「ふるさと納税したのに還付金0円」の人の条件
プレジデントオンライン / 2019年12月17日 11時15分
■ポジティブな言葉が躍るふるさと納税公式サイト
今年も残すところ、あとわずか。
毎年年末になると、テレビではお正月用の買い物客でにぎわう市場にリポーターが出向き、全国各地の名産品を紹介している。コンビニの多くは24時間営業、スーパーマーケットは元日から営業する店舗もちらほら。百貨店でも2日から営業をするご時世。なのに、年末に買い物をしておかなければならない気分になるのは、日本人の七不思議かもしれない。
そんな年末の購買意欲の高揚を後押しするように、連日、テレビやネットでも広報・宣伝されているのが「ふるさと納税」だ。
「ふるさと納税」と検索してみると、見事に広告のサイトが出てくる。
そもそも「ふるさと納税」とは何なのか。
広告のサイトの後、しばらくスクロールしてみると、出てきたのが総務省のサイトだ。トップの写真には「ふるさと納税で日本を元気に!」という言葉が、表示されている。地方自治体と国が争う原因を作った「ふるさと納税」。本当に“日本を元気にしている”と言えるのだろうか?
「ふるさと納税」は、「納税」と銘打っているので、財務省や国税庁の管轄かと思いきや、そうではない。総務省だ。総務省「ふるさと納税ポータルサイト」にはトップページの次に次のようなページが用意されていた。
■説明に矛盾がある総務省のHP
「よくわかる!ふるさと納税」
・「そもそも何のためにつくられた制度なの?」
・「ふるさと納税って何?」
・「ふるさと納税をする自治体はどうやって選ぶの?」
・「ふるさと納税の手続はどうすればいいの?」
・「確定申告が必要なの?」
・「もっと詳しく知りたい」
う~~ん、どうだろう……? このページを読んで、“よくわかる!”と納得された方はどれくらいいるのだろうか。
トップページには、
令和元年6月1日より、新たなふるさと納税指定制度が施行されます。総務大臣による指定を受けていない地方団体に対する寄附は、ふるさと納税の対象外となります。
詳しくは、こちらをご覧ください。
よくある質問には
Q)ふるさと納税は生まれ故郷の自治体以外にもできますか?
A)ふるさと納税を行うことができる自治体には制限はありません。
自分の生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域や、これから応援したい地域など、日本全国の自治体(都道府県・市区町村)へふるさと納税を行うことができます。
少なくとも、同一のHPの上では、整合性を保ってほしい。
■「ふるさと納税」は「納税」ではない
「ふるさと納税って何?」には、「ふるさと納税」という言葉についての説明が書いてあった。
「納税」という言葉がついているふるさと納税。
実際には、都道府県、市区町村への「寄附」です。
一般的に自治体に寄附をした場合には、確定申告を行うことで、その寄附金額の一部が所得税及び住民税から控除されます。ですが、ふるさと納税では原則として自己負担額の2000円を除いた全額が控除の対象となります。
えっ、「納税」じゃなくって「寄附」ってどういうこと……? そう思われた方がいるのではないだろうか。
「納税」と「寄附」は違うし、「控除」と「還付」も違う。
「納税」は、読んで字のごとし。税金を納めることをいう。ここで確認しておくべきことは「ふるさと納税」は、ふるさとに「納税」するのではなく、ふるさとへの「寄附」だということが、総務省のHPにちゃんと書いてあるということだろう。
メディアがこぞって、“お金が戻ります”という表現を使うことで、目に見えてお金が戻るような印象を与え、「ふるさと納税」を商品にしたサービスが繁盛するような仕掛けを作ったのではないかと思うのは勘繰り過ぎだろうか。
所得税法では、「寄付金控除」というものがある。
[平成31年4月1日現在法令等]
1 寄附金控除の概要
納税者が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対し、「特定寄附金」を支出した場合には、所得控除を受けることができます。これを寄附金控除といいます。
【国税庁HPより引用】
■「控除額=還付額」ではないことに注意
「ふるさと納税」はここでうたわれている「寄附」にあたる。
寄付金控除の金額の出し方は以下だ。
支払った寄付金の額-2000円=寄付金控除の金額
3万円の寄付金に該当する商品を注文した場合、
3万円-2000円=2万8000円
この2万8000円が、その寄附をした人の所得税を計算する際の寄付金控除の金額として差し引きされる。
寄付金控除は、所得控除のうちのひとつなのだ。
寄付金控除の金額として算出された2万8000円、そのものが還付されるのではない。寄付金控除の金額に、その寄附をした人の最高税率を掛けた金額が還付金額として返還されるのだ。
確定申告で毎年話題になる医療費控除で説明するとわかりやすいかもしれない。
1年間、10万円を超えると医療費控除が受けられると聞いて、せっせと医療費の領収書を集め、12万円分集まった主婦の方がいたとしよう。
でも、医療費控除に該当するのは、支払った医療費から10万円を超えた金額なのだ。
12万円-10万円=2万円
で、この主婦の方のご主人の最高税率が10%だったとしよう。
2万円×10%=2000円
これが、医療費控除をしての還付金の額ということになる。
12万円分集めて、2000円。
ご理解いただけただろうか。
これを先ほど例に挙げた、寄附控除で考えてみよう。
2万8000円×10%=2800円
3万円分の「ふるさと納税」して戻ってくる所得税の金額は、2800円ということになる。
■還付金として振り込まれるのは所得税の分だけ
「ふるさと納税」は二段構えになっている。
まずは、確定申告で寄付金控除をし、2800円が還付金として振り込まれる。
残りは、別途住民税から「還付」されるのではなく、支払うべき住民税から「控除」される。もう一度いうと、住民税は、別途還付金として口座にお金が振り込まれるのではないのだ。
あるサイトには、Q&Aのページにこのようなことが書かれていた。
Q)3万円ふるさと納税すると2万8千円が戻ってくるの?
