海外富裕層が日本のコンビニ飯に感動した理由
プレジデントオンライン / 2019年12月10日 15時15分
■それは突然のリクエストだった
「日本のコンビニって面白いよね。コンビニの商品でフルコースを作ることって可能?」
それは、日本に旅行に来ていた、ある海外富裕層からのリクエストでした。
私たちエクスペリサスは、国内外のいわゆる「富裕層」といわれる方々に対して、これまで数多くの体験コンテンツを秘密裏に提供してきました。その中身は京都の夜に世界遺産を舞台に能楽や狂言を提供する、東京の寺院でミシュラン料理を提供するなど、どれも富裕層しか味わえないようなスペシャルな体験がほとんどです。しかし富裕層はぜいたくを求めているわけではありません。
冒頭のリクエスト主はシリコンバレーでテック系の会社を経営する40代の米国人男性です。超富裕層の彼は、日本で体験できる数ある選択肢の中から、コンビニのフルコースが食べたいというのです。
なぜ、限られた日本滞在期間中に、わざわざどこにでもあるコンビニの商品を食べたいのか。疑問に感じて質問すると彼は目を輝かせながらこう言いました。
「僕は、これだけ勤勉で長時間働いている日本人が、ふだん何を食べて、どんな生活を送っているのか、とても興味があるんだ。そんな日本人が常日頃から利用しているコンビニを、120%、体験してみたいんだ」
■海外富裕層向けコンビニ飯のフルコースを初公開
さらに彼は「コンビニの中でも、よく売れている商品でコースを作ってほしい」と念を押します。私はセブン、ファミマ、ローソンなど大手コンビニの売れ筋商品ランキングを収集し、友人のシェフにも電話で話を聞いてコースとして成立するようにして、四苦八苦してどうにか完成にこぎつけました。
・スパークリングワイン(「フレシネ コルドン ネグロ ブリュット」「マルティーニ アスティ・スプマンテ」)
・オードブル(「パストラミビーフの雑穀ボウルサラダ」「スパイシーチキンと玉子のチョップドサラダ」「ファミマプレミアム肉まん」「4種具材の極上肉まん」、生ハム)
・スープ(「オニオングラタンスープ」「北海道じゃがバターポタージュ」)
・パン(「金の食パン」)
・白ワイン(「デスパーニュ Blanc 白」「甲州クヴェヴリ」)
・魚料理(「お母さん食堂 さばの塩焼き」「サバの味噌煮缶」)
・赤ワイン(「シュヴァリエ・ド・ランシュ 2015」「バロン・ラ・ヴェリエール 2015」「ラ・シャルトリューズ・ド・セナック 2015」)
・肉料理(「ファミチキ」、焼き鳥)
・締めのおにぎり(「手巻 シーチキンマヨネーズ」「新潟コシヒカリおにぎり『極』神戸牛すき焼き」)
・デザートのあんまん
・最後は挽きたてのドリップコーヒー(「セブンカフェ」)
さらにただ提供するだけでなく「シャンパンは山梨県産です」「この肉まんは○○牛100%です」といったストーリーもくわえてホテルで食べてもらいました。その結果、「あなたたちのおかげで貴重な体験をすることができた。本当にありがとう」と非常に喜んでもらえました。
彼らの求める「体験」は私たちの日常生活にこそヒントがあるのです。
■ゴールデン街>ネオン街の法則
同じように海外富裕層が日本に何を求めているかが分かる、象徴的な事例があります。
当社では、海外富裕層向けに「新宿ディープツアー」という夜の新宿バーホッピング体験プランを独自につくって提供しています。
ツアーでは、新宿歌舞伎町からゴールデン街までをカバーしています。しかし、欧米のお客さまからのフィードバックでは「ゴールデン街でもっと楽しみたい」といわれることが圧倒的に多かった。
最初はたまたまだと感じていましたが、あまりにも連続して「ゴールデン街が良かった」といわれるので、次第に何か理由があるのではないかと思うようになりました。
ある日、イギリスから来たお客さまに対して「なぜゴールデン街のほうがいいのですか?」と聞いてみると、「ネオン街(新宿歌舞伎町)は世界中どこにでもあるけど、ゴールデン街のような場所(昔からある古風なBAR)は、東京のこのエリアにしかないでしょ。ストーリーがあり、歴史があり、小さいけどユニークネス。だからこっちでいいんだよ」と即答してくれました。
富裕層が旅行に求めるのは、世界中の「ユニークな観光資源」です。その彼らが、たとえばニューヨーク、ロンドン、香港と比較して、日本でしか味わえない体験として導き出した結論が「ゴールデン街>ネオン街」だったのです。
■「世界中を見わたしてもここでしかできない」
コンビニにしても、ゴールデン街の事例にしても、表面的に見たら「ユニークな体験だね」で終わってしまうかもしれません。しかし、その富裕層の頭の中を読み解くと「世界中見わたしても、ここでしかできない(可能性が高い)」というロジックがあります。
コンビニは世界中どこにでもありますが、「先進的な商品開発をしていて、商品競争が非常に激しい日本のコンビニで、最もおいしい料理を食べる体験」は、日本でしかできません。
また世界中どこにでもネオン街はありますが、ゴールデン街のような入り組んだ構造のBARとその雰囲気は非常にユニークネスであり、「ここでしかできない」体験として認知されているのです。
■自分の人生を豊かにしたい世界の富裕層
