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痴漢の被害者が非難されるというSNSの不思議

プレジデントオンライン / 2019年12月20日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SIphotography

痴漢や性差別の被害を公にした人が、SNSなどで非難されることがある。7万3000人のフォロワーを抱え、自身も積極的にツイッターで発言をしている起業家のハヤカワ五味氏は「被害者を非難する主張は、権力を持つ人のポジショントークに感じられる。それを他者に当てはめようとすることはダサい」と指摘する――。

※本稿は、ハヤカワ五味『私だけの選択をする22のルール』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■インターネットは「多様な人たち」を照らした

インターネットの登場により、その以前と以後では世界が大きく変わったのだと思います。私は1995(平成7)年生まれで、物心がついたときからインターネットがある世代。ですから憶測の域を出ませんが、インターネットが登場したことによって多くの人が多種多様な情報に、気軽に触れることが可能になりました。

それまではどうしていたかといえば、いつだって誰かが編集した情報を得ていたわけです。たとえば、テレビや雑誌など。

また、ひとつのことを見るときも、多方面からそれを捉えることは難しく、常にある面からの情報しか得られませんでした。しかし最近では、日本と諸外国の外交問題が毎月のように起きていますが、私たちは日本サイドからも、外地からも見解や情報を得ることができます。

ほかにも、今まではないことにされていたさまざまな人たち―具体的にはLGBTを含めたマイノリティなど、多様な人たちの存在が照らされることになりました。

■誰もが「140文字」を発信できる時代

Twitter上では、強者も弱者も平等に140文字が与えられるので、これまで世のなかに晒されることのなかった声が広く漂うようになります。それによって、私のようにマイノリティ向けのブランド展開をしても、さまざまな場所から多くの人がアクセスしてくださり、選ばれるようになりました。

ただ、全員が同じく140文字を持ってしまったからこそ、その140文字で他者を傷つける人も出てきましたし、より多くの価値観に触れざるを得ない状況で私たちは生きていくことになりました。

この「より多くの価値観に触れざるを得ない状況」というものは、心の準備ができていない人にとってはやや厳しい状況だなと感じます。

なぜなら、表現の自由、価値観の自由、発言の自由といった断りがつくもののなかには誰かに不快感をもたらすものが少なからずあるからです。誰にも不快感をもたらさないものであれば、ことさら“自由”という言葉を使って権利を主張するまでもないものであるはず。誰かの自由がすなわち、自分自身のストレスフリーな状況であるとは限らないのです。

このようにインターネットという無限の繋がりによって、良い面も悪い面も照らされることになりました。インターネットのおかげですべての人に平等に情報が行き渡るかと思いきや、これまで以上に情報格差が広がり「調べることができる人」が力を持ち始めているような気もしています。だからこそ、事業者側もユーザー側もあえて(面倒ではあるけれど)能動的に情報を選べる社会にしていく必要があると思いますし、私のやる事業でも大切にしています。

■「自分が否定されている」と感じてしまう

インターネット以前における価値観は、ある種、その土地やコミュニティに根ざしてつくり出され、ゾーニングされているものだったと思います。だからこそ、地域や国ごとに価値観の差がありましたし、距離が遠ければ通信費がかさんだり、やりとりに時間がかかるなど情報交換も容易ではなかったため、それぞれが侵されることなく成立してきたのでしょう。

しかし、インターネットが定着した現在、さまざまな価値観が交差し、ぶつかってしまうことは避けられません。にもかかわらず、公用語がひとつだけで多様性を持ちづらい日本は、そのような場合、どうやってこれまでにない価値観と共存していけばいいかという経験値が低いのです。相容れない別の価値観でさえも受け入れなければならないのではないか、自分たちに内在化させなければならないのではないか、自分たちが否定されているのではないかと感じている人も多いのではないでしょうか。

■夫婦別姓が可能になっても「同姓」の権利は消えない

たとえば、選択的夫婦別姓(正式には選択的夫婦別氏)に関してさまざまな議論が行われていますが、選択的夫婦別姓が可能になったとしても「夫婦同姓」の権利が剥奪されるということはありません。かといって、夫婦同姓論者の人たちみんなが夫婦別姓の人たちを認めなくてもいいわけです。夫婦別姓を認める必要があるのは法律であって、夫婦同姓論者の人たちではないのですから。

