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芸人ではない中居正広が笑いを楽に取れる理由

プレジデントオンライン / 2020年1月18日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

僕はネクラなアラサー編集部員だ。同期の飲み会は誘われてもいつもギリギリ最後に誘われるし、上司から呼ばれるときも「くん」の敬称が僕だけ取れない。そんな僕が、笑いを取る方法を教える研修への参加……。嫌な予感しかしない。

■ビジネスに効く即興演劇テクニック

「結城くん、今日こんな研修が行われるのですが、行ってくれませんか」

2019年11月の初め。上司から1枚の紙を渡された。そこには「『お笑い』+『インプロ』30秒スピーチで笑いを取る方法」とある。僕は少しムッとして「でも、これって僕が面白くないって……」と言ったら、被せ気味で「そんなんじゃない」と否定された。

「今度の特集企画のネタですよ。誰もそんなこと思っていません。なっ?」

上司が周りに同意を求めた。近くにいたオシャレボーイの後輩、松本だけがこちらを一瞥し「もちろんっす!」と言う。

「インプロというのは、打ち合わせや台本のない『即興演劇』のことです。取材経費も出ますし、冷やかし半分でいいですから行けませんか」

腑に落ちないところはあったものの「わかりました」と告げ、準備を始める。編集部を出ようとすると、上司が「佐藤! おまえ女性ファッション詳しかったよな?」と言うと、佐藤さんが「もちろん! 毎号『AneCan』をチェックしていますから」と答えて、編集部で笑いが起こった。

「あの雑誌休刊してるだろ!(笑)」

同僚たちの楽しそうな笑い声に押し出されるように編集部を後にした。

■世界共通の笑いの原則とは

場所は東京・新宿の小さな貸会議室。インプロ講師の渡辺龍太さんは、バラエティー番組の構成を手がける放送作家で、さらにアメリカに留学してハリウッド流の即興演劇を学んでいた。インプロは有名なハリウッド俳優のみならず、Googleなど世界トップ企業のグローバルエリートも受講しているらしい。

「今日は2つのことを皆さんに覚えていただきます。まずは、笑いとは才能ではなく技術だということ。次に、笑いを取る能力を鍛える方法があること。プロのお笑い芸人になるには才能が必要ですが、日常の笑いを生み出すうえでは技術を知っていれば十分です」

参考例として紹介されたのは、タレントの中居正広さんの笑いの取り方。

「中居さんは芸人じゃないのに人を笑わせるのがうまい。私が考えるに、中居さんはお笑いのプロのトークフォームをうまく再利用しています」

パワーポイントで図解を見せながら説明を続ける。中居さんはある番組で共演したジャニーズの後輩(当時)で彫りの深い顔を持つ錦戸亮さんを「君は、足の裏じゃないよね?」といじって笑いを取ったという。これは中居さんが歌番組で共演する、とんねるずの石橋貴明さんがしばしば人の見た目を「君は○○じゃないよね?」と言って笑いを取るトークフォームを再利用したそうだ。

「このフォームの何が人を笑わせるのか? それは『君は○○じゃないよね?』というごく普通の文の『○○』に、その場に合わない予想外の言葉が入るからです。そしてそれを、さも当たり前のことのように言う(行う)ことが大切です。これは世界共通の笑いの原則です。たとえば電車で向かいの席にカツラがズレている人を見たら笑ってしまう。これは皆が電車に乗っている日常風景の中で、ある人の頭にだけ異常なことが起きているからです。一方、ハロウィーンのパーティーで金髪のカツラを被っても笑いは起きない。なぜなら、ハロウィーンでは異常なことをするのが普通であるので、驚きがなくなってしまうからです」

予想外で異常なこと。狩野英孝さんのギャグ「ラーメン、つけ麺、僕イケメン!」でクスッと笑ってしまうのも、最後も麺がくるかと思えば、突然別のものがきて、しかもそれを当たり前のように言うから、笑ってしまう構造だということだ。

「インプロ的な笑いの基本セオリーは、この『異常な場で日常に、日常の場で異常に、を当たり前のことのように行う』ということを頭に入れておいてください」

■会話が続かない人がやりがちなこと

笑いのセオリーについては納得しきりだが、正直言ってこういうのを求めていたわけではなかった。というのも、自分は社内や友人の前でおかしなことを言うキャラではない。そう思っていると、渡辺先生はインプロの説明を始めた。

「インプロの笑いの基本フォーマットは『Yes,and』。これは、相手の話に対して『でも』『しかし』という『But』で反応するのではなく、相手の話を受け入れたうえで、それに乗っかって話を積み上げていくこと。会話が続かない人、場を盛り上げられない人は、これがまったくできません」

そう言われてドキッとした。まさに僕のことだ。「Yes,and」で笑いを取るためには、他人と違う異常なことを発表する勇気、アイデアを外に出す発想力、聞いて話すことを正確に行う論理力の3つを鍛える必要があるという。

そこで、この3つの力を鍛えるためのワークショップが始まった。訓練①はアウトプットするための勇気と発想力を鍛える準備運動だ。STEP①のように、やみくもに何の脈略もない単語を挙げてみても、なかなか出てこないが、STEP②、③のように、まず五十音の文字を挙げ、次にそれぞれの文字で始まる単語を挙げてみると、脈略もない単語が次々に出てきた。

