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孫社長はなぜ赤字のウーバーを手放さないのか

プレジデントオンライン / 2019年12月13日 11時15分

2019年11月6日の記者会見で話すソフトバンクG会長兼社長の孫正義氏。ソフトバンクはこの7-9月の第2四半期の純損失は7040億円と発表。 - 写真=NurPhoto/時事通信フォト

ライドシェア事業大手のウーバーは、売上高こそ伸びているがずっと赤字だ。いまはソフトバンクグループ傘下にあり、孫正義社長の投資判断の是非が問われている。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「孫社長は『ドライバー不要』という未来において、ウーバーが爆発的に成長すると考えているのだろう」と指摘する——。

※本稿は、田中道昭『ソフトバンクで占う2025年の世界』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■投資事業そのものへの懸念が高まっている

ソフトバンクグループの2019年7-9月期決算は約7000億円の営業損失となりましたが、それはソフトバンク・ビジョン・ファンドが保有する銘柄の未実現評価損失(純額)が同四半期末で約5380億円にものぼったことが主な要因です。

投資会社としてのソフトバンクグループの象徴が10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンドです。同ファンドを通して多くの企業へ投資がされていますが、今決算での莫大な評価損を受けてソフトバンクグループの投資事業そのものへの懸念が高まっています。なかでも、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの評価損計上に大きな影響を与えたのが、ライドシェア事業のウーバー銘柄など1兆1276億円もの公正価値減少でした。

■グループのライドシェア事業は世界の8~9割にも

ソフトバンクグループは、これまで次々とライドシェア会社へ投資を行ってきました。

最初は、インドでオラを運営するANIテクノロジーズに対してでした。2014年10月に総額2億1000万ドルの出資を行い、筆頭株主になっています。続いてが、シンガポールのマイタクシー(グラブへ社名変更)で、2014年12月に2億5000万ドルを出資して筆頭株主になりました。

次にソフトバンクグループが投資を行ったのが、中国。2015年1月にアリババらと共同で6億ドルを出資した快的打車が、その1カ月後に滴滴打車と合併し中国最大のタクシー配車サービス企業ディディ(滴滴出行)となります。そして、ウーバーの発行済み株式の約15%を77億ドルで買い取ることにウーバーと合意したのが2017年12月、翌年1月に株式を取得し筆頭株主となりました。

つまり、ソフトバンクグループは、インドのオラ、東南アジアのグラブ、中国のディディ、そして米国、欧州、南米、アフリカ、豪州など世界各地に進出するウーバーといった、地域ナンバー・ワンのライドシェア会社へ投資を行っているわけです。その世界シェアは8割とも9割とも言われています。

■上場しユーザーも増えたが、赤字体質が続いている

2019年5月には、ライドシェア業界の雄とも言えるウーバーがニューヨーク証券取引所に上場しました。初値は公開価格45ドルを下回る42ドルで、上場時の時価総額は約760億ドル(約8兆円)。それはGMやフォードの時価総額を大きく上まわる程でした。ただ、その後、11月から12月はじめ時点では株価は30ドル以下、時価総額も500億ドル以下で推移。上場直後に比べると少なくとも30%ほど、株価は下落、時価総額でみる企業価値も毀損(きそん)されたことになります。

これは、月間アクティブユーザー数と売上高は順調に増加しているものの、同年9月期まで6四半期連続で最終赤字を計上していることに対して投資家が懸念を抱いているためと考えられます。

月間アクティブユーザー数は、9月期末で1億以上と前年同期末から25%以上の増加。7-9月期の四半期売上高は3813百万ドル(約4150億円)で、前年同期比で約30%増となっています。年度売上高で見ても、2017年は前年比106%、2018年は同42%の伸びを記録しています。

その一方で、同四半期の営業損失は1106百万ドル(約1200億円)で、前年同期の営業損失763百万ドルから損失幅が増えています。年度の営業損失で見ても、2016年は3023百万ドル、2017年は4080百万ドル、2018年は3033百万ドルと、赤字体質であることは明白でしょう。

