外国人を集め日本人に敬遠される「京都」の未来
プレジデントオンライン / 2019年12月12日 9時15分
■京都市民の堪忍袋の緒が切れそうな「観光公害」
ふるさと自慢になって恐縮だが、京都の紅葉には心底うっとりとさせられる。私は1年半前に24年ぶりに東京から、故郷の京都にUターンしてきたが、四季の移ろいを五感で味わえる生活に、何よりの贅沢(ぜいたく)を感じている。
しかしながら、四半世紀前と比べて京都が様変わりし、失望した面があるのも事実だ。
それは、いわゆる「観光公害」である。自坊は観光客でごったがえす嵯峨・嵐山地区にあり、観光客の急増に伴う「危うさ」を身にしみて感じている。地元住民の生活に、大きな影響が出始めているのだ。
随分、改善されてきてはいるものの、観光客の「マナー」の悪さは依然としてある。それは、「ゴミのポイ捨て」「樹木を折ったり、落書きしたりするなどの破壊行為」「大声を出す」「路上駐車」「車道で写真を撮るなどの交通妨害」「私有地への無断立ち入り」「舞妓さんなどへの付きまとい」など、挙げればきりがない。
■京都名所に“自分の名刻む”世界のバカ観光客
インスタ映えするスポットとして有名な「竹やぶのトンネル」は、小刹のすぐ近く。数年前までは日が暮れれば、地元の男性も寄り付かない「危険な道」だった。今では夜10時を過ぎても、真っ暗闇の竹やぶを歩く観光客の姿を見かけることがあり、ぎょっとさせられることしばしばだ。
しかし、これは危ない。
当該地は観光客が食べ残したゴミ箱の中の残飯を漁(あさ)って夜間、イノシシが出る。イノシシに遭遇するのはまだいいほうで、むしろ「不審な人間」のほうが怖かったりする。痴漢・暴漢などによる「事件」がいつ起きないとも限らないので、私は気を揉(も)んでいる。
当地では、器物損壊などの犯罪行為も生じている。美しい竹の肌が、人為的に傷つけられているのだ。鍵やナイフなどの鋭利なもので名前やマークなどが刻まれている。マジックで書かれたものもある。この小径には、竹穂垣と呼ばれる高さ2mほどの垣根があるが、その垣根を壊して手を伸ばし、竹に落書きしているのだ。
一部の竹は緑色のガムテープを貼って隠しているが、まるで絆創膏(ばんそうこう)のようで痛々しく、美観上、みっともない。
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私が数分歩いて確認しただけで英語や中国語、ハングルなど外国人の手によるものと思われる傷が多数、確認できた。日本語での落書きも少なくなかった。「嵯峨野の竹林を守ろう」との立て看板の真横に生えている竹には、あたかもその文言に挑戦するかのごとく、竹の上部から下部まで傷が付けられ、ボロボロの状態だ。傷ついた竹を見るたび、悲しい思いになる。
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傷が付けられた竹はそこから腐食して、枯れてしまう可能性もある。もはや、マナーの問題ではなく犯罪行為なので、警察にはきちんと捜査してもらいたいものだ。
■舞妓さんに付きまとい、庭の苔を踏みまくる外国人
ところ変わって花街で有名な祇園の花見小路では、舞妓さんが外国人に追い回され、写真を撮られるなどのマナー違反で困惑しているという。舞妓さんの襟にタバコを入れられるなどの、信じられない被害も報告されている。
小刹のような寺院の場合、もっとも困るのが庭の苔(コケ)を踏まれることである。杉苔が踏まれると枯死してしまう恐れがある。自由に庭を見ていただきたいとは思うものの正直、立会いなしでの外国人の参拝は、不安がよぎる。できれば、観光ガイドと一緒に参拝していただきたいとも思う。
私はこの1年で複数の外国人旅行者に対し、「苔を踏んではいけない」と注意している。すると、すぐに謝っていただけるケースがほとんどだった。「おもてなし」のお礼として、お布施を賽銭箱に入れていただくケースもあった。双方、コミュニケーションをはかりながら、観光マナーのリテラシーを高めていくことが大事だと思った。
■1990年ごろの観光客数は年間3500万人、今や6年連続5000万人超
観光客の増加は、それそのものは京都にとっては良いことだ。歴史的にも「観光ありき」の京都だからだ。観光消費額は3年連続で1兆円を突破。京都市は雇用誘発効果を18万8000人としている。近年の経済的なメリットは計り知れない。
しかし、それも過剰になり、「公害」にも発展すれば、観光する側、受け入れる地元側双方にとって不幸である。
少し観光に関する数字を紹介しよう。バブル期にあたる1990年ごろ、京都の観光客は年間3500万人ほどだった。この頃、嵐山界隈は外国人の数はさほどではなく、日本人のみで混雑していた記憶がある。
当時問題になっていたのは、タレントショップの乱立である。まるで原宿・竹下通りのようなありさまだった。嵐山の景観を台無しにする酷(ひど)さであったが、全てのタレントショップが一掃されたのが数年前のことである。
