韓国文化はなぜアイドルを自殺に追い込むのか
プレジデントオンライン / 2019年12月10日 15時15分
■祖母に高級マンションを買い、生活費も送っていた
K-POPの人気ガールズグループだった元KARAのク・ハラが自殺したことが、大きな波紋を呼んでいる。28歳という若さだった。
彼女がなぜ死を選んだのかに触れる前に、ク・ハラの短かった人生と、韓国で生まれ、日本を含め世界中を席巻しているK-POPについて書いてみたい。
『週刊文春』(12月12日号)によれば、ク・ハラの両親は、彼女が幼いころに離婚している。
母親が出奔して、父親が釜山で出稼ぎをしていたため、彼女は兄、叔父、叔母、祖母との5人で暮らしていたそうだ。
「彼女は可愛(かわい)くて素直ないい子でね。休日には叔母さんやお祖母さんと教会でお祈りし、大人になってからは旅行に連れて行っていた」
愛称は「クサインボルト」。運動神経がよく、運動会の短距離走で大差をつけて1位になったことがあり、「ク・ハラ+ウサイン・ボルト」を合わせたものだった。
2008年に行われた公開オーディションに応募して合格し、KARAとしてデビューした。翌年には韓国のヒットチャート1位を獲得。2010年には「ミスター」で日本上陸を果たした。腰を大きく振りながら歌い踊る「ヒップダンス」が話題になり、翌年にはNHKの第62回紅白歌合戦出場も果たしている。
アイドルとして成功してからは、祖母に数千万円もする高層マンションの一室をプレゼントし、生活費も送っていたという。
■事務所とのトラブル、「日本へ帰れ」などの罵声も
だが『文春』によれば、この人気絶頂の最中に、事務所とのトラブルが勃発していたというのである。
契約を巡って、「あまりにも事務所の取り分が多い」と、一部のメンバーが対立、双方の溝は埋まらないまま、2016年にKARAは事実上の解散に追い込まれてしまうのだ。
逆風はそれだけではなかった。日本で大ブレイクしたため、韓国からの誹謗(ひぼう)中傷に悩んでいたという。
「韓国のネット上で『親日家!』『日本へ帰れ!』との罵声が、彼女たちに浴びせられたのです」(在韓ジャーナリスト)
ク・ハラは別の事務所に移り、そこから、その子会社に所属するなどしながら細々と活動を続けていた。
昨年、交際相手だったヘアデザイナーとの間で大きなトラブルが起きてしまった。
「別れ話のもつれでお互いの暴力が大きく報じられました。その後、リベンジポルノの存在まで浮上し、法廷闘争に発展。この元彼氏は傷害、脅迫などで懲役一年六ヵ月、執行猶予3年の判決を受けましたが、裁判は今も続いています」(同)
リベンジポルノには、SEX動画もあるといわれ、韓国では「ク・ハラ 動画」というキーワードで大変な数の検索があったそうだが、実際には、そうしたものは出ていなかったようだ。
だが、アイドルにとって、そうした噂(うわさ)だけでも致命傷になる。
■友人に「韓国には帰りたくない」と洩(も)らしていた
今年1月、所属事務所との契約が切れたが、事務所の担当者は文春に対して、「我々が再契約を望まなかった。最大の理由はイメージの問題だ」と答えている。
追い詰められた彼女に、口では言えないような誹謗中傷がインスタグラムに溢(あふ)れた。
5月26日、ク・ハラは自殺を図った。その時は一命をとりとめ、病院で1、2週間治療を受け、うつ病と診断され、心理治療も受けたそうだ。
その後、韓国芸能界とつながりの強い、日本の「尾木プロダクション」と6月に契約し、活動拠点を日本に移した。その時期、友人に彼女は、「韓国には戻りたくない」と洩らしていたという。
復帰後は順調のようだった。11月13日に新譜を発表して、翌日から全国4カ所のコンサートツアーを成功させた。来年1月に出す予定の写真集の撮影も終えていたという。
そんな彼女が、再び自殺を考えるまでに追い込まれるのは、所用で一時帰国した時のことだった。
トリガーになったのは、彼女の親友でアイドルグループf(x)の元メンバー・ソルリが自殺したことではないかといわれている。
ク・ハラが自死を選んだのは、ソルリの死から約1カ月後だった。日本に拠点を移した彼女への風当たりが強かったであろうことは、容易に想像できる。
それに今年は、徴用工問題で拗(こじ)れに拗れ、日韓関係は戦後最悪といわれている。日本からの輸入は激減し、韓国から日本への観光ツアーもキャンセルが相次いでいる。そんな中だから、彼女への誹謗中傷は、以前よりさらに激しく厳しいものだったのだろう。
