"3年間外出なし"90代独身女性が幸せなワケ

プレジデントオンライン / 2020年1月9日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

日頃、連れだって談笑する女性たちも、互いの距離の取り方には悩むもの。幸せな老後を送るための人間関係の極意を聞いた。

■互いに名前も素性も明かさぬ理想のジム

30代で『女が家を買うとき』で作家デビューして以降、「ひとりの生き方」をテーマに執筆、講演活動を行ってきた私も、70代になりました。

「女で独身で仕事はフリーランス」と、はたから見れば同情されるようなおひとりさまを貫いてきましたが、「ひとり女性」の老後を応援するNPO「SSSネットワーク(以下、SSS)」の活動、執筆、シンガーソングライター業や映画製作活動、プライベートではシャンソン教室やバレエ教室、スポーツジムに通ったりと、若い頃と変わらず仲間に囲まれ、楽しい日々を送っています。

とはいえ、交友関係の広い女性の生き方が必ずしも正解ではない、ということもお伝えしておかなければなりません。女性同士は特に、仲良くなるとお付き合いが濃密になりがちです。それが度を越えると逆に関係が悪化してどちらかがその場を去る、ということもままあります。

■女性スタッフと仲良くなり過ぎて失敗

実のところ、私も十数年前、SSSを手伝ってくれていた女性スタッフと仲良くなり過ぎて失敗しました。話も感性も合うスタッフで、食事も旅行も誘えば喜んで来てくれる、いい師弟関係・友人関係を築いていると思っていました。「生涯一緒のアシスタントに、幾ばくかでも財産があれば残してあげよう」とまで考えていました。

作家 松原惇子氏

それが、しばらくたつとお互い甘えが出てきて主従関係は逆転、彼女の存在が重たくなり、気づけば顔を見るのも嫌に……。

そうなると活動にも支障が出て「身内みたいな感覚が一番嫌いでひとりを貫いてきたのに、なぜこんなに苦労するの」と後悔ばかり。ぎくしゃくしてきたので、彼女には辞めてもらいました。

苦渋の決断でしたが、「60代になったら人間関係を整理して、人付き合いの距離を上手に保つことが大事」だと気づくことができました。以降、仕事でも趣味でも、対人関係に深入りしないことにしています。

SSS、スポーツジム、シャンソン教室、バレエ教室でそれぞれに会話を交わすスタッフや友人、顔見知りがいます。彼らとはその場では和やかに話をしても込み入った話はしませんし、基本的にそれ以外の場所では会いません。

いま通っているジムは理想的で、毎日のように年齢層も幅広いスタッフや常連さんと会話をしますが、私は名前も素性も明かしていません。もちろん相手のことも聞き出しません。だから嫉妬や悪口が起きることもありません。常連のみなさんにとってもこのジムはオアシスで、この空間がなくなってほしくないとお互いに感じているからこそ、自然と距離を保った付き合いをする雰囲気ができているのです。

距離感を保った付き合いに変えたら物事がうまく回るようになったので、最近、生活場所も変えました。購入したマンションに欠陥が見つかったことに加え、母も高齢なので、ここ数年は実家に戻って母と二人暮らしをしていました。母も一人暮らしが長かったので、お互いを干渉しないようにキッチンを別に作り、1階に母、2階に私が住んではいたものの、やはり家は母の城、私は侵入者です。お互いに窮屈さはあり、身内でも近過ぎる関係はよくないと悟りました。

そこで自分の秘密基地を持とうと、書斎として2LDKの賃貸を借りました。戸数が多いので、ご近所付き合いも適度な距離感を保てるところが気に入っています。いまは実家と行き来していますが、いずれここを終の棲み家にしたいと考えています。不思議なもので、ここに住んでから執筆活動も楽しくなってきました。人間にとっての最大のストレスは対人関係ですから、濃い人間関係をやめたことで意識がそちらに向くことなく、創作活動に集中できるようになったのだと思います。

本来、孤独とは上等なものです。SSSへの問い合わせを見ていると、老後の不安で一番難しいのは、お金よりも「孤独や寂しさにどう対処するか」だと痛感していますが、一方で、私を含めて「孤独な老後」を楽しんでいる人も一定数います。幸せな老後を送れるかどうかは、孤独から逃げるのではなく「自分の孤独を愛せるか」なのだと感じます。

■夫婦こそ距離を保つことが大事

他人からどう思われようと、生き方は人それぞれ自由です。極端な話、自分がストレスを感じないなら、まったく人と付き合わなくてもいい。SSSの会員でも、そういう生き方を貫いている方がいらっしゃいます。

Getty Images=写真

四国在住の90代の会員で、毎年事務所に伊予柑を送ってくれる一人暮らしの女性がいました。ある年、伊予柑が届かず電話もつながらなかったためご自宅を訪ねたのですが、玄関には鍵がかかり、大声で呼んでも応答もありません。いよいよ心配になって、唯一開いていたサッシから家の中に入ってみると、奥の四畳半から薄明かりが漏れているのを見つけました。

うす暗い部屋をのぞいてみると、電気ストーブの前に、彼女は身動き1つせずに座っているではありませんか。驚愕したのは、毎日の食事は誰かが運んでくれているので、彼女自身は3年間家から一歩も出ず、人と話すこともなく過ごしていたことです。彼女は「寂しいって思ったことなんか、1度もないわ。私ね、友達も知り合いもいないけど、全然寂しくないの」と言って微笑みました。

思い返せば、会員になったときから彼女は「友達も頼る身内もいない」と言っていました。つまり、彼女は我々に伊予柑こそ送ってくれていたものの、若い頃から人を求めることなく生きてきたのです。だから1人で部屋にじっとしていることに何ら孤独を感じることなく、自分の思うように静かに生きているのでしょう。

周囲から見れば彼女は「かわいそうな孤独老人」かもしれませんが、本人が幸せならそうした生き方もいいのだ、と私も考えを改めました。むしろ「友達が欲しい。でも、1人の時間も欲しい」などと言って不安を抱えている私たちのほうが中途半端なのではないかとさえ感じました。

私は彼女ほど割り切った人生を歩めませんし、独身の方でも一人暮らしの方でも、社会に生きている以上、人付き合いは必要だと思います。とはいえ、せっかく独り身を謳歌してきたのに、こじれたら不安を増幅させてしまうような人間関係にこれからどっぷりつかるのはごめんです。だから、「60代になったら、趣味を複数見つける。人付き合いの距離を上手に保つ」という道を選びました。

特に、夫婦こそ距離を保つことが大事です。夫は没頭できる趣味を持って家を留守にすれば、逆に妻は夫のことを気にするものです。「もう浮気できるような年齢じゃないのに、あの人は何をしているんだろう?」って。孤独は至福の時間ととらえて、自分の趣味のために時間やお金を使う。1つに固執しないことで、孤独を愛することができるようになり、また新しい風が入ってきます。それこそが楽しい老後といえるのではないでしょうか。

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松原 惇子(まつばら・じゅんこ)
作家
エッセイスト。1947年、埼玉県生まれ。昭和女子大学卒業。ニューヨーク市立クイーンズカレッジ大学院にてカウンセリングの修士課程修了。近刊『老後はひとりがいちばん』のほか、『孤独こそ最高の老後』『クロワッサン症候群』等著書多数。

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(作家 松原 惇子 構成=干川美奈子 撮影=初沢亜利 写真=Getty Images)

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