なぜ夫に"重大なことを相談"してはいけないか
プレジデントオンライン / 2019年12月15日 6時15分
※本稿は黒川伊保子『夫のトリセツ』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
■「相談」するから、「ノー」と言われる
意地悪な夫でなくても、夫に「仕事したい」「子どもを塾に入れたい」などと相談すると、たいていの場合、ブレーキをかけられる。危機意識の強い男性脳(とっさの危機回避力が低いので変化を厭う)は、問題が起きない限り(食べていけない、学校の授業についていけない)、現状維持を望む。
このため、私自身は、夫に相談する、ということがほとんどない。
会社を辞めて起業するときも、「再来月、会社を辞めて、起業するね」と報告をしただけ。もちろん、その利点(幼い息子のそばにいられ、家事をする時間が増える)を強調し、マネープランも説明したけれど。「どう思う?」とは聞かなかった。そう聞けば、ネガティブな答えが返ってくるに違いなかったから。慎重派の彼は、我が家のブレーキ役なのである。このとき、ブレーキは欲しくなかった。
夫に何か提案するときは、どんな些細なことでもネガティブな理由は使わない。「今の会社が嫌だから、もういられない」という言い方をすると、その問題解決をしようとして食い下がってくる。「ベンチャーブームで資金が作れる見込みが立った。今がチャンスだから、やってみるわ」と笑顔でプレゼンテーションするしかない。
もちろん、独立に当たっては、私も不安だった。しかし、その不安を夫にぶちまけたら、夫は強いブレーキになってしまう。私自身の不安は、自ら乗り越えるしかなかったのだ。
■夫に不安を解消してもらおうと思うな
いつだったか、新聞社の取材で、「黒川さんは、主婦起業ですよね。この世には、夫の協力を得られず、働きに出たくても出られない主婦の方がたくさんいます。その方に一言を」と言われたことがある。
「夫の協力」を先に確保しようとしてない? 自分の不安を、夫に解消してもらおうと思ってるよね? それをやめたほうがいい、と私は、アドバイスした。
夫に「そろそろ、働きたいの」と相談して、「僕が家事を手伝うよ。保育園のお迎えも、週に2日はやってあげるから、大丈夫。君のやりたいように挑戦してみればいい」なんて優しい声をかけてもらうつもりだったら、甘すぎる。
夫だって、社会でギリギリの思いをして働いているのだ。「家のことをちゃんとしてくれるのなら、働いてもいい」と言えるのが関の山じゃないだろうか。
働きたかったら、当たり前のように働く。それしか手はない。「この春から、職場復帰するわ。何があっても、保育園を確保する」と宣言するだけ。
「保育園の送り迎え」だの「家事の分担」だの、最初に夫に確約を取っておけば、妻側の不安は解消されるだろうが、夫側の不安は無限大になってしまう。先の不安を増大させる能力は、実は男性脳のほうが高いのだ。
確約なんか取らなくても、火事場と一緒。家族が困ってパニックになれば、どうしたって手伝うことになり、男の覚悟もちゃんと決まる。「家のことがちゃんとできるなら、働いてもいい」と言われたら、「ちゃんとやるね」と明るく応えておけばいい。
■朝からやったことを列挙して泣く
後に「ちゃんとやるって言ったじゃないか」となじられても、なんら反省することはない。スルーするか、「やってるじゃん」と言い返すか、泣くかすればいい。
私なら「朝から、保育園の支度して、ご飯作って、ぐずるあの子をなだめながら保育園に連れて行って、会社に行って、お昼も食べずに働いて、保育園に迎えに行って、スーパー寄って、ご飯作って、その間に洗濯機を回して、あ、その前に、あなたのワイシャツの襟汚れにスプレーもして、子どもにご飯食べさせて、お風呂に入れて、絵本を読んで……。本当は、家族のために、もっともっとしてあげたいの。お部屋もきれいに片付けたい。どうしたら24時間でそれができるの? え~ん」と泣く。
この「朝からやったことを列挙する」は、けっこう効く。「なぜ世の中の夫は『言わなきゃ動かない』のか」でも述べたが、男性は、女性の所作を認知していないので、妻がどんなに身を粉にしているか、わかっていないのである。
新婚のある日、私は、お皿を洗いながら、「なんで、私ばっかり」と悲しくなってしまったことがある。朝から、ご飯作って、二人のお弁当を作って、一緒に会社に行って、一緒に働いて、帰ってきたら、私だけが座る暇もなく、洗濯、料理と走り回る。夫はのほほんとテレビを観ているだけ。
そこで、私は、しゃがんで泣いた。朝からしたことを列挙して、「本当は、全部やってあげたいの。なのに、疲れてお皿が洗えない。悲しい」と泣いたら、「皿洗いくらい、僕がやるよ」と言ってくれ、後は、「皿洗い」が彼の担当になった。その使命感は、35年経った今でも、薄れていない。
■ポジティブ・プレゼンテーションしかしない
女は、自分で覚悟を決める。夫に、不安を解消してもらおうなんて、つゆほども思わない。夫に何か提案するときは、どんな些細(ささい)なことでもネガティブな理由は使わない。ポジティブ・プレゼンテーションしかしない。
私は、息子の保育園の遠足に、私の代わりに行ってほしかったときも、自分が行けないからとは言わなかった。「今年は、保育園の遠足に行ってみない? 保育園の遠足なんて、子どもが育っちゃったら、行ってみたいと思っても行けないのよ。彼が日ごろ、お友だちとどう接してるかもわかるしね」と、権利を譲るかたちで提案しただけだ。