自分のアイデンティティを見失いかけている28歳のク・ハラにとって、生きるよすがを見出すことは難しかったのかもしれない。
■プライベートまで拡散されバッシングを受ける
だが、こうしたケースは、韓国では頻発しているのだ。韓国は自殺大国である。40歳以下の死因のトップは自殺だといわれる。
外国のメディアも、世界を席巻しつつあるK-POPのアイドルの死に無関心ではない。
ニューヨーク・タイムズ(11月25日付)は、K-POPのスターたちの私生活はSNSによって拡散されるが、そのためにその人間たちのプライベートまでが明るみに出ることで、バッシングが殺到すると報じている。
ワシントンポスト(11月24日付)は、ソルリとク・ハラの2人は、デートはおろかリアリティのある生活もできず、厳格な規範に従わなくてはいけなかったが、憎悪に溢れたネットの標的になったと報じ、2人の死は、いかに韓国の司法制度が女性を蔑(ないがし)ろにしているかの警告だと報じている。
日本も韓国のことをいえたものではないが、韓国の芸能界は日本以上の過当競争で、その中で心をすり減らし、自殺するアイドルたちが後を絶たないようだ。
私はテレビで見るだけだが、日本のアイドルグループに比べて、K-POPのアイドルたちは踊りと歌がうまい、脚がきれいだ。だが、彼女たちの華やかな微笑みの裏には、汗と血の涙が染みついているのであろう。
■韓国芸能界は「ジャニーズ方式」を真似てきた
『週刊文春』でも報じているが、韓国の芸能界は日本のやり方を真似(まね)してやってきた。中でも、ジャニーズ事務所のアイドルづくりを徹底的に研究したといわれている。
日本でも昨今、芸能事務所とタレントとの不平等契約が問題になっているが、韓国ではもっとひどいらしい。
『週刊文春』でK-POPグループの元メンバーだったウィルがこう語っている。
「デビューしてから数年間はほとんど収入がなかった。私のグループの曲が韓国の配信チャートで年間トップ七位に入ったのですが、その年の年収は日本円でたったの二万六千円でした(笑)」
別の元アイドルの男性も、21歳のとき5人グループでデビューして、テレビや雑誌に出たが、5年経っても一度も給料をもらうことができなかったと話している。
事務所に直訴すると、「練習生のお前にいくらつぎ込んだと思うんだ。絶対に辞めさせない」と恫喝(どうかつ)されたという。
どうやらこれが韓国の芸能事務所が真似ているジャニーズ流のようだ。韓国の中堅事務所社長が言うのもジャニーズ方式と同じようである。
「アイドルやアーティストになるためには、芸能事務所のオーディションで練習生となり、数年間のレッスンを受け、デビューするのが一般的です。この練習生のレッスン費用から生活費まで、事務所がほぼ全額を負担するのです」(韓国の中堅事務所社長)
ジャニー喜多川社長(故人)も、アイドルの卵の男の子を見つけ出してきて、自分の家に住まわせ面倒を見ることで有名だった。
彼らと一緒に寝起きするという喜多川の狙いの中には、彼自身の“楽しみ”もあったようだがここでは置いておく。
■デビューにかけた10億円は当人の「借金」扱いになる
朝起きてから寝るまで、レッスン漬けになる。事務所側もその間はカネにならないから、持ち出しである。
「デビューまでに一グループあたり、十~十五億円かける事務所もあります。それでも売れる確率はほんの僅(わず)か。だから投資した金額を回収するために、最初は給料を払えない。売れても事務所の取り分が多くなるように契約する。契約期間も四~五年だと、売れても赤字で終わってしまう可能性が高い」(同)
だが、10億も20億もかけるということは、一度売れれば、途方もなくおいしいということである。だが事務所側はそんなことはおくびにも出さない。
だからデビューして売れるまでは、そのタレントの「借金」になるのである。したがって、売れるまでは無給で働き、給与をもらえる立場になっても、「3:7」とか「4:6」とか、事務所側が多く取れる不平等な契約が多くなる。
吉本興業が闇営業問題で大騒ぎになったとき、売れない吉本のお笑い芸人が、ギャラの取り分は吉本「9」の芸人「1」だとバラしたことがあった。それに比べればまだましかもしれない。
その上、途中でタレント側が契約解除すると、違約金を払わなければいけないケースがあるという。まさに「奴隷契約」である。
日本でも売れに売れた東方神起は、所属事務所と契約で揉(も)め、グループ分裂にまで追い込まれたが、この時は、13年という長期契約が問題になった。
