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「絶対に借金をしない会社」が実は危ないワケ

プレジデントオンライン / 2019年12月12日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MilanEXPO

赤字続きの「落ちこぼれ集団」だった武蔵野を、社長として立て直した小山昇氏のもとには、いまもコンサルティングを希望する中小企業が列をなしている。中小企業を潰さないためにはなにが重要なのか。近著『会社を絶対に潰さない社長の「金言」100』(プレジデント社)より、そのノウハウをご紹介しよう。第1回は「借金」について——。(第1回/全3回)

■金言1:無借金経営は会社を潰す

優秀な社長は積極的に借金をする

現金は会社の血液です。どんなに儲かっていても、現金がなければ給料も払えず、支払いもできません。リーマン・ショックのあと、多くの老舗が黒字倒産しました。その原因は、無借金経営にありました。売掛金や棚卸資産の増加で資金繰りが悪化し、現金が不足してしまった。

銀行から借りればいいのに、と思うかもしれません。しかし、一度も借入れ実績のない会社が、急に融資を申し込んできたらどうでしょうか。何か問題があるのではないかと、銀行は警戒します。また金融機関にも資金の枠があるから、融資・返済の実績のある会社とない会社から融資を申し込まれたら、前者を優先するのは当たり前です。

一般的に「借金はしないほうがいい」「無借金経営を続けている社長は優秀だ」と考えがちですが、まったくの誤解です。優秀な社長は、会社を潰さないために積極的に借金をして、無借金にならないように心がけます。銀行から融資を受け、きちんと返済して実績をつくる。それがいざというときに困らない「倒産しない仕組み」のひとつです。

増収増益のわが社が「必要のない借金」をしているのも、「いざというときの備え」です。借金ができる「信用」そのものが財産になると考えています。

■金言2:無担保・無保証でも借りられる

「返してくれる会社」には貸したい

銀行からお金を借りるときは、担保も個人保証も必要ありません。借りる側と貸す側は対等です。本来、銀行にとって借り手はお客様で、「借りてください」と頭を下げる立場です。しかし、「お金は頼み込んで借りるもの」という意識が強い社長は、自分の立場を下に見て、個人保証をし、担保を提供して、「貸してください」とお願いする。だから銀行は、「貸してやる」と強気に出る。

武蔵野は平成29年4月に現金および普通預金を23億円所有して、21億円借りていました。すべて無担保です。個人保証もなく信用保証協会付きはゼロで、100%プロパー融資です。しかも、すべて「長期借入金」で、「短期借入金」はゼロ。こんな「超異常」なことがなぜ可能だったのか。

銀行は、現金を持っていて借りたお金をきちんと返済すると貸してくれる。5000万円全額返済すると、「5000万円貸していた会社」から「5000万円借りてくれる力のある会社」に変わります。そんな会社を他行に奪われるのはもったいないから、また貸したくなる。銀行は、「返してくれない会社」には貸さないが、「返してくれる会社」には貸したい。だから、返済をすると信用が高まり、無担保・無保証であっても再び貸してくれるようになります。

■金言3:頭取銘柄を目指せ!

「頭取が訪れた会社は倒産させない」暗黙のルール

頭取をはじめ専務、常務など、銀行のトップや役員は、ブロックごとに地域のお客様を訪問しており、各地域の取引先には数年に1度、頭取が訪問する機会があります。頭取が訪問するのは、支店長が「地域で一番のお客様」と、頭取に訪問を勧めた会社です。

幸運にも訪問先に選ばれた会社の社長は、この機を逃さず、万障繰り合わせて頭取をお迎えすべきです。銀行には「頭取が訪問した会社は倒産させない」という暗黙のルールがあり、「頭取銘柄」に選ばれたら、借入れに困ることがなくなる可能性が高いからです。

以前、武蔵野もメインバンクの頭取に訪問していただける機会がありましたが、スケジュールの調整がつかず、お迎えできませんでした。そこで経営サポート会員のアポロ管財株式会社(橋本真紀夫社長)を推薦したところ、訪問先に選ばれ、その後「頭取銘柄」となりました。

武蔵野はその支店で貸出額がトップでしたが、3年後、実践経営塾「長期資金運用合宿」に参加していた橋本社長から「今度、支店長が代わるんだってね」と言われ、翌日、曽我公太郎経理部長から「支店長が代わります」と連絡が来ました。アポロ管財に先に連絡がいったわけです。それほど「頭取銘柄」は優遇されます。その後、武蔵野も「頭取銘柄」になりました。

