定年退職の元管理職が"カスハラ"をしやすい訳
プレジデントオンライン / 2020年1月7日 11時15分
■クレームの8割は、初動対応で解決
パワハラ、セクハラといった職場でのさまざまなハラスメントの中で、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が、大きな社会問題になっているのをご存じでしょうか。カスハラとは、顧客が企業の従業員に不当な苦痛を与えたり、悪質なクレームをつけたりするもの。カスハラは今や主な離職理由の1つにもなっています。人手不足が深刻になる中、従業員の健康を守り、人材を確保するためにも、カスハラ対策は、企業にとって喫緊の課題といえるでしょう。
そもそも「わがままな顧客」は、昔もある程度は存在していたはず。それなのに、なぜ「モンスターカスタマー」や「クレーマー」が、これほど増えてしまったのでしょうか。要因の1つとしては、急激な社会変化が考えられます。企業を取り巻く環境も厳しくなり、サービス競争が激化した結果、顧客満足度のハードルが上がって、些細なミスやサービスの低下でも、クレームにつながるようになってしまったのです。
また、格差が広がる中で生活苦などからストレスをためる顧客も増え、“従業員”という立場の弱い相手に怒りをぶつけることで、鬱憤を晴らすケースも多いようです。特に目立つようになったのが、見かけは品行方正、善良そうな「シルバーモンスター」。たとえば、定年退職した企業の元管理職やOBは、モンスター化しやすいので要注意。在職中と違って周囲が敬意を払ってくれないので、不満を募らせています。
では、どんなカスハラ対策をすればいいのでしょうか。ポイントは消火活動と同じく「初動対応」です。クレームが悪質かどうかを早めに見極め、適切な手を打てば、被害を最小限に食い止められます。ここでは、クレーム処理の手順に応じて、3段階に分けて説明しましょう。
第1段階ではまず、性善説に立ち、クレームをつけている相手を“お客さま”として扱い、誠心誠意、話を聞きましょう。最低でも5分は相槌を打ちながら苦情に付き合ってください。相手をクールダウンさせるのが先決。反論したりするのはもってのほか。そして、とりあえず頭を下げましょう。そうすれば、相手も拳を振り上げる理由がなくなります。ただし、言質を取られないように、「不快なご気分にさせて申し訳ありません」といった具合に、その場の接客態度について謝るのです。そうすれば、「あのときに非を認めて謝ったではないか」と後で詰め寄られても、「それはクレーム内容を認めたわけではありません」と切り返せます。
■上司を呼べ!は、むしろ渡りに船
顧客の8割方は、第1段階のクレーム対応で納得します。しかし、それでも引き下がらなければ「グレーゾーン」。クレーマーの疑いがあります。第2段階の対応では、「ギブアップトーク」を心がけましょう。その場で結論を出そうとせず、「大切な内容ですし、私の一存ではすぐに判断しかねますので、持ち帰って検討したうえでお答えいたします」といった具合に回答を保留するのです。
相手が「客をいつまで待たせる気だ」などと言って急かしても、焦りは禁物。「おまえじゃ話にならない。上司を呼んでこい!」などと言われれば、むしろ渡りに船と考えましょう。「折り返しご連絡を差し上げますので、お名前やご住所を教えてください」と言えば、やましいところのあるクレーマーが退散することもあります。
■クレームを、企業経営に有効活用
それでも態度が収まらず、「土下座しろ!」「ネットやSNSで(悪評を)さらしてやる!」などと脅し文句を言ったりするようなら「レッドゾーン」。特に金品や特別扱いを暗に要求し、即断を強要するようなら、悪質なクレーマーと判断していいでしょう。第3段階では、顧客対応ではなく、「リスクマネジメント」として対応します。か行で始まる「K言葉」を覚えておくといいでしょう。たとえば、「マスコミや役所にタレこんでやる!」と凄まれても、ただの脅しにすぎないので、「困りましたね。でも、お客様のお考えを尊重します」と応じましょう。「怖いですね」と答えるのも手。「脅迫と感じている」ことを相手に意思表示するのです。
とはいえ、気をつけたいのが、厳しいクレームをつけてくる顧客を、“クレーマー”と決め付けること。お客様は神様ではありませんが、お客様あっての企業であり、目の肥えた難しい人が大切なお客様なのです。実際には、企業側に非があるケースも少なくありません。
たとえば、最近の若い従業員は、家庭でのしつけがなっておらず、人手不足のために職場での研修も不十分なせいか、顧客とトラブルを起こすケースが多発しています。そこで、クレーム処理は若い担当者任せにせず、上司やベテランの従業員が情報共有して、チームで対応するようにしましょう。そうすれば、サービス向上のための重要な“資源”でもあるクレームを、企業経営に有効活用しやすくなるでしょう。
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1979年大阪府警察官を拝命。95年に大手流通業マイカルに就職し、元刑事の経験を生かしたトラブルやクレーム対応にあたる。2002年エンゴシステムを設立。
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(エンゴシステム代表取締役 援川 聡 構成=野澤正毅)
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