1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

吉本興業は悪くない。悪いのは騒いだ芸人

プレジデントオンライン / 2019年11月28日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Panksvatouny)

■吉本興業とタバコの問題は本質的に似ている

私は、西川きよしさん以外の吉本興業関係者を知らない。なので、彼らを弁護するメリットなど何もないのだが、やはり、あれだけ不条理に叩かれると、何か言わないわけにはいかないという思いを強くする。

この吉本興業の問題だが、タバコの抱える問題と本質的には似ているような気がする。「タバコは体に悪い」のかもしれないが、他のものと比較して「どの程度、体に悪い」という議論は一切されない。一滴のお酒を飲んだだけでも体に悪いという研究結果があっても、お酒は禁止という方向には進まない。お酒を飲んで、暴力・DV傾向が強くなることがわかっていても同じだ。

世の中にはバランスというものがある。車だって、焼き鳥・焼き肉の炭火だって、体に悪い物質を排出している。そのすべてを廃止するのか、それとも(分煙などを進めることで)お互いに寛容な社会をつくっていくかということなのだろうと思う。

禁煙ファシストたちは、タバコだけダメというのは、バランスを欠いていることになぜ気づけないのだろう。

吉本興業をめぐる問題も、一方的な論調が目立った。テレビでおなじみのお笑い芸人の味方をしたくなるのだろうが、彼らは本当に正しいのだろうか。

今回は、この問題を振り返ってみよう。

■ギリギリ合格の60点の記者会見

最近の企業不祥事として記憶に新しいのは「吉本興業」の一連の問題である。6000人もの芸人を抱え、政府の事業までも手がける吉本興業を芸能事務所と呼んでよいのかは微妙だが、芸能事務所というものは一般企業などと比較してマスコミ慣れしていると考えていた。しかし、出てくる関係者の発言がすべて裏目に出るという展開になってしまった。

吉本興業幹部の気持ちを忖度するに「自分たちが謝罪する会見などしてもろくな結果にならない」と会見を避けていたものの、世間からの批判が高まって、「もう正直にすべてをさらけ出そう」と記者会見を開いたのだろう。

つまり「どういう記者会見をすべきか」というよりも「記者会見はしない」ということで考えが止まっていたので、どうやって会見を乗り越えるかまでは考えたことがなく、ノウハウも蓄積してこなかったのだろう。

7月の謝罪会見、私はギリギリ合格点とも言える60点の点数をつけたい。「反社会勢力との問題」を起こした芸人とコミュニケーションが取れておらず、また週刊誌等でその芸人の新たなスキャンダルが出てくる可能性がある中で、今後の展開がどうなろうとも記者会見の内容自体で後から責められる展開はほぼないであろうからだ。きっと吉本興業側もそう考えていたのだろうと思う。

とは言うものの、経営者側と所属芸人の言い分が対立して、当初は芸人と反社会勢力との関係の問題だったが、いつのまにか企業のガバナンスに世論の批判が拡大した。マスコミ対応が悪い例のオンパレードといった状態で、部外者の私も悲しい気持ちになったのも事実だ。

悪いのは、吉本興業ではなくて、一部の芸人なのであり、便乗して騒いだ芸人も含め、なぜか正義の味方のような振る舞いをしているのは、呆れる。では、いったい、悪くないはずの吉本興業の何がよくなかったのだろう。簡単に、これまでの状況の変遷を振り返ってみると、そもそもの発端は6月7日発売の「フライデー」が、5年前に所属芸人11人が詐欺グループの忘年会に出席して芸を披露する“闇営業”を行っていたと報じたことだった。

■どんな謝罪会見が望ましいのか

これを受けて吉本興業は闇営業を仲介したカラテカの入江慎也氏との契約を解消した。その後、ギャラはもらっていないと説明していた芸人たちが、金銭(宮迫博之氏の100万円、田村亮氏の50万円など)を受け取っていたことが発覚、さらには別の反社会勢力のパーティーに出席した芸人もいることが報じられた。

写真=時事通信フォト
見事なメディア操作/飯島氏は、「反社会勢力との関係が明確になった問題芸人2人が、記者会見を経て、世間の風向きを変えた」と指摘。反対に吉本興業は防戦一方に。記者会見の恐ろしさを物語る。 - 写真=時事通信フォト