■タクシー、デリバリー、配車サービスを支える4つの強み

では、ここで、ウーバーの会社概要などを詳しく見ていきましょう。ウーバーはトラビス・カラニック氏とギャレット・キャンプ氏が2009年3月に創業し、米国カリフォルニア州のサンフランシスコに本社を置いています。

米国証券取引委員会(SEC)に申請したIPO目論見書「FORM S-1」(2019年4月11日付)によれば、ウーバーは、「世界を変えていく機会を創出する」というミッションのもと、「パーソナル・モビリティ」「ウーバー・イーツ」「ウーバー・フレイト」という3つのプラットフォームを提供するとしています。そして、これらプラットフォームの基盤として、「大規模なネットワーク」「最先端テクノロジー」「オペレーショナル・エクセレンス」「プロダクトに関する専門性」を挙げています。

とりわけ「大規模なネットワーク」と「最先端テクノロジー」はウーバーの事業を特徴付けるものです。前者はドライバー、顧客、レストラン、運送業者など、さらにはビッグデータ、テクノロジー、インフラで構成されています。後者はマーケットプレース、ルーティング、ペイメントにかかわるテクノロジー。特にマーケットプレース・テクノロジーは需要予測、マッチングやプライシングに活用されています。

■AI「ミケランジェロ」を駆使した相乗りサービスも

ウーバーの主力事業は「パーソナル・モビリティ」、つまりライドシェアです。そのビジネスモデルは、クルマを所有せずドライバーも雇用しない、その代わりモノやサービスの提供者であるドライバーやタクシー会社とその購入者である乗客を仲介するというもの。また、ライドシェア以外にも、オンデマンド配達サービス「ウーバー・ラッシュ」、運送トラック配車サービス「ウーバー・フレイト」、登録レストランなどの料理を一般人である「配達パートナー」が運ぶ「ウーバー・イーツ」など様々なサービスを提供しています。

特に指摘しておきたいのは、ウーバーはテクノロジー企業であり、「ビッグデータ×AI」企業であるという事実です。ウーバーは機械学習プラットフォーム「ミケランジェロ」を構築し、誰もがAIを活用できるよう、社内の開発環境を整備しています。

AI活用の一例が「ウーバープール」です。これは同じ方面に向かう他のユーザーと相乗りすることで、低料金で乗車できるサービスですが、このサービスを運営するには、正確な到着時間を予測して、どのユーザーを相乗りさせるか、スムーズに算出しなければなりません。ウーバーはここにAIを用いた独自の経路検索エンジンを活用しているのです。

■ネックとなる人件費問題は自動運転で解決する

先にウーバーの赤字体質を指摘しましたが、2019年9月期決算(1~9月までの9カ月間)を見ると、売上高100億7800万ドルに対して売上原価52億8100万ドル、販売管理費やR&Dなどの営業費用124億2200万ドルで、76億2500万ドルの営業損失が出ています。売上原価には保険費用やデータセンター費用が含まれていますが、大きな部分を占めると考えられるのがドライバーへのインセンティブなど人件費です。

ウーバーが現行のビジネスモデルのまま成長を続けるなら、変動費である人件費も伸び続けるでしょう。そうすると、原価率を下げてコスト構造を改善するのは難しいと思われます。また、現在ドライバーは個人事業主の位置付けですが、従業員扱いになれば人件費はさらに高くなることも予想されます。

そこで、期待されるのが自動運転です。ウーバーは、2015年から自動運転技術の研究開発に着手し、現在は自動運転部門をスピンアウトさせたATGで自動運転の研究開発や実証実験を進めています。

自動運転が事業化されれば、まず売上原価の大きな部分を占める人件費を大幅削減することができます。自動運転では「ビッグデータ×AI」、クラウド・コンピューティング、データセンターなどが重要となってきますが、それらの費用は人件費に比べれば小さいうえ、固定費化されることで規模拡大に伴ってその単位コストも低下していくでしょう。

