リーダーが「裸の王様」に陥るときの3つの条件
プレジデントオンライン / 2019年12月17日 9時15分
■部下に「自分の耳や目」になってもらう方法
太宗・李世民は、有能な人材を登用して能力を発揮させるとともに、彼らの諫言(かんげん)(目上の人の過失を指摘すること)に耳を傾け、常に自己を律していました。
李世民が傑出していたのは、自身が臣下を戒め、指導するばかりではなく、臣下の諫言を喜んで受け入れたことです。臣下の忌憚(きたん)ない諫言を聞き入れることで、裸の王様にならないように努めたのです。
李世民には多くの側近がいましたが、なかでも、
・魏徴(ぎちょう)
・房玄齢(ぼうげんれい)
・杜如晦(とじょかい)
の3人は、優秀な重臣として李世民を補佐しています。
太宗は、世の中の様子を正しく知っておかなければ、国は滅びると考えていました。
けれど、君主という立場がある以上、そう何度も宮中の外に出るわけにはいきません。そこで、臣下たちに、自分の目と耳になるように命じました。
(巻第一 政体第二 第七章)
■「人を鏡とすれば、自分の行ないを正すことができる」
生え抜きの房玄齢と杜如晦に対して、魏徴は外様であり、しかもかつて魏徴は、李世民の命を狙った敵方でした。
自分に敵対した人間であっても、その人物が有能であるならば、登用する。太宗は、私情を抜きにして魏徴を諫言大夫(皇帝が良くない施政をした場合に諫(いさ)める役職)に任命しました。
魏徴が亡くなったとき、太宗は、魏徴の死を次のように悼んだと言われています。
「銅を鏡にすれば、衣服や身なりを整えることができる。歴史を鏡とすれば、人の世の興隆や衰亡を知ることができる。人を鏡とすれば、自分の行ないを正すことができる。厳しいことを言ってくれる魏徴は、鏡のような存在であった。魏徴を失い、私は一面の鏡を失ってしまった」
自分のまわりにいるのは茶坊主ばかりで、もう誰も自分を諫めてくれない。自分の本当の姿を教えてくれる人はもういなくなったと、太宗は魏徴の死を嘆き悲しんだそうです。
■リーダーが「裸の王様」に陥らない3つの方法
企業不祥事の原因のひとつは、リーダーの姿勢にあります。リーダーが魏徴のような存在を遠ざけ、茶坊主やゴマすりばかりを集めると、裸の王様になります。ゴマすりは、裸の王様を見ても、正直に裸だとは言ってくれません。
リーダーが正しい意思決定を行うためには、厳しい直言をしてくれる人をそばに置いて、鏡とすべきです。
リーダーが魏徴のような存在を得るためには、次の3つの方法が考えられます。
①厳しい監査役を置く
②若手が声を上げる
③「360度評価」を導入する
これらを一つずつみていきましょう。
①厳しい監査役を置く
ライフネット生命時代の僕にとって、魏徴は常勤監査役でした。僕よりも3歳年上で、保険業界の天国も地獄も知る大人物です。常勤監査役は本当に厳しい人で、「大将はもっとどっしりしていないとダメだ」「おまえ、アホか」と、毎日のように叱られていました。
立派な経歴を持ちながら、普段は何も言わないが、いざというときにはズバズバものを言う。そんな社外取締役のことを、作家の城山三郎は「ゲンコツつきの金屏風」と呼んだそうです。ライフネット生命の社外役員は全員、「ゲンコツつきの金屏風」でした。僕が道を誤らなかったのは、金屏風の叱責があったからです。
②若手が声を上げる
会社の中で違和感を覚えたら、すぐに発言したほうがいい。特に若い社員は会社の文化に染まっていない分、声を上げやすいと思います。
日本は「決めたことはみんなで守りましょう」という風土があり、声を上げにくい。でも黙っていることは、共犯になることと同じなのです。
③「360度評価」を導入する
貞観2年に、太宗が魏徴に質問をしました。
「どのような人物が明君で、どのような人物が暗君だと思うか?」
すると魏徴は、即答します。
(巻第一 君道第一 第二章)
■なぜ多くの人の意見を聞く必要があるのか
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/7/200/img_473e1abe9d2c6cb8265081d859c31a85206135.jpg)
魏徴が太宗に伝えているのは、「360度評価」の大切さです。360度評価とは、下からを含めて複数の人が評価を行う評価方法です。
評価者の評価の違いに着目することで、物事を的確に、立体的に捉えることができます。
なぜ、多くの人の意見を聞く必要があるのかといえば、物事は見る人、見る角度によって、善にもなり、悪にもなるからです。したがって物事を公平に、客観的に評価するためには、さまざまな視点からの意見を集める必要があるのです。
リーダーは部下の直言を積極的に受け入れ、自らを鍛え上げる。そして部下は、上の意向を忖度せず、不条理な命令には異論を唱える。それこそが組織の自浄作用を働かせる要諦だと僕は思います。
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立命館アジア太平洋大学(APU)学長
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命に入社。2006年、ネットライフ企画(現・ライフネット生命)を設立、社長に就任。同社は12年に上場。18年から現職。
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(立命館アジア太平洋大学(APU)学長 出口 治明)
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