09年に公正取引委員会がこうした問題にメスを入れ、契約期間は7年を超えてはならない、収入の配分も少しは改善されたというが、「しかし依然として芸能事務所側が有利で、不公正な奴隷契約が行われているのも事実です」(弁護士のチェ・ジンニョン)。
■タレントを脅し、芸能界を牛耳る“ドン”の存在
だが、日本では、ジャニーズ事務所が、事務所を出て行った元SMAPの3人に対して、テレビ局に彼らを出さないよう圧力をかけたという疑惑があると、公取が注意したのは、つい最近のことである。
事務所を離れようとしたタレントに脅しをかけるなどは、日常茶飯である。日本の方がよほど遅れている。
その1番の理由は、日本の芸能界を牛耳るドンたちの存在である。中でも、バーニング事務所の周防郁雄の威光は、K-POPにまで及んでいるといわれる。
ここに『紙の爆弾』という月刊誌がある。あまりお行儀のよくない雑誌ではあるが、『噂の真相』休刊の後、暴露雑誌として存在感を増している。
これの2011年3月号に、「『K-POP利権』を巡り芸能界の大物たちが大衝突」という特集がある。要約すると、2010年の暮れの第52回レコード大賞の最優秀新人賞は、下馬評ではK-POPの「少女時代」が断然といわれていたのに、ふたを開けるとほとんど無名の「スマイレージ」になった。
その裏は、TBSの大物プロデューサーと周防が組んで、ひっくり返したというのだ。
2015年のレコード大賞でも、大賞を予想外の「三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE」の『Unfair World』が獲得した。その後、周防社長が、三代目JSBが所属する「株式会社LDH」に対して1億円を請求していたことを、『週刊文春』がすっぱ抜いている。
大賞を取らせてやった礼をよこせということだったのだろうか。
■韓流全盛の4グループが紅白に出なかった謎
紅白と並んで年末の人気番組だったレコ大が、見る影もなく落ちぶれていったのは、ファンを蔑ろにして、賞をビジネスにする利権屋たちが跋扈(ばっこ)したためである。
それはNHKの紅白も同様だった。K-POPの東方神起、KARA、BIG BANG、少女時代旋風が吹き荒れた2010年の紅白は、この4グループが全員初出場するのではと思われていた。
だが、『紙の爆弾』(2012年12月号)によれば、周防社長が「日本の歌手を優先するべきだ」と主張して、これだけ人気のあるグループをNHKは出さなかったというのである(たしかに2010年の出場歌手を見てもK-POPは一人も出ていない)。
K-POPも含めて韓国の歌手たちは、日本で売れても、芸能界のドンたちの意向や日韓情勢がどうなるかによって、流れの中の笹の小舟のように翻弄(ほんろう)され、中には、消えていく者もいる。
だが、韓国のアーティストたちは、日本のアイドルグループのように、国内だけに目を向けて流れの中で浮き沈みしてはいない。男性7人組のヒップホップグループ・BTS(防弾少年団)は世界的な人気を誇り、今年の4月に出したアルバムが、アメリカのビルボード100チャートで3回目の第1位を獲得している。
■ク・ハラの悲劇を繰り返してはいけない
今年のNHK紅白は、日韓関係が最悪だから、世論や政府の意向を忖度(そんたく)するNHKだから、K-POPの出場はまず無理だろうという下馬評だった。2012年に李明博大統領(当時)が竹島に上陸したことで、日韓関係がぎくしゃくし、以来5年間、韓国の歌手は選ばれなかったからである。
だが発表されると、17年から3年連続になるTWICEが選ばれた。よかったと思うのは私ばかりではないだろう。
今や死語になってしまったが、オリンピックには政治を持ち込まないという大原則があったはずである。公共放送のNHKが、今や世界的な人気を誇るK-POPを、政治的な理由で排除することなどあってはならない。
紅白はNHKの国際放送でも見られるはずだ。韓国のファンも、「東京五輪をボイコットせよ」などと声を張り上げないで、TWICEの歌に酔いしれる日本人の姿を見て、今一度、日韓の行く末を考えてもらいたいと思う。もちろん、それは日本人も同じである。
ク・ハラの悲劇を繰り返してはいけない。(文中敬称略)
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ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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