「上司を出せ」の電話は絶対に無視するべき理由
プレジデントオンライン / 2019年12月23日 11時15分
※本稿は、島田直行『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■1人あたりの対応時間を決めておく
クレーマーは、自分の要望が実現しないとわかると、感情的になりがちだ。普段の暮らしのなかで、第三者から何かを感情的に言われることはあまりない。
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しかし、これが電話となると、相手の雰囲気がわからないため、なおさら困惑する。「相手が興奮しているからなんとかしないといけない」と焦るほど、物事は悪い方向に展開していく。むしろ「なるようにしからならない」と腹をくくったほうが意外とうまく回りだす。
電話に限らず、興奮した相手に対して「興奮しないでください。冷静になってください」と言うのは、意味がないだけでなく、むしろ相手をヒートアップさせてしまうことになりかねない最悪の対応だ。「お前の態度が悪いからこうなったのだろう」と詰め寄られるのが関の山だ。
興奮した相手との長時間の電話で疲弊しないためには、社内で対応するべき時間を共有する。こういった時間が決まっていないがゆえに、いつ電話を切るべきかがわからず、いつまでも相手の話をじっと聞くだけになる。
具体的な時間は、各社が自分たちで決めればいい。通常であれば20分もあればひと通りの質問への回答をすることができるだろう。30分も説明すれば十分だ。こういった時間を経過したら、電話を切るようにしなければならない。
■「あなたの意見は大事だから電話を切る」
さりとて、時間が来たからといって、いきなり電話を切るというのもなかなかできることではないだろう。その場合には「申し訳ありません。○○様のご意見は伺いました。大事なご意見ですので、私が単独で判断することはできません。いったん上司と協議したうえで、検討させていただきます」などと言って切るようにする。
ここで大事なのは、「あなたの意見は大事だから電話を切る」というスタンスを明確にすることだ。内心では「これ以上電話を続けても無駄」と感じたとしても、表に出してはならない。相手からの電話がさらに続く結果になってしまう。
電話を切ることが苦手な人は、電話を切るにはクレーマーに納得してもらわなければならないと誤解している。「電話を切る」と「クレーマーが納得する」というのは、まったく別の問題である。クレーマーが納得しようがしまいが、電話を切っていい。そこをはっきりさせないと、電話を切ることをいつまでも言い出せない。
意識を向けるべきことは、「いかにしてクレーマーからの電話を切るか」であって、「いかにしてクレーマーに納得してもらうか」ではない。「電話を切る」というところからすれば、「クレーマーの意見を尊重している」という姿勢を見せることが効果的だ。これをされると、クレーマーとしても自分の意見を尊重されたうえでの対応であるため、無下にできなくなる。
いったん電話を切ってしまえば、あとは電話ではなく、書面で通知をすればいい。書面の内容としては、「検討のうえ、ご要望には添えない」というものでいい。クレーマーから再度電話があれば、「電話に出ない」という判断も含めて対応することになる。事後的なことは事後的に考えればいいのであって、まずは「電話を切る」ということにこだわっていただきたい。
■クレーマーの主張を整理してあげる
クレーマーは、電話のなかでひたすら自分の要求や意見を連ねる。聞いている側としては、次第に何を言いたいのかわからなくなるときがある。そこで電話を切る時間が近づいてきたら、いったん話を整理するような相槌を打ってみると効果的だ。
たとえば、次のようなフレーズが使いやすい。
「○○様、今回はいろいろご不快な思いをさせて申し訳ありません。当社としては、○○様のご意見を踏まえて早急に対応を検討したいと考えております。ついては○○様のご要望としては、△△という理解でよろしいでしょうか。当方の不手際で誤解がありましたら申し訳ありませんので、確認させていただきました。長時間のお電話でお手を煩わせるのは本望ではありません。この内容で間違いなければ、上司と協議して改めて連絡させていただきます」
何かを回答するにしても、要望内容が固まらなければ、何について回答しなければいけないのかわからず、いつまでも電話を聞くことになってしまう。あえて電話の途中で、こちらからクレーマーの主張を整理することで、クロージングに持っていきやすい。
