国家資格を持っているが、専門外の治療を行っている「無免許」の施術所もある。
背景にあるのは、柔道整復師や鍼灸師の増加だ。もともと、柔道整復師・鍼灸師の学校を新規開設することは行政によって制限されていた。しかしそれは不当だということで、設立を望む専門学校が国を提訴。1998年に国が敗訴すると、専門学校だけでなく、塾、自動車教習所など異業態からの参入が相次いだ。それに伴い、柔道整復師と鍼灸師の数は急増した。
「それまで柔道整復師は儲かる仕事でしたが、競合が増えたことで経営が大変になっていきました。本来の治療の対象である外傷もそんなに多くないため、肩こりや腰痛の治療も診るようにシフトしていったのです。柔道整復師が整骨院を開業し、あん摩マッサージ指圧師を雇ってマッサージするのであれば、問題はありません。しかし実際は、勤務する柔道整復師や鍼灸師が、専門外のマッサージに従事する施術所もあります。現場では『なんで専門外のマッサージをやらなければいけないんだ?』という不満がくすぶる。そういう環境は、えてして事故が起きやすくなります」(同)
極端な例になると、院長だけが資格を持っていて、無資格のアルバイトに施術をやらせてしまうところもある。業界関係者は「研修3日で現場に出すというケースも耳にします」と語る。
「ただし、整骨院で気をつけるべきは健康被害よりも、金儲けに熱心な院でしょう。同業者との競争が激しいため、高額な回数券を販売したり、1度来た客に『次はいつ来られますか?』としつこく勧誘する院が後を絶ちません」
一方、鍼灸院で起こりがちなトラブルがセクハラだ。病院で治らなかった利用者が治ると、術者はカリスマ化しやすい傾向がある。その信頼から普段は見せないような体の部分も見せて、後々、熱が覚めた後、セクハラとしてもめるケースが散見されるという。
■知識不足の術者を見極める方法
信頼できる施術所はどうやって見分ければいいか。鍼灸院口コミサイト「しんきゅうコンパス」を運営するカリスタ代表取締役・前田真也氏に聞いた。
「腰痛や関節痛は大別すると、関節や筋肉の機能障害によって痛む筋骨格系の症状と、ストレスなどで自律神経が乱れて痛む心因性の症状があります。近年、腰痛の多くは心因性によるものということが常識になる中で、理解していない術者もいるのが現状です」
知識不足の術者はどう見極めるか。施術の際、痛みの原因を説明できるかは大きな判断材料になるという。
「ちゃんとした術者は解剖学と生理学を学んでいるため、体がどういう構造で、どういうメカニズムで痛みが発生するかを理解しています。『なんでこんなに痛いんですか』など、疑問はどんどん質問しましょう。そこで納得するまで説明してくれる術者は、信用できる見込みがあります」(前田氏)
中には、痛みの原因を「体の歪み」「背骨」など、なんでも一点に持っていって説明する術者もいる。しかし実際は足関節の緩みが不良姿勢を招き、肩関節痛につながることも。「一点型」の術者は、全身を観察せずに原因を決めつけている可能性がある。
「正確な炎症反応は、超音波やCTなど、医療機関にある機器でなければ判定できないことがあります。そこで『まず医療機関で診てもらってきてください』と言えるかどうかもひとつのチェックポイントですね。また、利用者の生い立ちまで踏み込んで聞く術者もいますが、一概に怪しいとは言えません。ストレスの源を探そうとしている場合もあるからです」(同)
■施術所を探す入り口としては、HPが役に立つ
施術所を探す入り口としては、HPが役に立つ。前出の「腰痛の原因」「医療機関の検査を促す」などについて記されていれば、信頼できるひとつの目安になる。
「よい施術所であれば、院長だけでなく、HPにスタッフの顔、名前、資格などの情報が公開されています。そこで国家資格を持っているかどうかをチェック。○○協会認定、○○式療法の肩書は玉石混交で確証が得られません。また見栄えのいい謳い文句ばかり書いてあるHPは専門業者が作成して、実際とかけ離れていることがあります。SNSを確認して透明性が高いやりとりをしていれば、隠そうとしていることも少なく、施術に自信があるとみていいでしょう」(業界関係者)
ただし、ネットは参考になる一方で、「『これ以上、新規の客をとれない』『有名人が利用している』などの理由で、まったく外に営業情報を出さない凄腕の達人もまれにいます」(前田氏)との声も。そこにたどりつくのは至難の業。可能な範囲で情報を集め、自分に合った施術所にめぐりあいたい。
・「なぜ?」の質問に答えてくれない
ちゃんとした医療知識があれば、痛みや体の構造について明快に回答してくれる。
・痛みの原因を一点で説明する
あらゆる症状の原因を「背骨の歪み」など一点で片づけるのは不勉強の場合も。
・医療機関での検査を勧めない
客観的な数値に頼らず、施術所の中だけで完結させようとしている可能性がある。
・資格免許証を掲示していない
国家資格の免許証を施術所やHPで公開していると、一定レベルに達しているとわかる。
・口コミサイトに口コミが多すぎる
賑わっていないのに高評価のレビューが多すぎるのは、サクラの存在を疑ってもよい。
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カリスタ代表取締役
1978年生まれ。明治大学法学部卒業。コンサルティング会社、IT大手などを経て、2010年鍼灸サロン「CALISTA」を創業。鍼灸院口コミサイト「しんきゅうコンパス」を運営する。
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(小林 力)
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