ようやく嵐山らしい風情が戻ったと、ホッとしたのもつかの間、京都市は2000年に観光客5000万人構想を発表。すると、計画より2年前倒しの2008年には目標を突破する。2018年の京都市への観光客数は5275万人で、6年連続で5000万人を超えている。近年の京都の混雑ぶりは異常だ。
■ライトアップで昼も夜も観光客がウロウロ徘徊
京都において、もっとも宿泊数の多い月(2018年)は紅葉の時期の11月だ。日帰り客と宿泊者客を合わせた総数の最多月は3月である。
しかし近年の傾向として、年間を通じて「常に観光客が多い」と感じる。
2003年、観光客が1年を通じてもっとも少なかった2月の186万人に対し、同年11月では666万人。その差は3.6倍もあった。それが昨年は7月の383万人に対し、3月の531万人とその差が1.4倍に迫っている。
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したがって、常に観光客が名所をウロウロしている状態だ。夜かなり遅い時間でも、生活道路に入り込んでくる。私は、「ライトアップ」が原因ではないかと思っている。いま京都の寺は見回せば、猫も杓子も「ライトアップ」している。観光客の方々が喜んでくれるのはよいが、同時に迷惑している地元民がいるのも確かだ。観光客増に乗じた寺院の、安易な商業主義が透けて、私は素直に歓迎できない。
■韓国人観光客は「消えた」が、インバウンドはここ20年で10倍以上
外国人旅行客(インバウンド)に目を転じれば、2000年台初頭は40万人程度にすぎなかったが、2018年の外国人旅行客の総数は、450万人と過去最高を記録した。インバウンド増の背景には、特に米国の有力な旅行雑誌であり、世界の旅行市場に影響力をもつ『トラベル・アンド・レジャー』誌の影響が大と言われている。同誌の読者アンケートで、京都は7年連続ベスト10入りを果たしている。
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しかし、今年は目に見えて韓国人旅行客が「消えた」。言わずもがな、日韓の政治対立が原因である。京都に訪れる国別の観光客数は中国(117万人)、台湾(66万人)、米国(43万人)、韓国(30万人)、オーストラリア(21万人)。韓国旅行者が激減しているのは確かのようだが、それを感じさせないほど全体の客足が増えている印象がある。
京都では宿泊施設が建設ラッシュだ。宿泊施設の客室数は、2016年は3万室にすぎなかった。「国際観光都市にしては宿泊施設の数が少ない」と言われていた京都だが、わずか3年で4万6000室にまで増加。現在は、飽和状態で、空室も目立ってきているという。
無許可営業の違法民泊も増えている。今年5月までに通報のあった2518施設が行政指導を受けた。違法民泊は指導を受けると営業許可を取る手段には出ず、さっさと営業をやめるという。金儲けをするだけして、問題が発覚すればさっさと逃げる。京都を「草刈り場」にするような行為であり、実に悪質である。
■日本人宿泊客数は2014年以降、4年連続で減少
外国人は増えているが、肝心の日本人宿泊客数が減っていることが心配だ。2014年以降、4年連続で減少している。また、修学旅行客も減っている。2017年に112万人であった修学旅行者が翌2018年には95万人にまで減少している。京都は、日本人からは敬遠されてきているのだ。
いったん増えた観光客を、減らすことはほぼ不可能だ。だとするならば、観光客のマナー向上に向けてアイデアを絞るべきだ。
たとえば、観光客にゴミ袋を渡し、道すがらゴミを拾って一定分量集めれば、観光施設の無料パスがもらえるといったふうに。もちろん、地元民がゴミを率先して拾い、美観につとめることこそが、地道かつもっとも効果的な方法ではあるが(むろん、多くの地元民がやっている)。
「規制」よりも「共生」の模索こそが、京都のブランドを高めることになるのだと思う。
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浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学文芸学部卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)など。近著に『仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか』(文春新書、12月20日発売)。一般社団法人良いお寺研究会代表理事。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)
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