A)ふるさと納税について、各メディアでは「2千円の負担のみでお金が戻ってくる」というような表現をすることがございますが、前述のとおり、還付金として振り込まれる場合があるのは、確定申告をした場合の所得税分のみです。
住民税からの控除(ワンストップ特例を利用した場合は全額住民税からの控除となります)分は、2020年6月以降に納付すべき住民税額から控除されるため、還付金が振り込まれることはありません。
このような解答例がアップされているということは、すでに問い合わせがあるからなのだろう。
ワンストップ特例税制が適用されるには、以下の3つの申請条件を満たしていなければならない。
1.もともと確定申告をする必要のない給与所得者であること
2.1年間の寄附先が5自治体以内であること
3.申し込みのたびに自治体へ申請書を郵送していること
さらに申請する際に以下の書類が必要である。
1.寄附金税額控除にかかる特例申請書
2.マイナンバーカードおよび申請者本人を確認できる書類
「ふるさと納税はお早めに」
とCMなどで、言っているのは、ワンストップ特例制度を利用しようとする人に対し、年末ギリギリになると各自治体が対応しきれない可能性があることを見越してのことだろうと思う。
■還付金をもらうため確定申告の会場で長時間並んだが…
ここで「ふるさと納税」をしたサラリーマンのAさんの話を紹介しよう。Aさんは、休日でも開催している確定申告会場があることを知り、そんなに乗り気でなかった奥さんを「戻ってきたお金で、美味(おい)しいものを食べに行こう!」と、説得。
終わったら子どもと一緒にアウトレットモールにでも行こうと思っていた。が、しかし、会場は超満員。午前中に着いたのに、渡してもらった番号札は午後からのもの。やっと順番が回ってきて、必要書類に記入。寄付金の証明書を出し、最後に源泉徴収票を担当のアルバイトに手渡した。
すると
「あの~、申告の必要がないので、お返します」
と、書類を一式返された。
「ここの金額が書かれていないので……」
アルバイトは、源泉徴収票の源泉徴収税額の欄を指さしていた。
実は、Aさん、数年前に住宅を購入し、その際に住宅ローン控除の申請をした。確認をしていなかったのだが、その住宅ローン控除のおかげで、源泉徴収票の源泉徴収税額の欄は0円になっていた。
かくして、Aさんは、「ふるさと納税」の恩恵を受けることができなかったのだ。
会場は、人が多くて空気も乾燥していた。家に戻ると子どもはぐったり、インフルエンザをもらっていた。
■なぜ確定申告には特設会場が設けられるのか
確定申告が、税務署ではなく、特設会場を設けて行われるようになったのは、税務署に人を来させないための施策だ。親身に相談に乗ろうという気持ちからではない。「自主申告」という言葉がそれを表している。平たく言うと“申告書は自分で書きましょう!”ということだ。
スーツの上に蛍光色のジャンパーを着ているのは、税務署の職員だ。一時に、会場に人が入り過ぎないように人員整理をする。それぞれの持ち場でパソコンの操作をしたりするのは、アルバイトの場合が多い。彼ら彼女らは、教えられた箇所に、言われた数字を入力することしかしないし、できない。
ここまで書いてみて、行政の窓口業務を風刺した落語を思い出した。「ぜんざい公社」だ。
その昔、煙草は「せんばい公社」が扱っていた。その「せんばい公社」を文字っての「ぜんざい公社」。
落語の主人公は、国が始めたぜんざい屋があると聞きつけ、話のネタに行ってみる。
「ぜんざい公社」は立派なビル。
受付で身分証明書の提出を求められ、ぜんざいを食べる申請をしたら申請書の手数料を銀行の窓口に行って支払うように言われる。
■「見切り発車のふるさと納税」はおすすめしない
戻ってくると、今度は、ぜんざいの代金を銀行の窓口で払うように言われる。
餅を焼くのかと聞かれて、焼くと答えると、今度は、6階の消防署に届け出をしてくるように言われる。
じゃあ焼かずに食べるというと、食中毒を起こしたらいけないので、地下の診療所で健康診断を受けてくるように言われる。健康診断のお金もきっちり請求された。
最後にぜんざいを食べることができるのだが、汁が入っていない。
「お役所だけに、甘い汁は先に吸ってあります」が落ちだった。
理屈の上では、2000円の手数料だけで、年間3万円分の返礼品をゲットできるという説明が成り立つ「ふるさと納税」。Aさんは、自分が納めている所得税はいくらなのか、申告会場はどんなところなのか。いろいろと事前に調べておく必要があったようだ。
せっかくの休みを使って家族で出かけたけれど、お金は1円も戻らず。子どもはインフルエンザにかかってしまった。
2万8000円の欲が満たされなかっただけではなく、休日の大切な時間を失い、子どもの健康を害された。
Aさんは、「ふるさと納税」のおかげで得をしたのだろうか、損をしたのだろうか。本人に聞いてみないとわからない。
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税理士
元国税調査官。産業カウンセラー。健康経営アドバイザー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生で、26年間国税調査官として税務調査に従事。2008年に退職し、12年日本マインドヘルス協会を設立し代表理事を務める。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』『税務署は3年泳がせる。』(ともに日本経済新聞出版社)、『調査官目線でつかむ セーフ?アウト?税務調査』(清文社)がある。
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(税理士 飯田 真弓)
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