ボストンコンサルティンググループが2017年に発表した調査レポートによると、世界のラグジュアリー消費額は2023年までに154兆円まで成長します。そのうちモノ消費市場が49兆円、コト消費市場が105兆円となり、圧倒的にモノからコトへのシフトチェンジが表面化していきます。その予兆に気づいたのは私が大学卒業後、シンガポールに留学(2009~2011年)していた頃のことです。
私はシンガポール国立大学に通いながら、現地のプライベートバンクでインターンをしていました。そのとき、日本ツアーに行きたいというシンガポールの富裕層とお話しする機会がありました。当時、注目が集まっていたのが冬のレジャーです。私が「ニセコのスキー、網走の流氷クルーズ」などを提案すると、口々にこう言いました。
「日本に行ってみたいのだけど、もっとユニークなプランはないの?」
この言葉の意味することは、単純に高級なホテルに泊まりたい、ぜいたくをしたいということではなく、「高いお金を払ってでもいいから、ユニークな経験がしてみたい」ということです。さらに富裕層の海外旅行はどのようなものなのか聞くと、次のようなものだと教えてくれました。
●サンセットが有名なバリ島、モルディブなどのエリアで無人島を貸し切る。海岸にテーブルを用意し、シェフを連れてきたら、その最高のサンセットを見ながらフルコースを楽しむ。
●スイスなどの雪山の中腹にヘリコプターで行く。着陸すると雪の中にその土地で取れたアイスワインが仕込まれている。参加者全員で1本飲んで、ホテルへ戻る。
なぜ彼らはそこまでユニークな経験に興味があるのか。当時のお客さまはこう言っていました。
「Because investing in experience is the only thing that will prove that your life is rich in the future.(経験への投資が、将来、自分の人生が豊かだったと証明する唯一の財産になるからだ。)」
■圧倒的な価値は作ることができる
現在エクスぺリサスでは、日本国内で外国の富裕層を取り込みたいという自治体、企業とともに体験コンテンツを作成し、海外の富裕層ネットワークとつなげるといったビジネスを展開しています。
上記の事業を進めるにあたって分かったことは、富裕層にとっての「圧倒的な価値」は偶発的ではなく、自発的に作れるということです。世界中の観光資源と相対比較して「ここでしかできない」体験素材を見極め、「体験価値の設計」を緻密に行うことで、「圧倒的な価値のプラン」を作ることができます。
観光資源が十全ではないと思われているエリア(たとえば今後過疎化するエリア)でも、地産地消をベースにしたポップアップレストランや、自然を生かしたべニュー(場所)と伝統芸能との連携など、「文化の掛け算」を通じて体験価値を最大化することができます。
また「資源」ではないのですが、企業が保有している「資産」とのコラボレーション事例も増えはじめています。弊社がアクセラレータプログラムを通じて協業している竹中工務店との事例では、彼らが保有している歴史的建造物(いわゆるユニークべニュー)を活用し、2020年以降、今までにない文化的、かつ特別な体験コンテンツとして提供を開始する予定です。
これはクライアントの企業側からすると、既存リソースを有効活用した新規事業の創造になります。これからの時代に即したビジネスモデルを考えたとき、人口減少が進む中で継続的な人口増加が見込まれるインバウンドをターゲットにすることは、極めて有効な施策だと考えています。
■国や企業が本当に投資すべき領域
今、日本は観光産業に大きな舵を切っています。飛行機の離着陸数増加、ホテル数の急増、体験コンテンツの増加と、観光立国としての整備が急速に整いつつあります。しかし、富裕層向けの体験コンテンツプロバイダーの数、そしてユニークな体験コンテンツの数が圧倒的に不足していると実感しています。需要と供給が釣り合っていないのです。
JNTO(日本政府観光局)の調査によると、全旅行者のうち1%の富裕層が旅行消費全体の13%の消費を行っており(消費額単価は一般訪日客の約9倍)、圧倒的にコストパフォーマンスがいいといわれています。
また一部の富裕層に人気になったコンテンツが、一般マス層の憧れとなり数年後には広く世の中に知れわたるため、富裕層旅行の成功コンテンツが次の旅行トレンドを生み出すという循環が生まれつつあります。
ポテンシャルのある領域に、国、自治体、企業はもっと注目し、投資をしていくべきです。ユニークな体験を富裕層領域で数多く作ることが、観光立国としての地力につながると考えています。
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エクスペリサス社長
上智大学外国語学部卒業後、シンガポール国立大学へ留学。現地インターンシップで投資銀行業務、ベンチャーキャピタル業務を経て2011年にO2O(Online to Offline)を手がけるレオモバイル社の立ち上げに参画。その後、ファッション系のウェブ/スマホアプリ開発を手がけるheathrowを設立。同社を2016年9月末にMBOし、退任。2017年1月より現職。
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(エクスペリサス社長 丸山 智義)
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