そのように、本来は意見が相容れない人たちは、そのままで存在することが可能なはずです。社会が新しい選択肢を認めるということは、現行の選択肢が否定されたわけではありませんし、それぞれの考え方を受け入れようと、そうでなかろうと、どの選択肢も法律のうえで存在し得るのです。

だからこそ、私は無理にお互いを認め合うのではなく、あくまで並行して存在する「並存」というあり方をしていける社会がいいのではないかと考えています。

■多様性があったほうが、リスクは避けられる

そもそも私が「多様性」というキーワードを意識し始めたのは、いつの間にか「同じような仕事観/人生観」の人ばかりと交流を持つようになったときです。経営という仕事をしていると、どうしても交流関係が偏っていきやすいもの。実際、「同じような仕事観/人生観」の人と話していると気が楽ですし、知りたいことを知ることができます。

ただ、私が提供するサービスを利用する人たちは、私と「同じような仕事観/人生観」とは限りません。むしろ、私と「同じような仕事観/人生観」を持つ人は、全国的に見たらごく一部のマイノリティでしょう。だからこそ「同じような仕事観/人生観」の人とばかり交流をしていると、新しい発見や「こここそがビジネスチャンス」といったものには出会いづらかったりします。それゆえに、最近では多様な価値観を持つ多様な人たちと、あえて積極的に交流を持つようにしています。

多様性は、ビジネスにおいても重要性が再確認されつつあります。

たとえば、米マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)が2015年に発表した研究結果によると、労働の面で女性が男性と平等となり、同じ就労率で同じ時間、同じ部門で働くならば、世界のGDPは2025年までに28兆ドル(26%)増えると推定されています。

生物学的にも疫病その他で全滅するリスクが低いなど、画一的ではなく多様性があることの重要性は、自明とも言えるレベルになっています。実際、ビジネスの場であっても画一的な価値観ではなく、さまざまな価値観やものの見方があったほうが、より多面的な検討が可能で、さまざまなリスク回避が期待できるのです。

■痴漢の被害者が、非難されるという不思議

痴漢や性差別などについて被害を公にすると、本来、非難されるべきでない被害者が非難され、加害者は非難されないといった謎の構図をよく見ます。

「自分は差別・被害を受けていない」ということだけなら、事実を伝えているだけなので、過剰に批判することはできません。ただ、そのようなことを主張する人たちには、「自分は差別や被害を受けていないから、ほかの人も本来はそうであるはずだ」「頑張れば差別・被害を受けずに過ごすこともできる」という、他者も自分と同様だとみなすニュアンスを含む主張が多いため、なんとなく心のどこかに引っかかっています。

まず、前提として私の主張で一貫していることは「(性別だけでなくさまざまな分野で)偏見やバイアスがゼロなんて脳の構造上まずあり得ない」ということ、そして「権利や力を持ったうえで、そのポジショントークを他者にも当てはめようとするのはダサいし、それ自体が差別者を擁護し被差別者の心を踏みにじる」ということです。

■正論の皮を被った「ポジショントーク」

たとえば、私がLGBTなどセクシャルマイノリティの結婚について語ることはできますが、それはあくまで「自分はセクシャルマジョリティであり、自分が選んだ相手と結婚できる権利を持っている人からのポジショントーク」になってしまうと感じます。だからたいていの場合、その前置きをつけてから話すようにしています。

ただ、現状の性差別や性別によるバイアスの議論や意見を見ていると「“たまたま”できてしまった人のポジショントーク」が、正論の皮を被って「万人にその主張が適応されるべき」となっている空気を感じます。さらに「#NotAllMen」ではないですが、加害者はごく一部なのだから、被害を一般化するなという人たちがそのようなポジショントークを応援してしまう構図になっています。その原因はなんなのだろうかと、以前読んだ本などを引っ張り出してきてさらってみました。

アメリカなど多くの国では、ルール上、人種を問わず権利が与えられるようになってきたのはご存じの通りだと思います。ただ、いまだに人種間の収入格差があります。それに対して、収入の高い白人側からは「同じ権利をもってしても給料が低いのは、結局黒人の能力が低いことを示しているのではないか」との声が上がっています。

でも、実際はそういうことではないのです。能力が低いのではなく「同じスペックだった場合に、黒人より白人のほうが有能だと認知される」というバイアスがその裏にはまだ残っており、それが結局、収入格差という形で表れているのです。

