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「2020年の景気は悪い」と断言できる統計的根拠

プレジデントオンライン / 2019年12月6日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/erhui1979

■前回の消費増税より、今回のほうが落ち幅が大きい

11月28日、経済産業省が10月の商業動態統計の速報値を発表しました。それによれば消費増税直後である10月の小売販売額は前年同月比で7.1%減でした。増税の影響に加えて9月の駆け込み需要から10月の小売販売額は当然落ちるということは想定されていました。

それでは、この7.1%減というのはどのようなレベルなのでしょうか。

一番わかりやすい比較でいうと、前回の増税があった2014年4月の小売販売額は前年同月比で4.3%減だったということです。つまり今回の増税での減少額のほうが大きかったことがわかります。経産省の分析によれば10月に台風被害が起きたことも、小売りの販売減に影響しているということです。

「まあそういった影響もあっただろうな」とは思います。しかし今回の速報をストレートに見ると、やはり消費増税の影響で来年の景気は悪いほうに向かうことが想像できる。なんとなく嫌な速報数値だというのが私の第一印象です。

もう少し詳しくみると、どう悪くなるのかが見えてきます。今回の記事は数字が多くなるので「いやだ」と感じる読者の方もいらっしゃるかもしれませんが、来年の景気予測について重要なことを書きますので、できれば我慢してお付き合いいただければと思います。

■消費増税の影響を受けなかった3つの業種

まず小売全体は7.1%減になった一方で、それほど売上が下がらなかった業種が3つあります。

1つは飲食料品小売業で、売上は前年同月比2.2%減にとどまっています。これにはわかりやすい理由が2つあります。

1つは今回の増税で食料品は増税の対象外となって8%の税率が維持されたこと。増税していないので売上減が少ないということです。そしてもう1つは食料品は生活必需品であるということ。買わないわけにはいかないので、その分減り方も少ないということです。

ただ増税の影響で消費者が財布のひもをしめる際、当然のことながら消費行動としては贅沢をなるべく避けることになるので、食料の売れ行きは無傷というわけにはいかない。10月は少しマイナスになったことを考えると、安心するのはまだまだ早いと私は思います。

そもそも食品については消費増税以降、節約志向が高まると予想されていました。今回10月時点で「増税していないのに売上が減っている」という結果が出たことは、今後、生活が苦しくなってくるとさらに食品の節約志向が高まることを予感させる要注意情報だと考えたほうがいいでしょう。

■ドラッグストアの食品売上がプラスになったワケ

2つめの業種はドラッグストアで、売上は前年同月比0.1%増と減っていません。これも予想の範囲内です。とくに処方薬を含めた医薬品に対する支出は減らすわけにはいきません。小売販売額に影響がなかったというのはわかりやすい結果だと思います。

ただこの点でもうひとつ深掘りすると面白い結果が見えてきます。それはついで買い効果がみられるという点です。

ドラッグストアでは調剤医薬品が8.9%増、増税の影響しない食品が7.4%増と、2つの主力商品が売上維持に大きく貢献しています。逆にトイレタリーや化粧品、ペット用品などの売上は減っています。しかしその減り方が小売業全体と比べると少ないという傾向が出ているのです。

もともと雑貨について、スーパーよりも安いイメージがあるのがドラッグストアです。だから今回スーパーやホームセンターの売上がドラッグストアに流れた。それに加えてさきほど触れたように食料品を本業とする小売店がマイナスだったのにドラッグストアの食品は大きくプラスです。

こういった点から、不景気な時代がくればドラッグストアは業態的には成長するのではないかという未来がなんとなく予感できるところが面白いと思います。

■注目すべきは来年7月以降のコンビニの売上

影響がなかった3つめの業態はコンビニです。キャッシュレスに対する2%ポイント還元政策が話題になった影響が大きかったのでしょう。さらにコンビニはもともと税率が8%のままの食品の売上比率が多いこともプラスに寄与したはずです。売上は前年同月比でみると実に3.3%増と逆に増えているのです。

これは想定の範囲内だとは思いますが、気になるのはキャッシュレス政策が終わる来年7月以降にコンビニの売上が維持できるかどうかです。ここはコンビニの未来を予測するにあたって注目すべきポイントだと思います。

一方で10月の速報値を見ると、これから先、増税の悪影響を受ける業態がどこなのかも見えはじめてきました。順に見ていきましょう。

まず大きく目をひくのが百貨店です。既存店の数字を見ると前年同月比16.4%減となっています。なかでも衣料品が20.7%減というのは想定以上のダメージです。さらにデパ地下人気で強いと思われていた飲食料品も4.7%減。やはり消費者が財布のひもをしめる際には食品でも贅沢なものから買い控えていくという現象が速報値に表れているようです。

■予想以上に消費動向に影響を与えている

次に家電量販店は14.2%減、自動車小売業は17.0%減とどちらも苦しい状況です。もちろんこの2つの業態は増税前の駆け込み需要も大きい業態だったことから10月が減るということは十分に想定できていました。とはいえ小売全体の減少と比べて減少幅が非常に大きいことを考えると、この先の厳しい戦いが目に見えるような気がします。

最後に気になるスーパーマーケットの状況を見ると既存店で対前年同月比は4.3%減。増税の影響しなかった食品の比重が大きい業態だということもありますが、それ以外の商品を含めてこの程度の売上減に抑え込めたのは、この先の見通しという点でいえばある程度明るい結果だったといえるのではないでしょうか。

結果をまとめると、消費税が10%に上がるということはやはり予想通りというか予想以上に消費者にとっては重大事で、それなりにきちんと財布のひもがしまりはじめていることが速報値から垣間見れます。

その中で必需品である処方薬、増税されなかった食品は優先してお金が遣われている。安売りのドラッグストアとキャッシュレスの恩恵があるコンビニは売上を維持ないしは伸ばしている。その分、デパ地下のような贅沢な食品にはややブレーキがかかり、衣料品、家電、自動車といった分野がまっさきに節約の対象となっている。

今回の商業動態統計の速報はそんなことが読み取れるかなり重要なニュースでした。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『仕事消滅AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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