難しい「近現代史」を学ぶならマンガが一番いい
プレジデントオンライン / 2019年12月6日 9時15分
■近現代史を学ぶ「歴史総合」が必修になる
2020年度から導入が始まる次期学習指導要領では、近現代史を学ぶ「歴史総合」が高校の必修科目になる。文科省の解説によると、「社会的事象の歴史的な見方・考え方を働かせ、課題を追究したり解決したりする活動」の充実と、「世界の中の日本を広く相互的な視野からとらえる力」の育成をめざしたものだ。当然、今回の改訂は大学受験にも影響するものと思われる。
では、5年ほど前に、偏差値35から慶應大学に合格した主人公をモデルにした「ビリギャル」(『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』KADOKAWA)で、一気に注目を浴びた学習まんが『日本の歴史』は、記述問題が増えると予想される新大学入試でも役に立つのか。東京大学受験指導の専門塾・鉄緑会の日本史科主任・岩田丞史さんと、中学受験指導歴40年の名門指導会代表・西村則康さんのアドバイスをお届けする。
■東大入試に必要な「歴史の知識」は多くない
「鉄緑会」日本史科主任の岩田丞史さんに話を聞いた。
——最近の東大文系の歴史の入試問題の傾向をおおまかに教えてください。
【東京大学受験指導専門塾「鉄緑会」日本史科主任 岩田丞史さん(以下、岩田)】東大入試で要求される歴史の知識の量は決して多くはありません。しかし、重要事項や年代を正確に暗記することはもちろん必須ですし、その上、論述問題に対応するために全体像や歴史観に裏打ちされた、「生きた知識」を身につける必要があります。
——そのための学習教材として、歴史の学習まんがはどのような点で有効活用できると思われますか。
【岩田】学習まんがは、先ほど申し上げた歴史の全体像や歴史観を養成する上で非常に有効であると考えています。また、ともすれば単調で機械的なものになりがちな学習の途上において、歴史まんがを読むことは大いに彩りを添え、歴史学に対する高校生の情操を養う貴重な機会となるでしょう。
■基礎が無理なく盛り込まれ、東大受験にも役立つ
——数ある学習まんがのなかでも、『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』は、東京大学 山本博文教授による「歴史の大きな流れをつかむ」技法に基づき構成しています。その時代の特徴が一目でわかるイラストページを入れるなど、要点を可視化する工夫をしています。その点についてはどう思われますか?
【岩田】驚きました。まんがとしておもしろいだけでなく、高校レベルの基礎までもが無理なく盛り込まれています。東大受験にも役立ちますね。まんがの性質として、「ヒーロー・ヒロインの活躍」を中心にストーリーが展開することが多いのですが、歴史は得てして一個人の思惑で動かされるものではありません。大学受験で問われるのは、主にそれぞれの時代の政治・経済・文化といったより大きな枠組みです。だからこそ本シリーズはたいへん貴重なものであると思います。まんがを通じて、時代ごとの特徴や要点を生き生きと学ぶことは、東大を含む大学受験勉強に大いに役立つと思います。
——日本の歴史の中で、特につまずきやすいのは近現代史だと言われています。一方で、2020年度から導入が始まる次期学習指導要領では、近現代史を学ぶ「歴史総合」が高校の必修科目になります。学習まんがで、近現代の日本史と世界史を一つの流れで理解する勉強法についてはどのように思われますか。
【岩田】産業革命、帝国主義、世界恐慌、二度の大戦、そして冷戦体制と、日本の近現代史は他の国と同様に、同時代の世界史にきわめて大きな影響を受けています。したがって、日本の近現代史を世界史の流れの中で理解することは非常に重要であると考えています。そのような大きなうねりを生きた近現代の人々の感情・生活を、まんがを通じて追体験することで、学習の上では抽象的で難解な部分も多いこの時代を学習する大きな助けになると思います。
■「世界に通用する人間」を育てる新学習指導要領
続いて、名門指導会代表の西村則康さんに話を聞いた。
——西村則康さんは、文科省が2020年から高校で近現代史を学ぶ「歴史総合」を必修科目にした一番の目的は何だと思われますか?
