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「素人の発想」が、成功に結びつくのはなぜか

プレジデントオンライン / 2019年12月13日 11時15分

1974年東京は江東区豊洲にセブン-イレブン1号店が開店した。初日の様子。 - 写真提供=セブン&アイ・ホールディングス

日本から世界に向けて発信されたサービスイノベーションのモデルとして、ハーバードをはじめ欧米のビジネススクールで取り上げられるのがセブン-イレブンだ。創業以来、既存の概念を打ち破って、新しいことに挑戦し続け、世界初、日本初を連発し、世界最大の店舗数を展開してきた。その舵取りを担ったのが創業者である鈴木敏文・セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問である。第一線を退いたいまなお、流通業の未来を考え続ける鈴木顧問に話を聞いた。(第2回/全3回)
写真提供=セブン&アイ・ホールディングス
サウスランド社がアメリカでチェーン展開していたセブン‐イレブンとの提携から、コンビニ事業は始まった。 - 写真提供=セブン&アイ・ホールディングス

■モノマネをする経営としない経営

——最近の日本の企業経営を見て、どのような印象をお持ちでしょうか。

【鈴木】今はコンサルタント全盛時代です。ところが、コンサルタントの実態はといえば、実務の現実をよくわかっていない人たちが実務についてアドバイスしているケースがよく見られます。アドバイスは、たいてい他社で成功している事例を持ってきて適用させようとするものです。そのアドバイスや提案にしたがっても、モノマネにすぎませんから、結局、二番手、三番手以上にはなれない。危惧されるのは、多くの経営者がそれに依存している傾向が見られることです。

モノマネをする経営としない経営、どちらがいいか。モノマネをするほうが楽なように思えますが、モノマネは進む道が制約され、差別化できないまま、やがて過当競争に巻き込まれるだけです。今の日本は柳の下にドジョウが1匹いるかいないかの時代です。どこにドジョウがいるか自分で探して、自己差別化をしていかなければなりません。

——なぜ、今の経営者はコンサルタントに頼りがちなのでしょうか。

【鈴木】経営手法に自信がなくて、考える力が失われつつあるのでしょう。

——経営者に何より必要なのは、自分で考える力であるとお考えでしょうか。

【鈴木】それは経営者に限らず、社員一人ひとりが自分で考え、実行していかければなりません。たとえば、セブン-イレブンの1店舗あたりの平均日販は65万6000円(2018年度)で他チェーンと12万円以上も開きがあります。同じコンビニエンスストアの業界なのに、この差が出るのは、セブン-イレブンでは創業以来、すべて自分たちで考え、実行してきたからです。

セブン-イレブンはアメリカが発祥です。1970年代の初め、スーパーが新規出店するたびに地元商店街で反対運動が起きるようになっていました。そこで、小型店でも大型店との共存共栄が可能なことを示せるはずだと考えて、日本に導入したのが始まりです。

ところが、アメリカでチェーン展開をしていたサウスランドと難交渉の末、契約が結ばれ、開示された経営マニュアルには、期待していた経営ノウハウはどこにも書いてなく、日本では通用しないものばかりでした。自分たちですべてをゼロからつくり上げるしかない。モノも金もなければ、何の経験もない。だから、知恵を出さざるをえませんでした。

写真提供=セブン&アイ・ホールディングス
2013年に製法と素材にこだわり、通常価格の1.5倍くらいの256円(税込)もする「金の食パン」が発売され、大ヒットとなった。「もっとおいしいパンをつくろう」と鈴木氏が発案したものだ。 - 写真提供=セブン&アイ・ホールディングス

■商品も事業も「仮説を立てる」ことから

——スタートの時点から、自分たちで考えざるをえなかった。

【鈴木】当時は「大は小に勝つ」が常識でしたから、セブン-イレブンの創業に対し、まわりは否定論ばかりでどこも協力してくれません。大手の食品問屋も見向きもしない。でも、それが逆によかったのです。弁当やおにぎりも、自分たちでメーカーを探し出して交渉し、対等の立場で商品を一緒に開発するというチーム・マーチャンダイジングを始めました。そして、セブン-イレブンのオリジナルな商品を自分たちでつくるという自主マーチャンダイジングに日本で初めて取り組むことになったのです。

このセブン-イレブンの自主マーチャンダイジングを見て、自社に取り入れたのがファーストリテイリングの柳井正さんです。「私はセブン-イレブンの衣料品版をやった」とは柳井さんの弁です。

——恵まれない状況に置かれたことが逆に、新しいことへの挑戦を引き出していったわけですね。

【鈴木】新しいことに挑戦するとき、実現する方法がなければ、自分たちで方法を考えて道を切り拓(ひら)く。必要な条件がそろっていなければ、その条件そのものを変えていく。それがセブン-イレブンのDNAです。自分たちで考え、実行してきた蓄積が日販の差となって表れているのだと思います。

——新しいことに挑戦するには、何が必要なのでしょう。

【鈴木】仮説を立てることです。何が成功するかわからない時代に、新しいことに挑戦するのは失敗を恐れる気持ちも働きます。仮説ならば、仮にうまくいかなくても、結果を検証して、また新しい仮説を立てればいい。実は、仮説を立てることは、私たちは日常的にやっているのです。たとえば、天井の高さはどのくらいだろうかと思ったとき、最初に「2メートルくらいだろうか」と仮説を立て、実際に測ってみて、2メートルより高ければ、次回何かの高さを測るときの仮説に役立てることができる。私が新しい事業や商品を思いつくときも、すべて仮説から始まりました。

