「笑い」がもたらす痛み緩和、驚きの身体反応
プレジデントオンライン / 2020年2月1日 11時15分
■吉本新喜劇を見て笑いの実証実験
私は「笑い」に関する医学的な研究を、近畿大学、吉本興業、オムロン、NTT西日本と共同で行いました。
2017年2~3月に実施、20~60代の男女20人に2週間ごと計3回、吉本新喜劇などを観て笑顔になった回数を表情判別機器で測定するというものです。
結果として不安感や抑うつ気分、痛みなどに対する良い変化が見られました。笑顔は、無理してつくったものでも一定の効果があるとされています。
「笑い」の効果に関しては、アメリカのジャーナリスト、ノーマン・カズンズの著書『笑いと治癒力』が、笑いのもたらす効果に注目を集めるきっかけになったと思います。
それまで「笑い」が特定の症状を和らげる効果について、一般的には認識されていませんでした。
カズンズは、すごく強い痛みの出る「強直性脊椎炎」という病気を患っていました。治療が難しい病気と宣言されたカズンズは、2つの治療法を選択しました。ひとつはビタミンCの大量投与。
そしてもうひとつが「笑いまくる」ことです。笑っているときは痛みがすごく和らいでいると感じたことがきっかけとなり、本にまとめたそうです。
実際に、笑うことで「ナチュラルキラー細胞」という、癌などの悪性物質を倒す細胞の働きを改善する効果が、03年に報告されています。
ただ、報告した本人は09年に、「一貫性はないかもしれない」という結果も報告しています。一貫性はなさそうですが、笑うことに損はなさそうです。
「笑い」が痛みを緩和するという報告は、ほかにも多数あります。
例えばイギリスの研究では、誰かとコメディ番組を見ると痛みの許容レベルが上がるという結果が出たそうです。
痛みを緩和する笑い方は、クスクスという上品な笑い方ではなく、腹式呼吸でお腹を使って思いきり笑う感じです。
体全体で体力を消耗するように笑うことで、痛みを和らげるエンドルフィンが出てくることがわかっています。
この研究を見ても、「笑い」は1人ではつくれないことがわかります。もちろん1人で笑う機会もありますが、その感情はすぐに消えてしまう。誰かと楽しく話したりすることで、その感情は維持できるのです。
外に出たり人と交流して、笑ったりポジティブな面白いことを発見すると、健康的な心と体をつくれるということです。
・ストレス、痛みの軽減
・怒り、不安、抑うつ気分の緩和
・血圧降下
・心筋梗塞リスク低下
・血糖値降下
・呼吸器機能改善
・エネルギー消費量低下
■「面白い」が与えるオドロキの身体反応
ネガティブな感情も、無理してなくす必要はありません。たまには必要なのです。
例えば「痛い」というネガティブな状況は体の危険信号。痛みがあってはじめて病院に行ったりしますよね。そういう意味で、ネガティブも時に大事です。その流れで、痛いときや辛さで悲しくて泣く行為も必要。泣いて外に出すことで、苦しみが緩和されます。
「面白い」と「笑い」は別物なんですよね。「面白い」は楽しいことも悲しいことも含みます。一方の「笑い」は、楽しさや幸せを感じるとき限定のもので、表情そのものを指す言葉でもあります。
「面白い」という言葉は、愉快や楽しいという意味のほかに、興味深いときにも使いますよね。
ポジティブな面白さを感じると、心の柔軟性が高まったり、行動のレパートリーが広がったりします。さらに、新しい活動や社会的関わり、動機付けの役割があるという報告もされています。身体的にも、ストレスや逆境などへの抵抗力が高まると言われています。
また、面白い映画を見ると、副腎皮質ホルモンの一種である「コルチゾール」というストレスホルモンが下がります。
さらに、男性ホルモンをつくる過程で出てくる「DHEA-S(デヒドロエピアンドロステロンサルフェート)」というホルモンが微増し、肥満、糖尿病、動脈硬化、記憶維持、骨粗鬆症などに有益な作用をもたらすとされています。最近では、生活習慣病や老化の分野でも注目されています。
ほかにも、ストレスで働きが鈍った心血管機能を早く回復するという報告もあります。
一方、ネガティブな感情が長期間続くと、免疫系などに悪影響を及ぼす可能性があります。
ネガティブの範囲は個人の受け取り方によって変わってきますが、大枠で言うと「悲観的感情」が続くことを指します。悲観的な状態が続くと、免疫系に関わっているT細胞というリンパ球の働きが悪くなり、病気にかかりやすくなります。
■コンタクトがずれるほどの大爆笑
「笑い」や「ポジティブな興味」は、痛みだけでなく怒りや不安、うつな気分を和らげたりすることもできます。また、個人差はありますが、血圧が下がる人もいます。ほかにも、心筋梗塞のリスク軽減、呼吸器機能の改善、血糖値を下げるなどが挙げられます。
思いきり笑えば血圧は上がりそうですが、興奮は一時的で、その後から自律神経が落ち着き、リラックスできます。
「1日何分笑えば健康になれる!」と言ってさしあげたいところですが、残念ながら、これに関してはまだ根拠が示せないのが現状です。
また、笑うときの声にも良い効果があります。
誰かと笑ったり、誰かの笑い声が聞こえたりするだけでも、社会との関わりを感じられ、アイデンティティを高められます。肯定的な感情が高まり、否定的な感情が減っていきますので、円滑なコミュニケーションにもつながります。
私自身の「笑い」体験からすると、やはり吉本新喜劇のような「生の笑い」で感じる気持ち良さは格別です。
「笑い」は拡散する力がすごいですよね。そこまで面白いと思っていなくても、隣の人が笑っていたら反射的に笑ってしまう。
日ごろ腹を抱えて笑うことが少ない私ですが、吉本新喜劇を見たときはコンタクトがずれるほど大笑いしました。
また、手を叩きながら笑う人もいます。あれも拡散させる方法のひとつだと思います。手を叩くほどおかしいとビジュアルで伝え、共有しようとしているのではないでしょうか。ただ、盛り上げるために意図して手を叩くこともあるので、「笑い」ほど拡散させる力はないかもしれません。
笑う習慣がない人は、笑えそうな場所へ行ったり、日々のルーティンに力を抜く時間をつくるとよいでしょう。ポジティブで面白いことを見つけられるようになると、笑う感情を持つ機会が生まれやすくなると思います。
ゲラゲラ大笑いすれば、細胞レベルでプラスになる
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「笑い」が身体的・心理的に与える影響について研究。
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(近畿大学医学部内科学心療内科部門助教 阪本 亮 構成=力武亜矢)
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