【西村則康(以下、西村)】文科省が今回、次期学習指導要領を改訂した背景には、世界に通用する人間を育てたいという明確な目的があります。世界に通用する人間というのは、英語ができるだけではなく、日本と海外の政治、文化、民族、宗教はもちろん、価値観や考え方といったさまざまな面での違いをふまえて、どこの国の人とも対等に議論できる人間のことです。
——そういう人間になるためには、日本のことだけでなく世界のことも知り、理解する必要がありますね。
【西村】そうです。たとえば、話す相手がアメリカ人や中国人だったら、主義主張をはっきり言わないと会話になりません。しかし、相手の国についての知識がなければ、何を話せばいいかわかりませんよね。自分の意見をはっきり言う国の人たちを相手に、忖度(そんたく)を気にして空気を読んでばかりいても勝てませんから。
■アクティブ・ラーニングがうまくいかない原因
——日本の学校は、戦後から画一的な詰め込みスタイルを続けてきて、「みずから考えさせる」ような教育を行ってきませんでした。それなのに、急に「自分で考えて意見を述べなさい」と言われても、教えるほうも教えられるほうも戸惑うと思うのですが……。
【西村】その問題は実際に教育現場で起きています。たとえば、アクティブ・ラーニングを導入している学校の実情を聞くと、かなり乱暴なやり方で進めているケースが少なくありません。ある課題を出して、グループで話し合いをさせて解決策を考えさせる授業をしても、おしゃべりだけで時間が過ぎてほとんど進まなかった、という話はよくあります。
原因はいくつかありますが、まず前提として、アクティブ・ラーニングは生徒たちに知識と思考力があってはじめて成り立つものです。「ぼくはこういうやり方が好き」「私はこっちのほうがいいと思う」といった主観や感情で話し合っても何の意味もありません。要するに、意見には必ず理由や根拠が必要で、そのためには事前に、課題を自分事として考えるための「生きた知識」を身につけておかなければならない。
そして、どれだけしっかりと事前準備しても、違う意見がぶつかり合って予定通りに進まないのが本当のアクティブ・ラーニングなのです。その時に試されるのが先生のアドリブ力で、生徒たちを上回る何倍もの知識や思考力を先生が持っていないと対応できません。でも今、小中高の学校で導入されているアクティブ・ラーニングの多くは、そこまでのレベルに達していないのが現状です。
■自分で説明できるレベルまで知識を身につける
——鉄緑会の岩田さんも、論述問題に対応するためには、全体像や歴史観に裏打ちされた「生きた知識」を身につける必要があるとおっしゃっています。根拠なく自分の主観や感情を述べても点数にはつながらない、ということですね。
【西村】論拠が不明だと、点数のつけようがありませんからね。その人の主観や感情を採点することはできません。ですから、たとえば歴史であれば、日本史も世界史もしっかり知識を身につけて、自分で説明できるようになるまで理解することです。
ただ、ひとつ気になるのは、名門指導会で指導してきたお子さんで、中学生や高校生になっても勉強ができる子はたくさんいますが、海外の国のことに関心を持っている子は非常に少ないことです。東大文系の歴史の記述問題では、予備校の対策だけでは対応できない世界の思想史や宗教に関するものも出てくるでしょうから、そこはしっかりと勉強しておく必要があるでしょうね。
■できるだけ「じっくり深く読む」ことが大切
——私の知り合いに、東大志望の子どもを持つ母親がいるのでちょっと聞いてみたのですが、「日本史は好きでも世界史は苦手で、なかなか頭に入ってこないみたい」と言っていました。
【西村】どんな勉強にも言えることですが、まずは身構えないことです。身構えないためには、できるだけ読みやすくてわかりやすいものから手をつけること。その点、『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』は、日本史と世界史の流れがひとつになった近現代史も3巻ありますし、イラストが豊富で楽しく読めるので入り込みやすいと思います。ただ、実際に読む時は、できるだけじっくり深く読むことが大事です。深く読むというのは、たとえば登場人物の名前や気になる出来事が出てきたら、どんな人物でどんな出来事だったのか確認したり、くり返し読んだりして、理解することです。
また、まんがを読んで身につけた知識を、ただ学びっぱなしにせず、日常生活の中で見聞きするニュースと関連付けて考えるようになると思考力も高まります。そういう積み重ねによるインプットの時期がなければ、記述やプレゼンでアウトプットすることはできません。日本や世界の歴史を学ぶことで、世の中の見え方も変わって考えが深まって、自分なりの意見を持てるようになれればベストでしょう。高校生でそこまでできればすごいと思いますよ。
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プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。
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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康、東京大学受験指導専門塾 鉄緑会日本史科主任 岩田 丞史 取材・文=樺山美夏 撮影=後藤 利江)
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