——仮説を立てるにはどんな考え方をすればいいのでしょう。

【鈴木】1つは、既存の常識や過去の経験に縛られることなく、「本当にそうだろうか」と疑問を発して、本質をつかむことです。たとえば、私がセブン-イレブンでお弁当やおにぎりを販売することを思いついたとき、「そういうのは家でつくるものだから売れるわけがない」とみんなから反対されました。本当にそうでしょうか。弁当やおにぎりは「家でもつくられる」ことに本質があるのではなく、「日本人の誰もがお米のご飯が好きで食べる」ことに本質があるのではないか。ならば、品質のよいものをつくって販売すれば、売れるはずだ。そう仮説を立てて始めたのです。

初めの頃は、棚に並べても、売れるのは2個か3個で、1個も売れない日もありました。人間の食習慣を変えるのは確かに難しいところもありました。それが今では、セブン-イレブンだけでもおにぎりが年間約23億個も売れるほど、日本人の生活に定着しました。

——つまり、既存の概念をうのみにしないことから仮説づくりは始まるわけですね。

【鈴木】2つ目は、発想をジャンプさせることです。セブン-イレブンでは、製法と素材にこだわった1斤6枚入りが256円(税込)と価格の高い「金の食パン」を販売しました。これも「もっとおいしいパンをつくろう」と私が発案したものでした。ナショナルブランドの売れ筋商品より1.5倍も高い食パンをコンビニで売ろうなど、過去の延長線上ではとても考えられず、非連続の跳ぶ発想がなければとうてい思いつかないでしょう。

私が20代から83歳まで、60年間にわたって現役を続けることができたのは、年齢は重ねながらも、今はない状態から、新しいものを非連続で生み出す発想力については、自分でも衰えを感じることがなかったからです。経営者は特に「跳ぶ発想力」を常に磨いておかなければなりません。

■「素人の発想」を忘れないこと

「下駄履きで行って、いつでも利用できる銀行端末=ATMがあったら便利」という鈴木氏の素人発想から生まれたセブン銀行。全国に普及し、ATM台数は2万5000を超える。(写真提供=セブン&アイ・ホールディングス)

——発想力を変わらずに持ち続けるための秘訣のようなものはあるでしょうか。

【鈴木】3つ目のポイントとして、素人の発想を忘れないことです。私がセブン-イレブンを創業したときも、新聞の求人広告を見て応募してきた社員たちは、小売業については素人同然でした。だから、既存の商慣習にとらわれず、新しい流通の仕組みを次々とつくり上げることができました。セブン銀行を開業したときもそうです。流通企業が自前の銀行を設立するという、前例のない取り組みに挑戦する。金融業については素人集団だったから、ATMを1台200万円と既存のATMの4分の1の価格でつくるという、常識外れのコストダウンに成功することができたのです。

——素人の発想の強みはどこにあるのでしょう。

【鈴木】過去の経験や既存の常識に染まっていない純粋さでしょう。「自分はプロである」と思い込んでいる人は、過去に成功した方法を熟知していることが素人との違いと考えるため、過去の経験や知識を過信し、状況が変化しても、自分を否定的にとらえ直すという視点がなかなか持てません。

現代の仕事は複雑で判断が難しいといわれますが、実は、さまざまな制約条件を見つけてきては判断や決断を困難にしているのかもしれない。その制約を打ち破るのが、素人の発想なのです。

——ところで、流通業や小売業でも、顧客情報のビッグデータを活用する取り組みが進んでいます。この動きはどのように見ていますか。

鈴木敏文氏がこれまで経営について語った言葉から、いまなお輝きを放つ種珠玉の名言(約220)を選び抜いた『鈴木敏文の経営言行録』が日本経営合理化協会より2020年1月発行予定。「経営姿勢篇」「マネジメント篇」「仮説と検証の仕事術篇」の3篇に分かれている。

【鈴木】ビッグデータはもちろん、活用できるところはいろいろあります。私が世界で初めてマーケティングに活用したPOS(販売時点情報管理)データもビッグデータの一種でした。ただ、1ついえるのは、ビッグデータはあくまでも過去のデータの蓄積であり、そこからどのようなパターンが導き出されようと、これまではなかった新しいものを生み出すことはできないということです。新しいものを生み出すのに必要なのは、やはり仮説です。

——仮に、弁当やおにぎりは家庭でつくるのが当たり前だった時代にビックデータを収集できたとしても、コンピュータはコンビニで弁当やおにぎりを販売すれば売れるという解は導き出せないというわけですね。

【鈴木】消費が飽和した今の時代はお客様自身、「どんなものがほしいか」と聞かれても答えられません。新しい商品やサービスが目の前に示されて初めて、「こんなものがほしかった」と気づく。そのお客様の潜在的ニーズを掘り起こすには、お客様の心理を読むことが必要で、自らも顧客としての心理を持った人間が、お客様の立場で考え、仮説を立てなければなりません。その点、最近のマーケティングをビッグデータに頼ろうとする傾向はどんなものでしょうか。ビッグデータを活用できる時代だからこそ、それを基に自分の頭で考え、仮説を立て、実行する力が求められているように思います。

(次回に続く)

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鈴木 敏文(すずき・としふみ)
セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問
1932年長野県生まれ。中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現トーハン)を経て63年イトーヨーカ堂入社。73年セブン-イレブン・ジャパンを創設し78年社長に就任。92年イトーヨーカ堂社長、2003年イトーヨーカ堂およびセブン-イレブン・ジャパン会長兼CEOに就任。05年セブン&アイ・ホールディングスを設立し、会長兼CEOに就任。16年から現職。著書『わがセブン秘録』『挑戦 我がロマン』など多数。

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(セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木 敏文 文=勝見 明 撮影=市来 朋久)

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