売り上げも利益も優秀な店のスタッフの動き方
プレジデントオンライン / 2019年12月11日 11時15分
■コンビニ市場は飽和したのか
——マスコミでは、コンビニの出店数や店舗売上高の伸びが鈍化していることから、コンビニ飽和論も聞かれ、他チェーンのトップも飽和を認めていますが、どう思われますか。
【鈴木】もし、どのチェーンも同質化し、業績も同じレベルであったら、市場は飽和しているといえるかもしれません。しかし、セブン-イレブンの1店舗あたりの平均日販は65万6000円(2018年度)と、他のチェーンと比べて12万円以上の開きがあります。この日販の差は同質化していない何よりの証しです。
——つまり、市場は飽和していないと。
【鈴木】2000年代半ばに、業界全体で既存店売上高の前年割れが相次いだときも、マスコミはしきりに市場飽和論を唱えました。同業他社のトップの口からも「市場飽和」の声が聞こえ、私との基本的な考え方の違いを感じました。
当時、業績が伸び悩んだのは、“踊り場”に差しかかっていたにすぎなかった。コンビニはこれから先も市場の変化に対応していけば飽和はありえない、高齢化や女性の社会進出が進むなかでコンビニこそ、もっと必要とされると、私は一貫して唱え続けました。
実際、セブン-イレブンでは2009年から、「近くて便利」というコンセプトを掲げ、ポテトサラダ、肉じゃが、筑前煮、ひじき煮、きんぴらなど、プライベートブランドのセブンプレミアムのシリーズで惣菜類のメニューを増やすなど、品ぞろえを大幅に見直しました。高齢世帯や共働き世帯が増えるなか、遠くのスーパーまで買い物に出かけなくても、近くのコンビニで食事づくりの手間や煩わしさを解決できるようにした。既存店売上高は増加に転じました。
——これからも、変化に対応していけば、コンビニもまだまだ成長できるのでしょうか。
【鈴木】市場飽和を唱える人たちはマーケットを既存のものを基準にとらえるからです。消費者のなかにも、「コンビニといえば、ああいう店だ」という固定したイメージが出来上がっているところもあり、そのイメージのなかにいる限り、マンネリ化するだけでしょう。しかし、「コンビニとはこういうものだ」という定義はないのです。大切なのは、新しい時代に合ったものを見つけ出すこと。特に、みんなが困っていることを解決していくことです。
セブン-イレブンが始めた公共料金などの収納代行サービスも、店舗へのATMの設置も、みんながあったらいいなと思っていることを実現したものです。人々の困り事や不満がなくなることはありません。テーマはいくらでもあり、それを考えることこそがコンビニ業界にいる人間の役割です。
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■仕事の生産性を上げるには
——一方、24時間営業の見直しの背景にもなっている店舗スタッフの人手不足の問題はそう簡単には解決しそうもありません。
【鈴木】考えるべきは、今働いているスタッフたちの生産性を高めることです。店舗の設備の改善やデジタル技術の導入による作業時間の短縮で人手による作業時間を短縮化することも必要ですが、より重要なのは一人ひとりの仕事の取り組み方です。
セブン-イレブンでは、発注分担といって、パートやアルバイトのスタッフにも担当商品を割り当て、発注を任せます。スタッフは、明日の気象情報や行事予定などの先行情報を基に売れ筋商品の仮説を立て、積極的に発注し、POS(販売時点情報管理)システムのデータで結果を検証するという単品管理を実践しながら、発注精度を高めていきます。
それは売り上げ増となって表れ、店の業績に貢献するとともにスタッフの生産性が上がる。仕事のやりがいが増し、定着率も高まる。業績がよく、複数店舗を経営するオーナーの店では、積極的な経営によりこの好循環が回り、人手不足で困るという話はあまり出ません。一方、オーナーが保守的な心理に傾いて消極的な経営に陥り、逆の循環になってしまうこともある。そうならないよう、どれだけ支援できるか、本部の力量がますます試されるようになっているのです。
——仕事の取り組み方といえば、最近の働き方改革についてはどうお考えですか。
【鈴木】時間にも量の時間と質の時間がありますが、最近の残業規制は、単に仕事の量の時間を減らそうとしているように思えてなりません。仕事の生産性が低いまま、量を減らしたら、どうなるでしょう。今の時代は、すべてにおいて「量」から「質」の時代に変わってきています。重要なのは、働く時間の質を高めること、つまり、一人ひとりの質的な生産性を高めることです。
——仕事の生産性を高めるにはどうすればいいのでしょう。
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【鈴木】問題は、なぜ生産性が高まらないかという点です。それは、人間が基本的には「善意の生きもの」であるからです。人間は善意から、よりよく仕事をしたいと思う。そして、自分が善意なら、相手も善意に受け取ってくれるだろうと思う。しかし、それが思い込みや錯覚である場合も少なくありません。結果、本質的には必要のない本末転倒した仕事をしたことになってしまう。
——本人も善意でしていることだから、思い込みや錯覚になかなか気づかないわけですね。
