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ユルユルな親の子供が東大生や医師になるワケ

プレジデントオンライン / 2019年11月30日 9時15分

雑誌『プレジデントFamily 2019年秋号』(プレジデント社)

夫婦仲のよしあしと子供の成績や偏差値は関係があるのだろうか。教育アドバイザーの鳥居りんこさんは「ベテランの塾講師を取材すると、夫婦仲が良くても子供に過干渉気味な親だと子供の成績は伸びづらい。一方、子供は自分と別人格だと割り切って一定の距離を置き、自分自身の人生を歩む親の子供はのびのびと育ち、東大や医学部へ進むこともある」という——。

■東大合格の下地には「親子仲や家庭環境」のよさがあった

雑誌『プレジデントFamily 2019年秋号』の特集は「東大生184人『頭のいい子』の育て方」だ。

そのトップ記事には「賢い子が育つ家庭の中身大公開」というタイトルのページがあり、編集部が現役東大生に小学生時代のアンケート調査をした結果が報告されていた。その記事の総括として「東大生の家族像から見えてくること」という記述がある。

それによると「親子(東大生とその親)の仲がいい」→「(子供が)安心して新しいことにチャレンジできる」→「小さな成功体験の積み重ね」→「より自己肯定感が高まる」=「失敗しても立ち直るし、苦手なことも克服できる」とある。東大合格の下地には親子仲や家庭環境のよさがあるということのようだ。

筆者は、このことから「夫婦仲と子供の偏差値」に何らかの関連性があるのではないかと感じた。「家族の会話が多い」「親子の仲がいい」というのが東大生の子供時代であるならば、おそらく夫婦仲もいいのではないかと思ったのだ。

同時に、夫婦仲が悪いと子供の成績にどのような影響を与えるかということも気になる。中学受験で上位校に挑戦するくらいに賢い子でも、「家庭環境で心は折れてやる気を失う」あるいは「大学受験がうまくいかない」などというケースはあるのだろうか。

■超お気楽「飲んべぇ母さん」だから子供は医師や弁護士になれた

今回、10人のカリスマと呼ばれている中学受験塾専門の先生に「夫婦仲と子供の偏差値」に関して心当たりがあるかと聞いてみたが、先生方の多くが首を振った。「関係ないとは言わないが、特に感じたことがない」と言うのだ。

本当に夫婦仲と子供の頭の出来不出来はあまり関係がないのか。筆者は“寺小屋”のような地域密着型の塾で28年間、延べ1000人以上の卒業生を出し、毎年、多数の生徒を難関中学・学区トップ高校に送り込んでいる関東地方にある塾の代表であるTさんにじっくり話を聞くことにした。

Tさんは次のように語った。

【ベテラン塾講師Tさんが語る「夫婦仲と子供の偏差値との相関関係」】

この業界で40年近く仕事をさせていただいておりますが、夫婦仲が良くても子供の偏差値が低いことはザラでした。逆に、中学受験に全く関心を持っていない父親の愚痴を母親からいつも聞かされ続けていた子供の成績がよいケースもありました。夫婦仲のよしあしは偏差値とは関係ないのではないかと思います。

夫婦仲が良かったケースを思い起こしてみると、母親がお酒の好きな方で、子供が中学受験するにあたってもお気楽そのもので、それを旦那さんもよしとしているような家庭の子供が難関中学に受かるケースがあります。そしてその後、医師や弁護士になることもありますね。

写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

一方、夫婦仲が良くても、親2人で模試の偏差値を見ながら自分たちの経験をそこに重ねているようなケースは、子供は賢く育ちにくいかもしれません。今のお父さんお母さん世代は、もろに偏差値によって進路を決めてきた世代です。だから、結果を見る目がひと昔前と違ってキツイ。ご夫婦で「こんな偏差値とったことないよな」「そうそう」なんて、息があっていたら、子供はキツイと思います。その意味では、偏差値の数字を見てもあえて知らん顔しながら上手に操作できる保護者の子供は伸びる可能性が高いと思います。以下に、2人の塾出身者の実例を紹介しましょう。

■よくデートをする両親の子[地方の中高一貫校→東大合格]

【ケース1:誠くん(仮名)】

・両親は共働き
・両親は身なりも会話も非常にスマート
・受験期の子どもがいても、夫婦でよくデートをしている
・保護者会などには必ず夫婦で参加

誠の両親の仲が良い姿を見る機会は多くありました。私が利用する地元のイタリアンレストランがあるのですが、よく、そこでお二人をお見かけしたのです。ご夫婦というよりも恋人同士で向き合っている感じでした。

子供の勉強については塾に任せてくれていて、ご両親が子供に勉強を教えるというようなことはなかったと思います。こちらが「もう少し頑張ってくれれば……」なんていう話をしても、お二人そろって「誠も誠なりに頑張っていますからね……」と。実におおらかというか、子供任せというか、いい意味での放任だったように思います。

印象的だったのは、授業と授業の間の夕食休憩の時に、主にお父さんがラップをかけたお皿をいくつか、お盆に乗せて持って来ることでした。子供の誕生日のような特別な日ならほかにも例はありましたが、塾と自宅が近い誠の家庭の場合はほとんど毎回。他の子が持参したお弁当で食事をしている中、誠ひとりがレストランのデリバリーのような状態で食事する。わが子に温かい物を食べさせたいという愛情ゆえでしょうが、「すごいなぁ」と皆で感心していました。