■女性活躍が進まないのは「意識」の問題か

この話は、性別間でも同じではないでしょうか。たしかに、権利やルール上は女性も男性も平等になりつつありますし、実際うまいこと差別やバイアスに足を引っ張られずに成功してきた人はいると思います。だからといって、バイアスがまったくないとみなされることや、いまだに存在する収入格差が属人的な理由に転嫁されるのは違うのではないでしょうか。さらには、実在する被害がなかったことにされてしまうのは、なおさら問題だと思います。

『制度が整ってきたからこそ、高学歴・正社員の女性の就労や活躍の可否は、本人の意識や意欲の問題として理解される面が大きい。日本生産性本部の調査では、「女性社員の活躍推進上の課題」として、回答企業の4分の3が「女性社員の意識」を挙げている。(中略)そのような疑問に対し、フェミニズム系の研究者たちは、男性稼ぎ主モデルの社会では、主婦やケア労働、腰掛け的なキャリア選択が合理的になってしまう構造を指摘・批判してきた』――中野円佳『「育休世代」のジレンマ』(光文社新書)より引用

そう、たとえば「結婚して女の幸せに目覚めたから辞めるんだろう」とか「女性には活躍したいという意識が足りない」といったバイアスや差別の問題です。

「いやいや、でも実際に女性は、どんなに仕事をしていた人でも出産したら辞めるじゃないか」という意見も聞こえてきそうですが、私はその状況自体が差によって生み出されたものではないかと思っています。

■自殺者は男性の方が圧倒的に多い

つまり、男性が働くほうが給料が高く合理的だから、サポートに回ったほうが効率が良いという合理性をもって女性は仕事を辞めるのではないでしょうか。自分が出世するよりも、旦那が出世したほうが効率が良いからという合理性。そうした背景があっても「女性の意識が~」という話になるのでしょうか? 意識をそいでいるのは、女性自身なのでしょうか。社会や仕組みなのでしょうか。

私はこの議論で女性の不遇だけを嘆いているわけではありません。ルール上男女平等になったとしても、女性へのバイアスは存在しますし、それはつまり男性へのバイアスも強く存在し続けていることをあらためて議論しなければいけないのかなと思っています。

たとえば、自殺者数は圧倒的に男性のほうが高い。2018年時点で、自殺者数は女性よりも約2.2倍も高くなっています。

画像=『私だけの選択をする22のルール』

『同時に、男性の長時間労働の流れも一九七〇年代後半から拡大していく。この時期、多くの社会が、男女の労働参画とそれを支える労働条件整備・家族政策の充実に向かったのに、日本政府は、「男性の長時間労働と女性の家事・育児プラス子育て後の労働条件の悪い非正規労働」という、一九七〇―八〇年代型ジェンダー構造を選択したのだ』――『現代思想 2019年2月号』「男性学・男性性研究=Men & Masculinities Studies(個人的経験を通じて)」伊藤公雄より引用

■「選択肢」が運とタイミングで決まってしまう

やはり、周りの会話に耳をすませていると、まだどこか「男性性」にとらわれて、苦しんでいる男性が多いように感じてしまいます。

ハヤカワ五味『私だけの選択をする22のルール』(KADOKAWA)

だからこそ、女性の無意識に消されている選択肢に目を向ける一方で、男性の無意識に消されている選択肢にも気を配りたいなと思います。

たまたま私は性別に関係なく選択肢を多く持てた人間だと思っています。マジであり得ないほどのセクハラ男性こそ周りにいますが、実害はおっていませんし、性別関係なくエンカウントするやばい人としてカウントしています。

でもそれは、正直、私の実力というよりは性格などのパーソナリティ、そして運とタイミングが良かったとしか言えない気がします。だからこそ、選択肢がそもそも運とタイミングによって左右されるようなものではなく、最初から万人にあって当たり前なものではないかということを、私の立場だからこそ冷静に見つめていきたいです。

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ハヤカワ 五味(はやかわ・ごみ)
ウツワ代表取締役社長
1995年、東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。高校生の頃からアクセサリー類の製作を始め、プリントタイツ類のデザイン・販売を行い、大学入学後はワンピースブランド《GOMI HAYAKAWA》、2014年にランジェリーブランド《feast》、2016年にワンピースブランド《ダブルチャカ》を立ち上げる。2018年にはラフォーレ原宿に常設直営店舗《LAVISHOP》を出店。2019年からは、生理から選択を考えるプロジェクト《illuminate》をスタート。

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(ウツワ代表取締役社長 ハヤカワ 五味)

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