【鈴木】仕事の生産性を上げるには、必要最低限の人数で期限を明確に区切ることです。人数と時間が限られれば、本質的な仕事に絞るようになり、仕事の質は高まっていきます。
たとえば、私は会社の管理部門の人員については、「増やしてはいけない」といい続けました。人数が少なければ、役割を細分化したり、固定したりせず、「自分は○○の担当だから××は自分の仕事ではない」といった悪しきセクト主義に陥ることもなく、誰もがマルチに対応しなくてはなりません。情報の伝達と共有がスムーズにいき、生産性の向上が図れるのです。
■流通小売業の近未来像とは
——今後の流通小売業界のあり方について伺います。総合スーパーにしろ、百貨店にしろ、リアル店舗の業態は低迷が続きます。どのような対応が求められるのでしょう。
【鈴木】大きな流れとして、社会が成熟化するほど、市場のニーズはローカル性が強くなっていきます。私は在任中、セブン-イレブンの近未来像を探らせるため、特別なチームを組んで実験をさせました。チームは、本部が想定した標準的なモデル店舗の商品構成やレイアウトにとらわれず、地域固有のニーズや食文化に合わせた店づくりに挑戦し、大きな成果を上げました。
イトーヨーカ堂でも、地域の特性に対応する「個店経営」を目指し、本部主導ではなく、店舗主体で自由な発想で運営する独立運営店舗の実験を行い、これも成功しました。東京中心から地域ごとの自律分散へ、全国一律から地域性重視へ、今後は徹底した地域対応が求められていくでしょう。そして、もう1つは、ネットとリアルの融合によるオムニチャネルです。
——鈴木さんは在任中、オムニチャネルの推進に力を入れられました。
【鈴木】日本では、オムチャネルは流通のチャネル戦略の1つと受け取られがちで、本質が十分に理解されていないように感じます。私はオムニチャネルについて、グループが持つさまざまな店舗網、販売方法、システムなど、すべての事業インフラを、ネットとリアルの境目を越えて、お客様を起点にして新たに組み直していくという顧客戦略であると位置づけました。それは「流通のあり方の最終形」にほかなりません。
——最終形とはどのような意味でしょう。
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【鈴木】戦後の消費社会は3つのフェーズで進化してきました。第1のフェーズは「メーカーによる合理化」です。モノ不足の時代、メーカーはモノづくりの合理化を進め、大量生産を可能にした。第2のフェーズは「流通による合理化」。スーパーなど流通で合理化が進み、大量の商品が高効率・低コストで販売される仕組みが整備された。
そして、第3のフェーズが「消費者による生活の合理化」です。消費が飽和した今、消費者がメーカーや流通の都合に合わせるのではなく、消費者自身が自分たちの生活の合理化を図り、モノや流通を選ぶようになっている。これにネットとリアルを融合して対応するのがオムニチャネルなのです。
——オムチャネルにとって、キーになるポイントは何でしょう。
【鈴木】それは、自主マーチャンダイジングの能力、すなわち、自分たちでオリジナルな商品を生み出すことのできる商品開発力です。新しい商品をリアル店舗で販売するには、一定量以上の数量を生産しなければなりません。一方、ネット販売では、ユーザーからネット上で発信された情報などを基に、独自に開発した、ほかにはない新しい商品をネット上で多品種少量販売することが可能で、それが自己差別化につながります。そのオリジナル商品はジャンルを問わない。それこそ、商品は「雑巾」でもいいのです。
そのなかから、ニーズの高い商品をリアル店舗での販売に移行させ、ヒット商品へと育てていく。つまり、オムニチャネルが新しい商品を生み出す“孵卵(ふらん)器“の役割を果たすことができるのです。ネットを制したものがリアルも制する。オムニチャネルの時代だからこそ、新しい価値を持った商品を生み出せる企業こそが競争力を持つと私は考えます。
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セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問
1932年長野県生まれ。中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現トーハン)を経て63年イトーヨーカ堂入社。73年セブン-イレブン・ジャパンを創設し78年社長に就任。92年イトーヨーカ堂社長、2003年イトーヨーカ堂およびセブン-イレブン・ジャパン会長兼CEOに就任。05年セブン&アイ・ホールディングスを設立し、会長兼CEOに就任。16年から現職。著書『わがセブン秘録』『挑戦 我がロマン』など多数。
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(セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木 敏文 文=勝見 明 撮影=市来 朋久)
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