整理しないメモ書きだけが持つ意外な効果
プレジデントオンライン / 2020年1月27日 9時15分
■メモに万年筆を使う理由
大学生の頃から、メモは万年筆で手書きです。メモには本の内容をそのまま書き写しているのですが、やはり手で文字を書くほうが、言葉が自分のものになっていく感覚がある。僕は、言語は「借り物」であるかそうでないかが非常に大事だと思っています。借り物の言葉で話す人は意外と多い。誰かが言っていたことを、さも自分のものであるかのように話してしまう。漢字とひらがなの使い分けや、句読点まで、著者の息遣いを感じながら書き写すことで、言葉を自分の血肉にして身体化するのが、僕のメモの流儀です。
万年筆を使うのにも理由があります。万年筆というのは、長く使っているとペン先の削れ方に自分のクセがついてくる。それを、包丁を研ぐように、自分の好きな角度に削っていく。そうすることで、だんだん自分の身体に馴染んでくる。書き写す内容によって、数種類ある万年筆の中から使い分けたりもしています。これも言葉の身体化のひとつなのだと思います。
■不思議な出合いが生まれる
メモ帳は、ノートではなくルーズリーフを使っています。これには理由があって、ルーズリーフって、ページごとにバラバラにできる。自分の講演や原稿の内容を考えるときに、ページをシャッフルしてみるんです。一見まったく関係のないことが書かれているページ同士を組み合わせてみると、不思議な出合いが生まれる。たとえば、建築家のガウディに関する文章と「子ども食堂」に関する文章をランダムに重ね合わせてみる。子ども食堂って孤立の問題だったりする。そうすると、団地には子ども食堂ってなかったけど現代建築になったらあるよね、みたいな話につながるのです。
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僕にとっては、こういう偶然が起こるのがとてもおもしろい。世の中のさまざまな事象や言葉は本来つながっているはずなのに、なかなかつながっては見えてこない。でも、こうして普段は出合うはずのない知見がルーズリーフの上で偶然出合うのです。世の中の知性の高い人たちって、カテゴライズが好きでしょう。たしかに、情報を整理して分類することによって理解の効率も高まるし、解像度も上がる。でも僕は効率性よりも、ノイズや偶然性を大事にしたい。僕にとってのメモは、整理するためのものじゃなくて、イノベーションを生み出すためのものなんです。
僕は東進ハイスクールの講師以外に少年院でも授業をしています。予備校の授業と違い、少年院の生徒たちは僕のような大人と接してきた経験がほとんどない。だから、話す内容も身近な例を挙げて、なるべくわかりやすく伝えています。
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たとえば、「おまえら、人前で小便もらしたことあるか」と問いかける。東京大学の准教授に熊谷晋一郎さんという脳性麻痺で車いす生活をしている先生がいます。彼は実験の一環として渋谷でおもらしをした。「おもらししました、助けてください」と言ったら、多くの人に助けてもらった。そこから「カッコ悪くても自己開示すれば、誰かが助けてくれるかもね」という話につなげていく。そういう話のネタも、ルーズリーフのどこかのページに書いてあります。しょっちゅうシャッフルして読み返しているし、言葉が自分の血肉になっているから、その日の生徒たちの雰囲気に合わせて話せるんです。
あらゆる物ごとをカテゴライズして、AIやロボットで置き換え可能なものにしていくのがいまの世の中の流れなのかもしれません。でも、そこで思考停止してしまうと、一つ一つのものに対するまなざしや身体性が失われてしまうような気がするんです。
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1963年、東京都生まれ。元代々木ゼミナール英語科講師。2015年に東進ハイスクールへ移籍。著書に『ポレポレ英文読解プロセス50』など、参考書のベストセラー多数。NPO法人ユメソダテ理事。
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(東進ハイスクール講師 西 きょうじ 構成=山本大樹 撮影=藤中一平)
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