「教育熱心でも子供が伸びない」のはなぜなのか
プレジデントオンライン / 2019年12月12日 9時15分
※本稿は、沼田晶弘『世界標準のアクティブ・ラーニングでわかった ぬまっち流 自分で伸びる小学生の育て方』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■「熱血指導」はいいのか悪いのか
世の中に無数にある「かくあるべき論」。
それが子どもにとって必要かどうかを見極めるときに忘れてはいけないのが、今の時代に合っているかどうかを考えることです。昔の正解が今も正解とは限らないのと同様に、親の時代には常識だったことが、今の時代には非常識になっていることがたくさんあります。
例えば、今、高校野球では、高校球児のために球数を制限したほうがいい、甲子園や地方大会で一人の投手に投げ続けさせるのは肩や肘を壊す原因になるからよくないといったことが話題になります。これも昔と今の価値観が変わってきている例の一つだと思いますが、では皆さんは、今、「熱血指導」という言葉を聞いたら、どんな感情を抱きますか?
部活動などでの体罰問題が増えるにつれ、「熱血指導=体罰」をイメージしてしまう人がきっと増えたのでしょう。今は、どちらかと言うと、熱血指導が悪い意味で使われていることのほうが多いような気がします。
ボクは、純粋な意味での熱血指導は、決して悪いことだと思っていません。「純粋な意味での」と言ったのは、一つだけ条件があり、それは熱血指導が科学的根拠に基づいているかどうかが問題だと思ったからです。
昔の部活動でよく見られた、「バテるから練習中は水を飲むな」と言った指導や、確実に膝に悪い影響を及ぼす「ウサギ跳び」などは、科学的根拠のない熱血指導です。先の投手の肩や肘を壊すといった問題も、もう何年か経てば科学的根拠に基づいた結論が出ると思います。
■「常識」や「非常識」は時代によって変わる
ボクは漢字テストをするとき、満点を取れなかった場合、間違えた漢字を10回ずつ書いて再提出してもらい、満点になったら完了というルールを設定しています。そして、1週間以内に「お直し」が完了しない場合、全部の漢字を10回ずつ書き直すペナルティを課します。
「お直し」を再提出することには学習上の意味があっても、期限を守れなかったペナルティには、それほど意味がありません。だから、保護者の方にも漢字テストのルールを説明したうえで、期限を守れなかったときのペナルティを受けないようにサポートしてほしいと伝えるのです。そうすると、親御さんも子どもたちも納得して、そのペナルティを受けないように頑張ってくれます。
また、万が一、ペナルティを受けることになっても、生徒はそれまでに「お直し」をするチャンスがあったのにしなかったからだと自分でわかっているから、受け入れてくれます。この漢字の書き取りも、現代の常識には合わないように見えるかもしれません。それでも、教師と生徒の両者が納得している、理にかなっている指導は、決してすべてが否定されるものではないと思っています。
時代によって、常識が非常識に変わるなら、当然、昔は非常識だったのに今は常識になっていることもあります。そして、小学生を育てることにおいてもやはり、そんな変化に合わせて変えていく必要があるでしょう。
■子育てを「KPI」で考えてみる
親御さんはみんな、子どもに「こう育ってほしい」という気持ちがあると思いますが、それが本当に子どものためになっているのかは、今一度、考えてみるといいとボクは考えています。例えば、教師が犯してしまいがちな過ちの一つに、KPIを子どもの学びではなく、自分の頑張りに置いてしまうというものがあります。
KPIとは、Key Performance Indicatorの頭文字をとった略語で、マーケティングの分野でよく使われている言葉なので、会社で働いている人は耳にしたことがあるでしょう。日本語にすると「重要業績評価指標」となんだか難しそうですが、簡単に説明すると、目標に対して、どれくらい達成できているのかをわかりやすく示した指標(目印)のことです。
例えば、最終的な目標を「売上を2倍にする」と設定した場合、それを達成するために、「商品を改良する」や「広告を増やす」「品数を増やす」「コストを削減する」など、いくつかの施策を考えますよね。KPIは、そうした施策ごとの目標値で、それがどれだけ達成できているかを知ることで、最終的な目標の達成にどれくらい近づいているかがわかりやすくなるのです。