「会話の際、困ると急に黙りこくってしまう人がいますよね? あれは黙るから何も浮かんでこないとも言えます。そういうときは『え~と』『ちょっと待ってください』とか、とりあえず何か声に出してみる。すると、その音がヒントになって、アイデアを思いついたりするのです」

続いて訓練②は論理力を強化するトレーニング。これは2人1組で一文節ごとにテンポよく言い合って、会話を成立させるというもの。

編集者の僕は論理力には少なからず自信があり、これなら簡単だと思い、隣の人とやってみた。

自分「昨日」
相手「私は」
自分「動物園に」
相手「猿を」
自分「見に行った。」
相手「猿の」
自分「……」

20秒ほど固まってしまった後に「見ていた子どもが?」という意味不明なことを言ってしまった。頭のどこかで「猿は」とくるかと思っていたのに、「猿の」と言われたため、思考が付いていけなかったようだ。柔軟な論理力に欠けていることを実感させられた。

意気消沈する中、発想力を鍛える訓練③はさらに手強い。やはり2人1組になって、相手が話す状況を受け入れたうえで自分なりの面白い返しをするトレーニングだ。たとえば、「社長、大変です! ネズミが大発生しました」と言われたら、「それはちょうどいい。猫を飼い始めたところなんだよ」と「Yes,and」で言い返す。渡辺先生は僕と参加者の1人を指名する。皆の前でやることになった。

相手「お坊さんだったんですよね?」
自分「そうなんですよ!……」

いきなり言葉が詰まってしまった。相手の言うシチュエーションが唐突で、言葉が思い浮かばない。それでもなんとかひねり出した。

自分「四国遍路に行ってお坊さんになってみたいなと思ったんですよ」
相手「お坊さんになると100日くらい坐禅するって本当ですか?」
自分「そうじゃないんですよ!……」

笑いが起こった。しかし僕は赤面である。講師が解説する。

■即興で人を笑わせる

「今のも笑いでいえば大成功(笑)。結城さんがルールから外れた言葉を言ったことで皆さん笑ってしまったんです。しかし、返しは否定でしたね。『But』や否定で繋げるのは、積み上げてきた会話を反転する新たなロジックが必要になる。だから結城さんも言った後に言葉が詰まってしまいました。『Yes,and』なら、相手の出してきたアイデアにプラスして自分が何かを加えるだけ。そうすると省エネでアイデアが生まれ、即興で人を笑わせることもできます」

そう言われて今日、編集部で佐藤さんが笑いを取っていたことを思い出した。「もちろん!」と返していたが、あれも「Yes,and」だ。

一方、僕は普段から逆接の接続詞や否定的コミュニケーションを多く使っていることを改めて実感した。逆接の接続詞や否定から入ると、会話を途切れさせることになり、話が盛り上がらない。僕がいると場が白けてしまう根本の要因は「But」から入ってしまう癖だと気づいた。それを直すのが「Yes,and」なのだ。

3つの訓練を通じて、普段から自分の準備した土俵上でしか会話をしていないことが身にしみてわかった。インプロを練習すると、笑いを取れるだけではなくて、仕事の場でも相手の土俵に乗ったうえでうまい返しができるような「即興力」がつきそうだ。

■モテる人のワザ

「へこんで帰ってもらうのも悪いので(笑)、最後に簡単に笑いを取れるテクニックを紹介します」

渡辺先生は図を見せ、まず30秒で話せそうなエピソードを紙に書かせ、各自に読ませた。

「エピソードを話すと、時系列に話してしまいがちです。これだと聞いているほうも内容はつかめるのですが、笑いを起こすのは難しい。そこで今書いたことに自分の感情を加えて、再び読み直してみてください。千原ジュニアさんはトーク番組で『昨日、ムカつく後輩がいてね』と入ったりしますが、感情を表す言葉を使うことで、観客や視聴者を一気に注目させ、笑いをもたらすのです」

図に僕が書いた例を挙げたが、確かに感情をはさむことで、笑わせられるかはともかく、注目されそうな言い回しになった。特に千原ジュニアさんのように感情を表す言葉をトップに持ってくる倒置法的な使い方は効果がありそうで、これなら生真面目な僕にも使えそうだ。

今回参加してみて、インプロの訓練は、自分に足りない「即興力」が見えてきて、目から鱗だった。いきなり人を笑わせるのは無理だとしても、相手の問いかけを受け入れたうえでこちらの話を投げかけることは、異性にモテる人や場を盛り上げる人が無意識に使っているテクニックでもあるのだろう。

僕のようにネクラな部下を抱えて困っている上司がいたら、これをやらせてみるのもいいかもしれない……帰り道でそんなことを考えながら、ふと、上司が僕にこの取材をさせたのは、そんな動機なのではないかとも思った。

そういえば、上司に取材を頼まれたとき、僕は「でも、これって僕が」と返したが、これこそまさに「But」で始まる受け答えだ。これを「Yes,and」にして、「いいですね。僕にピッタリの企画ですね!」と切り返したら、佐藤さんのように編集部を沸かせることができたかもしれないな、と思った。

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渡辺龍太
即興力(インプロ)養成コーチ
放送作家。著書に『1秒で気のきいた一言が出るハリウッド流すごい会話術』など

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(プレジデント編集部 結城 遼大 取材・構成協力=麻生晴一郎、中野一気(中野エディット)撮影=宇佐美雅浩)

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