彼が断ったら、切羽詰まっていることを告白したかもしれないが、うちの夫は、私に「経営者として外せない、社運を賭けた外部プレゼン」があったとしても、自分の「定例ミーティング」を平然と優先する人なので、「行かない」と言い始めたら、ほぼ百パーセント翻すことはない。
夫が断ったら、私は、会社より息子を選ぶつもりだった。その必死の覚悟が伝わったのか、若い保育士さんに囲まれてバスに乗ってみたかったのかわからないが、夫は、機嫌よく遠足に出かけてくれたので、会社は危機を免れたけれど。
母親や姑にも、基本はポジティブ・プレゼンテーションが効く。「保育園に預けるなんて、かわいそう」と言われても、ひるむことはない。「お母さん、保育園で、年齢の違う子同士が一緒にいるのは、最高の英才教育だって、黒川伊保子が言ってます。自分より運動能力が高い年上の子の動作を見て育つと、発達がいいんですって」と、明るく言ってあげればいい。
■姑は、夫より腹がすわっている
姑は、味方につければ最強の女友だちである。私は、早期に職場復帰するつもりだったので、子どもが生まれて2カ月目に、夫の実家に引っ越した。身を寄せた、というのが正しい。黒川の母の翼の下に入ったのだ。「お義母さんだけが頼り」と頭を下げて。私は、何をするにも、義母の意見だけは尊重した。義母は、「現代的な子育ての方式はわからないから」と、なんでも私の意向を確かめてくれた。私の子育ては、義母との二人三脚だったので、実のところ、なにも威張れない。
義母は、当初、孫息子を保育園に入れることを拒んだ。かわいそうだと言って。しかし、息子が歩くようになったある日、「保育園を申し込んで」と言ってきたのである。近所の保育園を何度も見に行ったのだそうだ。子どもたちが園庭で遊ぶ姿を見ていて、「私じゃ、あんなに遊んであげられない。今の保育園は清潔で、楽しそう」と思ったという。
姑は敵じゃない。その懐に飛び込んでしまうというのも、一つの手だ。「お義母さん、一緒に保育園を見に行ってくれない? 私だけじゃ見落としがあるかもしれないから」と、最初から巻き込んじゃえばいい。夢と不安も、姑に聞いてもらったらいい。姑は、夫よりずっと腹がすわっているからね。
夫に、自分の不安をぶちまけるな。妻が何かを始めようと思ったら、夫は、不安の増幅器であると心得よ。
実際にことが始まったら、どうにもならなくて立ち往生している家族に知らんぷりはできない。知らんぷりを決めこむような情のない夫なら、いつか、捨ててもいい。
私は一時期、自分をシングルマザーで、夫を「なぜか子育てに協力してくれる友人」だと思って暮らしていた。そうすると、ブレずに主体的になれたから。それにシングルマザーのつもりでいると、夫はかなり協力的に見えたのだ(微笑)。協力的じゃなく、口も出さないタイプの夫なら、この妄想、悪くないかと。
■愚痴の代わりにキャッチフレーズ
自分の考えを伝えるときも、女性はつい、愚痴から話を始めてしまうことが多い。まずは、「悲惨な現状」と「悲しい気持ち」をわかってもらいたいと思うから。
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けど、夫相手には、これも逆効果なのである。結論から言ったほうが、すんなり理解してくれる。
とはいえ、「今日はご飯作りたくない。ただ、だらだらしたい」なんてことは、真面目な主婦は言いにくいよね。
私は、言いにくいことにはキャッチフレーズを付ける。「家族みんなの幸せのために、今日、お母さん、ご飯作らない」と宣言してしまう。「どういうこと?」と聞かれたら、「今日はとにかく疲れてて、今、ご飯作ったら、きっとイライラしてキレちゃうと思うのよ」と告白する。夫と息子は、爆発物でも発見したかのように、そうっと後ずさって、なんとかしてくれる。
愚痴や文句のかたちにすると、「たいへんなのは、君だけじゃない」「俺だって、忙しいんだよ」なんて言い返されて、心が望んだところには着地しない。
ポジティブ・プレゼンテーションと、明るいキャッチフレーズで、ちゃっかり自分のしたいようにする。実のところ「ひ弱なふりをして、甘える」という手も効くのだが、これを多用すると、下に見られて、大事な提案が通らない。女は覚悟を決めるしかない。
とはいえ、たまには、「これ、とれない」「痛~い。助けて」くらい言ってあげたほうが、男女の情が通うかも。今、この原稿を書いている2メートル先で、およめちゃんが、からんだ毛先をつまんで、このセリフを夫である息子に言ったら、息子が飛んできて、丁寧に解いてあげて、キスをしている(微笑)。
私は覚悟を決めすぎて、これが足りなかったんだなぁ、と、ちょっと反省。腹は夫の100倍すわっていても、ときどき、「できない~」と言って甘えるのが正解ですね、きっと。
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脳科学・AI研究者
1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『定年夫婦のトリセツ』(SBクリエイティブ)、『女の機嫌の直し方』(集英社インターナショナル)、『妻のトリセツ』(講談社)など多数。
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(脳科学・AI研究者 黒川 伊保子 写真=iStock.com)
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