■金言4:社長が見るべきはP/LよりB/S

企業は「赤字」でも倒産しない

企業は赤字でも倒産しません。倒産するのは現金がなくなるからです。「黒字なら倒産しない」「赤字だから倒産する」と短絡的に考えるのは、経営をP/L(損益計算書)だけで判断しているからです。B/S(貸借対照表)ベースの経営をすれば「倒産の仕組み」に気がつきます。

P/Lは、1年間にいくらの売上があり、いくらの経費を使い、いくらの利益(損失)が出たかをまとめたものです。これに対してB/Sは、決算日現在の会社に資本金や利益余剰金(純資産)がいくらあり、いくらお金を借り(負債)、どう運用されているか(資産)を示します。「資産」の額と「負債」「純資産」の合計額は、バランスがとれて同額になります。このバランスが崩れて「負債」が「資産」を上回れば、債務超過となり、会社は倒産に向かいます。

事業経営は「お金が回ること」が何よりも重要です。会社にキャッシュがあるかどうかは、B/Sの「資産の部」の「流動資産」の科目のトップにある「現金預金」を見れば、一目瞭然です。この数字に厚みがあれば、会社は倒産しません。また、その他の資産も含めて流動性が高いほど倒産しにくい。それをチェックするために、社長はB/Sを見ます。P/Lは1年で変えられるが、B/Sを変えるには5年かかります。

■金言5:「率」より「額」を見よ!

有能な社員を投入すべき事業がわかる

税理士や会計士の指導は、数字を「額(量)」ではなく「率」で見がちです。粗利益率20%で売上1億円のA事業と、粗利益率5%で売上10億円のB事業があると、数字を「率」で考える社長は、A事業のほうが優良だと考えます。

A事業の原価は8000万円、B事業の原価は9億5000万円。B事業のほうが多額のお金がかかっているのに粗利益が低く、資金効率が悪いと考えるわけです。しかし、この見方が間違っていることは、利益額を計算すればすぐにわかります。A事業が生む利益は2000万円、B事業は5000万円。「額」で考えれば会社への貢献度はB事業が圧倒的です。

ここを理解していない社長は、A事業に有能な社員を投入して、会社の屋台骨を支えるB事業を台無しにしてしまいます。結果として、会社は傾きます。経営を支えるのは「率」ではなく「額」です。税理士や会計士は「総資本利益率(RОA)」「自己資本利益率(RОE)」「自己資本比率」「売上高営業利益率」「総資本回転率」など「率」によって会社を評価します。しかし、これらの指標を理解しても経営の道具には使えません。

数字を「率」で見るクセがついてしまった社長は、基本の「+」「-」に立ち返るべきです。

■金言6:お金は貯めるな! 回せ!

iPad導入で人件費削減に成功

キャッシュは会社の生命線です。だからといって、緊急支払能力を超える額のお金を使わずに貯めておくのは意味がありません。お金はそれ自体で価値を生みません。お金は、「貯める」のではなく「回す」のが正解です。つまり、投資をする。

小山昇『会社を絶対に潰さない社長の「金言」100』(プレジデント社)

具体的には、①お客様の数を増やす、②社員教育、③インフラ整備の3つに投資します。そうすると、銀行に預けておくのとは比べものにならない大きな価値を生みます。

武蔵野は、かつて1人あたり月平均76時間あった残業を、1台10万円のiPadの導入によって、2018年度は17時間にまで削減しました。月59時間の残業減で9時間分をランニングコスト(通信費)に回すと50時間。時給1000円として1人6万2500円(1000×1.25×50)の人件費削減につながります。iPadへの投資は、2カ月目で元が取れ、3カ月目以降はまるまる利益になる計算です。会社全体で見ると年2億250万円(社員約270人)の利益です。

一方、iPad代金10万円×270人の2700万円を銀行に預けても、金利0.001%で2万7000円です。お金を「回す」か、「貯める」か。答えは言うまでもありません。7500万円を賞与に増額したら、社員は大喜びでした。

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小山 昇(こやま・のぼる)
武蔵野代表取締役社長
1948年山梨県生まれ。東京経済大学を卒業し、76年にダスキンの加盟店業務を手掛ける日本サービスマーチャンダイザー株式会社(現在の武蔵野)に入社。77年に退職し、貸おしぼり事業を手掛ける株式会社ベリーを設立する。その後、87年に武蔵野に再び入社し、89年には社長に就任する。90年から92年まで株式会社ダスキンの顧問も務める。赤字続きの「落ちこぼれ集団」だった武蔵野で社長として経営改革を断行。2000年、2010年と国内で初めて日本経営品質賞を2度受賞する優良会社に育て上げた。その経験をもとに、現在720社以上の会員企業の経営指導を手掛け、全国各地で年間240回の講演、セミナーを行う。

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(武蔵野代表取締役社長 小山 昇)

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