このようにしても、クレーマーのなかには、納得するまで電話を切ることを許さない者もいる。「こちらの了承なく電話を終わらせようとするな」と言う者すらいる。
そういうときは、「会社のルールで原則として30分以上の電話対応はできないことになっております。いったん切らせていただきます」と言って切るほかない。再度電話がかかってきても、出ない。必要があれば、書面で事後的に回答すればいい。いずれにしてもどこかで明確な線引きをしなければ、終わりを迎えることができない。
■「上司を出せ」という要求に屈しない
経営者にとって、クレーマー対応は自ら陣頭指揮をとるべき事項である。もっとも、陣頭指揮をとるべきであるが、経営者がクレーマーと直接対面することはできるだけ避けるべきだ。
交渉においては、決定権を持つ者がいきなり出て行くことがいいとは限らない。その場での判断を余儀なくされてしまうため、相手がクレーマーである場合には避けるべきだ。「事業効率」という観点からしても、できるだけ担当者レベルで対応するべきだ。
担当者がレベルを上げるためには、基本的なスキルを学んだうえで経験を積んでいくしかない部分もある。「上司を出せ」と言われて、「わかりました。お待ちください」では対応したことにならない。なにより言われた上司としても対応できるとは限らない。
いったん上司が出てしまうと、次は「トップを出せ」ということになる。さりとてクレーマーに「上司に回すことはできません。私が責任者です」と言うだけでは話は終わらないであろう。そこで、クレーマーに満足感を与えつつ、上司に電話を回すことを考えることになる。
■「電話に出ない」ことも選択肢
具体的な会話としては、次のようなものがひとつのモデルになる。
「○○様のご意見は承知しました。本件についての担当者として一度、上司と時間をとって協議させていただきます。協議の内容についてはあらためて連絡させていただきます」
まずはっきりさせるのは、「担当はあくまで自分であって上司ではない」ということだ。いったん上司が対応してしまうと、以降の対応をすべて上司がしなければならなくなるからだ。
そのうえで上司とは別の機会に協議するとして、いったん電話を終わらせるようにする。このとき、重要な案件であるために、上司と時間をとって相談するという話にもっていく。
クレーマーからは「本日中に回答しろ」と言われることもある。その際には「本日中に上司と協議できるとは限りません。当社としてもお客様に対してできないことをできるようにお伝えすることはできませんので、ご了承ください」と言って断る。
電話を切った後の回答は、電話ではなく、できるだけ会社名を使って書面で発送したほうがいい。担当者は個人であっても、意見としてはあくまで会社のものだからだ。これに対して、クレーマーから電話があれば、上司の判断であると言って断る。会社として方針を決めたのであれば、そこから動いてはならない。
それでも電話が繰り返されるのであれば、電話に出ない対応も検討することになる。クレーマー担当は負担の大きな仕事ではあるが、スキルアップの機会でもある。前向きにとらえていただきたい。
■ネットに書き込みをされたら
あるコールセンターでは、クレーマーからの執拗な電話で業務に支障が出ていた。そこで経営者は、「電話対応を拒否する」という方針を固めた。担当者らは相手に対して「電話による対応には応じられない」と回答した。相手は会社の対応に激高した。
それから数日後、匿名で明らかに事実無根のことがネットにおいて記載されるようになった。会社の態度がいかに横柄なものであるか、担当者の態度がいかに悪いかといったことがまことしやかに書かれていた。そこで私の事務所に相談ということになった。
ネットは、我々の暮らしの隅々まで広がるようになった。もはやネットのない暮らしは想像することができなくなった。ネットの世界では、誰でも自分の意見を不特定多数の人に容易に発信できる。そこには真実と虚構がない交ぜになっており、なにが真実であるのかわからないときがある。
記載を目にする側からすれば、そこに記載された内容がすべてである。そのため、記載された内容をありのまま事実として受け止めてしまうかもしれない。いったん自分のなかで「これは事実だ」と認識してしまうと、事後的に修正するのは簡単なことではない。
■反論すればするほど悪印象
しかも人は「他の人も真実を知っておいてほしい」という良心から、真偽を確かめないまま、情報をさらに他の人に意図的に広めてしまう。間違った情報であっても、あっという間に拡散してしまう。そこにネットの怖さがある。
ネットに不適切な内容が記載されると、それを目にした人が記載内容から会社についてネガティブなイメージを抱くことになりかねない。会社は反論する余地もなく、ただひたすらイメージを崩されていくことになる。