最初の問題に対応し切れないうちに、次々と新たな問題が浮上する中、7月20日になって、前日に契約解消処分を受けた宮迫氏・田村氏の2人が記者会見を開いて、涙ながらにこの間の吉本興業側とのやりとりを暴露、批判の対象が芸人から会社へと拡大する。2日後の22日、岡本昭彦社長が初めて記者会見を開き、2人への処分撤回などを発表したが、5時間半にも及ぶ会見に、世間の吉本興業への批判がさらに高まる結果となり、今日に至っている。

では、不祥事の当事者としてはどんな謝罪会見が望ましいのか。官僚も不祥事が起きると大々的に報じられる職業だが、彼らは個人で何かを釈明することはない。マスコミから追及されても、事実確認には応じるが、ああだこうだと言い訳することは許されない。組織を守るためには我慢するしかないことを理解している。不祥事の内容によって懲戒、訓戒、口頭注意などの処分が決まれば、粛々と受けるだけである。

役所側もどんな質問を受けようが「これからは一切しません。二度と同じことが起こらないようにします」で押し通す。それしか言いようがないからだ。また、同じ回答を繰り返せば、会見を早く切り上げることができる。2時間半とか5時間半とか、ばかげた長さにはならない。不祥事を起こした組織が謝罪会見で語るべきなのは、その不祥事の正確な事実関係と、二度と問題を起こさないための具体的な改善策だ。

それらを淡々と説明し、同じ言葉を繰り返すことは、普段会見などしない人でもできるだろう。

会見場所も、吉本興業は、公的な事業も担っていたということだったから、その当該官庁(例えば、国土交通省、大阪府など)に一連の諸問題の報告をしたあとに、その官庁でそのまま記者会見を執り行えばよかった。そうすれば、当然のことながら官庁のルールに従って、記者会見には人数制限、時間制限が発生し、エンドレスに辛い質問を受けることなく、かといってメディアから逃げているという批判も受けずに、済んだ。これが大人の知恵というものだ。

芸人は、世間の空気を読むのに長けているもの。問題芸人2人は、非常にうまくメディアをコントロールして、吉本興業が自然に悪者になるようにうまく記者会見を進めていた。「事実を明らかにしただけだ」と本人たちは否定するだろうが、あの記者会見の結果、本人たちが復帰したいと望んでいるはずの吉本興業の印象だけが悪くなった。

■吉本興業の再起に期待したい

問題芸人2人の会見の前後で、会社批判を始める芸人が続出したのも見苦しかった。

人気お笑いコンビ・ダウンタウンのマネジャー等を経て吉本興業HD会長に就任した大﨑洋氏は、吉本興業と反社会勢力との関係を徹底的に清算し、「お笑い」「芸能」を近代化に導き、今日の吉本帝国を築いた豪腕だ。これだけ立派な人であれば、日頃から芸人に対し、マネジメントサイドとして、厳しいことも伝えていたのは想像に難くない。

お笑い芸人からすれば、(自分の下僕である)マネジャー上がりの分際で、自分たちに指図する目の上のたんこぶぐらいに考えていたのではないか。政治家が問題を起こすと秘書のせいにするぐらいの嫌なことを、自分たちのプライドもあって、この際、この騒ぎに便乗して、めちゃくちゃにやってやろうという気分があったとしてもおかしくない。

会社批判の急先鋒だったワイドショーの司会者の名前から「加藤の乱」と言われたが、森喜朗内閣時代に自民党で起きた「加藤の乱」を思い出した。あれも、加藤紘一氏がネットの声などを信用して倒閣に向けて暴走したが、野中広務幹事長ら当時の執行部にあっけなく鎮圧された情けない展開だった。組織内の問題を外部の人間に訴えたところでどうにもならない。本気で組織を改革したいなら、内部で権力を奪う必要がある。その教訓を守ったから、小泉首相は「自民党をぶっ壊す」と言って党員票の大多数を獲得して政権を取った。

実は、今回のことが起きるまで私は、吉本興業の芸人は素晴らしい人ばかりだと思っていた。というのも、私が知っていた吉本興業の芸人は、西川きよしさんただ一人だったからだ。芸人は正義の味方で、会社は悪というのは真実ではない。吉本興業の再起に期待したい。

----------

飯島 勲(いいじま・いさお)
内閣参与(特命担当)
1945年、長野県辰野町生まれ。小泉純一郎元総理首席秘書官。現在、内閣参与(特命担当)、松本歯科大学特命教授、ウガンダ共和国政府顧問、シエラレオネ共和国名誉総領事、コソボ共和国名誉総領事。

----------

(内閣参与(特命担当) 飯島 勲)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください