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タクシーは客がヤクザでも乗車拒否はできない

プレジデントオンライン / 2019年12月5日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/holgs

タクシー運転手は法律上、乗車拒否をすることはできない。それでは、乗客が暴力団関係者の場合はどうなのか。理崎智英弁護士は、「相手が暴力団関係者でも同じだ。乗車拒否はできない」という——。

■限られた場合にのみ乗車を断ることができる

「空車」のタクシーが目の前を通り過ぎてしまった、という経験をしたことがあるかもしれません。実は、これは違法行為です。タクシー運転手は法律上、「乗車拒否」はできないのです。

これは道路運送法13条に定められています。タクシー運転手は、法律上、運送引受義務を負っているので、お客さんから乗車を求められた場合には、いくつかの例外を除いて、乗車拒否をすることはできません。

タクシー運転手が、個人的に「このお客さんは乗せたくない」と思っていても、乗車を求められた場合には、それを拒否することができないということです。

ただ、いくつかの例外はあります。これは道路運送法13条と旅客自動車運送事業運輸規則13条に規定されています。以下、乗車拒否ができる場合を個別にご紹介します。

①定員オーバーになる場合
車両によって乗車定員が決められているので、それをオーバーするような人数の乗車を求められた場合には、乗車を拒否することができます。

②危険物を所持している者
法令により定められた制限を超えた火薬類、揮発油、有毒ガス発生物質等の危険物を所持している場合には、乗車を拒否することができます。

■泥酔したお客は乗車拒否することができる

③乗車禁止エリアである場合
タクシー業務適正化特別法という法律により定められた一部の地区(銀座等)では、客待ちが禁止されている場合もありますので、そのような地区で乗車を求められたとしても、乗車を拒否することができます。

④泥酔者又は不潔な服装をしている者等であって、他の旅客の迷惑となるおそれのある者
著しく酔っぱらっていたり、不潔な格好をしていて車内を著しく汚すおそれがあり、車内清掃や消毒、脱臭等をしなければならないおそれのあったりする場合には、乗車を拒否することができます。

⑤営業区域外から営業区域外への運送を依頼された場合
タクシー会社は、それぞれの営業所が所属する営業区域があり、タクシー運転手は、出発地あるいは目的地のどちらかが自分のタクシー会社が属する営業区域でなければ運行することができませんので、出発地と目的地のどちらもが自社の営業区域外に属する場合には、乗車を拒否することができるということです。

⑥乗客から特別な負担を求められた場合
本来は乗客が負担するものである高速料金や、その他特別料金を支払うよう乗客から求められた場合には、乗車を拒否することができます。

⑦当該運送が法令の規定又は公の秩序若しくは善良の風俗に反するものである場合
乗車時に乗客から暴力、威嚇等をされた場合、賭博場や売春宿等への案内を求められた場合等には、乗車を拒否することができます。

以上のような場合には、例外的に乗車拒否することも認められています。

■窓を全開にして走行したらトラブルになり…

ここで、タクシー運転手による乗車拒否が違法か否かについて裁判上問題となった事案をご紹介します。

タクシー運転手Aが、冬場に運転席側の窓を全開にしたまま、乗客Bを乗せて運転していたところ、乗客から再三窓を閉めるよう求められましたが、タクシー運転手は、乗客の求めに応じなかったため、乗客は、タクシー運転手に対して、「おい、こら、閉めんかい」「おれの言うことが聞けないのか」などと怒鳴ったことから、タクシー運転手は、タクシーを停車させ、乗客に対して、「お客さん、他のタクシーで行ってください」と述べ、乗客による継続乗車を拒否しました。

関東運輸局は、当該乗車拒否には正当な理由がないということで、タクシー会社に対して、タクシー1台を60日間使用停止とする処分をしました。この処分が不当であるとして、タクシー会社は、関東運輸局に対して、損害賠償を求めたという事案です。

この事案において、裁判所は、冬季の深夜に運転席側の窓を全開にしてタクシーを走行させることは、適切な接客行為とはいえないというべきであるから、乗客であるBが、再三窓を閉めるよう求めてもこれに応じないAに対し、「おい、こら、閉めんかい」などと述べた上で、「おれの言うことが聞けないのか」などと怒鳴って、強い口調で窓を閉めるよう求めたことは、理解できないことではなく、また、窓を閉めること以上の要求をしたことはうかがわれないのであるから、Aが窓を閉めるなどの適切な接客行為をすれば、上記の紛争も解決されたものと推認される。

そうすると、乗客から上記のようなことを述べられただけで、運送の継続自体までも拒絶できるとするのは相当とはいえず、したがって、Bの上記言動が法定の除外事由となる威かく行為に該当するとまで認めることはできない(東京高裁平成13年10月1日判決)、として、タクシー会社による損害賠償請求を認めませんでした。

■暴力団員が乗ってきたらどうなるか

上述したように、タクシー運転手が客から乗車を求められた場合には、基本的には乗車拒否をすることはできませんが、例えば、乗車希望者が暴力団である場合にも乗車を拒否することはできないのでしょうか。

この点、ゴルフ場や銀行は、暴力団による施設利用や暴力団からの預金口座の開設を拒否することができます。これは、民法上の契約自由の原則により、ゴルフ場や銀行としては、取引相手を選ぶ自由があるため、暴力団とは取引をしないということもできるためです。

一方、タクシーの乗車については、道路運送法により、乗車希望者からの申込みがあった場合、タクシー運転手としては、原則として当該申込みを拒否することができないという点で、契約自由の原則が大幅に制限されています。

■目的地が暴力団事務所なら拒否できる可能性も

ただ、乗車拒否することができる例外規定のうち、「当該運送が法令の規定又は公の秩序若しくは善良の風俗に反するものである場合」に該当し、乗車拒否することができるとも考えられます。

しかし、乗車希望者としては、自らが暴力団であると申告する義務はないので、タクシー運転手としては、乗車の申込みがあった際、見た目からは暴力団員であると判断することはできないでしょうし、仮に、乗車希望者が入れ墨等をしていて見るからに暴力団であると分かる場合でも、それだけでは法令の規定や公の秩序、善良の風俗に反するとは言えません。

そのため、乗車希望者が暴力団であるという理由だけでは乗車拒否をすることはできないということになります。

もっとも、例えば、目的地が暴力団事務所である場合、暴力団事務所への迎車の依頼があった場合、暴力団事務所から組長専従の運転手を派遣するよう依頼を受けたような場合には、「公の秩序若しくは善良の風俗に反する」ものとして、乗車拒否が認められるかもしれません。このケースはまだ判例がないので、今後裁判で争われることがあるかもしれません。

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理崎 智英(りざき・ともひで)
弁護士
1982年生まれ。一橋大学法学部卒業。2010年、弁護士登録。福島市内の法律事務所を経て、現在は東京都港区の高島総合法律事務所に所属。離婚・男女問題に特に力を入れている。

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(弁護士 理崎 智英)

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