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出口治明が「初めて部下を持った時」に読んだ本

プレジデントオンライン / 2019年12月13日 9時15分

立命館アジア太平洋大学 出口治明学長 - 画像提供=出口治明氏

読書家として知られる出口治明さん(立命館アジア太平洋大学<APU>学長)の近著は『座右の書「貞観政要(じょうがんせいよう)」』(角川新書)だ。『貞観政要』は、帝王学の教科書として読み継がれてきた中国の古典。出口さんは「30歳で初めて部下を持ったとき」にこの古典を手に取ったという。その理由とは——。

■「日本人は真面目で正直」と今でも言えるか

米大手PR会社エデルマンが、28カ国、3万3000人を対象にオンライン調査を実施した結果、日本と欧米の「経営者に求められる資質」の違いが明らかになりました。

欧州では「正直である」がトップで53%。北米も同じで59%(ともに複数回答)でした。

一方、日本では「決断力がある」「有能である」などが上位になり、「正直である」は5位で26%にとどまっています。

僕は以前から、リーダーの資質としてもっとも大切なのは正直であることだと思っていたので、この調査結果は意外でした。

「日本企業は真面目で、正直で、誠実で、親切」が世間の通り相場だったのは、もはや過去のことなのかもしれません。粉飾決算や偽装事件といった不祥事が続く背景には、「会社のためなら、多少の不正もやむをえない」という歪んだ考え方がある気がします。

2019年9月、関西電力の金品受領事件が発覚しました(役員ら20人が福井県高浜町の地元有力者から多額の金品を受け取っていた事件)。

菓子の下に金貨を見つけたら、「おかしい……」と不審に思うのが市民感覚です。関電の幹部は、組織の論理を重視するあまり、少しずつ社会常識と乖離(かいり)し、歪んだ感覚に染まってしまったのかもしれません。

関電は、3回にわたり記者会見を行いましたが、責任逃れの姿勢がにじみ出ていて、その内容はかなりお粗末なものでした。記者会見はまるで、「裸の王様」を見ているようでした。関電の社内には、問題を正しく指摘できる人物が誰もいなかったのではないでしょうか。

■コンプライアンスは「法令を守ること」だけではない

欧米と日本の「経営者に求められる資質」の違いは、情報公開に対する意識の違いと解釈することもできます。

情報公開が不十分な社会では、「露見しなければ大丈夫」といった負のインセンティブが企業全体にまん延しやすくなります。その結果、正直さが重要だとはみなされなくなります。

グローバル化が進んでいる北米や欧州では、情報公開が常識です。経営者は正直でなければすぐに整合性がとれなくなり、答えに窮して信頼を失います。

コンプライアンスとは、一般的に法令遵守と訳されることが多いのですが、「法令を守ればよい」「法律に抵触さえしなければそれでOK」という意味ではありません。

事業活動のすべてがオープンになったとき、何一つ恥じることがないこと。こっそり何かをやったりせず、隠しごとをせず、偽らず、逃げず、堂々と申し開きができることがコンプライアンスの本質だと僕は考えています。

■初めて部下を持ったときに読んだ『貞観政要』

僕がはじめて複数の部下を持った30歳前後のとき、『貞観政要 上 新釈漢文大系』(原田種成・著 明治書院/下巻は翌年に刊行)が刊行されたので、早速読んでみました。

『貞観政要』は、唐の第2代皇帝、太宗・李世民の言行録です。太宗と臣下(部下)の政治上の議論や問答が、全10巻40篇の中にまとめられています。

「貞観」とは、当時の元号(年号/西暦627~649年)のこと。貞観の時代は、中国史上、もっとも国内が治まった時代(盛世/長い中国の歴史の中でもわずか4回を数えるのみです)のひとつといわれています。

「政要」とは、政治の要諦のことですから、『貞観政要』は、貞観時代の政治のポイントをまとめた書物であり、その中には、平和な時代を築いたリーダーと、そのフォロワーたちの姿勢が明快に示されているのです。

管理者になりたての僕は、『貞観政要』に記された太宗と臣下たちの問答の中から、リーダーや組織がどうあるべきかを学びました。

貞観3年、太宗は臣下の房玄齢(ぼうげんれい)に次のように語っています。

「古人の中で、国を良い方向に治めた者は、必ずまず自分自身を修めている。その身を修めるには、謙虚さを持って学ばなければならない。正しく学ぶことができれば、その身も正しくなる。その身が正しくなれば、君主があれこれと命令しなくとも自然と物事はうまく運ぶ」
(巻第一 政体第二 第十九章)

■不祥事企業のトップに欠ける「権限の感覚」

天下を治めるには、まず君主が自分の行いを正しくコントロールすべきである。自分をコントロールするためには、勉強をしなければいけない。勉強をするときは、素直さと謙虚さを忘れずに、正しい教えを請うべきである。正しい教えを学べば、正しい自分になることができる。そうすれば、天下は自(おの)ずと平和になる——と太宗は考えました。

中国の皇帝は、臣下の生殺与奪権という伝家の宝刀を持っていました。部下や人民を生かすも殺すも、与えることも奪うことも自分の思うままです。

出口治明『座右の書「貞観政要」』(角川新書)

けれど、皇帝は、むやみに権力を行使してはならない。権力は正しく使うべきであり、そのためには、自分が正しい人間にならなければいけない。太宗はこの宝刀の威力を知っていたからこそ、その力をもって人民や家臣を服従させてはいけないと自分を戒めたのです。

太宗と臣下の問答を注意深く読むと、「権限の感覚」、「秩序の感覚」がいかに大切かに気づかされます。

不祥事を起こした企業のトップには、太宗のような、謙虚さ、自制心、自立心、倫理観が欠如していたのだと思います。上に立つ人間は、誰よりもよき市民でなければならないのです。

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出口 治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学学長
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社に入社。2006年、ネットライフ企画(現・ライフネット生命保険)を設立。18年から現職に。

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(立命館アジア太平洋大学学長 出口 治明)

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