仮に反論したとしても、反論すればするほど「やはり会社の態度が悪い」という印象を周囲に植えつけることになる。しかも採用申込を検討している者がネットで会社の悪評を目にすれば、「ちょっとやめておこう」ということになる可能性もある。
この売り手市場の時代に、あえてリスクの可能性があるところに申し込む必要はない。このように止めようのないネットへの記載に、我々はどのように対処するべきであろうか。
■恐れるべきは、クレームを真実だと誤解する第三者
まず押さえておくべきは、我々がネットにおける記載を恐れるのは、クレーマーからの事実無根の記載そのものではないということだ。記載内容については、クレーマーが根拠のない事実を記載して会社を批判しているだけだと割り切ることもできるだろう。
実際に恐れているのは、事実に反する記載内容を真実だと誤解する第三者がいることだ。つまりフォローしないといけないのは、記載内容そのものではなく、第三者が自社をいかにイメージするかについてである。そのように整理すれば、対処法もおのずとわかってくる。
不適切な記載を目にした経営者からは「他の人の目に触れないように、すぐに抹消するよう手続きを進めてください」という相談を受けることがある。司法的手続などを利用することで、不適切な記載内容を抹消することができるケースはあるが、実際は必ず抹消できるとは限らない。しかも「今すぐに」ということもなかなか難しい。
とくに司法的手続をとるには、根拠を確保して申立てをする必要があるため、時間を要する。そもそも弁護士に依頼するのであれば、相談日を設定するまでにすら時間がかかるかもしれない。その間にも間違った情報は広がり続ける可能性もある。
こういったとき、相手の意見に反論するコメントを慌てて記載するのは得策ではない。むしろクレーマーの思うつぼであろう。反論すればするほど、「弱い立場の消費者の意見が悪徳な会社によってつぶされそうになっている」という構造に持ち込まれやすいからだ。
しかも何が真実であるのかの根拠をネットでは示すことができないため、第三者に「悪徳な会社が単に言い訳をしているのではないか」とさらなる誤解を抱かせることになりかねない。
■第三者を味方につける
このように、ネット上のコメントで議論に持ち込むのは避けるべきだ。公開討論になれば、こちらが不利になることが多い。ある医療機関では、担当したスタッフの態度が悪いとして、批判めいたコメントがなされた。
医師からは、コメントについて反論を記載するべきかと相談を受けた。これについて、私は「現状では反論しないほうがいいです。かえって反省しないクリニックという印象を与えかねません」と説明した。
コメントを残すのであれば、「ご不快を与えたようで申し訳ありません。当社としても事実関係を確認させていただきたいと考えております。つきましては具体的な内容について直接連絡をいただけないでしょうか」というものがいい。
これを目にした第三者は「会社として意見を聞いて事実を確認しようとしている」という真摯な印象を受ける。先の事例でも、このような趣旨のコメントを書いたら、すぐに鎮静化した。実際には連絡など来なかった。
■反論せずにあえて放置、良識に任せるのも手
ネットの書き込みについては、あえて何も反論せずに放置しておくというのもひとつの手である。クレーマーの記載内容は、ときに過激な表現になることがある。こういった過激な表現は、良識ある人が見れば不可解なものに映る。
何かを批判することと過激な表現をすることは意味が違う。穏やかな表現でも、クリティカルな批判をすることができる。逆に過激な表現でも、無意味な批判もある。
あまりに過激な表現は、むしろ良識を疑わせる。過激な表現に対しては何もせず、目にした人の良識に任せるのもひとつの手だ。クレーマーとしても、反論がなければ、さらにコメントをすることができない。
反論がないのにひたすらコメントを書き連ねていくというのであれば、それだけで第三者から見れば不可解な状況だ。第三者としても「このコメントは信用できない」と感じてもらえれば十分である。
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島田法律事務所代表弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)がある。
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(島田法律事務所代表弁護士 島田 直行)
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