写真=iStock.com/hungryworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hungryworks

誠が受験するときは、本人も親も高望みをせず確実なところを受験しました。複数の合格を取る中で、愛媛県の私立の中高一貫校・愛光中学に進学しました。寮に入り親元を離れることになったのですが、特に抵抗感はなく誠はとても楽しそうでした。

誠は一人っ子だったこともあり、両親は、兄弟でもまれるような経験をたくさんさせたいと日頃から言っていましたので愛光中学校への進学は親子にとって良い選択になったようです。

卒業後もたまに塾に顔を出してくれましたが、いつもほんわかなマイペース。「成績はどう?」と聞くと「まぁ、真ん中よりも上くらい」がお決まりの返事でした。そんな誠が高校卒業後に持ってきた大学合格のニュースは、東大合格。驚きました。

■酔って塾に電話をかけてくる母親の子[浅野中→東京慈恵医大]

【ケース2:拓也くん(仮名)】

・父親は会社員、母親は専業主婦
・サッカー大好き少年

受験勉強を小学4年から始めた拓也は、受験勉強の他にサッカーを1回2時間、週に2回はガッツリとボールを蹴っていました。拓也のお父さんは、普通のサラリーマン。お母さんは専業主婦で趣味に生きているって感じでした。お母さんは時折、趣味で撮った写真作品を見せてくれましたね。作品のレベルは素人目に見ても「プロか?」と思うほど素晴らしい出来栄えだった事を覚えています。

お母さんは、よく電話をかけていらして「先生、面接はいつからでしたっけ。うちの息子が訳のわかんないことを言っていて……。えっプリントあるんですか?」と、明らかに酔ってかけてくることも珍しくありませんでした。ビールの大好きなお母さんでした。

写真=iStock.com/Bobby Coutu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bobby Coutu

夫婦共に、拓也の勉強について特に何か希望を言うわけでもなく、親子面接では父親がこんなふうに言っていたのが印象的でした。

「本人次第ですよね、勉強は。コイツがやる気があればやるし。親がなんだかんだ言っても、本人にやる気がなければできないのはしょうがないですよ。なぁ、拓也? オマエは勉強やるのか、え、受験するのか? ほーお? 受験したいのならサッカーもあるんだろうけど、勉強やらないとな。先生、よろしくお願いします」

父親はそう勝手に話をまとめて、お辞儀をして帰っていきました。他の親たちと明らかに違ったのは、志望校に合格するために「勉強やれやれ」って感じではなく、好きにさせていたこと。

結局、拓也は複数校の合格を勝ち取り、浅野中学に進学し、そこから東京慈恵会医科大学医学部に合格し、今は救急医療で活躍しています。

■好き勝手にやっている親の子はすくすく賢く成長する

以上、2つのケースを振り返ると、親が「親自身の人生を謳歌している」ということに気付かされます。共通しているのは、子供の人生とも人格とも、親が適当な距離を置いている。それがとても自然にできている。「適当な距離」というのは、親が期待する方向にねじ曲げずに、子供のあるがままの姿(成績も含めて)、彼らの人生をそのまま受け入れている、という関係性だと思います。

だから子供たちも、自分のしたいこと、目指す方向に、真っすぐ向かえたんだと思います。

子供たちに親のことを聞いても、「親は親で好き勝手にやっていますよ」と答える気がします。実の子供であっても、他人の人生ですから、自分の思う通りに行くわけがない。ままならない他人の人生に過干渉しているから、つらいんじゃないかと思います。

夫婦仲のよしあしと子供の偏差値との関係については、一概には言えません。ただ、ご夫婦の仲が良い家庭の子供は、情緒面ではとても落ち着いているのは確か。また、自己尊重感が高く、何でもやってみようという力にあふれていたように思います。

【以上、Tさんの話】

■なぜ、今どきの親は「教育虐待」をしてしまうのか

いかがであろうか?

ここ数年「教育虐待」という言葉がメディアで飛び交っている。「教育熱心」な親は昔からいたが、今は「虐待」ともいえるほどに、子育てに「良かれ」と思い、教育に躍起になる親がたくさん存在している。

写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

その理由の多くは、どの職業であれば一生安泰であるとは言い切れない「不確定要素」でいっぱいな未来予測の中で子育てを強いられているような時代背景があるからであろう。

しかし、その中で、わが子に幸せになってほしいと願うのであれば、まず、親は子とは別人格であると認識すること、そして勇気をもって子供とは適度な距離を保つこと、さらに、親自身の人生を充実させることのほうが案外、早道なのかもしれない。

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鳥居 りんこ(とりい・りんこ)
エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー
執筆、講演活動を軸に悩める母たちを応援している。著作としては「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)、「ノープロブレム 答えのない子育て」(学研)、「主婦が仕事を探すということ」(東洋経済新報社 共著)などがある。最新刊は「鳥居りんこの親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ」(ダイヤモンド社)。ブログは「湘南オバちゃんクラブ」「Facebook 鳥居りんこ」。

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(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー 鳥居 りんこ)

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