■多くの教師は実は自分のことしか見ていなかった
このKPIを、多くの教師は自分の頑張りに置いてしまいがちです。最終的な目標が「子どもの学力アップ」だとしたら、本来なら「授業の理解度」や「勉強時間」「課題をこなした数」「子どもの興味度」などにKPIを設定すべきでしょう。
しかし、「授業をどれだけ面白くできたか」とか、「プリントをどれだけ用意できたか」など、子どもが学ぶために自分が何をしたかを重要視してしまう教師は少なくありません。
そのような場合、何が起こるかと言うと、例えば、子どもが座っていられない状態になったとき、「自分の話がつまらないから」と考えるのではなく、「自分はこんなに頑張っているのだから、座っていられないのは子どもが悪い」と考えてしまうのです。
そのような教師は、子どものためにと口では言いながら、本当は、子どものために頑張っている自分しか見ていないのでしょう。
■勉強するのは自分ではなく子どもたち
でも、実はボクも、かつては主語を子どもではなく自分にして、勉強を教えていた時期がありました。
教師になる前に塾の講師をしていたころ、自分が面白いことをしゃべって子どもを楽しませれば、きっと授業を聞いてくれるはずだと思い込んで、自分が面白くなることばかりを考えていました。
それで、多くの生徒は成績が上がったのですが、一方で変わらない生徒もいたのです。多くの生徒の成績は上がったので、周囲の人は褒めてくれることもあったのですが、自分の中では成績が上がらなかった子、取りこぼしてしまったと感じる子のことがどうしても気になって、自分の教え方は何かが違うと常に思っていました。そして、ふと気づいたのが、勉強をするのは自分ではない、子どもたちなんだという、すごく当たり前のことでした。
自分はバカだっていい。実際、当時のボクは英語の授業なども持っていたのですが、高校生に細かい文法などを教えられるほどのスキルは決して持っていなかったと思っています。でも、そんなボクでも、子どもたちが勉強する場をつくり、子どもたちが自ら勉強してくれるようになったら、教師としての役割は十分こなせると考えたのです。
■KPIは「子どもの学び」に置く
そして、ボクがまず行ったのは、とにかく子どもたちに塾に来いと伝えたことでした。当時、塾と言ってもやんちゃな子たちがいて、無断欠席をする子が数名いました。その子たちに、「遅刻してもいいし、早退してもかまわないから、塾に来い」と何度も言うと、彼らはラスト15分だけのときもありましたが、しっかり来るようになったのです。
きっと、彼らは塾を休んだら、家では1分も勉強しないでしょう。けれど、塾に来れば、90分の授業のうち、最低でも10分はしてくれるはずです。0分と10分、結果は一目瞭然ですよね。
このとき、ボクが行ったのは、自分が頑張って授業の内容をよくしたのではなく、子どもたちを塾に来させて、来てくれたらいかに子どもたちに楽しんでもらえるかを考えただけです。つまり、KPIを自分の頑張りではなく、子どもの学びに置いたことが、結果として、子どもたちが自ら学べる環境づくりにつながったのだと、今では思っています(当時は知らなかったけど(笑))。
だからこそ、KPIを「自分の頑張り」ではなく、「子どもの学び」に置くことが、子どもが自分で伸びるうえで重要だと思っています。その思いは、小学校の教師となった今もずっと持ち続けています。
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国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭
1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学ぶ。スポーツ経営学の修士を修了後、同大学職員などを経て、2006年から現職。児童の自主性を引き出す斬新な授業が話題になり、日本テレビ『news zero』等で特集される。著書に、『「変」なクラスが世界を変える!』(中央公論新社)『家でできる「自信が持てる子」の育て方』(あさ出版)等。
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(国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭 沼田 晶弘)
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