■なぜ孫氏はライドシェアに投資をつぎ込むのか

つまり、有人のドライバーから自動運転にとって代われば、コスト構造を圧迫する主な原因であった原価率を下げて、収益性を高めることができるのです。さらには、ライドシェア会社の枠を超えてトランスポート・ネットワーク・カンパニーとして、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)によって大きな付加価値を生み出すといった成長にも期待できます。ウーバーの収益性や成長性は自動運転の実現にかかっている、と言っても過言ではないのです。

ソフトバンクグループの孫正義社長は、なぜ、ウーバーなどライドシェア会社へ投資を行ってきているのでしょうか。筆者は、それは、ライドシェア会社が次世代のモビリティの覇権を握ると考えたからだと見ています。

自動運転技術の研究開発は日進月歩ですが、自動運転が実現した際、最初に導入されるのはバスやタクシーといった商用車で、自家用車より先に自動運転車となることはほぼ間違いありません。なぜなら、自動運転車は当初高コストとなるため、高い稼働率でそれを吸収できるライドシェアから入るのが定石と考えられているからです。

完全自動運転車が完成しても、一般の人には手が出しにくい高価格となる可能性が高いのです。しかし、ライドシェアであれば、自動運転車が高価格でも事業として採算がとれると見込まれているのです。

■ウーバーは各地域で競争に勝てるのか

ウーバーのプラットフォームと収益性・成長性の関係について、懸念点を一つ指摘しておく必要があります。それは、ウーバーのプラットフォームは「規模の経済」が効きにくい構造になっているということです。

プラットフォーマーは、その土台・基盤の上により多くの顧客を獲得し、より多くの商品・サービスを提供することで「規模の経済」を効かせながら収益をあげ成長していきます。ところが、ウーバーのサービスは地域毎に提供されることになります。自動運転が実現したとしても、地域毎に見れば、事業規模や顧客数が限定されることで単位コストの低下が効きにくい、スケールメリットを活かしきれないという側面もあるでしょう。また、限られた地域内での競争なので、プラットフォーマーとしての総合力を十分に発揮できないようにも思えます。

ニューヨーク大学ビジネススクールのスコット・ギャロウェイ教授はテクノロジー・ニュースのウェブサイト「Recode」の創業者でジャーナリストのカラ・スウィッシャー氏との対談で、ウーバーを民泊プラットフォーマー「Airbnb」と比較して、「ライドシェアなら、(サービス地域が限定されるので)ローカルでの需要と供給をリーズナブルに創り出せる」、一方で「Airbnbはグローバルな需要を掘り起こす必要がある」、「そういうわけで、ウーバーはローカルで多くの事業者との競争にさらされる」と述べています(2019年9月21日付「Introducing Pivot with Kara Swisher and Scott Galloway」の該当部分を筆者が和訳)。

このような「規模の経済」の観点からも、ウーバーの収益性・成長性を見ていく必要があるでしょう。

■シナリオ分析をふまえ長期的に見る必要がある

ウーバーは赤字体質から抜け出す見通しがたたず、株価も上場時に比べれば低迷しています。ここ数年単位でいうなら、なかなか厳しい事業運営を強いられることになると予想されます。

田中道昭『ソフトバンクで占う2025年の世界』(PHPビジネス新書)

一方で、より長期で見るなら、特に自動運転技術の進化やその社会実装のスピードに対して、サステナビリティやシェアリングの価値観の変化がライドシェア会社、さらにはソフトバンクグループの時価総額を動かす大きな要因になると分析しています。それは、先述の通り、自動運転が社会実装されたタイミングにおいては、商業車として対応できるライドシェア会社が既存のプラットフォームやビッグデータを活かして収益化しやすく、各種プレイヤーのなかでも有利になると考えられるからです。

今四半期決算ではウーバーなどの評価損からソフトバンクグループの投資事業への懸念が高まりました。しかし、筆者は、こうしたシナリオ分析もふまえながら、ソフトバンクグループやライドシェア会社を見ていく必要もあると考えています。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。

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(立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授 田中 道昭)

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